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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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山中の何か

 調査を開始するにあたり、乗り物は二台編成となった。

 ひとつはもちろんキャリバン号なのだが。

「これは……」

「エマーンで研究されている『魔道車』だニャ。特別な時のために資材倉庫に入れて置いたにゃ!」

 ああ、空間魔法の倉庫か。こんなものまで運んでたのね……。

 驚くべき事に、それは幌つきのトラックだった。ゴツい作りだが立派なものだ。

 それだけではない。なんとこの車、エンジンがどうもなさそうだ。

 という事はだ。電気を使っていないこの世界でエンジンなしとなれば、動力源はやっぱり……。

「もしかしてこれ、動力源は魔力?」

「そうだニャ」

 すげえ、まるで電気自動車じゃないか!

「まぁ燃費の悪さが唯一最大のネックだにゃ。現状、仕方ないから魔石を利用しているにゃ。

 けど、それを除けば頑丈ニャうえに魔獣と違って無理もさせられるニャ。次世代のクルマとして研究されてるニャ」

「試作品ってこと?」

「否定しニャいけど、同時に商品サンプルでもあるニャ。現時点でも魔獣を使いたくない場面での輸送で一部使われてるにゃよ」

「なるほど」

 問題をはらみつつも実用開始されているって事か。

 いや、しかしこれは……凄いな。

 キャリバン号は確かにとんでもないけど、技術面でいえば要はユニークチートにすぎない。オルガが言ったように、どうにも再現不可能だし、できたとしても運用困難という意味で。

 だけど、この魔道車は違う。この世界の技術で、この世界の材料で作られた、れっきとした自動車だった。

 思わず細部をじっくり見てみる。

 タイヤは厚いゴムがコートされているけど空気は入れてないようだ。

 これはまぁ、わかる。チューブタイヤを作るにはゴムの改良が必要なのもそうだけど、何しろ道路インフラがチューブタイヤを意識してないわけで。

 おそらく現時点で無理にチューブ化したらどうなるか?

「空気を入れるタイヤじゃないのが気になるかにゃ?」

「よく知ってますね?」

「異世界から流れ着いた『クりゅマ』は、過去にもあったのニャ。現存して動くものは一台もニャいが、研究もするし、異世界人に話も聞いてるニャ。

 ちなみにタイヤの件だけ先にいうと、空気タイヤはまだダメだにゃ。ゴムが脆すぎて実用にならないニャ」

「なるほど」

 ふと、野で朽ち果てていたあの幼稚園バスを、俺は思い出していた。

「一台も現存しないのか。みんな壊れちゃったのか?それ以前にガソリンもないか」

 もとより部品も燃料もサプライ品もない。俺のキャリバン号みたいに生まれ変わりでもしない限り、あっというまに動かなくなったろうな。

 だけど俺の予想は、ある意味アタリである意味外れだった。

「魔法と錬金術を駆使すれば、コストは高いけど燃料の再現はできたにゃ。不凍液ってやつは再現できニャかったけド、電気という、ウチらがまだ正しく扱えない雷エネルギーの実用化についても大変興味深いものがあったニャよ。でも」

「でも?」

「情けニャい話ニャけど……テロで破壊されたにゃ。獣人の国ごときが異世界技術を盗もうなど思い上がりも甚だしいって声明が、当時の人間族国家から出たそうニャ。どうも、亜人どもから取り上げろ、ダメニャら破壊しろって指令が出ていたようニャ」

「……」

 また人間族か。まったく。

「この魔導車は奪われる心配ないのか?技術の蓄積は進んでいるんだろ?」

「可能性はあるけど、拠点を分散しテ、破壊のリスクには対策してるニャ。

 奪われる可能性は低いニャ。おそらく現時点の人間族国家では、術式の解析すらできないし、コピー品の制作も無理ニャ」

「技術格差ってやつか」

「その通りだニャ」

 サイカさんは胸をはった。

「もともとは、そんなに大きな差はなかったニャ。だけど彼らは技術家や職人を軽視し、冷遇し続けてきたニャ。

 だからこそ、中央大陸の遺失技術の総本山だったケラナマー国を軽視したあげく人間族スタッフの質の低下が続き、ついにはケラナマー政府自体が密かに人間族国家の看板をおろした事にも、何十年も気づく事がなかったにゃ。

 で、ウチらはその間に技術を、力をずっと蓄えてきたニャ」

「なるほどなぁ」

 お高く止まってホワイトカラーぶって衰えた人間族と、努力を続けた獣人族か。

 なんていうか、日本も笑えない現実だなソレ。

 何しろ、一番じゃなくてもいいなんて臆面もなく抜かす輩が、それを無かった事にして、しれっと選挙に出ているからな、やばいわ本当。

 話を車に戻そう。

 魔道車なんだけど、本当によくできている。「おお」と納得できるもの、驚けるけど奇矯なものはひとつもない。足が地についた、しっかりとした技術だけでまとめられている。

 これは、確かに浮ついた試作品じゃないな。現実を見て作られた市販車だ。

 素晴らしい。

 当初、技術的には遅れたファンタジーワールドだと侮っていた自分が恥ずかしいよ。いや、ホント。

「それじゃあ行くニャ。そっち準備いいかニャ?」

「もちろん。じゃあ行きましょう」

「はいだニャ!」

 

 

 

 魔道車と同行は初めてだから、どう距離感をとったものか最初困った。

 だけど結果的にいうと、普通に自動車二台と考えて問題ないのがすぐにわかった。まぁ、向こうば少し大柄ではあるのだけど。

「アイリス、ポイントがきたら教えてくれ」

「わかった」

 最初はキャリバン号が先導。要するに、地図で見た「怪しいポイント」を調べてみようってわけだ。

 合図については、後ろの停止ランプについて教えてある。ここが赤く点くとブレーキをかけているんだよと。サイカさんはそのへんも知っていたようで、ウンウンと納得げに頷いただけだったけど。

 で。

「ここだよパパ」

「オッケー、まずは停止」

 キャリバン号を減速しながら脇によせ、止めてみた。魔道車もそれに従って停止する。

 よし、問題ないようだな。

「ふたりとも周囲を警戒していてくれ。モンスターとか敵対者とか」

「わかった」

『了解です』

 俺ひとりで外に出ると、周囲を見た。

「ふむ」

 道のカーブ具合。

 ここに至るまでの道筋。

 この先の道の変化。

「んー、外したかな?確かにここが怪しい気がするんだが……」

 いくらなんでも、そんなに簡単に見つかるわけがないかなぁ。

「しょうがねえ、もう少し進んで次のポイントを……ってランサ、どうした?」

「……」

 大人しくしていたから放置していたんだが、気づくとランサが飛び出して来ていた。

「おいおい、どこ行くんだ?」

 なんか、獲物を見つけたって感じの時の反応だな。

 ランサは何かのニオイを嗅ぐようにずんずん進んでいくと、何か壁のところで止まった。

「わん!わん!」

「ふむ、よくわからんが何かあるってか?でもそこはただの壁……?」

 いやまて。ちょっと何か変じゃないか?

「どうしたニャ?」

 気づくとサイカさんも来ていた。

「いや。なんでこんなとこにコンクリの壁があるんですかね」

「コンクリ?そういえば、よくわからニャい素材だニャ。石ではないみた……!」

 サイカさんも何かに気づいたらしい。

「これは……まるで遺跡の一部だニャ」

 むむ、と考えこむような表情をする。

「でもおかしいニャ、このあたりにはひとつも発見報告がなかったニャ」

「目立つ場所すぎて『まだ』気づいてないって可能性は?」

 何しろ道路のすぐそばだもんな。

「……ありうるニャ」

「おけ。ちょっと調べてみますか」

「できるのかニャ?」

「簡単になら」

 俺は左手のルシア妹を出し、コンクリっぽい壁を識別してみた。

 

『コンクリートの壁』

 推定成立年代、約900年前。厚さ約1m。この向こうには空間があるが、広すぎて詳細は不明。

 

「うわ、ビンゴだ!」

「ビンゴ?何だニャ?」

「この壁、厚さ約1mで、その向こうは空洞だってさ!」

「にゃ!?」

 サイカさんが目を丸くした。

「まさか……こんな街道のすぐ横で?うそだろ?」

 いつのまにかマーゴさんまで来ていた。

「いや、まだ本物かはわかんないですよ。当時だって道路の保全工事はしてたんだろうし」

 一応、ぬか喜びはいけないので釘をさしておく。

「これが、どこからどこまで続いているか見てみたいんですが。最悪、一部壊すかもだけどいいです?」

「それはいいけど少し待つニャ、この距離ニャらうちの部隊もまだ呼べるかラ、何人か決めてここを押さえさせるニャ!」

 そういうと、サイカさんは懐から何か取り出した。魔道通信機か何かか?

「ここはあまりにも道路横だからね。動物や魔物だけでなく、好奇心にかられた素人が迷い込む危険もあるからね」

「なるほど……そっちですか」

 その発想はなかったな。さすがは組織のトップだ。

 少しして、何かの道具に向かって「そうニャ」「来るニャ」とかいってたサイカさんが戻ってきた。

「連絡とれたニャ、すぐに『制圧部隊』が来るから、それにここを任せてから再開するニャ」

「了解っす」

「はぁ、それにしても」

 サイカさんは、クスクスと唐突に笑い出した。

「……何です?」

「いやぁ、やっぱり異世界の専門家は凄いニャ。まさか一発目で見つけるとはニャ!」

「いや、今も言ったけど、ただの保全工事跡の可能性もありますよ?マジで」

 そう言うと、サイカさんはニヤ、と笑った。

「ただの保全工事というけど、その工事は何年前のものなのかにゃ?どう見ても百年やそこいらには見えないニャ」

「え……」

 サイカさんはコンクリ壁に近づいて、そして言った。

「ウチにだってわかるニャ。これは向こう側にある遺跡の壁と同じものニャ。すなわち、たとえ単ニャる保全工事だったとしても、それは何百年も昔のものだニャ。

 ついでにいうと、この奥に空間があるとすれば、それも何百年ものという事ニャ。

 いいかニャ、ハチさん。

 専門家のハチさんに言うまでもニャいけど、ちょっとした軽い工事で作られた空間が、平気で何百年も残っているのは不自然ニャ。どの程度の規模にもよるから断言はしないニャが、本体はとても頑丈なものではニャいかと思うニャ。

 ……ウチの言いたい事、わかってもらえたかニャ?」

「……ニャ」

「ニヤ?」

「いや失礼……つまり、ただの保全工事だったとしても、そこには意味があるはずって事かな?」

「……何かごまかされたような気がするけど、そのとおりニャ。

 だったら、小さなものだとしても、なんらかの意味がある発見の可能性は高いニャ!」

 確かに。

 え?今、何をごまかしたのかって?

 そりゃおまえ。

『美女がにゃんにゃん言いまくるのは結構萌える』って言いそうになったんだな、うん。皆まで言わせんな。

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