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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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扉を開こう

 え、おまえバカかって?

 いや、わかってたんだよ。ただ俺はつまりその、みなぎる好奇心の熱いパッションに負けたというか、しっぽの誘惑に敗北したというか、うん。

 ほら、獣耳とかしっぽってやっぱり魅惑だろ?俺としちゃあだから今回の件は仕方ないなってところでさ。

 え?おまえはケモナーかって?何それ、しらねえよ。

 ほんとだよ?

 

 

 

 カリーナさんとプリンさん。わんこと山羊の獣人美女をふたりものっけた我らがキャリバン号は、いよいよトンネル入り口の真ん前に停止した。

 ここで一旦降りて、そして例の、異世界人が記したという夜露死苦語のメモを取り出してみる。

 ちなみに問題のキーワードの部分だけど、こうなっていた。

 

『キーワードは寿限無だよ。同郷人なら空で言えるよな?じゃ!』

 

 言えるかバカヤロー!つーか寿限無全部なんて覚えてねえよ、このド変態がっ!

 しかし、しかしだ。俺にはこういう時のためのアイテムがあるのだよ、ふふふ。

 てーか、ただのケータイだけどな。

 ポケットからケータイを取り出す。

 ここは異世界なわけで、当然地球のネットにはつながらない。当たり前だよな。

 じゃあ、このケータイっていうかスマホだけどな、俺のスマホはどこにつながってるかというと、キャリバン号のダッシュボードにあるタブレットに、テザリングって手法でつながっているんだなこれが。

 みんなテザリングって知ってるか?無線LAN機能しかない端末やパソコンでも、テザリング機能をもつケータイやスマホを経由すると、自宅のLANにつながっているみたいにネットにアクセスできるんだぜ。

 で、俺の旅を見てくれてる皆も知っての通り、俺のタブレットは今、地球の携帯キャリアのかわりにこの世界の、何かよくわからないファンタジーな情報ネットワークにつながっている。えーとあれだ、アカシックレコードがどうたらってやつ。で、いつもはその操作はナビであるアイリスに一任しているんだけど。

 つまり俺のケータイは今、そのタブレットと同じネットワークにつながっているわけで。

「どれ、検索……寿限無っと。よし、出た」

 これは……前に見たぞ。wikipediaのと一緒か?

 うーん、確か寿限無って他にもあったり、文面が微妙に違うのもあるんだよな。大丈夫かな?

 まぁ、試してみるか。

 出てきた寿限無をその通りに読み上げてみた。

 

寿限無(じゅげむ)寿限無(じゅげむ)

 五劫(ごこう)の擦り切れ

 海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)

 水行末(すいぎょうまつ) 雲来末(うんらいまつ) 風来末(ふうらいまつ)

 食う寝る(ところ)に住む処

 (やぶ)柑子(こうじ)藪柑子(ぶらこうじ)

 パイポパイポ パイポのシューリンガン

 シューリンガンのグーリンダイ

 グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの

 長久命の長助」

 

 さぁどうだ、言い切ったぞ!

 そしたら、何かピシッと空気が鳴ったような音がした。

 そして何か声が響いた。おっさん声だな。

 

『僕のバージョンと少し違うけど、確かに寿限無みたいだね。まぁいい、封印解除要請と認めよう』

 

 え?

 これもしかしなくても、日本語のアナウンスじゃないか?

 

『寿限無っていうのは落語から出たものなのは知ってると思うけど、時代や年代、そして落語家によっても内容が違うものなんだよ。だからね、寿限無をキーワードにするっていうのは日本では汎用性がないんだ。かけた当人だけが解除できればいいってものには利用可能だけどね。

 逆にいうと、どんなバージョンの寿限無でも、それが正しい寿限無だと認識すれば認めるっていうのをプログラミングするというのは、ある意味言語認識の夢みたいなもんだよね。とんでもない長文、そして日常語にないニュアンスや用法の固まり。こういうのはグーグル先生やSiriの認識でも全然ダメなわけだしね。

 でもね、異世界のプログラミング……この世界の付与魔法では可能なんだよ。少しずつ違う寿限無を寿限無と認識させる事も、この馬鹿長い言葉を読み取らせる事もね。

 どうだい、凄いだろ?』

「……マジかよ」

 そもそも、付与魔法がプログラミングっていうのも初めてきいたぞ。

 しかしそうなのか。俺が使う事はなかろうけど興味深いな。

『では最後に聞く。四時間後にキメラを解き放つ事になっているのは既に読んだと思うけど、これは寿限無を正しくノーエラーで唱えきった者に限り、解除もできるようになっている。君はその資格があるわけだ。

 どうだ、解除するかい?2つにひとつで応えてくれ』

 ふたつにひとつ?

 ああそうか、はいかいいえかって事だな。

「はい。解除してくれ」

 もちろん即答した。

『オーケイ、では時限で解き放つ処理は停止しよう。だが注意事項がひとつある』

 注意事項?なんだ?

『封印はもう解除したが、同時にシステムが警報を発している。どうやら内部に魔物が入り込み、中で繁殖しているようだ。これが立ちふさがる可能性がある。

 でもね、これは同時にキメラたちもスタンバイに入っているって事なんだよ。

 中で大きな攻撃魔法を使用した場合、即座に戦闘モードでキメラが解放される危険がある。こればっかりは僕の仕掛けとは無関係で、止めようがないんだ。

 だから、そこだけ注意してくれ。うかつに大魔力をかけて魔法を使わないように』

 うげ、了解わかった。

「わかった。長い間ごくろうさん」

 相手がプログラムとわかっていたが、俺はあえて礼を言った。言いたかったともいえる。

 そしたら声はなぜかクスッと笑ったような声で。

 

『まさかこのタイミングで礼を言うとはね。どうやら解除者はなかなかの好人物と見える。

 じゃあ、最後にひとつだけ忠告しとくよ。

 魔族、エルフ、それから水棲人もかな。彼らは獣人族同様、僕ら異世界人に好意的になってくれる。

 だけどね、獣人族もだけど、彼らには彼らの思惑があっての事。純粋な好意ではないんだよ。

 その意味でいうと、獣人族は比較的信用できる。もちろん全てではないけどね。

 なぜなら、彼らが僕らを利用したとしても、その中身はほぼ確実に、僕らの子が欲しいって事だからさ。しかも無理強いは美徳とされないみたいなんで、拒否すればそれまでなんだよね。

 本当、見た目は一番けだものなのにメンタルは一番紳士的なのは彼らだ。覚えておくといいよ、ほんとだぜ?』

 

 へえ。そうなのか。

 いや、確かに水棲人はもう問題が起きたし、少しは納得もできるかな?

 獣人族は……まだサンプル少ないけど、肉屋のおっちゃんおあの砂漠の門番さんもしかり、確かにいい人が多いよなぁ。好感が持てる。

 なるほど。胸に秘めておこう。

 ちなみに、ここまでのやりとりは全部日本語でなされている。アイリスはドラゴン氏の謎のフォローがあるしルシアも同様に読み取られそうだけど、カリーナさんやプリンさん……意地でも殿下なんて呼ばない……は無理だよな、きっと。うん。

 このあたり、どこまで話していいのかわからないけどな。

「どうだったのですか?」

 振り返ると、待ちかねたという感じでカリーナさんとプリンさんが口々にそういってきた。

「外せましたよ。オーケーです」

「本当ですか!?」

「ええ」

「ありがとうございますぅぅっ!」

 めちゃめちゃ嬉しそうなカリーナさん。そりゃそうだよな。

 でも、プリンさんは俺の言外の言葉に気づいたようだ。むむ、と眉をしかめている。

 なるほど、さすが専門家というだけの事はあるな。

「で、どうだったのかしら?」

「お見通しですか」

「まぁね。伊達に旧跡調べまくってないもの」

「確かに」

 嫌味でもなんでもなく、素直な敬意だった。

「ただの封印じゃなかったんですよ。中の制御システムと連動してて内部の情報も教えてくれたんですが、よろしくないですね。魔物が入り込んで繁殖しているみたいです」

「それはまた厄介ね。なんていってた?中で大魔術ぶっ放したらキメラが即座に飛び出してくるとか?」

「ええ、全く大当たりです。しかも戦闘モードで出てくるとか」

「メリンゲの罠かぁ。さすがに厄介ね」

 めちゃめちゃ不機嫌そうに、そして口調まで変わった。

「な、なんすか?そのメリンゲの罠て」

「ん?ああごめんなさいね」

 プリンさんは苦笑すると、簡潔に説明してくれた。

「詳しくは昔の故事なんだけど、周囲を敵に囲まれ、だけど魔法を打てば落盤するって絶体絶命状態の事を、メリンゲの罠っていうのよ」

「なるほど……的確だな」

「でしょう?」

 思わずクスッと笑ったら、プリンさんもクスクス笑っていた。

「それで専門家としてのご意見は?」

「有望なのは光魔法ね。完全に闇に適応した魔物以外なら閃光ってかなり効くものだし、光弾は必中しないと効かないっていうけど、逆にいうと直撃以外では影響がないって事だから」

「なるほど。そりゃ有望だ」

 俺は光魔法なんて使えないけど、まぁそれは何とかしよう。

「よし。そんじゃ、行きますか」

「ええ!」

 

 と、なったのだけど。実はまだ問題が残っていた。

 

「ちょっと待ってください。ハチさんの隣には私が。今回の依頼者ですし」

「何を言ってるの。ここは専門家が横に座るべきだわ、悪いけどさがってくださるかしら?」

 なんで、そんな事でケンカしてるんだかなぁ。

 幼稚園バス融合事件の際、俺は運転席は元のキャリバン号のままとした。だからキャリバン号のコックピットは今も昔も、いわゆる550cc規格時代の軽四の広さそのままだ。

 という事は、つまり俺以外で前に座れるのは一人だけなんだよ。残りは、久しぶりに登場させた、後部座席に座ってもらう事になる。

 まぁ、この時代の箱ワゴンの後部座席って、バスの補助席みたいな内容だからなぁ。そりゃアレだよな。

 だけど、悪いけどそれはケンカ以前の問題なんだよ。

 俺はハッキリ言うために割り込む事にした。

「あのさあ、悪いんだけど横に乗るヤツは決まってるんだよ」

「え?」

「どういう事かしら?」

 どういう事も何も。

「知らないみたいだから説明すると、この席は助手席といって、運転者の補助をする人が座るんだよ。こういう自動車は牽引する動物がいないから、運転者は運転操作に集中するからね。サポートしてくれる人って大事なんだよな。で、だ」

 俺はそこまで言うと、一発ためいきをついた。

「非常に悪いんだけど、ふたりとも俺の助手席に座るのはダメなんだ。そこはアイリスだけの席でな。あきらめてくれ」

「……」

「……」

 なぜか二人とも絶句していた。

「えっと、なに?そんな黙っちゃって」

「い、いえ、その……」

「な、なるほど。ふたりはそこまでの仲だったのね。それは悪い事をしてしまったわね。ごめんなさい」

「……はあ?」

 いや、すみません。わけがわからないんですが?

「いいんですよハチさん。そこは、わからないなら気になさらず。女の話ですから」

「そ、そうか?」

 なんだかよくわからないが、いいらしい。むう。

 とりあえず俺の助手席はアイリス固定となって。そしてやっと席が決まった。

「よし、みんな準備いいか?」

「いけるよ」

「わんっ!」

「はい、行けます」

「いけますー」

 プリンさんがいるから喋らないルシアとマイ以外は、みな返事をした。

 よし、突入だ、いくぞ!


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