またトンネルだよ。
まぁ、今までのトンネル話とはちょっと違いますが。ちょっと、ええ。
タシューナン西部『トンネル市』。国境から東にハイウェイを約500kmのところにこの町はあった。
え、遠いって?
確かに遠いけど、タシューナン側のハイウェイはコルテア以上によく整備されていてね。それに目的があると自然に足が早くなるもんで、気づいたら、たったの2日半で踏破していたんだよ。
で、話を戻そう。
てか、その名前アリなのかと俺は問いたいところなんだけど、これには理由があった。
つまりだな。
俺は通常、この世界での全ての会話を日本語に翻訳されたカタチで見聞きしている。だから実際の地名は、たとえば、現地の謎の文字列がズラズラ並んで、そこにコルテアとかタシューナンという半透明のルビがふられて見えたり、なぜか意味だけが頭に入ってくるのだけど。
だけど、この『トンネル市』は違っている。というのも、
「もしかして、こっちの言葉で『トンネル』って言葉があるのか?」
そう。こっちの文字で何か書かれていて、そこに『呼称・トゥンネル(翻訳不可)』ってなっているっぽいんだよね。
今までの旅の感じだと、こういう「翻訳不可」は、歌の歌詞のいわゆる合いの手とか擬音とか、そういうのに出るんだよ。まぁ、アイアイサーとかシャキーンとかピュッとか、いちいちそんなもん翻訳してからマヌケだしね。
それこそ昔、俺が生まれる前に大ヒットしたという日本人の昆虫記本にあった昔の海外の詩みたいなもんさ。
その本には、詩の翻訳の例として「蛾、物陰からビュッと飛ぶ」みたいな簡潔な訳と、美辞麗句を駆使したような長大な訳のふたつを、昆虫学的観点から面白おかしく解説していた。このあたりは作者さんの名文が光るところなんだけど、実は後者の綺麗で長い訳よりも、最初の「蛾、ビュッと飛ぶ」の方が簡潔で、なおかつ状況をよくあらわしており、おまけに蛾の種別までよくわかる(ビュッという擬音が似合う高速飛翔できる蛾は、スズメガの仲間しかいない)という論調だったと記憶しているのだけど、詳しいところは残念ながら覚えていない。もし興味があったら、古い本だけどなかなかおもしろいので、お読みになってみる事をオススメする。
さて、話を翻訳不可に戻そう。
いや、もしかしてなんだけどさ、これって「当て字」じゃないの?先の夜露死苦語同様にさ。
「名前を決めたのは異世界の人らしいけど、とても楽しい意味なんですよって言ったらしいよ。そうなの?」
「いや、そうも何も……って、やっぱりそうなのか」
「?」
「そのまま読めば、これ、日本語でトンネルって意味になるんだよ」
わかりにくいかもしれないが、今、俺がトンネルと言ったのはおそらく、アイリスたちにはこの世界の言葉で聞こえているはずだ。
はたしてアイリスたちの反応はというと。
「えー、そんな意味だったの?」
「楽しい意味っていうのはもしかして、異世界人が聞いたら面白がるって意味だったかもな。実際、俺はびっくりしたし、今は苦笑いしたい気分だよ」
「なんだ、そっかぁ……」
「何期待してたんだおまえは」
「あ、あははは」
しかしま、アイリスの言いたい事もわかる。
大トンネルの入り口がある町が日本語でトンネル市とか。なんのギャグだよ。
もっとも、今までそれを指摘した異世界人がいないっていうのも気になるところだけどな。まぁ、奴隷扱いされていたヤツが大部分みたいだし、自分で苦笑いして「わざわざ教えてやる必要はないね」と口を閉じていたのかもしれないが。
さて、話を戻そう。
まずタシューナン国。結構大きな国なんだけど、北の海に面した土地は実はほんのすこししかないらしい。そして東の方は東大陸と斜めに接しているもんで、コルテアからなるべく近い陸路でタシューナン経由で東を目指そうとすると、タシューナンの土地を移動するのはせいぜい900km強ほどになるようだ。
そうだな、地球でいえばペルシャ湾の地図を見てほしい。あのカタチをタシューナンにあてはめると、西のサウジアラビア側がそれになる。
あの、アフリカとアジアの接し方のような感じに、南大陸と東大陸は噛み合っているってこった。
ちなみに地球でイランにあたる対岸の土地は、エマーンというらしい。触手の生えてる女の子とかいるんだろうか?気になるな。
トンネルに話を戻そう。
問題のトンネルは通称『クリューゲル道』。トンネル市からなんと、東方貿易の拠点である対岸エマーン国のクリネルって町までを大深度地下でつなぐ巨大トンネルで、ここを使うと地上がどんな天候だろうと問題なく進め、しかもエマーンからの海沿いで約1000kmの道のりを、600kmの陸路と安全な100kmで埋められる。しかもその1000kmには、エマーン国内をクリネルまで移動する途中の山岳地帯は計算に入っていない。
当然、クリューゲル道はかつて、交易などで大変に賑わったのだとか。距離が長いので、中には茶屋みたいなものまで運営されていたという。
もちろん今は全部閉鎖されている。道ごと封印されているからね。
そんなわけで、やってきましたよトンネル前。といってもここは駐車場だけどな。
トンネル本体はここからも見えているけど、なんせ50年も前に閉じられたっきりだろ?ある意味観光地にもなっているらしくて、どん詰まり状態の道の周囲には、元々あったらしい休憩所や宿泊施設とならび、観光客むけの駐車場もあるんだよね。
で、その中のひとつにキャリバン号をまず止めたのだけど。
なんか、どうもお迎えらしき犬人族の女性が、トテトテと擬音をつけたくなるほど可愛らしく走ってやってきたんだ。
「ようこそいらっしゃいました」
「……」
「……あの、お客様?」
「……!」
おっといかん、つい見とれてしまった。
いわゆるお年寄りの白髪とは違う、つやつやの白い髪。獣人なので獣っぽい、でもどこかコミカルな感じのする顔は、そう、あれだ。日本でよく遊んだ、獣人たちの住む森の中で風来坊や村長になって暮らすゲームに出てくる女の子みたいだ。
おー、これは可愛いな。異種族としての外見の違いを割り引かんでもナチュラルに可愛いぞ。すげえ。
白くて長い髪の間から覗いている、ちょっと鼻面が短いが、そこが可愛い犬系の美人顔。
これは……。
うん、断言しよう。
およそ、俺が、君が、犬系の獣人で美人と言われたらこんなのを想像すると思われる、エロカワな美人さんだよ。
こりゃたまらん、まいったな。
そんな彼女だが、服装も特徴的だ。
灰色の古い言い方で、鼠色というのを知っているだろうか?それは昔の日本の法的問題とも関係して、限りなく別の色に近いけど微妙に灰色を含んだ色を「○○鼠」って呼んだんだよね。うちの母は服飾系の人なので、俺は子供の頃からネズ色という言葉を聞かされて育った。
で、彼女が着ているのはそうした青っぽい灰色のひとつ、相思鼠と思われる色のレディススーツだった。
まぁ実際にはレディススーツっぽいこの世界の衣装なんだと思うよ。でも俺にはレディススーツとしか見えなくて。
うーむ。
思わず無遠慮に上から下まで見てしまった。
しまったのだけど。
「……」
いや、ちょっとまて。スカートだって?
ふさふさの白い尻尾が、スリムなスカートの後ろからのびていた。
気になる。
ふさふさの可愛い尻尾も素晴らしいのだけど、その付け根の部分、スカートがどうなっているか物凄く気になる。
しっぽ穴を開けているのか?それともジッパー……は危ないよな。それともローライズ的に後ろが下がっているのか?
ああ、チクショウ。なんていうか気になる。
後ろを振り返る。
「?」
後ろにはカリーナさんが、きょとんとした目でこっちを見ている。
実は今回、俺達の旅にはカリーナさんが同行している。もちろん今回の担当者だからなんだけど。
カリーナさんたち山羊人って、どういうわけか皆さんスカートでなくパンツタイプなんだよね。
他でも獣人のスカート姿を見ないわけじゃなかったけど、遠目にチラッと見たくらいで、目の前で挨拶した事なんてなかったんだ。
むむむ、だめだ、ますます気になって仕方ねえ!
「!」
おっといけない、見とれてないで挨拶しよう。
そろそろ後ろの空気が凍りつきそうだしな、やばいやばい。きちんとフォローせねば。
「ああどうも、すみませんビックリしちゃって。異世界人のハチといいます。要請を受けまして、トンネルの封印を調べに来たのですが」
「あ、はい、伺っておりますハチさま、ようこそいらっしゃいました。わたくし、クリューゲル道関係臨時担当のプリニダク・エム・タシューナンと申します。よろしくお願いいたします」
「これはご丁寧にどうも」
ん?タシューナン?国と同じ名字ってどういう事だ?
だけど俺がそれを口にする前に、
「あの、驚いたって何に驚かれたのでしょう?」
「ああすみません、実は」
失礼な質問かもしれないが、ここはむしろ正直に言うべきだと思った。
「今までお会いした獣人の方で、スカートの方ははじめてだったんですよ。俺の故郷に獣人の人はいないので、その、尻尾はどうやっているかなと疑問が浮かびまして、ええ。すみません、ぶしつけにジロジロ見ちゃって」
「……ああなるほど、そういう事でしたか」
クスクスと、少し恥ずかしそうにプリンさん、もといプリニダク嬢は笑った。
いやごめん、失礼なんだけど胸のあたりがプリンって感じなんで、つい。
「お客様に背中を向けるのは失礼にあたるので申し訳ないんですけれど、そういう事でしたら。ほら、こうなっていますの」
「お」
そういうと、くるりと後ろを向いて見せてくれた。
「これは……しっぽ穴かな?いや違う、ベルト締めなのか」
「はい。尻尾の処理にはスリットタイプとフェルアタイプの二種類があるんですけど、これはフェルアタイプです」
単純な尻尾穴ではなく、上から縦に割れていて、尻尾穴のあたりで穴が広がっている感じだった。キレイに縁取られていて、いい仕事をしているのがわかる。その縦割れの形状からフェルア型という、というのはもちろんプリンさんの言葉でなく、俺の脳内に翻訳として浮かんできたものだ。
しかしまぁ、これは安くないな。素人目にもわかる。
「オーダーメイドのスーツですと、このように微調整可能で、なおかつ縁取りをきちんと行います。円の部分の処理が適当だと、毛並みを痛めつける事があるので、ここが職人の腕の見せ所になるんです」
ほう。
「事務職の方はパンツタイプの方が需要があると思います。
あと、スリット型は尻尾が上を向くと中が広範囲に見えてしまう問題がありますが、どちらにしろ安価なものですと穴を大きくして干渉しないようにする事になります。でもそれって、おしりがそれだけ見えてしまいますよね。ですから、恥ずかしいという人向けにサラスという腰巻きみたいなものをさらに使う事もあります」
ほう。
「ただ、それが窮屈だという理由で、ほとんどお尻まるだしでも気にしないという者もおりますね。ホールバックといって、今いったセオリーを全て無視し、最初から丸出し前提にデザインされた衣服類もありますよ。特に暑い地方ですと」
なるほど、たかが尻尾っていってもやっぱり色々あるんだなぁ。
ふむふむ。ん、ちょっと気になるな。
「ちょっと失礼しますね」
「え?は、はい……!?」
俺はちょっと断るとプリンさんの尻尾を軽く手にもち、ヒョイと上にあげた。
「=&~★#$!?」
「ば、ばかパパ!」
「おお、なるほど。付け根のまわりがとてもキレイだなぁ……え、なに?」
「え、なにじゃない!尻尾放しなさいバカ!」
アイリスの突然の剣幕にビビった俺なのだけど、そこでやっと気づいた。
真っ赤な顔をして悶えているプリンさん。
そのプリンさんの尻尾を持っている俺。
尻尾のつけねに目を走らせると……そこにあるのは当然、お尻のあn
「おバカ!」
「!?」
突然、頭にものすごい衝撃が走って、俺の意識は暗転した。
意識が戻ると、後頭部がずきずきと痛かった。
どうやらキャリバン号の後部室みたいだった。いつものようにマイがベッドになってくれていて、平和な目覚めではあったのだけど。
「本当にすみません、うちのバカが」
「それはもういいんですけど。ええ、できればその、お願いを聞いていたたければと」
「んー、それについては私の一存では何とも。このバカが目覚めてからという事で」
なんの話をしているのやら。
室内にはアイリス、プリンさん、そしてカリーナさんがいるようだった。
いくら今のキャリバン号の後部室がバス並みに広いといっても、横で寝てる人間がいたら限度があるだろう。起きなくては。
とにかく、なんとなくボケた頭が回り出した気がするので、何とか起きられそうだ。よし。
「おはよう」
「おはよう変態男」
うおぅ、アイリスさんがいつになく冷たいぜ。
「あー、なんとなく最後の一瞬に理解したわ。尻尾持つのってまずかったんだな。すまねえ」
そう言いつつ起き上がると、とりあえず正座。横ヒザで座っているプリンさんに頭をさげた。
「どうもすみません。知らぬ事とはいえ、絶対やっちゃまずい事をしちまったようで」
「なるほど、本当にご存知なかったんですね。ではちょっと説明しますわ」
クスクスと楽しげに笑うプリンさん。
「尻尾の扱いは獣人でも種族により異なりますの。でも、尻尾はお尻や背骨に直結している部分ですからデリケートなもので、特に手にとって触るというと、家族またはよほど親しい間柄の方に限る種族が多いんですの。特に異性でしたら、恋人とか旦那様とか」
うわぁ、最悪。
「そりゃどうも……重ね重ね申し訳ないです」
思わず好奇心につられ、とんでもない無礼な真似をしてしまった。
しかし、そうなるとプリンさんの苗字については言及しない方がよさそうだな。触らぬ神にたたりなしだ。
そう思ったのだけど。
「とにかく、内部へのご同行をお願いできませんか。これはタシューナン政府からの正式依頼ですし、わたくしプリニダク・エム・タシューナンの名にかけて、きちんと契約通りに収める事をここに誓いますので」
「……えっと」
「逃げ道はありませんよ、ハチさん?」
うわぁ、カリーナさんまで敵に回った!?
「その……プリンさんってまさか」
「プリンじゃなくてプリニダク。ついでに言うと、さんじゃなく殿下と言うべきかも」
「いえアイリスさん、敬称はやめてください。異世界人のハチさんはこの世界の階級の外にいる方のはず、できれば対等に呼んでいただきたいのです」
うわぁ、やっぱりかよ。
ブリンさんは、たぶん愕然としている俺の方を見ると、にっこりと微笑んだ。
「改めて自己紹介させてくださいませ、ハチさん。
わたくしはプリニダク・エム・タシューナン、このタシューナン国の第三王女にあたりますの。もっとも継承権は放棄しておりまして、本職は古代遺跡、特に古代道路網と古代鉄道網が専門分野なんですけれども」
「なるほど王女様ね、ハハハ……って、古代遺跡が専門?」
つまり、俺が異世界人だからって理由で派遣されたのではないって事か?
「ハチさん、中央大陸北部のケラナマー古代遺跡国はご存知かしら?遺跡発掘と解析を国をあげてやっている、考古学と各種学問の国ですけれども」
「あ、噂だけは。この世界の飛空艇とか、ほとんどケラナマーで管理しているとかも」
「はい」
プリンさんは大きくうなずいた。
「わたくしはケラナマーに長期留学をして、特に古代における道路網および鉄道網の研究をしておりましたの。もとより継承権は放棄済みでしたけど、国でウロウロしていておかしな政権争いに巻き込まれるのもイヤですしね。それで、クリューゲル道の謎を解きたいと思ったんですの」
「謎?」
「元の用途がわからないのです」
プリンさんはためいきをついた。
「千年前の悲劇の際に鉄道だったのは確かです。発掘された昔の路線図にも出ておりますしね。
ですけど、文献を読むに、どうも別の用途のものを鉄道用に使ったと読めますの。きちんと管理、共用されていたのは間違いないのですけど」
「……ほう?」
鉄道に転化される前の、さらに大元があるってのか。
「鉄道にまつわる伝説か。銀座線みたいなのがあるんだなぁ」
「ギンザセン?何ですかそれ?」
「日本の、つまり俺の故郷での最初に作られた、いわゆる地下鉄ってやつなんだけど、何しろ古いものでいろんな伝説があってね」
東京の地下鉄には業務用の連絡線、つまり車両の移動や非常時の連絡用の路線がある。業務用で一般路線じゃないので関係者しか入れないが、防災用途でも使うのできちんと存在も知らされているのだけど、往々にして、こういうのが変な都市伝説の元になるんだよな。秘密鉄道とかさ。
ところが。
「え」
プリンさんが目を丸くした。
「異世界では鉄道が現役なのですか!?」
「え、そこに食いつくの?」
ていうか、なんでそんな事知らないんだ?
「こちらで調べた限りですと、痕跡的に存在するけど廃止が進んでいて、ないも同然、一般人にはわからないという話しか知らないのですが」
「ああなるほど、そういう事ですか」
真意がよくわからないが、その言葉でわかった気がするので納得しておいた。
これはあくまで邪推なんだけどさ。
鉄道があった、なんて言ったら最後、それを再現しろとか無茶ぶりされる可能性でもあったんじゃないか?
俺は特にその能力上、まさにそれをやらされる可能性がないとはいえないわけで。
うん。だったら、返事はこれしかないな。
「確かにおっしゃるとおり、形骸化していたのは事実ですね。都市交通の一部に残存していましたけど、国策の国有鉄道も丸ごと民営に払い下げられましたし、地方は赤字だらけでどんどん廃止、消え去りつつあったのも事実です」
「そ、そうですか。でも存在したんですよね?」
「あー、もし再現しろとか原理を教えろっておっしゃりたいんでしたら、すんません。俺にも無理っす」
「そうなんですか、でもなんで?」
「形骸化してるって言ったでしょ?
このキャリバン号を見てくださいよ。どうして俺が故郷でこんな車を移動手段にしてたと思います?公共の乗り物では自由がきかないからですよ。
使わない、触れないものは俺にはわからない。鉄道だって例外じゃないです」
嘘はついてないな。
「そうですか……」
プリンさんは、ものすごく残念そうな顔でこっちを見ていた。
「と、とにかくです、ハチさんには今回の探索に同行していただきます。わたくしももちろん一緒に!」
「え?ああ封印の解除ならもちろん挑戦するつもりですけど?その予定できたんだし」
「何をおっしゃるんですか、もちろん内部の探索もに決まっているではありませんか。幸い、わたくしの用意した魔獣車ごときでは比べるべくもない、素晴らしい移動手段もお持ちのようですし」
「ちょっとまて、なんでそうなる?」
俺が思わず言い返すと、プリンさんと、それからなぜかカリーナさんまでもが目を細めた。
「あんな事おっしゃってますわ、カリーナ様」
「いけませんねえ。一国の王女様相手に、そこいらの無頼漢でもやらないような破廉恥行為をなさったというのに」
「まて、まて、ちょっと待て!」
「ええ、もちろんわかってますともハチさん、異世界の方であって尻尾の問題はご存知なかったと、ええ。
でも、これが表沙汰になってしまったら、アリアさん……カリーナさんのお母様にしてコルテア首長のあの方はどう思われるかしら?」
「……くっ!」
しまった。そういう方面で攻めてきたか!
「……やれやれ、決まったみたいね」
横から響いてくるアイリスの声が、呆れ全開だったのは俺の気のせいじゃないだろう。
まぁ、なぜか軽蔑するような雰囲気がないのは謎だったけど。




