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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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裏話各種

 各勢力の話です。


 南大陸で異世界人ハチが中央大陸の人間族国家に、しかも三度に渡り襲撃を受けた事は、この世界の全ての国家に様々な波紋を投げかけた。

 この件に少なくともふたりの異世界人奴隷が投入されていた事も反応が大きかった。そして片方は反逆を起こして部隊壊滅、そしてもう片方はハチの護衛により始末されたらしい事も伝わるに、様々な意見が飛び交うようになった。

 まず、対人間族国家対策の拡充と先鋭化。

 異世界人ハチ捕獲を巡って、人間族国家群は貴重な飛空艇を二隻も失っている。しかしその飛空艇は元々どこのかというと、飛空艇を管理していたのは中央大陸北部のケラナマー古代遺跡国だった。おまけに、これら貸出の名目は要人警護だった。

 ケラナマー国はこれら人間族国家群に対し、契約違反のかどで多大な賠償金を求めた。

 そもそも飛空艇はドワーフ系の技術であり、部分補修ならともかく丸ごと失ってしまっては再建は不可能だ。それを、しかも契約外利用によって潰されたわけで、それは当然の非難であった。むしろ賠償金ですませてやろうという温情対応に近いものだったとも言える。

 ところが、当事国たちはケラナマー国の訴えを却下。人間族国家連合の決定に従うのが人間族国家全ての義務であり云々と、強硬派の言い分をそのまま流すという暴挙に出た。

 この人間族国家群の対応に、ケラナマー国は激怒する事になった。

 そもそも、アーティファクトの利用や人種問題に関しては、ケラナマー国は中立であり、人間族国家のような差別主義政策はとっていない。しかしイデオロギーで国家を差別するのはいかがなものかという自称穏便主義者、実際には人間族寄りの一部インテリ層の考えの元に提供を続けていたわけだが、それも近年の人間族国家関係者の横暴っぷり、上から目線の応対にキレる担当者が増え、人間族至上主義は次第に隅においやられていっている現状があった。

 結果、金を払わないのなら契約を破棄するとケラナマー国は宣言、しかもその宣言通り、人間族国家にある全ての飛空艇を強制的にケラナマーに引き上げ始めた。理由もきちんと「貴国の重大な契約違反と、支払い滞納による強制執行」とハッキリと明言。しかも、現物を引き上げたくらいでは当然足りるわけがないので、該当国家に契約通りの違約金、全額を支払うようにという命令書を送りつけた。

 命令書だけなら、おそらく各国は笑い飛ばしてゴミ箱に捨てさせただろう。

 人間族は基本的に脳筋寄りで技術とか手続きとかを軽視する者が多くいたし、彼らは多種族混在国家を自分たちの下にあるものと認識しているからだ。以前にも示した通り、彼らは決して好戦的な人種ではないが、彼らにとって人間とは、同じ人間族だけの事だから。

 いわば彼らにとり多種族混在国家というのは、猫やサルが人間のふりをして国家のまね事をしているようなものだった。つまり、元来対等に話をするような関係ではないのだ。それが偉そうに反旗を翻してきたところでお笑いだったわけだ。

 だが今回は違う。貴重な飛空艇をくだらない事で潰されたあげく、それをいかにも正義の行為であり、人間もどきの国なんぞが口を出すなと言われたも同然のケラナマー国は本気で該当国家のケツの毛までむしり取る気まんまんであり、現実に全ての飛空艇を引き上げ、さらに金よこせと要求してきたのだから。

 聖国以外の人間族国家はそろって激怒し、飛空艇をご主人様に返せ、さもなくば痛い目にあわすぞと脅迫をかけた。

 それに対するケラナマー側は、どうぞご随意にと笑い飛ばしたにすぎなかった。盗人と猛々しいと言い切った者までいた。

 で、ケラナマー側が本気の本気である事を彼らはまもなく知る事になった。

 怒り狂った一部の国の先遣隊が移動力のある飛竜戦隊を率いてケラナマー国境に向かったところ、国境で彼らが見た事もないようなアーティファクトと思われる巨人兵士が出迎えた。そして、その警告を無視して押し通ろうとしたその飛竜戦隊は、たった一体の巨人兵士の攻撃で、あっというまに全滅してしまったのだ。

 しかもその映像は記録され、各国にこんな警告と共にばらまかれた。

 

『飛竜戦隊を派遣したペッツラー国の皆さんへ。

 学問の国である我らケラナマーに侵略してきた貴国の考えは理解した。

 ケラナマーは野蛮な戦争国家ではない。ゆえに直接攻め込みはしないが対応をとらせていただく。

 今後、全てのギルド、全ての国家で用いている特殊通信システムからペッツラー国を永久的に切り離す。

 また、ペッツラー国の王都で用いられている魔力供給システムを本日深夜をもって無期限に停止する。

 これらは我らケラナマーが長年無償で管理してきたものであるが、当然、ケラナマーを襲う敵国に供与する事はできない。

 全てのペッツラーの一般国民の皆さん、卑劣な貴国政府の責任とはいえ、ご不便をおかけする事をどうか許してほしい。

 今後、ペッツラー国は我が国が問題なしと認めるかペッツラー国自体が消滅する日まで、我が国が供給するあらゆるシステムから完全に切断される。以上』

 

 これには、さすがに各国は言葉を失った。

 ケラナマー国は今まで、このような過激な手段に出た事など一度もなかった。せいぜいが忠告程度であり、今回もその程度ですむ、そもそも学卒ごときが国家権力に逆らうわけがないと思っていたのだ。

 だが現実はこの通り。

 現代地球と違って全世界的なエネルギーのインフラなどはこの世界にはない。だが首都級の都市には各所で魔力をエネルギー変換する仕掛けが利用され、都市生活を支えているのだ。

 特に致命的だったのが、かつて異世界人が提唱し、設置されたという簡易水洗などの下水道の仕組み。

 都市生活が不衛生になる大きな原因のひとつが下水道の不備であり、これに目をつけた異世界人は枚挙にいとまがない。このため、彼らの意見をとりいれて各国は都市圏に限定とはいえ魔力をエネルギー源とする下水設備を作っていたのだ。そしてその結果、治療師の手が追いつかないほどに蔓延していた伝染病が激減したという実績もあった。

 これを支える魔力システムが、全部止まってしまったのだ。

 トイレが使えないという非常に現実的な問題は、たちまち民衆の生活に暗い影をなげかけはじめた。

 たちまちペッツラー国では反乱の火の手があがった。

 たかがトイレと言うなかれ。

 かりに今、あなたが東京にいるとしよう。東京に今、何百万のトイレがあるのか知らないが、これらはそのほぼ全てが水洗トイレだ。そして、水洗トイレは水だけでなく、電力も動作に必要なのだ。

 その電力が一斉に、無期限で停止したらどうなるか?

 東京と違って、この世界は全てのインフラが麻痺する事はない。

 だが各国の調整にしろ物資の輸送にしろ、迅速で確かな運営のために彼らのもたらした高速通信や魔力炉網は利用されているし、王城などの大きな設備でもしかり。あと、小さな魔力で動かせるという事で、大都市の街灯の何割かは魔力灯なのだ。

 これらが全て、そして無期限で停止してしまった。

 たちまちペッツラー国では無数のトイレ難民と、闇にまぎれてけしからん行動に至る者どもであふれる事となった。

 

 今まで使用してきたインフラが一気に麻痺した事で、ペッツラー国が崩れ始めるのはもう時間の問題だった。

 人々は、逃げ出せる者たちは先を争うように他国に逃げ出し、残された者たちも不便な王都を捨て、親戚を、友を頼って田舎に逃げ出していった。

 インフラが壊滅したせいで今までの対話ルートでは交渉もできない。しかし過去に利用していた魔道鳩の使い手なんぞ、ペッツラー国の王都にはもう残っていなかった。国内にはいたのだが、彼らは田舎の暮らしにすっかり馴染んでいて、大変な事になっている王都になんぞ、頼まれても寄り付こうとはしなかった。

 各国もこれらの事態に怯え、ペッツラー国のなかなか支援をしようとしなかった。ケラナマー国に敵国認定されたら最後、自分たちも同じ目にあうのは明白だったからだ。

 人間族国家が、多民族国家に屈する。

 後に飛空艇事件と呼ばれるこの一件は、人間族国家とそうでない国との力関係が完全に傾きはじめる。ひとつの時代の象徴ともなった。

 

 そんな混乱の中。彼らは亜人の大陸を旅している異世界人の青年の事なぞ、一部の者を除いては忘れていく事になる。

 今後、マイのパックリ丸呑み事件を最後に、彼ら人間族の干渉は収束に向かう事になるのだが。

 とはいえ、今はまだもちろん誰もその事を知らない。

 予測している者がいるとすれば、それは東や南の国家群に声をかけてケラナマーに合同支援を申し出た者……つまり今回の事件の絵を描く事でこの世界の種族間バランスシートを多民族国家系有利に導いた、どこぞの二百年生きてる内政チートな妖怪……もとい、親愛なる聖女様くらいだろう。

 

 

 南大陸や東大陸の方では逆に、漂泊の異世界人ハチの名が広まりつつあった。

 高速移動に特化したアーティファクトの主で、旅仲間に竜、魔族、樹精、そしてドワーフの眷属まで連れているという。戦いを嫌い旅に生きる彼をサポートしつつ、通常ならなかなか難しい長期の対話なども続けているのだというのだ。

 つまりハチのパーティは一種の中立地帯であり、同時に移動する平和会議の場であると。

 これは少々オーバーな表現だとされたが、実はオーバーでも何でもなかった。ハチは知らないがアイリスやルシアは深夜、ドラゴンと樹精の眷属としてお互いの情報交換をしたり、主人の言葉を伝え合ったりしていたからだ。事実、彼らを通して既に50年分くらいの会談が行われたという話もあり、獣人族やエルフ、魔族といった面々の間では、一度は見てみたい対象としてよく噂にのぼった。

 またソレとは別に、ハチの趣味についての話も流れていた。

 今まで目撃例のある町はいくつかあるが、どこでも女を買っている気配がない。また、連れ歩いている竜の眷属らしき娘との関係は、そういう機微に敏感な女たちには一目瞭然だった。だから、竜好きなのではないかとか、はたまた実は強気存在に遠慮しているだけで実際は女に飢えてるのではないかとか、様々な憶測が乱れ飛んでいた。

 ただ、それらの多くは信憑性を欠いていたのも事実。

 また、市場などでハチの左手から蔓草が伸びているのがよく目撃されていたから、樹精の眷属と融合している可能性についても語られていた。

 実は、樹精の種を植え付けられた人間はこの世界には珍しいが、しかし皆無ではない。

 また、魔力を持たない人間に種がつくと樹精の苗に内側から食い殺されてしまうが、魔力がある場合はその心配がない。その場合は魔力を喰って種は生き続け、宿主が死んだ後くらいにようやく本格成長をはじめるのが、樹精の種の特徴だからだ。

 当然、強い魔力をもつハチもこの例によるのだろうと言われていた。

 

 

 また、そんなハチの話とは、別の異世界人の噂も始まっていた。

 こちらは壮年の男性の姿で、すらっとした狼人の美女、あるいは美少女を連れているという事だ。こちらにもいくつかの団体、特に人間族国家が接触と称して捕獲を試みているらしいが、若い異世界人と違って食えない老獪な人物であり、(いくさ)知らずと舐めきって接触した連中はあえなく全滅させられているばかりか、一説には獣をおびき出して狩るためのエサにされているとも聞く。ハチとは別の意味で一般的な異世界人ではありえない行動パターンをとっているので、一説には大変めずらしい戦闘職あがりの異世界人ではないかとも言われている。


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