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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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すれ違い(2)

 滑るようにキャリバン号は走りだした。

 この世界にまともな舗装路はハイウェイくらいしかない。だけどキャリバン号は俺の願いを反映してか、こんな世界でも普通にドライブできるよう、少し浮き上がって走る車に生まれ変わってくれた。

 もちろん「タイヤが地についてないなんてもうクルマじゃない」って声もあるだろう。

 だけど俺にとってキャリバン号はかけがえのない旅の相棒だった。まともな道がほとんどないような世界、しかもクルマの事がわかる者など誰もいないような世界で愛車を失う事に比べたら、共にこうして旅ができる俺は本当に幸せものだ。

 この先、何があるかもわからない。ここはそんな見知らぬ異世界。

 だけど、こうして同じようにハンドルを握り、走っていられる。

 それだけでも、何とかできそうな気がするんだよね。

 

 

 

「隊列の動きが変わったよ」

「そうか」

『彼らの色が黄色から変化、少し赤みがかかりました敵性集団に変わりつつあります』

「うん」

 ここまでは予想通り。

 彼らが悪意をもってキャリバン号を追い詰めるつもりなら、躱される事も当然予想しているだろう。そのために隊列を組んでいるのであり、彼らはおそらく連携を利用し、こちらを追い詰めるつもりなわけだ。

 でもなぁ。

 同じ魔獣車ならともかく、キャリバン号相手にその手がどこまで通用するかな?

「このへんの海岸線の地形はどうなってる?」

「40kmくらい向こうまでは砂浜。その先は岩場があって、次の村があるよ」

「わかった。海の状況は?」

「少し波があるね。走るにはあまり向かないよ?」

「そうだな。わかった」

 実際、そこまでいく必要はないと思うが。

 彼らの背景に『国』の可能性があるかぎり、追い詰められて直接攻撃を加えるような状況は最後の手段にすべきだろう。なぜなら、彼らを倒したとしてもその情報が流れた場合、危険な戦闘力をもつとか何とか言い出して、さらに騒ぎまくるのは目に見えているからだ。

 どういう手段をとるにせよ、やり過ごすのが一番というわけだな。

『集団で囲い込み進路を塞ぐ戦法のようです。このまま走り続けるのは危険です』

「うん、わかってるよ」

 そう言いつつ、俺は言葉をつなぐ。

「誰でもいい、キャリバン号の物理防御をあげられるか?」

『物理防御ですか?』

「あー、ぶつかってみるつもりなの?だったらわたしがやるよ」

「できるのか?」

「まかせて」

「よし、すぐやってくれ」

「わかった」

 アイリスがやれるらしいので任せた。

「正面衝突はしないが、進路妨害する者は弾き飛ばす方向でいきたい。できるか?」

「うん、やれる」

「ルシア。記録をとれるか?」

『既に記録開始しています。それが何か?』

「戦闘がすんだら、その記録をコルテア政府に送りたいんだ。相談に乗ってくれ」

『戦闘の記録をですか?』

「こういう連中は保険をかけるからな。勝とうが負けようが、こっちを危険人物と仕立てあげる情報を流す恐れがある。だからダメ押しで戦闘記録を友好的なところに送りつけとくんだ」

『わかりました。もう直接通信は無理ですが、間接的なら可能と思います』

「ありがたい。よろしくな」

 そう言うと、俺はハンドルをハイウェイに向けた。

「これからハイウェイに戻って走る。おそらくは進路妨害して停止させようとしてくるだろう。魔法攻撃も仕掛けてくるかもしれん。

 だが、それを全部無視してそのまま走り抜ける。揺れに注意してくれ。

 アイリス、シートベルトを締め直せ。

 ランサ、おまえ部屋(そこ)から頭以外出すんじゃねえぞ。

 アイ、壁なりなんなりの突起物に身体を固定しとけ、振り回されるぞ!」

「わかった」

「わん!」

「アイ」

「ルシア、全ての窓に閃光防御を頼む」

『閃光防御ですか?』

「魔法は防げても単純な強い光は止められん。そして人間の視力を一時的に奪うには充分だ」

 そう言うと俺は、19の頃に粋がって作ったサングラスをポケットから取り出し、左手で顔にかけた。

「パパ、なにそれ?」

「サングラスってやつだ。強い陽光を防ぎつつ視界を確保する仕掛けだよ」

「へぇ……」

「昔見た映画でな、宇宙からきた化け物と戦うマクレディーってヒゲの兄ちゃんが愛用してたのさ。同じようなサングラスをオーダーで作ってな。ハハハ、高かったなぁ」

 いわば黒歴史なんだけど、それこそ今さらだ。

 重要なのは、そのサングラスは見た目だけマクレディー氏のとそっくりなだけで、レンズ自体は実用性で選んでいたって事。バイク用に、偏光レンズを装着していたんだ。

 それが今、役に立つ。

『前方および後方から魔獣車接近。両方を塞がれました』

 オーケー。

「魔獣車を引っ張ってるヤツは何だ?」

『魔犬です。エマゾルという犬種と思われます』

「魔犬?」

 なんだそりゃ?

「簡単にいうと、魔物を食べた犬の魔獣だよ。魔物になっても犬は犬だからね、人間と親和性が高いの」

 なるほど。

 後で聞いたところによると、エマゾルは元々人間族が生み出した犬種らしい。

 故意に魔獣を生み出したという理由から育てたブリーダーは処刑されたという。なのに残されたエマゾルはその国に保護されて繁殖させられ、次の戦争で大活躍したという。

 なんていうか、グレーゾーンどころか真っ黒な話だ。

 実際、エマゾルの悲劇の話に一番怒ったのは当の人間族国家の人々だった。で、当時の彼らの有志が東大陸のとある国に渡りをつけ、生き残ったエマゾルたちはもらわれていったのだという。

 そしてそれ以降、魔獣車を引く代表的な獣としてエマゾルは育てられている。

 また、人間族が東大陸や南大陸で魔獣車を使う場合には必ずエマゾルを使うという。理由はエマゾルが魔獣車用魔獣の中で唯一、まともに人間の指示をきくからだと。

 以上、解説終わり。

 さて、相手が犬の魔獣ならこっちでやる事は決まっている。決まってるんだが、

「ランサ」

「わふ?」

「ちょーっと五月蝿い音をたてる。あとでいいもん食わしてやるからな、ごめんな!」

「くぅん……」

 わかったよちくしょう、やれやれと言わんばかりの返事。

 よし、そんじゃ行くぞ。

 

 突然だが、ジーハンでの1件を覚えているだろうか。そう、俺がマイクを使って警告を飛ばした時のことだ。

 あのマイクシステムは、今も消していない。マイクもハンドルの横にひっかかったままだ。

 そいつをとりあげ、俺はそのスイッチを入れた。

『あー、そこの、わざわざ退路を塞ごうとしている人間族国家の人たちに告げる。

 君らのやっている事は故意の進路妨害である。退かないのであれば、攻撃とみなして排除する。以上』

 カウントはとらない。そのカウントで、路上に子供とか放り出してきたら、たまったもんじゃないからだ。

 だから、先にこっちが手をうつ。

「ルシア、ランサのまわりに遮音結界を」

『もう張りました。しかし完全は無理です』

「わかった。アイリス耳塞いでろ、マイは気ぃつけろ、でかい音すんぞ。……いくぞ!」

 そういうとマイクを完全に最大音量にして、おもいっきり叫んでやった。

 

 

『ダァー!!!!!』

 

 

 その瞬間、ちょっと音量上げすぎたのを俺は知った。

 そういや、スピーカーのモデルにしたのって昔の映画に出てきたアメリカ製の業務用スピーカーだっけ。バスドラムよりも大きな呆れるほど重厚長大なそのスピーカーは、最大音量の上に叫び声という、俺の無茶すぎる要望を、そのまま素直にかなえてくれた。

 一瞬、大地が揺れたかと思った。

 でもそれは頭上のスピーカーの放った音だった。キャリバン号の屋根につけてあるスピーカーだから、発声の瞬間にキャリバン号全体がビリビリと震えた、ただそれだけだった。

 え?なんでこんな事したのかって?

 犬ってさ、突然の正体不明の大音響にパニック起こすんだよね。魔獣になっても性質変わらないっぽいからさ、だったら同じだろうってわけなんだけど。

 さて、どうなったかな?

「……」

『前方の魔獣車たちが暴走をはじめました。前方ががら空きです』

「あいよっ!」

 どうやら、うまくいったらしい。

 ただひとり冷静なルシアの報告をうけて、俺はキャリバン号のアクセルをおもいっきり踏み込んだ。

 進行方向に障害物なし、人も出てない、行ける!

 そして俺たちは、そのまま集団をぶち抜けた。

「よし、どうだ!」

『敵性集団を全て……いえ、一台だけ残っています。2km前方』

 ほう?

 みれば、その方向には確かに一台だけ魔獣車がいた。

 そしてその上には、何か魔導士っぽい人間が立ち上がっているのが見える。年寄りのようだ。

 そして。

『あの上にいるのは異世界人です。隷属の首輪を確認しました』

「そうか」

 とうとう出てきたか。

「あの魔獣車、たぶん動けないよな?」

 魔獣がついていない。

『暴走をはじめた時点で切り離したようですね。しかし動けずとも充分に脅威かと』

「だろうな」

 まぁ、向こうが避けてくれないなら、こっちが避けるまでだ。

 ところで。

 大きく迂回進路をとろうとしたところで、俺はふと気づいた。

「攻撃して来ないな」

『指揮系統が混乱しているようです。当人に攻撃の意思がないので、命令がない限り攻撃しないつもりなのでしょう。異世界人のみならず、隷属で縛られている戦闘員の行動としては一般的なものです』

 そうか……。

「なぁルシア」

『なんでしょう?』

「おまえや妹の力で、あの隷属の首輪を破壊できると思うか?」

『可能でしょう。それが何か?』

「じゃあさ、あの爺さんが俺のように種を植え付けられたとして……その種は爺さんの首輪を破壊するかな?」

『かの者が断ったとしても破壊するでしょう。行動を縛られていては、よき種を植えられませんから』

「そうか……」

 大きく迂回ルートをとったため、爺さんたちが遠くなる。

「ルシア」

『はい』

「この近くにいるお姉さんとやらに、あの爺さんに種を植え付ける依頼はできるか?」

『おそらく可能です。しかし実際に種を受け入れるかどうかは彼次第でしょう』

「ああ、それでいい。すまないが頼む」

『わかりました。お任せを』

 これは、俺の余計なお世話だ。

 あの爺さんが何年、ああやって利用されているかは知らない。知らないけど、だからといって助かりたいのか、それを欲するかどうかは全く別の問題だからな。

 

 俺はアクセルを踏み込み、そして加速した。

 


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