丸く収まりましょう
実は本日、11/14は筆者の誕生日でございます。単身赴任だし予定も何もないけどな XD
つか、ぼっち誕生日にナニ更新してんだ僕わ orz
「ダメよパパ、それ返してきて」
「そんな捨て猫か何かみたいに言わなくても。だいたい作者もう死んでるし」
「危険なんだってば。ランサはこれでも良くも悪くも魔獣なわけだけど、その子は完全に人喰いなんだよ?本当にやばいってわからないの?……パパ!」
「うーん、言いたい事はたしかにわかるんだが……どうにも、敵って感じがしないんだよな」
「そう……」
アイリスは俺の言葉を聞いて、そして少し考え込んだようだ。
「でもねパパ、味方かどうかと人喰いかどうかは全然別の問題じゃないかしら?敵対してないからといって、それは一緒に行動できるって事を意味するわけじゃないと思うよ?」
「む」
それは確かにその通りだ。
「なぁマイ。おまえ、人喰いをしないでも問題ないのか?」
「問題、ナイ」
マイは大きく頷いた。
「生キ、物、ナンデモ、喰ウ。人間、ダメ、問題、ナイ」
基本的に雑食であり、動物の肉が好みというだけの話らしい。もちろん人間禁止でも全然問題ないとの事。
「要はランサと変わらないって事か。わかった」
「アイ」
まぁな。ホラー小説じゃないんだから、単に食性というだけなら、そこで人間に固執する理由はないよな。
ところで実際に会話をしてみて気づいたが、マイはお世辞にも饒舌ではなかった。なんてというか、ぶつぶつと泡立つような名状しがたい声で話すものだから。いきなり聞かされるとSAN値が下がりそうな感じに。
そんでもって口下手な感のある内容なのだから、コミュニケーション不全は明白だった。それでも何とか意思の確認はとれたわけだけど。
ふむ、夢の中の方が会話はスムーズだったなぁ。
そんな会話をしていると、ルシアが推測を述べてきた。
『もしかしたら、想定外の目覚め方をしたせいかもしれませんね』
「どういうこと?」
『つまり、初期状態であまり人間の会話をしていないという事です。
たとえばランサですが、実際には高い知能を持っていて言語理解もしますが、我々の会話には参加しません。これはランサがケルベロスの家族の中で自然に生まれ、人と触れ合わずに最初期の赤子の期間を過ごしたせいと考えられます』
「ほう。じゃあケルベロスって、魔族に育てられると喋るのか?」
『自分のように、意思を飛ばすカタチで会話に交じる個体がいるようです。
ただしこれは非常に少数だそうなので、あくまで例外的な存在なのかもしれません。
最も一般的なのは、飼い主なり共に育った魔族の子とのみクリアに意思疎通できるケースでしょう。これは魔族を描いた物語なんかにも見られる、本当に一般的な光景のようです。
まいと夢の中で会話可能というのは、夢を通して主様とコンタクトをとったからでしょう。それ以外だと……この感じでは、今のランサに近いコミュニケーションで間違いなさそうですね』
うーむ、まさかのペット位置か。てっきり防衛部門に収まるかと思ったんだが。
いいのかなぁ。某神話の世界では最強無敵ではないとはいえ、等身大の人間スケールではまさに領域外の存在だろうに。
まぁ、そのあたりが本物ではないって事なのかもだけど。
とりあえず、そんなこんなで今後についての会話も成立。
いわく、基本的に居場所はキャリバン号の中。
出歩く時は、ミニア博士の容姿を借りておく事。ただし服装は白衣でなく別のもので。
「別のもの?」
「これがいいと思う」
アイリスが提示したのは、成長期によくアイリスが着ていたデニムのオーバーオールだった。最近はスーツみたいな装いを好む事が多いから、ご無沙汰してたんだよな。
なるほど、これなら子供みたいでちょうどいいかな?
ただし。
「ワカッ、タ」
「へ?」
マイはそう言った途端、うにうに、ふにふにと冒涜的に変形をはじめ、気づいたら白衣でなくオーバーオールに変わっていたが。
どうやら、見てすぐコピーしたらしい。
これはすごい。本当に賢いな。
「でも、博士の姿借りるって事はドワーフだろ?問題はないのか?」
「パパ、この、えーと……『マイちゃん』の容姿見てどう思う?普通の人間の少女に見えるんじゃないの?」
「まぁな」
少女というより幼女だが、あまり意味のないツッコミなのでここではスルー。
「普通の人なら、まずドワーフの外見とは思わないでしょう。
仮にドワーフと気づけるレベルの人がいるとしたら、その人は彼女がドワーフでなく、ドワーフの容姿を借りただけの別の何かである事に気づくと思うのね。魔力に敏感な人なら人外なのはすぐわかると思うから」
「要するに問題なしと?」
「そういうこと。擬態で姿を借りるタイプの魔獣がいないわけじゃないから、そっちと勘違いしてくれると思う」
なるほど。
あと、どうやらアイリスやルシアはマイと独自にやりとりをしているっぽいな。見ていると時々、ぷちぷち、ふるふるみたいな感じで音声以前のやりとりをたくさんしている。まぁ、俺は見てみぬふりをしているが。
きっと、俺にはわからない条件付けとか、そんな会話がなされているんだと思う。皆の役割には俺を守るっていうのもあるらしいからな。
男としてはちょっと悔しいものがないではないが、確実に足手まといだろうし、俺でも役立てる事があるならアイリスなりルシアなりが必ず言ってくるわけで。
そのあたりは、皆を信頼して任せてある。
「わふん」
「おう、干物喰うか?」
ランサが俺を見上げてきたので、戻した干物をくれてやった。
うむ。ウマそうに喰っているが、そろそろ魔獣食をとらないとなぁ。
「なぁアイリス」
「なに?」
「魔獣系の食料って、あとどれくらいある?」
「えっとね……あ、そういうこと?マイも食べるんじゃないかって事?」
「ああ」
おや、アイリスもルシアも結局、マイの事は呼び捨てで決定なのかな?
あーいや、それはまた後、今は食料だ。
キャリバン号にはたくさん食料が積まれている。いわゆる魔獣系食材が多いのだけど、ランサのためにそれとは別に、そのまま食べる事前提の魔獣素材も積まれているんだよね。
毎日毎日、獲物が穫れるわけじゃないだろうからね。
で、ランサだけならあと二週間以上もつはずだったんだけど、マイの食性も魔獣系がいいと判明しただろ?
なんたって、自分よりもデカい人間を一口で喰っちまうんだ。底なしに何でも食わせる事はできないけど、増やさないとまずいだろ。
さらにいうと、干物や動物では魔力が弱いんだよな。いくらかジーハンで補充したわけだけど、やっぱり魔力を豊富に含むのは新鮮な魔獣の肉だろう。
どこの世界でも、どんな種族でも、子供には栄養が必要。
だったらいっそ、ライオンか虎でも飼うつもりで食材を用意するか、それとも一日の生活に散歩タイムよろしく狩猟タイムを入れた方がいい気がするんだよ。
よし、決まった。
「どうしたのですか?」
「おっちゃんたちに報告まだしてないだろ、それしてくるわ。で、終わったら魔獣狩りに行こうぜ」
『魔獣狩りですか?ああ、食料調達ですね』
「そういうこと。あと運動タイムもね」
ランサの狩りもここ2日ばかりお休み中だ。遊ばせたい。
それと、マイの運動能力等も確認できるかもだしな。
遅ればせながらおっちゃんたちに報告をすませた。
てっきり咎められるかと思ったが、ドワーフに遭遇したりした事が既に伝わっていて、逆に心配された。
「なんか戦闘に突入したんだって?あんま無理すんじゃねえぞ?」
「話でかくなってる!?」
もう山羊の事務員さんから話が伝わってるかも、と言いながらもこちらの状況を説明した。
地下の大施設の話では「うんうん」と聞いていた彼らだったが、ミニラ博士の話に至っては「ど、ドワーフ……だと?」という感じに表情が固まり、ひいては名状しがたいペットまでもらっちまった話に至っては全員、冷や汗半分みたいな感じだった。
「おいおい、大丈夫なのかそのペットとやらは」
「基本的に魔獣扱いみたいですね。少なくとも俺には危険はないようなんで、しばらく様子を見て、それ次第で決めようかと」
「なるほど。情に流されているわけではないんだな?」
「それはないです。ただ、生き物に罪があるわけはないんで、無害な存在なら連れて行ってやりたいんですよ」
それはほとんど言い訳だったが、危険なら対処を考えるというのもまた嘘ではなかった。
マイだって、なりたくてショゴスもどきになったわけではない。マッドな博士の研究に使われた結果なんだからな。うまくやれそうな気配もするし。
だけど極端な話、彼女がこっそり人喰いを続けているのが判明したりしたら……その時はかわいそうだけど、彼女に関わった者の責任として、俺か、俺たちの誰かが処断をくだすべきだとも思っている。
異種族混在の旅路。
でも、だからこそ、旅そのものを破壊しかねない存在を連れて歩く事はできないのだから。
ところで。
俺の話はいいとして、おっちゃんたちの方の話だ。
「俺の話は以上なんですけど。皆さんクラーケン見物に行ったんですって?いったい何やらかしたんで?」
「あー、その話か。
いやなに、憎いあの野郎のツラをもいっぺんみようぜって話になってな。動く漁船をくりだして見物に行ったんだが。いや、もちろん気配は隠してだぜ?」
「え、うごく漁船あったんスか?」
「二隻ほどな。廃業したのは事実だが、港がある以上、非常事態があるかもしれんだろ?」
「なるほど」
いやまぁ、わかるけどな。海への未練っていうか、再帰への夢を捨てられなかったんだろう。
「それで、確かにいる事を確認してな。まぁ、その場で毒づいてて気づかれたら洒落にならんから、戻って飲もうぜって戻ろうとしたんだが」
「その途端、あいつが動き出したんじゃよ」
おお。本当に目の前で動き出したのか。
「おいおい、そんな目の前で動き出したって……大丈夫だったのかよ?」
「わはは、大丈夫じゃなかったら今ここにおらんわ!」
「あやつは腹を満たすつもりだか何だか知らんが、沖に向かって、そして深海に向かって姿を消しおった。今、役場の方にも念のため、再度の調査を依頼しておるところよ」
ほうほう。
「再度の調査ってもしかして……」
「うむ。二度ほど定期調査をして、クラーケンが戻る気配がなさそうなら、業務再開が可能かもしれん」
「おお、漁師に戻れるんすか、凄いじゃないですか!」
そりゃあいい。
俺が「じいちゃん」と呼ばず「おっちゃん」と呼び続けているのも、彼らのほとんどがどう見てもまだ現役だったからだ。村長さんだって空や海がちゃんと読めるみたいだしな。
元に戻せるのなら、それに越した事はないだろう。
「まぁ、まだ結果はわからん。現状はまだ半信半疑というところだが……」
おっちゃんはそう言うと、俺の肩に手をおいた。
「え?」
「よくやってくれた、ハチ。おまえさんはわしらの村に、到底返せないほどのすごい貢献をしてくれたな」
「……」
俺は正直この瞬間、フリーズしてしまった。
だってそうだろ?
人間、その人生の中で、大の大人に本気で感謝され、本気で礼を言われる事って、どのくらいある?
正直言おう。
俺はたぶん生涯二度目だ。しかも一度目は、離島で燃料切れで立ち往生しているヤツに町までの燃料を分けてやったという、ほとんど自己満足な、本気でどうでもいいような事にすぎなかったわけで。
だから、いい返事がみつからなかった。
だから、何とかがんばって、
「……あーいや、そんなの、単に結果にすぎないですから。俺は何もしてないんで」
そう返答するにとどまった。




