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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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倉庫裏

 おっさんたちの教えてくれた食料庫とやらは、聞きしに勝る巨大なものだった。

「おー、こりゃあおったまげた」

「すごいねえ」

 自慢するわけじゃないんだが、これでもフォークリフトで出入りするような冷凍庫のある倉庫群で仕事した事もある。もちろん地球レベルじゃその程度、結構ありふれたものだったとは思うが、一般人目線では十二分に大きな倉庫だったと思うんだ。

 でも、その倉庫は、そんな俺の記憶にある巨大倉庫群に負けてなかった。

 クルマごと入れると聞いていたので、俺は迷わずキャリバン号ごと入った。もちろんルシアに記録させたり知恵を借りるって意味もあったのだけど。

 しかし……それにしてもデカイなここ。

 こういう倉庫は分散するものだろうから他にもあるんだろうが、それでも、国が指定するにふさわしい大きさだと思った。

「さすがに人手だけで使うわけじゃないよな。どうやってるんだろ?」

「どうして?」

「いやだって、ここ明らかに車両サイズじゃないか。設備がいちいち大きすぎる」

 通路も扉も異様にでかい。それこそディーゼルエンジンの本格的フォークリフトだって通れそうだぞ。

 それに。

「あと、あれだよ」

 アイリスが尋ねてくるので、俺は荷物の乗っている土台みたいなものを指さした。

「あれ見なよ。土台の上に荷物を積んで、で、その荷台ごと運ぶようになっているだろ?」

「うん、そうみたいだね」

「あの荷台をみろよ。あれを人間の手で運ぶか?機械前提って気がしないか?」

 形こそ違うが、パレットやコンテナみたいな発想になっているように見える。

 つまりこれは人手ではなく、機械か何かで動かしてるって事じゃないかな?

「……なるほど、そうだね」

 俺のいいたい事がわかったらしい。アイリスが大きくうなずいた。

「でも変だね。それっぽい機械とか道具が見当たらない気がするけど……」

「だよな。俺もそれを思ってな。どうなってるんだ?」

 そんな会話をしていたら、

『いえ、作業機械はあるようです』

 唐突にルシアが何か言い出した。

「あるの?どこに?」

『前方正面、壁をよくみてください。巨大な石像がありませんか?』

「石像?あー、確かに」

 あるある。

 巨大なレリーフみたいになっているが、それは高さ3m以上はありそうな人型の石像だった。

「ルシア、この石像がどうかし……あれ?」

 どうかしたのか、と言おうとして、俺は妙な事に気づいた。

「あれ?」

 アイリスも気づいたらしい。

「どうしたアイリス?」

「えーと、パパから」

「いや、おまえのが聞きたい」

「そう?じゃあ言うけど……この石像、なんか動かした跡があるよ?」

「やっぱりか。俺は推測でそう思ったけど」

「なんで?」

「指まわりが妙にキレイなんだよ。なんか、本当に手として使い込んでるみたいな感じにな」

 巨大倉庫に石像って時点でも変ではあるけど、元は遺跡だったと聞いたからな。そんなもんかと思ってた。

 でも、遺跡の石像の指がピカピカってのも変だなと。

「そっかー」

 感心したようにウンウンとうなずくアイリス。

「ルシア。もしかしてこれ、石像に見せかけた機械か何かなのか?」

『それを言うなら魔導機械でしょうか。ゴーレムとも呼ばれています』

 ほほう。これがゴーレムね……。

 こんなギリシャ彫刻みたいなデザインのゴーレムがあるもんなのか。なるほどねえ。

「まさかゴーレムで倉庫の管理をしているとかね。で、操作しているのが、あのおっちゃんたちってわけだな?」

『魔道具は漁船にも使われていますから。元漁師の彼らなら、操作はすぐに馴れたでしょう』

 なるほどなぁ。

 だけどルシアの話は、そこで終わっていない。

『しかし疑問があります』

「疑問?」

『いくらゴーレム用の駆動魔術式があっても、魔力供給がなければゴーレムは動かせません。そしてあの町にいるような漁師の方たちにゴーレムに与えるほどの魔力はないと考えます』

「あー、つまり魔力の源が必要と?」

『はい』

 ふむ。

 まさかとは思うが……あの海底の核融合炉(リアクター)から供給してるんじゃないだろうな?

 いや、さすがにそれはないか。ないよな。

 なのに。

『最も可能性が高いのは、今、主様がお考えになりましたように海底の核融合炉(リアクター)できないかと』

「まてまて、ちょっと待て」

 いくらなんでもそれはないだろ。

 そう思った俺は、ルシアにストップをかけた。

「それは変だ。だって、おっさんたちがそれを知らないのはなぜだ?」

『彼らが知らない事ですか?それはどういう関係性があるのでしょうか?』

「いや、どういうっておまえ……」

「あ~パパ、それはちょっとパパの方が違う気がする」

「そ、そうなのか?」

「うん」

 なんか珍しくアイリスまで反論してきた。

「パパ。確か前、パパに聞いたお話だと、パパの世界では電力っていうのがあって、全部のお家にそれが供給されてるっていってたよね?」

「全ての国でそうとは言わないけどな、まぁそんなもんだ」

 実際には、電気が引かれていない国もたくさんあった。日本だって、実はわりと近年まで電気がない離島もあったはずだ。

 でも一般論でいえば、電気は引かれていたというべきだろう。

「でもね、パパ。ひとつ聞きたいんだけど」

「なんだ?」

「その『電気』の専門家なら知らないけど、そういうのと関係ない一般の人が、ああ、今使ってる『電気』はどこから供給されているんだろうとか、理解したうえで使ってたの?

 こんな事言うと気を悪くするかもだけど、パパだって、キャリバン号の元の構造とか、このタブレットの中身の技術とか、専門家じゃないから細部はわからないって言ってたよね。それと同じってことじゃないかな?」

「……あ~」

「どうかな?」

「わかったわかった、そうか、言いたい事わかったぞ、そういう事か!」

 そこまで言われたら、さすがに俺の頭でも理解できた。

「要するにアレか。遺跡のパワーは便利だから使ってるけど、それの背景のシステムまでは知らないって事か?俺としちゃ、まさか公共事業でそれはないだろって思ってたんだが」

「うん。ドワーフのものってわかったうえで使ってるなら充分ありうると思うよ。ドワーフのは簡単に壊れたり止まったりしないって広く思われてるからね」

「ほほう」

 ずいぶんと信頼性が高いんだな、ドワーフの技術ってのは。

「なるほどわかった、ありがとうアイリス。あとルシア、ぶった切ろうとしてごめん」

「いえいえ」

『とんでもありません』

 

 その後も設備を色々と見て回った。

 まぁ、といっても現在の使用目的がただの倉庫だ。俺を信頼してくれているのか、おっちゃん連中が見張り兼案内に来る事もなく、俺達はのんびりと施設を見て回った。

 いやま、俺個人的には充分面白かったけどな。特にルシア妹的な意味で。

 

 

『メファス』※約60kg特殊梱包(タワラ)

 異世界ではイネ、コメ、あるいはライスと言うらしい。元々は雑穀だったが異世界では主食にされている作物で、彼らの手によりこの世界でもエナと並ぶ主食の作物となった。熱帯原産で寒さに弱く南大陸での栽培には困難がつきまとうが、非常に大量の収穫物が見込まれる作物のひとつでもある。

 

 

 うっほほ~い、コメだコメだぁっ!よし、しっかり記録しとくぞ。

 てーか、この世界にも俵があるのは驚いた。名前もタワラみたいだし、異世界人が昔の農家の人だったとか、そんなとこかな?

 よし、メモメモ。

「眼の色変わってる……」

『食べ物への執着はすばらしいものがありますね。記憶しておきましょう』

「ルシアちゃん、変なこと企んでない?」

『とんでもない』

 

 

『南大陸式味噌』

 異世界人が広めたと言われる食材だが、便利さゆえに穀物醤油同様、人種を越えて全世界にあまねく普及した。

 なお人間族と水棲人は味噌をほとんど使わないが、前者は食文化との相性が悪いためで、水棲人は生活環境の問題で味噌を扱いにくいためとされる。ただし味噌味自体は認識されており、特別な時に嗜好品的に使う事がある。

 南大陸ものは少しクセがあるが、味噌煮を作るならこちらがよいとの指摘もある。程度良好。

 ついでにお値段も東大陸より少し安い。

 

 

 ふふふ……ふふふふ……味噌か、ふふふふ……。

 異世界の味噌は、どんな味がするのかね、ふふふふ……。

「壊れてるなぁ」

『故郷の食事に飢えているのでしょうね。でもどうして「思い出」から製造しないのでしょうね?』

「作ったら負けだと思ってる、とかドヤ顔で言ってたけどね」

『そうですか……』

 

 

『メトラ干物』

 海棲モンスターで獲物の生命力を吸って殺すメトラであるが、捕獲の大変さと裏腹に珍味で、酒のつまみにも最適。

 なお、メトラは元々へムラという名前だったが、とある異世界人がメトラを指さして「うわ、メト○イドだっ!」と叫んだのがきっかけで、ヘムラでなくメトラと呼ばれるようになったという。

 

 

 ああ、わかるよわかる。

 正直、視覚的にこれ『メト○イドの干物』だもんなぁ。本当に美味いのか?

「あ、メトラの干物だね。おいしいよねー」

「そうか?」

「おととい食べたのの中に入ってるよ?メトラ」

「マジか!?」

「マジだよ?」

「やべえ……すんません任○堂さん、おたくのモンスター食べちったっす」

「???」

 

 

 

 そんなこんなで、楽しい倉庫見学は過ぎた。

「さて。ヨダレの垂れそうな楽しい見学は終わり、と。そろそろ本題に戻るか」

「ヨダレ流してたのはパパだけなんだけど……」

「なんだって?」

「楽しみだね、パパ?」

「おうよ!」

「……ごきげんなんだから、もう」

『まぁ、よいではないですか。主様は自由人なのですから』

「まぁね」

 後ろで何か聞こえているけど、気にしない気にしない。

 さて、俺は今、扉の前にいる。道路トンネルほどもある大きな通路の中、それを封鎖するようにしまっている扉だ。

 で、俺はキャリバン号を降りて、その扉の前に立っているわけなんだけど。

「えっと……あれ?鍵ってどうやって使うんだ?」

 鍵穴があるのか?ないな。

 えーと、音声入力か?

「開けごま!……違うか」

「何やってんの?パパ?」

「いや、その」

 そんなこんなで困っていたら、

『もしかして、魔法鍵の使い方がわからないのではないですか?』

「おう、全然わからねえぞ!」

「なんで偉そうなんだか……」

 うるせえっての。

『扉に右手をあてて念じてください。保安ロック解除と』

「それだけでいいのか?よし」

 言われた通りにして、念じる。

「保管ロック解除と……あれ?」

『いえ。保安ロックです』

「わかってるって!ワザとだワザと!」

「……あははは」

 なんか笑ってる子がいるが……まぁいい。

「『保安ロック解除』」

 その瞬間、キシッという音がして、扉が少し動いた。

 手をかざすと扉がゆっくりと開いていって……。

「ほう」

 扉の向こうは手前の倉庫は変わらない、長い通路が続いている。

 ただし。

「途中から勾配になってるな」

 けっこうな急勾配らしく、そこから先はここからは見えない。

「よし、行ってみるか」

「ん、りょうかいー」

『参りましょう』

 おう。


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