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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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寒さ対策

寒くなってきましたね……。


 なんだかアレな理由で、居住スペースが広くなったキャリバン号。経緯を思うと手放しで喜べないんだが、でも、それでも広くなったのはちょっとうれしい。

 ここは日本ではないからな。積載性に余裕があるというのは悪い事じゃないし、運転自体は元のキャリバン号そのままなわけで。だったら問題ないと思うんだ。

 でも。

「パパ、寒いんだけど……」

「ちょっと待て、今ヒーターを全開に……って、既にいっぱいかよ」

 すでに調整メモリは全開状態だった。

 広くなったのにヒーター出力は同じ。寒い。当たり前っちゃあ当たり前だ。

 どうしたもんかな、これは。

「パパ、このままだと風邪ひいちゃうよ?」

「アイリス」

「?」

「おまえはまずパジャマ着て寝ろ。すっぽんぽんで寝て寒いも何もないだろうが」

「エー」

「エーじゃねえ!だから変な顔すんな!」

「んーでも、パパはわたしが裸んぼで寝る方がいいんでしょう?」

「それはそれ、これはこれだっつの!風邪ひくだろうが!」

「素直じゃないなぁ……」

「そりゃおまえの事だ!」

『ご両名ともだと思いますが』

「……」

「アハハハ……でもパパ、本当にどうする?このぶんだと」

「ああ、まずいな。もっと寒くなるんだろ?」

『東大陸まで道のりで約6200km。このぶんでは間違いなく寒気に追いつかれますし、何より寒い季節は行動が大幅に制限される事になります』

 それはよろしくないな。

 聞いたところではこの星、表面積はおそらく地球よりずっと広いっぽいんだよな。

 タブレットの地図ソフトが全世界対応してないようなんで、あくまで推測。

 で、以下の現実からの推測ね。

 たとえば、地球で海抜0mに目線の高さ1.6mの人が立ったとする。水平線までの距離はだいたい4.5kmかそこいらだと聞いた事がある。

 でも俺の気のせいでなければ、ここの水平線はもっと遠い気がするんだよ。

 この推測はルシアも『自分たちには大地が球形という概念自体がありません。ドワーフはそういう見解を持っていたようですが』と言いつつも同意してくれた。確かにこの世界には水平線の概念があり、しかもそれが丸く、ただし4.5kmより長いそうだ。

 その現状が何を意味するかって?

 という事はだ。

 中央大陸突破の4000kmや、この東大陸までの6200kmなんかメじゃないような、超長距離ハイウェイもありうるわけで。

 そんな中、暖房のろくに効かないクルマというのは……確かにものすごくまずい。居住性がどうのの問題じゃないんだ。

 外で作業した後に中に戻って、すぐにも発進したいのに寒さで手足の動きが渋かったら?

 氷のように冷たいレバー類やハンドルを持つのを一瞬ためらって、それが取り返しの付かない事故の原因になったら?

 考えすぎって意見もあるだろう。

 でも俺は、そんなつまらない事でリスクを囲いたくない。できる対策はとりたいんだ。

「パパ。ヒーターのパワーアップは無理なの?」

「任せろと言いたいが、無理だな」

 どうしてもイメージが沸かない。キャリバン号の、というか軽四のヒーター出力はこの程度って感覚が頭から消せない。

 そしてその認識があるかぎり、どう足掻いてもヒーターの出力は上がらないんだ。

 俺の能力はある意味究極のチートだと思うけど、他ならぬ俺自身の意識や記憶に制限されている。今回のは、その1番悪い例といえるだろう。

 おそらくこのままだと、たとえ同乗者が凍えようとも、どうにもならない気がするぞ。

 このままだと……。

 ん、まてよ?

「なあにパパ?」

「……そうか。その手があったか!」

「?」

「暖房のアイデアさ」

「できそう?」

「わからん。現物を見た事すらないんで、うまくいくかは何ともいえないんだよ」

「そう……」

 だけどまぁ、挑戦してみる価値はありそうだな。

 

 

 

 おっさん世代と自負している俺なんだけど、その俺も知らないような時代の話。

 車のエンジンにはまだ空冷式が多くて、そして鉄道の機関車も今とは違った時代。

 その時代には、車内に暖房器具が据え付けられていたという。

 北海道にいた頃の知り合いで……実はだいぶ歳上の女性だったんだが、今はなき北海道内の鉄道で、客車にストーブがある車両に乗った事があるそうだ。外はマイナス30度。その暖かさと寒さをよく覚えていると。

 あるいは別の話。

 空冷エンジンの場合や、車体後部にエンジンを積む、特に小排気量の車の場合。エンジンの熱では暖房には足りなくて、燃焼式ヒーターというのが別に使われていた事がある「らしい」。

 らしいというのは、俺はその現物を知らないからだ。

 俺が乗った「俺の車」は、1番古いものでも水冷エンジンでFFだった。1番ぼろい車でもヒーターは水冷機構から持ってくるようになっていて、暖機する時間くらいで充分に温まった。

 アイドリングストップやEVが普及して再びこういうヒーターに注目が集まっていたはずだけど、あいにくその頃には俺はキャリバン号に乗ってた。つまり、わからない。

 言うまでもないが、これでは、思い出から取り出してくる事ができない。

 しかも今回の場合、キャリバン号に設置、または組み込まなくちゃならないときている。なんとも厄介な。

「……うん」

 原理は想像つく。というか普通に熱交換する構造でいいんじゃないかと思う。

 かりに燃料を使うなら、外気と燃料を混合させて燃やす。で、中の空気を取り込んで瞬間湯沸かしのように温めて車内に送り返すと。で、排気は外に出す。

 ちと効率悪いかもだけど、暖房だけに注力すれば必要なエネルギーは小さいだろう。車室は狭いから、家庭用石油ファンヒーターのようにゴーゴー燃やす必要が全くないからだ。

 うん。いけそうだ。

「お」

 ふと思った瞬間、懐かしい光景が脳裏に広がった。

 

 

『だめだなぁケンさん、どうしてヒーター知らないんだよ』

 うるせぇな。

 ヤツ(・・)はいつものように笑いつつ、キャリバン号の後部フロアに普通に踏み込んだ。

『ハイエースに近いかな。ケンさん、ちょっとこれ持ってて』

 おう。

 ヤツはあっというまに場所決めすると、そのまま取り付け工事を開始した……。

 

 

「パパ」

「……ああ」

 ふと気づくと、アイリスの顔があった。

 また悪友(ヤツ)に会ったのか。運転中だってのに危ないな。

「もしかして、また(・・)?」

「ああ、また(・・)だ」

 さすがにアイリスも覚えていたか。

「運転中は危ないと思うよ?」

「そうなんだけどな……突然だからな」

 そう言うと、俺はヒーターの横にできた(・・・)、いかにもあいつらしいレバースイッチをONに切り替えた。

『主様』

「ん?」

『さきほど、車体後部に小さな時空の歪みが発生。終わってみると、右後方部に丸い吹き出し口のようなものができておりました。

 それが今、主様のスイッチ操作と連動して作動したように見えますが?』

「ああ、それ暖房だよ。試作品だけどな」

「暖房つけたの?」

「ああ、今な」

「……パパ」

「ん?」

 ふと見ると、なぜかアイリス様はお怒りになっていた。

 な、なんだ?

「寒い、暖かくしてとは言ったけど、危険を犯してまで今やってとは言ってないよ?」

「……解せぬ」

「げせぬ、じゃないでしょ!もう!」

 いや、そうは言うけどよぅ、そんな器用に発動制御できるわけじゃないしよぅ。

 その後、俺はしばらく叱られ続けた。

 

 

 

 この日は暖房機のテストをかねて、なるべく車外に出ないで走り続ける事になった。

「うーん、ぽかぽか♪」

「めっちゃ嬉しそうだな。おい」

「うん♪」

 竜だ竜だと思っていたが化け猫の類だったか?ふやけそうになってるぞ、おい。

 ちょっと強すぎるようなので暖房パワーを落とした。

『自分たちはもう少しあたたかくても大丈夫ですが』

「そりゃそうだろうな……」

 植物園とか結構、設定温度高いもんな。もちろん種族にもよるのだろうけど。

 窓の外はというと、ジーハンでは残っていた緑がいよいよ無くなり、代わりに白いものがぼちぼち見えるようになりつつあった。

 このへんではもう降雪してるって事だな。残雪ができるくらいに。

「あ、雪だ」

 ちらちら舞い始めたな。

 みれば、進行方向はまで晴れているのだけど、南の方から雪雲らしいのが、どんどこ押し寄せてきている。

 うわ、これはたぶん崩れるな。

 雪道の中でもキャリバン号は普通に走れるだろう。それはおそらく問題ない。

 でも。

 雪国ではしばしば、一晩で70cmとか1mとか降る事がある。

 朝、そんな雪に埋もれていたらどうなるんだろう?

「アイリス」

「なに?」

「タブレットで、雪道走行や雪国でのドライブについて調べてくれ」

「え?あ、うん。わかった」

 俺の表情から何かを感じたのか、アイリスはタブレットを手に取り、調べはじめた。

 

 

『キャリバン号の雪国での注意』

 走行には全く問題ありません。

 注意すべきは朝や長時間停車の後。車に荷重がかかるほどの雪に埋もれてしまったり、窓やドアが凍りついた場合、対策をとる必要があります。

 雪は何らかの方法で払いのけてください。全部払えなくとも、ある程度払いのけられれば走行可能になります。

 凍結の場合も雪同様に払いのけるのが早いですが、窓の凍結は車内暖房で温めてからの作業もオススメです。またフロントガラスの場合、内側から曇り止め(デフロスター)で、外側からはスノーワイパーで除去するのがよいでしょう。

 

 

「パパ。スノーワイパーってなに?」

「ああ、これだ」

 俺は即座に、思い出の中からプラスチック製の棒状の道具をとりだした。

「これと冬用のワイパーゴム。このふたつが大変有用だな」

「ワイパーゴム?」

「ほら」

 俺はキャリバン号のワイパーを指さした。

「なんか、昨日までと違うゴムがついてないか?」

「……ごめん、わかんない」

「……」

「……」

「……わからないとなると説明はちょっとむずかしいかな。

 と、とにかく、これを使うとガラスを傷めないように雪や氷がとれるんだよ。これとデフロスターのコンビで、ほぼ大丈夫」

「そうなんだ……」

 まぁ、メカに興味ない子にはわかりにくいか。やっぱり……うむ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 私水平線の距離聞いた時、絶対最初1里を決めた奴、地平線の距離実測し決めたなと思いました、漢族由来の物が最初の度量衡でしょうしね1公里は漢から渡来したでしょうしね! アイリスさん猫でなく家守り…
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