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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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ぽんこつバイオレンスと出会い

 突然だが、あなたはサファリパークの中で立ち往生した事はおありだろうか?

 あるいは、あの琥珀の中から恐竜を蘇らせる映画を見た事は?

 うん。どちらも未経験なら、今すぐ代わってあげよう。いやマジで。

 

 

 なんというか、全身からアドレナリンだか何だか、あの手のがヤバい感じでドバーっと吹き出してる気分だった。

 え?なんの事かわからない?

 いや、つまるところそれはね。後ろを見ろって話なわけで。

【ヴァオァオアァァァァーーーーーッ!!】

「うわぁぁ、また増えたしっ!」

 バックミラーにもルームミラーにも、後ろから迫り来る怪獣みたいなのやら小型恐竜みたいのやら、てんこもりである。ガクガク動物ランドである。絶体絶命なのである!!

 幸いなことに、彼らよりキャリバン号の方がちょっとだけ速いらしい。いやホントに幸いに。

 だけど、ここは森の中の一本道。左右はひたすら森・森・森なわけで、スムーズに逃げられるかというと、それはこの馬車道を走り続けるしかないわけで。必然的に、縄張りから出ないタイプのモンスターや動物以外で、一方的かつ強制的にこのキャリバン号と仲良ししたい連中は怒涛のように追いかけてくるわけで。そんなわけで、追っかけっこの最中なんだな、これが。

 たとえば、とんでもなくバカでかいシカ。

 え?たかがシカだろうって?

 ばかやろう、成長しきった大人のエゾシカなんて、ランクルと正面衝突して大破させちまうんだぞ、知らないのかよ!うちのキャリバン号なんか、ひとたまりもねえよ!

 で、背後にいるシカときたら、そのエゾシカなんかメじゃねえって感じの巨大シカなわけで。ていうかアレ、どうみても地球最大の化け物ジカである、ヘラジカよりでかいんじゃなかろうか。いや、ヘラジカって肩までの高さが3mもある地球最大のシカなんだけどさ。ほら、欧米で『ムース』って聞くだろ?アレの事さ。

 まぁ、ムースの話はいいとして。

 とにかく、そんな根拠も説得力も常識もとりあえず宇宙の彼方にポイしてもだ。そもそも、うちのタイヤほどもある(ひづめ)に車ごと踏まれたいヤツがどこにいる?逃げるよな普通。

 ああ、それだけじゃない。怖いのはシカだけじゃないんだ。

 たとえば。

「……うげ」

 畜生、目があっちまった。

 さっきから並走してくる、このラプトルみたいな小型恐竜。

 こいつらがやばい。余裕でついてきて、こっちを興味深そうにうかがってるんだよぅ。

 しかも一頭や二頭じゃないんだ。

 たぶん群れの攻撃チームかなんかなんだろうな。肉食恐竜って集団で攻撃チームを作るって聞いた事あるしな。レックスなんてライオンみたいな狩りをするって話もあったよなぁ。

 ああくそ、なんてこった。振りきれない。

 え?

 飛ばせるんだから、さっさと飛ばせ?

 いや、それはわかってるんだけどね……ぶっちゃけこの道、カーブ多すぎて飛ばせないんだよ。

 そもそも馬車道って、時速何キロくらいを想定してると思う?

 まぁ、そういう事。これ以上飛ばしたらおそらく、カーブを曲がりきれない。そんな感じがヒシヒシとするんだ。

「くそ、いつまで続くんだこれ!」

 思わず悪態をついたその瞬間、なんか、見ちゃいけないもんが空をよぎった。

「ひ、ま、まままままさかっ!」

【キシャーーーーッ!!!】

 ひぇぇぇぇぇっ!ど、ドラゴンっ!

 間違いない、ドラゴンだ!なんか悠々と空舞ってますよ!?

 ちくしょ、こんな状態じゃなかったら今頃、スマホ構えてドラゴン祭りなのにっ!

 た、助けてー!(涙)

  

 

 ファンタジー世界から少なくとも外見だけは激しく浮きまくっている、軽自動車が激しく突っ走る森の中の馬車道。そして背後から追いすがる、巨大かつ様々な動物たち。

 なるほど、見た目だけは激しくバイオレンスだった。……見た目だけは。

 実は、ほとんどの動物は単なる好奇心(ものめずらしさ)で追いかけているにすぎないし、ラプトルタイプに至ってはラシュトルというれっきとした知的種族で、世にも珍しい異界からの旅人を見てみたい、話してみたいと、これもまた好奇心で追いかけているにすぎない。

 まぁ、あわよくば捕食も良きかなと思っている種族も少し混じってはいるのだが、野生動物は基本的に空気が読める。大多数の周囲のライバルたちが食欲よりコミュニケーション目的である事くらいとっくに気づいていて、それらと敵対するデメリットをすばやく本能で計算、とっくに彼らも好奇心優先に切り替えていたし、それでも食欲優先という手合いはとっくに追走を諦めていた。

 というわけで、さっきから機動性を生かして運転者に近づこうとしているラシュトルたちは「ねーねーどこからきたの、おはなししよ?」状態なわけだが、そもそも哀れな運転者は恐竜もどきの笑顔なんて理解できるわけがない。むしろ「食べる?食べる?(・∀・)ニヤニヤ」に見えてしまうわけで、ヒーヒー悲鳴をあげつつ逃げまくりなわけで。

(……やれやれ)

 というわけで、上空を舞っているドラゴンの登場となったのである。

 ドラゴンはその超感覚で、荒野のどまんなかに突如現れた異界からの客人(まろうど)をずっと観察していた。まぁ彼も好奇心は当然あるのだが、そもそも、どういう目的で来た者かもわからない相手だ。下手に干渉するのは迷惑だろうと高みの見物を決め込んでいたわけだが。

 さすがに、肝心の客人が誤解で殺されそうな状況では黙っちゃいられない。しかも彼らが下手に転倒でもしようものなら、あの小さな異界の乗り物がそれに耐えられるかもわからない。

 そろそろやばそうだ、と感じた時点でその巨体を飛ばせた。

 この世界においてドラゴンは真竜族とも呼ばれる。基本的に穏やかな性格であり闘争などは行わないが、世界の秩序を乱すような行動に対しては、その恐るべき力で対峙(たいじ)する。いわば世界の守り手。

 それが動いた。

『!』

 この時点で、一部の敏感な動物は追走をあきらめ、森に戻りはじめた。

 だがそれでも多くの生き物は興味との板挟みになり、まだ動きを止めていない。

 そこで、さらにドラゴンが吠えた。

【止まらんか馬鹿者!!】 

 この「お叱り」は竜言語で行われたので、その意味を正しく理解する者はほとんどいなかった。ほとんどの種族には単に、キシャーというドラゴン特有の咆哮が響き渡ったにすぎなかった。

 だが、そもそも動物たちにはそれでも充分だった。巨大なドラゴンが、ここから去れ、去らねばおとなしくせよと言わんばかりに睨みをきかせたのだ。喰ってやろうとか全員とっとと消えろレベルの迫力はないが、それでも全員足を停めるには充分だった。

(む?)

 ふと見ると、客人(まろうど)の乗り物まで止まっている。どうやらやりすぎたようだ。

(しまったな……。まぁ、挨拶でもしておくか)

 そう思ったドラゴンは、見慣れぬ異郷の乗り物の前に着地した。

 

 

 

 生きた心地がしなかった。

 ドラゴンの叫びが響いた途端、足がすくんだ。何がなんだかさっぱりわからなかったが、ドラゴンの意思だけはなぜかわかった。

 つまりそれは「止まれ!」だったんだと思う、うん。あくまで印象にすぎないが。

 気がつくと俺はキャリバン号を止めていた。

 周囲の動物たちも同様のようで、全部止まっていた。ラプトルもどきたちに至っては、ちゃっかりキャリバン号の周囲に陣取ると人間みたいに(こうべ)を垂れていた。なんというか、王様にかしずく家来みたいだった。

 えっと……もしかしてこれって?

 だけど、それを確認する間もなく。

「!?」

 すうっと巨大なドラゴンが降りてきて、キャリバン号の前にゆるやかに着地したのだ。巨体に似合わぬ、ふわりときれいな着地だった。

 うわぁ、めっちゃ視線でホールドされてる!

 これは……もう逃げる事もどうもできないな。

 俺はというと、もちろんキャリバン号の中からピクリとも動けない。というか、動いてどうにかなる気もしないけどな。

 あきらめて、じっとドラゴンを見上げてみる。

「……」

 とんでもない迫力だった。

 大きさがほとんど怪獣サイズというのもそうだけど、地球の特撮映画のそれは結局スクリーン上のものであって、それっぽく見える演出にすぎない。まぁ、確かにそれでも凄まじい迫力のが作られているけどさ。

 しかし……いくらなんでも、本物に勝てるわけがない。

 確かな質感をもつ、少なくとも体長数十メーターの生物。おそらく翼長はもっとあるだろう。真っ当な生き物なので頭は当然ひとつなのだけど、子供の頃に見た怪獣映画に出てきた三つ首の巨大怪獣をどこか連想する姿だった。まぁ、さすがに生きてる実物だけあって、その迫力は段違いだったが。

 や、やばい。腰抜けたかも。

 どうやらドラゴンはこっちを攻撃する気はないようだった。しかし生物的に匂いをかいだりするわけでもなく、じっとこちらを見たかと思うと、小さく口を開いた。

 その瞬間、俺の頭の中にいきなり声が響いた。

『はじめてお目にかかる。異界からの客人(まろうど)よ』

「!?」

 声の主を思わず見上げてしまった。

『ほう、我の声とわかるのか。たいしたものだ』

「……どういう意味でしょう?」

『あいにく我は異世界語がわからぬ。ゆえに、ぶしつけで申し訳ないが、言葉以前(・・・・)で話しかけさけてもらったのだ。しかし、音声を伴わない対話に不慣れな場合、誰の「声」かがわからず混乱するものなのだが』

「なるほど。理由はわかりませんが、その……あなたの『声』だとわかりますけど?」

『そのようだな。逆に失礼した。すまぬ』

 ドラゴンに謝られちまった……。

 まさか自分の生涯で、ドラゴンと話す事になるなんて想像もしなかったけどな、ハハハ。

『さて。唐突に話しかけた理由は言うまでもない。何やら不幸な誤解から大惨事になりそうだったのでな。余計なお世話だったかもしれぬが、思わず口を出してしまったのだ』

「余計なお世話、ですか?」

『うむ。客人、そなたの周囲におる者どもは別に客人をとって食おうというものではない。単に異界からの来訪者が珍しくて仕方ないだけなのだよ』

「へ……そうなんですか?このラプトルさんたちや、でかい連中も?」

『ラプトルでなくラシュトルだ。そなたの頭にラプトルの意味があったが……さすがに泥棒呼ばわりは怒るであろう。できればラシュトルと呼んでやってほしい』

「あー、そりゃそうですね。なるほどわかりました。ラシュトルね」

 ラプトルとはラテン語で泥棒とか盗賊なんて意味だそうだ。卵と一緒に発見された過去のラプトルが、その卵を盗もうとしていたと勘違いされた事による。実際は自分たちの卵を守っていただけなのだが。

 ラテン語の命名ってヤツは面倒なもので、一度つけると簡単に変えられないのだ。で、事実が判明した今もラプトルは泥棒(ラプトル)のまま。しかも近年は恐竜というと蜥蜴を意味するサウルスよりラプトルの名をつけられる方が増えているというし。泥棒泥棒と呼ばれまくる恐竜たちこそ、いい迷惑である。まぁ、迷惑といっても彼らはもういないのだが。

 はぁ。

 それにしても、異世界とやらで最初にお話した相手が、なんとドラゴンとはなぁ。

 そしたら、そんな俺の心の声まで、ご丁寧にドラゴンは解説をくれた。

『いや、それはむしろ幸いと言えよう』

「幸い、ですか?」

『この世界の人間はそなたら異世界人とは違うのだ。おそろしいほどに排他的なうえに選民思想が凄まじくてな。おそらく予備知識なしに彼らに出会ったら最後、たちまちに隷属契約を結ばされ、兵器または道具として一生涯使われる運命となろう』

「……そんなにひどいんですか?」

『ここに来るまでに広大な荒れ地を見たであろう?あれを創りだしたのはこの世界の人間たちだ。

 彼らは自然環境なぞ自分たちのためのリソースとしか考えておらぬ。自分たちこそ世界の主人で、他のすべては自分たちの自由になるものという感覚しかないのだよ。そなたとは違う』

「いや、その……こう言っちゃ何ですけど、俺だってそんな善人じゃないんですけど」

 え?なに偽悪を気取ってるんだって?

 バカいうなよ、相手はドラゴンだぞ。あの口が開くだけで俺なんか、ちりめんじゃこでも食べるみたいにあっさり喰われるサイズなんだぞマジで。

 ぶっちゃけ、こんなん相手にカッコつける命知らずじゃないぞ俺。小市民なんだっての。

『フフフ……そうか。まぁ、それならそれでよい』

 で、そのドラゴンさんの方は、なぜか満足気なわけで。なんなんだろう?

『そなたの事は多くの存在が注目しておる。異世界からの客人という事でも充分に珍しいが、その奇妙な乗り物の事や、他にも色々と関心事はあるのだよ。

 そなたを追い回してしまった、その背後の獣たちも然り。彼らは魔力を視認できるのでな、そなたの魔力を見て興味をひかれまくってしまうようだ』

「……そ、そうすか」

 げげ……それって、どこにいっても追い回されるって事?

 ど、どうすりゃいいんだよそれ?

 こんな知らない世界に突然投げ込まれて、アシは何とか確保できたけど追い回される宿命とか……なんていうか、泣きっ面にナントカなんですけど?

 そんな事をつらつらと俺が考えていたら、ドラゴンさんが妙な事を言い出したんだ。

『そこで提案なのだがな、客人よ。そなたに、わが眷属を一匹預けたい』

「眷属、ですか?」

 うむ、とドラゴンさんはうなずいた。

『この世界に来たばかりで、まだ魔力すらうまく扱えないのだろう?ならば案内役は必要と思うが、ラシュトルたちでは会話に難があろうし、大型動物ではその乗り物に乗れまいよ。そういう者を連れてしまえば、せっかくの機動性を台無しにしてしまう。そうではないか?』

「あ、はい。その通りですけど」

 案内役ねえ。

 ドラゴンの眷属って事はやっぱり、小さいドラゴンとか蜥蜴とかなのかな?

『いや、生き物ではない。精霊の一種だ。好きな形をとれるのでな、同乗者でもペットでも扱いはなんでもよい。連れて行くがいい。魔法の教授もできるのでな、何でも聞けば良いし、なんなら我と連絡もとれる』

「好きな形をとれる、ですか?」

『うむ。そのかわりといっては何だが、そなたの世界の事を色々話してきかせてほしいのだ。

 眷属は我とつながっておるのでな。内容はそのまま我に伝わる。

 そして我はその結果を、好奇心にあふれる森の民どもに見せてやる。これで皆が得をするというわけだ』

「なるほど」

 ふむふむ、言わんとする事はよくわかった。

『ついでに言うと、眷属を連れていれば追われる事はなくなるぞ?』

「え、なぜです?」

『当然ではないか。ドラゴンを連れた者をうかうかと襲ったり、好奇心にかられてつけ回す者がいるとでも?』

「あ、そうか!」

 そりゃそうだ。思わずポンと手を叩いてしまった。

『うむ、提案を叩いてのんでもらえるようだな。では、わが眷属を紹介しよう』

「あ、はい。わかりま……え」

 その『眷属』さんを見た瞬間、俺の目は点になった。


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