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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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調達

 翌朝。俺たちは町に買い出しに出た。

 まぁ、俺たちといっても出歩くのは俺とアイリスだけどな。ランサも肩のポケットに入っているけど数には入ってない。そりゃそうだ、仔犬だもんな。賑やかし要員ってことだな!

「違うよ、護衛だよ?」

 そんな俺の心の声を、横から一撃でぶちこわしてくれるのは、もちろんアイリスだ。

「いや、やっぱりそこはホラ、俺は男だし大人だし」

「うんうん、戦力ゼロのおじさんだから護衛は必須だよね?」

「……」

 ひどい。

 だけどまぁ実際、確かにこのメンツの中じゃ俺が最弱だよな。たぶん、ルシア妹も含めてもなお、ぶっちぎりで。

 ……想像していると、ちょっと悲しい気がしてきた。

 ま、まぁいい。

 ちょうど町では露天市が広がっていた。色々あって日程がズレたのは逆に幸運だったか。

 高知の日曜市の雰囲気に似ていて、ああいうちょっとアジアな雰囲気の好きな俺にはありがたい。違和感が少ないんだよな。

 ふむふむ。しかし、見たこともないものが多いなぁ。

 柑橘系と思われる果物類。

 寒いせいか、北国を思わせるゴツい海の魚たち。

 ああ野菜もあるな。よくわからないのもあるが、これ白菜じゃね?ってのもある。

 お、あれは鶏の剥いたのじゃないか?でかいし、筋肉モリモリな感じだけど。

 もしそうなら寒いし、今日は鳥の水炊きなんてどうだろう?いい出汁があればだが。

 だけど。

「ふむ」

 素材も調味料も全部、異世界製だと、さすがにどんな結末になるか予想もつかないな。

 よし、では今回は調味料は自前と俺の力で何とかするとして、素材だけこの世界のものにしてみよう。

 だったらやる事は簡単だな。

 まずはメインディッシュの鶏を検分する。もちろんルシア妹を密かに駆使するぞ。

 さて。

 

 

南部鶏(ハルコン)』※解体済

 鶏が寒い南大陸に適応し、大きく強く進化した。闘鶏にも使われるが食べても美味しい。肉は少し硬いが鍋物に良いとされる。

 

 

 お、かっこいい名前だな。

 よし、とりあえず一つ買うか。どうしてもダメなら釣り餌とか色々やればいいし。

「おばちゃん、この南部鶏(ハルコン)っていくら?」

「それかい?それは……」

 アイリスにも知恵を借りて少し折衝し、お買い上げした。

 さて次。こいつはどうだ。

 

 

『レオレニ菜』

 特記事項: 今朝収穫されたばかりで非常に新鮮。

 結球する野菜の一種で、煮物によく使われる。別名にせキャベツ。

 遠い昔に作出された人工品種とされるが、食べ方は一度失伝していた。二百年ほど前の異世界人が再発見し、料理法と共に広めた。『(にせ)キャベツ』なる呼称はその異世界人の使っていた名称である。見た目と調理法は彼女の知るキャベツによく似ていたが、食感だけが異なったためらしい。

 異世界人いわく生食可能だそうだが、生食前提の栽培がなされていないので注意されたし。

 

 

 生食可能だけど要注意か。品質というより衛生基準だろうなこれは。

 有名なところでは生卵がある。日本の生卵は生食前提で衛生管理されているが、海外のはそうじゃないから決して生食してはならないっていう、例の件だ。日本以外では、生卵ぶっかけごはんはNGなんだよな。悲しいことに。

 

 

 他にもいくつかの野菜を買う。

 ああ、それからこれも。

 

 

『南大陸式ソーセージ』

 パリッとしたおいしさ。日本のものとは違うが、焼くと非常に美味。ある程度日持ちするのも美点。

 

紐締め肉(マスクス)

 日本で言う焼き豚にあたる食品だが発祥は全く異なる。元々は人間族の開発した食品で、魔物肉を保存加工する事で魔力をある程度抜き、食べられるようにする過程で誕生した。ただしこのマスクスは獣人族の作なので、魔力軽減加工は一切行われていない。

 

『魔物ジャーキー』

 あまり説明はいらないと思われる。多量の魔力を含むので人間族はもちろん、魔要素の薄い種族にも毒であるが魔物、精霊種、魔族クラスの魔力を持つ者には逆に滋養食となる。

 

 

 俺、本場のソーセージはあまり喰ったことがない。むかし、誰かのおみやげを家族で食べたくらいだな。

 もちろん、試してみる事にする。

 なんでも話によると、異世界人はこの手の『魔物食』は魔族基準でいいらしい。要は普通に食べられるのだ。

 だったら買ってみるよな。やっぱり。

 他には、イモ類を少し買った。保存食としてな。

 これらは持参したリュックにいれた。

 リュックの中には、砂漠で習った空間魔法が仕込んである。あれから少し練習して容量が増したが、まだ無限に入るとまではいかないな。この程度なら問題ないが。

 いやー、それにしてもルシア妹、大活躍だわ。

 

 そもそも、俺が買い出しで連れ歩けるのはアイリス、ランサ、それに切り離せないルシア妹って事になる。最も分析力が高いはルシア姉なのだけど、ルシア姉はキャリバン号に同化した植物生命体であり、そこから動けないからだ。

 だけど考えてほしい。

 たとえばアイリスだけど、ドラゴンの眷属である事を思えば本来そんな知識はないだろ?で、生まれてすぐ俺のとこに来てるわけだから、そういう生活密着の知識があるわけがない。

 ランサは仔犬だし、そもそも魔獣であるケルベロスにそんな知識を求める方がおかしいわけで。

 つまり。

 この場においては、データ分析できるルシア妹さまさまというわけだ。

「だいぶ買ったね」

「そうだな」

 肩の上で、さっそくもらったジャーキーのひとつ、いや3つをランサが喰っている。まぁ、ひとつを三等分して3つの首にそれぞれ食わせてやったんだけどな。

 幸せそうに肩の上で動いているのが、どうにもくすぐったい。心地の良いぬくもりってやつだな。

 そんなランサを肩に乗せて、俺たちは停車場のキャリバン号に戻る道の上だ。

「買い物もすんだし、ここは急いで出よう」

「ああそうだな。わざわざこの町に連泊する必要もないだろ」

 連泊したら最後、今度こそロクでもないのが来そうだ。

「それで情報は何かあったか?ルシアの方はなんていってる?」

 俺はキャリバン号から離れるとルシアと話せなくなってしまうが、アイリスはこのくらいの距離なら可能らしい。便利なもんだ。

「とりあえず、北部横断道を東に行きましょうって。南ルートはお薦めできないそうだよ」

「やはりか」

 南は寒い。

 将来的にはわからないが、今の俺たちにとって、植物であるルシア姉妹の行動が制限されるのは怖いものがあった。

「忘れてた。キャリバン号のヒーター、何とかしないとな……」

「えっと、クーラーの出力が足りないんだっけ?」

「んだ」

 キャリバン号にはエアコンが付いてない。砂漠では後付けのクーラーが活躍していたが、冬用にはヒーターしかないんだよな。

 え、軽四のヒーターを知らない?簡単かんたん、エンジンの熱を引き込むんだよ。

 これ自体は不思議なことじゃないんだ。

 だって考えてみてくれ、フロントガラスの曇り止め(デフロスター)だけど、あれだってエンジンの熱をもってきてるんだぜ?そう考えたら、同じ熱をコンソールから吹き出して車内を温めるのは変じゃないだろ?

 もっとも、キャリバン号はクーペタイプみたいな車室の小さな軽四ではないわけで。当然、暖める力には限度があるわけだが……。

「だからパパ……。そこまでオリジナルを再現しなくていいんだってば」

「そう言われてもなぁ」

 アイリスに痛いところをつかれて、俺は頭をかいた。

 キャリバン号は色々と変態仕様になっちまってるが、あくまでも基本は俺が日本で乗ってた初代キャリバン号……すなわち、スズキ・キャリィバン550改・年式不明だがたぶん昭和製の仕様を踏襲してる。つまり「キャリバン号はこうあれかし」という俺のイメージがまずあって、それを元に構築されているということだ。

 当然だが、これは簡単には変更できない。

 そりゃそうだ。人の心というのは本人ですら自由にならないもの。

 思い出から道具を取り出すって俺の異能は確かに凄いけど、まぁ、うまい話ばかりじゃないって事だな。

 と、その時だった。

「!」

 ぶるるる、と携帯(スマホ)がいきなりバイブをはじめた。

 当たり前だがここは異世界であり電話の着信はない。だけど、結局こいつもタブレットと同じみたいで、いつまでもバッテリーも満タンのままだし、敵対者が近づいてくると警報まで鳴り出す。

 そんなわけで、買い出し時もバイブにして持ち歩いていたのだけど。

 急いで取り出してみると、要注意が出ていた。

「アイリス」

「何?」

「キャリバン号のまわりに人垣ができているらしい。だが不自然だそうだ」

「不自然?」

「いきなり子供とかお年寄りがたくさんやってきたらしい。キャリバン号のまわりで騒いでいるが、キャリバン号が珍しいための好奇心による行動じゃなくて、誰かにお金をもらって来ているらしい」

 俺たちのセンサーは相手の意思に反応するからな。そういう要素があると隠しようがない。

「なにそれ……」

「日本的に言えばサクラってヤツだな」

「サクラ?」

「俺たちを逃さないためさ。まわりに子供とか年寄りとか群がってたら、キャリバン号を動かすどころじゃないだろ?で、困っているところにそいつらを差し向けた連中が近づいてくるって寸法だろうさ」

「!」

 たちまちアイリスの目がつりあがった。

「落ち着け。それより質問なんだが、ルシアはもうキャリバン号を動かせるのかな?」

「あー……ちょっとまって」

 そう話すと、アイリスも少し考えるようなポーズをとって、

「少しなら動かせるって」

「人の足よりは早く走らせられるかな?」

「馬くらいの速さまでなら何とか。それ以上は無理だって」

「上出来だ、町の外で合流しよう。誘導頼む」

「わかった」

 

 

 

 その頃。

 キャリバン号の周りには、身なりのみすぼらしい者たちが多数群がっていた。

 コルテアにはいわゆる地球のような都市型スラムはない。しかし貨幣経済のあるところには貧民層もまた確実に存在する。スラムの悲惨さはないがヒマを持て余した貧乏人がたくさんいるわけで、そんな彼らが小遣い稼ぎしつつ好奇心も満たせるというわけで、キャリバン号のまわりにまたぞろ集まっていた。

「お」

 その時、キャリバン号が突然、誰もいないのに動きはじめた。

 彼らの目には、キャリバン号は珍しいアーティファクトに見えていた。無人のまま放置するのはあまりにも不用心に見えたが、実際のところ1m以内に近づく事ができないので、ちゃんとそれなりの保安システムに守られているのだとは思っていたが、無人のまま動くなんて誰も想定などしていなかった。

 しかし、それだけでは終わらなかった。

「……さて帰るか」

「帰りましょー」

「そうだな、帰ろうぜ」

 なぜか一斉に彼らはキャリバン号に興味を失い、思い思いの方向に帰りだしたのである。

「お、おい、おまえら!」

 その者たちを、明らかに貧乏人たちとは違う雰囲気の男どもが追いかけようとする。だがなぜか指示を全くきかず、彼らを引き止める事ができない。

 無理もない。

 それはキャリバン号に住み着いている植物生命体(ルシアあね)が人避けの結界魔法を起動、彼らを追い払っている事に他ならない。だがその魔法はおそろしく巧妙なものであり、そこいらの人間族や亜人系種族では察知すらできない。

 とうとう彼らは貧乏人たちをあきらめ、ひとりでに走りだしたキャリバン号の方を追いかける事にした。

「くそ、まさか魔獣も馬もないのに勝手に動くとは!」

 次第に加速していくキャリバン号を追いかけるため、とうとう彼らも足腰に強化魔術をかけ、全力で走り始めた。

 

 

 

「来るよ」

「やれやれ、なんか変なのも追いかけて来てんな」

「そのようね」

 彼らが近すぎる。キャリバン号は止めないほうがいいようだ。

「よし、俺たちのそばまで来たら15秒だけ徐行させる。その間に乗るぞ」

「それでも追ってくる人がいたら?」

「全力排除でいい」

 あとで何か言われたら、強盗を振り払ったと言おう。それで充分だ。

「わかったわ」

 俺たちはタクシーを拾うように待ち構え、左のスライドドアを開けて乗り込んだ。

 そして閉めようとしたところで、

「おっと待ったぁ!」

 なんと、ガシッとドアに手をかけて強引に割り込もうとする男が!

「追い出せ!」

「おっと!そうは行かねえぜぇ!」

 なんだこいつ、(アイリス)掴んで強引に止めさせようってのか!

 ふざっけんな!

「叩き落とせ!死んでもかまわん!」

『了解』

 その瞬間、バチッと大電力がショートしたような派手な音がして、男はふっとばされた。

 何とかアイリスを引き込んでドアを閉めたが、

「うわっと!」

 いきなりキャリバン号がグラグラ、グラグラと激しく揺れだした。

「まさか、撃って来やがったのか!」

『第三級以上の魔法を撃ってきています。こちらが通常の馬車なら馬車ごと皆殺しと思われます』

 なんだそれ。

「まさか……よそに取られるくらいなら殺せってか?」

『いえ、単に想定外の抵抗をされて怒ったのだと思います』

「勝手なもんだな。自分たちは人様を拉致って奴隷にするつもりのくせに」

 俺は運転席に潜り込んだ。

「相手が何者かはわかるか?」

『追ってきているのは、いわゆる冒険者という名の「何でも屋」のようです。ジーハン市のギルドで仕事を受けたのではないでしょうか?推測ですが』

「そういうデータならタブレットかな。アイリス、情報見られるか?」

「ちょっとまってね……ああ、これかな?」

 助手席についたその手でタブレットを掴んでいたアイリスは、すらすらと指を走らせつつ言う。

「仕事依頼出てるね。コルテアに来訪している異世界人にコンタクトをとり誘導する事。依頼元は……ああ、例のフラマ嬢ね、これ」

 フラマ嬢だって?

「コルテア政府からの通達はギルドには届いてないのか?それとも、それ以前に政府から何も対策がなされてないのか?」

 アリアさんを信用しないわけではないが、政府の意向とアリアさん本人の意思は違うからな。それもありうるだろ。

 さて、結果はというと。

「政府通達は届いてるね。でも無視されてる?」

『ギルドの場合、一度受け付けた依頼の拒否は正当な理由なくば難しい。そして報酬額が大きいので食いつく冒険者がいても不思議はないと思われる。それを見越して政府が動く前に出した依頼の可能性が高い』

 なるほどね。

「まぁ、ソーシャルな手段に訴えないだけまだマシなんだろうが……」

「ソーシャルな手段?」

「俺に関する悪意ある噂をふりまいたり……要は俺を社会的に排斥するとか、そういう方向の嫌がらせだな。そうなって社会から浮き上がらせれば、自分たちのものにするのが正しいって正当化もできるだろ?」

「……なにそれ」

「まてまて落ち着け、あくまで例えだ例え!」

 アイリスが眉をつりあげたのを見て、あわててフォローに入った。

「それで、こっちから窓口いかずに通報する方法はあるのか?ギルドの依頼を受ける事自体は法的には白かもしれないけど、金でやとった第三者に車を取り囲ませたり、暴力で強引にひとの走る車に押し入ろうとするのは犯罪だろう?」

『訴えても証拠がない等の理由で問題にならないかと』

「いいのいいの、ならなくて。

 確かに立件しにくいし重罪にもならないんだろうけど、彼らを拘束したりする名目にはできるだろ?コルテア政府にその気があるなら、彼らがうまい使い道を考えつくかもしれないぞ?」

『なるほど。そういう考え方もありますか』

「で、通報はできるのかな?」

『ひとの文字や言葉に不慣れな種族向けに、感応魔法や精霊言語で連絡や通報ができるようになっています。そちらであれば今、ここからでも可能です』

「いいね。じゃあ、今すぐやってくれるかな?」

『わかりました。では首長あてと但し書きもつけて通報いたします』

「ああ、よろしく」

 おっと、それともうひとつだな。

「あと、ダメ元でもいいから該当ギルドに依頼却下の請求をしてくれないか。同じ内容がコルテア政府にも届くようにして、同時に届けている事も明示して、フラマ嬢のやった事も書き添えてな」

『おそらく、考慮するという型通りの返答がきて終わりの可能性が高いと思われます』

「かまわない。応答は可能ならコルテア政府にも複写を回してくれ。

 あと、ギルドとしては、たとえ問題があったとしても、問題行動をとっているのは個別の冒険者だと言うだろう。

 でもな、ぶっちゃけると被害者側からすれば、実際の担当者が冒険者だろうが傭兵だろうが全然関係ない話なんだよな。ギルドの指示で彼らは来ているのだから、主犯はギルドと認識しているって論調にできるか?」

『なるほど、これもコルテア政府あてですか』

「俺たち自身が戦わない方がいいってアリアさん言ったろ?彼女の言葉を俺が勘違いしてるんじゃなきゃ、俺たちがやるべきは主張をきちんとする事だと思う。でないと助けてくれる側も助けようがないからな。

 あとは、専門家がよろしくやってくれるさ」

『了解です』


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