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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
43/180

進化

「ズバリ申し上げますと、やっていただきたい事があるのです。もちろん代金もお支払いします」

 水棲人さんは、とても礼儀正しくお願いをしてきた。

「この南大陸の東の方に、トロメの海という名の巨大な湖があります。海という名前がついていますが、実際には内陸の湖です。バラサのように大深度地下で外につながっている、という事もありません」

「あー……確かバラサは水源が大深度地下につながってるんだっけ?」

 そう。あんな砂漠のどまんなかの町に水棲人がいたのは、大深度地下の巨大水脈なんてものを延々と旅してきたって事でもある。

 それってつまり、地底の底にある暗黒の世界を何十、何百キロかしらないが、しかも海から流れを遡りつつ旅する事ができるってことで。

 この世界の種族ってマジですごいわ。成層圏まで上がっちゃう翼竜たちといい、とんでもない連中だよ。

「このトロメの海ですが、過去の事情があって長いこと毒の海みたいになってまして、生き物がほとんど死滅してました。千年かかってようやく浄化が終わったんですが、精霊分が足りないのです。まぁ長くて二百年もあれば自然に満たされますけど、補充してほしいという依頼がきまして」

「依頼?どこから?」

「現地に近いところにいる同族からです」

 フラマ嬢はにっこりと微笑んだ。

「まぁ、途中経過をざっくり省略してぶっちゃけますとですね、ハチさまご一行に現地で水遊びしていただきたいんです」

「水遊び?」

「はい。水遊びです」

 そこでフラマ嬢は少し深呼吸をして、それでまた続けた。

「たぶんご自覚がないと思いますが、ハチさまのまわりには常に多量の精霊が渦巻いています。そもそも魔力あるところに精霊ありで、わたしたち精霊要素をもつ生き物は必ず精霊を連れているわけですが、ハチさまの場合は桁違いの分量なんですよ。それこそ、水遊びするだけでその湖が精霊に染まっていくくらいに」

「……なんか汚染源みたいな言い方に聞こえるんだが」

 思わずそうぼやいたのだけど、

「否定しません。精霊が増える事が不利益になる者たちには、そう見えると思いますよ」

 なんと、思いっきりストレートな回答をいただいてしまった。

「不利益になる者たち?」

「1番わかりやすい例をあげれば人間族ですね。もっともトロメの海周辺に人間族はいないので、その意味では誰の不利益にもならないのですが」

 そう言うと、フラマ嬢は淡々と説明してくれた。

「もともと、人間族もそれ以外の人族も、ひとつの種族でした。それが精霊を受け入れる事で変化する環境に適応し、その結果生まれたのが現在の多民族世界だと言われています。まぁ、神話に語られるほどに遠い昔の事だそうですが。

 もちろん、これは人間のみならず、この世界でいきとし生ける、すべての種族で起きている事です」

「……」

「精霊要素の混じった存在は、精霊要素のない地域にいると暮らしにくいと感じます。時間をかければ自分の存在自体に引っ張られて精霊要素が増えてくるんですけど、それを待たなくてもいい解決方法があります。それがつまり、魔族以上の莫大な魔力の持ち主の来訪という事です。つまり今回のお願いはそういう理由から出たものなんです」

 うーん……それってさ。つまり。

「それって、比喩でもなんでもなく汚染そのものじゃないか。まぁもちろん、見方を変えればって事なんだけどさ」

「そうなりますが……あの?」

 そうなりますがって、おい。

 どう言葉を告げたらよいものか迷っていたら、横からアイリスが口を挟んできた。

「パパ」

「ん?」

「その質問って、風船草を相手に、どうしてそんなに種を飛ばすのかって質問するようなものだと思うよ?」

「ふうせんそう?なんだそれは?」

「あー……ちょっとまって」

 アイリスはタブレットをとって検索して、うんうんと大きく頷いた。

「これ」

「ああ、たんぽぽか」

 ふむ。要約すれば、たんぽぽに向かって、おまえどうしてそんなに綿毛をばらまくのかって質問するようなものって事か?

「そりゃあ答えはないだろうな。よしんば答えたとしても、そういうもんだという返事しかないだろって……ああ」

 ああ、なるほど、そういう事か。

「わかった。つまり意図してやっているのでなく、そういうもんだって言いたいんだな?」

「うん、そういうこと」

 俺の返答に、アイリスは満足したように頷いた。

「すみませんアイリスさん。本来なら助けてくださる筋合いですらないのに」

「気にしないで。こちらとしても、変なことで話が止まるのは本意じゃないもの」

「はい。ありがとうございます」

 うわ……なんかアイリス、フラマ嬢を敵対認定でもしてるみたいだな。言葉は柔らかいけど。

「まぁ、そんなわけでして、ハチさまに是非トロメの海に来ていただきたいのです。お願いできませんでしょうか?」

「……」

「えと、繰り返しますけど、報酬ももちろんお支払いします。

 まず、現地で一日ゆったり遊んでいただけましたら小金貨で九枚。あまりお金のある種族ではありませんのでこれ以上の釣り上げは困難ですが、お望みならば何とかしてみます。あと、もちろんですが現地では歓待させていただきます。地元のものばかりで人間族的な豪奢さはありませんが、他では味わえない郷土料理などもご賞味いただけるかと」

 お、郷土料理とな?

 そういやこの世界来てからこっち、そういう旅をしてないよな。人里にあまり近寄ってなかったしなぁ。楽しめたのはバラサだけだろ。

 だけど、俺の「ふむふむ」という言葉は、次のフラマ嬢の爆弾発言でふっとんでしまった。

「あと、わたしもそうですけど、現地にいる若い娘をだれでも、好きなだけ自由にしてくださって結構です。もちろん全員もアリです」

「……はい?」

 ちょ……え?

「あ、もちろん今決める必要はありません、現地でもケースバイケースでお好きにどうぞ。あと、道中わたしをつまみ食いされるという事でしたら、それでも問題ありませんが……?」

 あー、うん。それ以上は言わない方がいいと思うよ俺は。

 俺の隣でさ、その、人間の形したドラゴンさんが激しくお怒りですから、ええ。

「パパ」

「はい。何ですかアイリスさん?」

「運転席に座ってて。あと耳塞いでて」

「いや、あのアイリスさん?暴力はいけないなーと……」

「塞いでて」

「……は、はいー……」

 ちょ、アイリスがラスボスになった!?

 いやそこ、情けないとか言わんで欲しい。

 考えてくれ。俺はただの凡人だし、アイリスはあのドラゴン氏の眷属だぞ?戦闘力なんて、ひのきのぼうとドラゴンスレイヤーくらい違うんだぞ?そんなもんに怒られたら、ビビってチビッて漏らしちまうぞ、いやマジで。

 そんなわけで、俺は運転席に逃げた。ただし耳栓という名のイヤホンはしてないが。

「パパ耳栓」

「アイリス、任せるが傍聴だけはさせてくれ。まぁ会話の内容は聞き取れないんだろうけど形だけでも、な?」

「……わかった」

 しょうがないなぁという顔だったが、しぶしぶ従ってくれたようだ。

 とはいえ、その後の会話については、俺は語りようがない。そもそも神聖語か何かに切り替えたようで、俺にはさっぱりワケワカになったからだ。

 でもな。

 言葉はわからないが……理解はできるんだよな、これが。アイリスには話してないけど。

 意識を集中して、耳をすませてみると……ほら。あまり楽しい内容じゃないけどな。

 

 

『住処を整えさせたうえに彼の子種を吸い取り、ついでに意思も縛って利用しようと?水棲人はいつからそんな強欲になった?』

『竜様こそ。貴重な異世界人を独り占めし、いいように操っているではありませんか!』

『ほほう、はるか遠方からの旅人を独占的に所有して既得権益をむさぼろうという輩は言う事が違うのう。さて、神聖な水に深く入りながら心は人間族に戻ったか、なんとも嘆かわしい』

『この世界の危機について申し上げているのです!中央大陸に森を広げ、生き物の住める土地を取り戻そうとなさっている竜様ならおわかりになるはずです!』

『自分たち種族の繁栄のために、よそからの来訪者を喰い物にしてか?ハハハ!やはり水棲人は人間族に毒されたようだな、そのようなしょっぱい詭弁が通用すると本気で思っておるなどと』

『詭弁ですって!?』

『屁理屈を通せば神をも押しのけられるとはな、ずいぶんと思い上がったものだ。人間族が聞けば奴隷が増えたと大喜びであろうが』

『なんですって……いくら竜様といえども』

『ほほう、クズの分際で一人前に怒るかよ。ではもっと建設的な言葉をくれてやろうか?ん?』

『……』

『別にいいではないか、ダメというのなら滅びればよいのではないか?』

『なんですって!?』

『我らは今まで、そなたら全ての「新しい人族」に便宜を図ってきた。知らぬとはいわさんぞ。

 心優しき来訪者を笑顔で踏みつぶさずとも、充分に生き延びられる環境を我らも樹精王たちも作り上げておる。これは希望的観測でもなんでもない。そなたらが贅沢を言わず、慎ましく生きるならな。既に今の時点で、未来に生き延びられるだけの準備は整えられておる。わかっておるな?

 にもかかわらず余計な欲をかき、無関係の異世界人から利益を貪ろうとする者どもを下賎、人間かぶれと呼ばずして何と呼ぶ?

 そなたのような者が種族の総意だというのなら、もはや気にする事はない。下賎は下賎らしく、さっさと滅びてしまえばよいではないか。なぁ青い人間族よ?』

『ゆ……許さない!たかが、たかが眷属の分際でぇぇっ!』

 

 

 フラマ嬢がいよいよ激昂し、アイリスに掴みかかろうとした瞬間だった。

 結界にひっかかってしまったのだろう。フラマ嬢の姿が忽然として消えてしまった。

「ふう」

 アイリスは、ちょっと寂しそうにためいきをついた。

「アイリス」

「わかってるよパパ。あの子みたいなのが水棲人の総意というわけじゃない、それはわかってる」

「……気づいてたか」

「わたしはね。顔が見えないからあっちは気づいてなかったと思うけど」

 なるほど。それで俺を運転席に追いやったのか。

「わざと怒らせて激昂させたな?」

「あんなにあっさり本音を吐き出すとは思わなかったけどね」

 ふう、とためいきをついた。まわりが静かなだけに、その音は思いっきり響き渡った。

 ああ、ここは町の中じゃない。元の丘の上だ。内密の話がしたいとあのフラマ嬢に言われたのだけど、酒場のような場所はアイリスが頑として固辞したのだ。ならば結界の中で話そうという事でキャリバン号に彼女を乗せて丘に戻り、そこで話していたわけだが。

 結果はたった今の通り。

「来るはあまたの敵ばかり、か。なんともだな」

「繰り返すけど、水棲人がみんなああってわけじゃないよ?水棲人はあの青い姿と裏腹に情熱的な種族でね、その燃え上がる情熱をさますために深海に住むなんて言われてるくらいなの。色恋で刃傷沙汰を起こす事はあっても、欲にかられて人を陥れようなんて考えもしない。そんな種族」

「まぁモレナ氏族だっけ?そいつらには注意すべきだろうな……あの子ひとりの問題と確認がとれるまでは」

「そうだね……」

 そんな会話をしていたのだけど。

『残念ですが、その願いは届かないようです』

 突然にルシアが警告を発した。

『話題のモレナ氏族と思われる水棲人の集団を確認しました。距離にして半径200mほど先に散開しています』

 なに!?

「ルシアちゃん、その人達の属性は?敵味方の識別は?」

 アイリスがあわてて席につきつつそう言ったのだけど。

『全員、赤です。目的は主様の略取と推定され、対人戦闘編成の部隊に加えて結界師も二名います。こちらの防除結界を破るつもりのようです』

「口で叶わないのなら力に訴えるのね。……最低」

 いやはや、まったくだ。

 あのキラキラした第一印象が悲しすぎる。あれはやっぱりドラゴン氏のドーピングの結果なのかねえ。

 でも、さすがにさっきの会話は俺も頭にきた。こっちの都合なんかカケラも考えてない物凄い発言だったもんな。

「アイリス」

「なに?」

「俺が警告する。大人しく相手が撤退しない場合は皆殺しにする」

「え、でも」

 昨日、あんな迷惑をかけたばかりだ。アイリスの心配は当たり前だ。

 でも俺は、それでもあえて言う。

「俺、自分の目の前であそこまでコケにされたのは生まれてはじめてなんだよ。

 いや、コケにされる以前か。こっちをただのリソースとしか思ってないんだもんな。でも」

 俺はそこで一度言葉を切って、そして再度言った。

「トンネルの前でも言ったけど、俺は俺の意思表示をする。今夜あいつらに警告、従わない場合は皆殺しにする。で、明日はここの商業ギルドに行って事情説明と、意思表明についての相談をしたい」

「……わかった。それがパパの意思なら全力でサポートするよ」

 アイリスは大きくうなずいてくれた。

「さて。そんじゃ、拡声器(・・・)を使うかね」

「へ?拡声器?」

 昔、アメリカのギャグ映画で見たやつだな。車の上に業務用の拡声器をつけて、ライブ開催の宣伝をして回るやつだ。

 俺はマイクを手にとり、スイッチをいれた。

『あーあーあー、俺は異世界人のハチだ。そこにいる、俺を捕えて奴隷にしようとしてる水棲人モレナ氏族・フラマ嬢とその一味に告げる。

 ただちに俺たちのクルマから離れ、二度と異世界人に首輪をかけようなんて考えないと誓え。

 さもなくば俺は容赦せん。いやそもそも、俺たったひとりで水棲人33人に手加減なんぞできん。よって決裂と同時に皆殺しにするぞ。

 30秒待つ。その間に撤退しない、または攻撃の意思を示した場合は──おっと!』

 言い終わらないうちにキャリバン号全体がグラグラと揺れ、まわりが燃え上がりはじめた。

『これが攻撃か!?』

 あ、マイクオンのままだった。ま、いっか。

『水棲人30人が一斉に雷撃で攻撃しているようです。このままでは押し破られます!』

 うわ、なんとアイリスまでノリノリだよ。まるでルシアみたいにしゃべってるし。

『では、やむを得ない。攻撃開始する』

『了解!でもどうやるの?パパ』

 って、ぶち壊しだなオイ。

『ちょっとそのタブレット貸しなアイリス』

『う、うん』

『マップ攻撃って知ってるか?』

『あーごめん、わかんない』

 昔のシミュレーションゲームの話なんかわかんないか。

『簡単さ。地図上に見えてる敵をこうして選択してだな、選ぶとホラ、攻撃って選択肢が出るだろ?あとはここを押す。ホレ』

 タブレットに浮かんだ『攻撃』というボタンを指先で、ぽちっとなと押した瞬間だった。

 

 キャリバン号の周囲100mくらいの範囲に、次々に物凄い落雷が落ちた。

 

 俺たちはしばらく、ちょっとフリーズしていた。

 いや、仕方ないだろ。落ちてくる落雷がものすごすぎて、ちょっとこっちもクラクラしてたんだ。

「……どうなった?」

 タブレットを見ると『一名生存、逃亡』と出ていた。

 逃亡者データを見ると……フラマ嬢だった。

「仲間を見捨てて逃げたか、それとも守られたか……そうか」

 ふうっと、ためいきをついた。

「追撃しないの?」

「あれ食らったその場で社会的な反撃ができるとしたら、それはそれで凄いと思うぞ。でも彼女には無理だろ」

 すべては種族繁栄のため。

 あのフラマ嬢は、アイリスの向こうのドラゴン氏に『貴重な異世界人を独り占め』と言ってた。

 アイリスを見ていれば、彼女が俺をサポートしてくれている事くらいすぐにわかるはずだ。

 でも。

「たぶんあのフラマって子、本当は普通の子だったと思うんだよ。俺が対等な人間に見えてないだけでな」

「えっと……パパ?」

「だってそうだろ?でなきゃ、あんな当たり前に、自分自身も含めて種族の女の子差し出すなんて言うか普通?道中つまみ食いとか、俺はエロ猿かっつの。

 あれってつまり、俺をただの魔力の塊としか見てなかったって事だろ?

 それとも水棲人って、そういう方向におもいっきり開放的なのか?」

「まさか。恋に落ちれば情熱的だけど、普段は結構お堅い方だと……あーパパ、そういう事?」

「うん」

 相手を異性とすら考えてない。魔力を秘めた等身大の張り型とか、そんな風にしか見えてなかったんだろうよ。

 実際、俺を奴隷化した後は、そうやって搾り取るつもりだったんだろうし。

「あ、だから悪くないなんて言ってるんじゃないぞ。フラマ嬢を逃したのは警告だからな」

「あー、彼女が逃げ帰った事で、あっちが状況を知るわけね」

「んだ。こっちもソーシャルな手を打つ。さっきの拡声器の声も戦闘も市街まで響いたはずだから、おっつけ誰か来るだろ?」

「なるほど」

 そんな話をしていたら、

『とりあえず十分でもいいですから仮眠をどうぞ主様。証拠品の回収はこちらでしておきますので』

「え、大丈夫なのかルシア?」

『この程度の距離ならば問題ありません。お任せを』

「そう。でも誰か来るんじゃないの?」

『だからこそです。誘導にしたがって走らせる程度なら可能ですし、何より主様、また倒れますよ?先日よりはマシなのでしょうけど、今はまだ無理はしない事です』

「それもそうか。すまんが頼めるか?」

『お任せください』

 とりあえず言われるままに、後ろに移動して横になった。

 そしたら、

「わん!」

「お、一緒か?珍しいな」

 ランサが寝床から抜けだして、俺のところにきてくれた。

「わん、わん!」

「おおよしよし。一緒な、一緒」

 ああ、本当にランサはいい子だよ。もふもふの癒やしだしなぁ。

 お休み……。

 

 

 

「コルテア警察の者だ。状況を知りたい」

 完全武装の男数名が、異界のものと思われる乗り物に乗る女に声をかけていた。

 女は少しだけ鬱陶しそうに、しかし淡々と返答を返した。

「我は竜の娘アイリス。異世界人どのは先ほどの暴漢との戦闘で消耗し、今は眠っている。状況はそれだけだ」

 女が指さした先には、爆睡している男の姿がある。薄暗くてよくわからないが、魔獣の仔らしきものと一緒に泥のように眠っているようだ。

 竜の娘、のところで男たちは態度を改めた。

 竜の娘というのは竜の眷属を意味するが、竜がわざわざ眷属を出歩かせるなんて普通まずありえない。近年の常識としては異世界人関係がほとんどであり、それはつまり、先刻の事態の関係者という事も意味した。

 だが、相手は真竜つまり神族だ。

 世界の守り手を相手に敬意を持たぬ人族など普通いない。男たちも例外ではなかった。

「それはご苦労様です。戦った相手はモレナ氏族の水棲人と聞きましたが?」

「当人たちはそう名乗っていたが、もちろん真偽はわからない。水棲人なのは間違いないが……誇りあるモレナの民がそんな事をするとは信じがたいものがあるが、なにぶん現時点ではどちらとも言えない、としか言いようがない」

「なるほど了解しました。念のためにコルテア警察で皆さんの身柄を保護させていただきたいのですが……よろしいでしょうか?」

「かまわないと言いたいところだが、異世界人どのが目覚めない。彼の意思なく、そういう重大な決定はしかねる。目覚めるまで待ってもらえないか?」

「お言葉ですが申し上げます。ここは安全な場所とは言いかねますし、竜の娘ならば非常手段といえば事後承諾でもかまわないのでは?」

 相手が異世界人なのはわかるが、神族ともあろう者がそこまで遠慮するべきだろうか?男は遠回しにそう主張したわけだ。

 だが、女の反応は男たちの予想とは全く違っていた。

「おいおい。この場にはケルベロス、それから樹精王の眷属も揃っているのだぞ。いかに我でも独断では決められぬわ」

「なんですって!?」

 その言葉の意味する事態の異常性に、男たちは色めき立った。

「こたびの異世界人は戦いを望まぬ風来坊でな。ゆえに我ら三大勢力の眷属がじきじきに守っている。心優しき者ゆえに、我らが一同に介してすらも戦いにならず、こうして共存できる。そういう才を持つ者なのだ。

 面倒事を押し付けるようですまないが、そういう事だ。コルテアの警察および領主諸氏には、迷惑をかけると伝えておいてほしい」

「……了解いたしました!」

 なるほど、確かにそれは簡単には動かせまい。

 男たちはそう判断し、後は上に判断を(ゆだ)ねる事にした。

「うむ。あと申し訳ないが、明日、誰かよこしてくれないか。商業ギルドで手続きしたい事があるのでな」

「は、必ずや!」


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