海底トンネル入り口
ちょっと長くなってしまいました。
本日は、人物設定話と続けて二話公開しています。
ひとつ戻れば、そちらも見られます。
海底トンネル、通称ムラク道。
中央大陸と南大陸、ふたつの巨大大陸を直接結ぶ唯一無二のトンネル。総延長約60kmにも及ぶ巨大トンネルとデータにはあるけど、これは大戦以前のものではなく信憑性は薄いらしい。ただひとつ言える事は、現在もなお使われ続けているという事。
つまりだ。
驚くなかれ、ムラク道は廃隧道ではない。千年を超える時を経てなお現役のトンネルなのだ。まぁ、管理者が人間から精霊に変わっちまったようだが。
「人間族は通れないっていうのが微妙だな。どうやって区別してるんだろう?」
「入り口から入る時に、通行料として魔力を少し徴収するんだって。できない場合は入洞拒否されるって聞いたよ?」
「そうなのか?」
なんだそりゃ、有料道路みたいな仕掛けだな。
『来訪者から魔力を徴収するというのは定番かと』
「植物系の魔物と精霊が管理する花園とか、よくやってるよねえ」
『はい』
ルシアまで同意してきたって事は、本当にマジなのか。
しかしそうか、入り口で勝手に魔力徴収ってよくある方法なのかよ。ちょっとこわい気がするのは、単に俺が異世界人だからなのか?
「乗り物に乗っている場合はどうなるんだ?体調不良とか、魔力をとられたくない時はどうすんだ?」
『乗り物に乗っている場合は乗り物ごと拒否になります。最悪、大勢で入る時にひとりだけ払わない場合は、その人が原因で全員が入れない事もあります。
あと、魔力はあるけど何か理由があって取られたくない時は、魔石など自分の魔力を秘めたアイテムを代わりに提示すれば、そこから徴収する事もできます。特に、明らかに重い病人や妊婦の場合、何も言わなくても魔石から優先的に徴収していく事もあります』
ほほう。機械的かと思ったけど、そう聞くと意志あるものが運営してるって感じがするな。
「なるほど。じゃあ魔力がない人は魔石を用意すればいいわけか」
『いえ、そもそも魔力がない者の場合は何をしても拒否されます』
「え、そうなのか?」
「はい」
それは厳しいというより、むしろ魔力なき者に利用させないのが大前提って事か?
「それ難しくないか?たとえば俺たちが通るとしてさ、ランサみたいな魔獣じゃなくて普通の動物連れてたらどうなる?」
「あ、それわたしも知らない。どうなるのルシア?」
『ペットは扶養される者なので、事実上の保護者から徴収されます。なんらかの理由で保護者がいない、また保護者から徴収できない場合は拒否されます』
ほほう。
じゃあ、ちょっと意地悪に聞いてみよう。
「では、人間族の奴隷を連れてきた場合はどうなる?」
『人間族は拒否対象なので、通れません』
「人間族は完全拒否なのか……嫌われてるんだな」
『徴収をはじめる以前から拒否対象だったようですから、嫌われているという見方は間違いではないでしょう』
種族ごとブラックリストかよ。
「じゃあ、人間族と他種族の混血は?」
種族や血族なんて曖昧なものだ。特に混血だと、その境界線なんて……。
『魔力がきちんととれるなら、そもそも人間族とみなされませんので通れます。』
……へ?
「どこまでも魔力が基準って事?大丈夫なのかそれ?」
なんとなく、ひどく穴のあるシステムのように感じるんだが?
少し俺が悩んでいたら、ルシアが話を続けてきた。
『違和感を覚えるとすれば、おそらく拒否に対する基準の問題と思われます』
「基準?」
『はい。精霊要素についてはご存知ですか?』
精霊要素?
「あー、もしかしてアイリスにきいたあの事か。通常生物、混在生物、それと精霊生物ってやつ」
「うん、それだよ」
俺の言葉をアイリスが肯定してくれた。
そう。この世界の生き物には3つの種類がいる。
まず地球にもいるような普通の生き物。人間族はここに属する。
次に混在生物。通常物質と精霊が交じり合った生き物。魔獣、竜、あと人間族以外の人族のすべては混在生物らしい。ルシア姉妹、ランサ、俺みたいな異世界人もここだ。
で、最後が精霊生物。精霊分と魔力とか、通常物質を全くもたない生き物な。アイリスはここだ。
そう言うと、ルシアは『それで合っています』と返してきた。
『人間族に限らないのですが、この世界のすべての生き物は今、長い時間をかけた転換期を迎えているのです』
「転換期?」
『すべての生き物が、精霊要素を体内に受け入れるという事です』
そういうと、ルシアはちょっと驚くような事を語り始めた。
元々この世界には、通常の生き物と精霊種の二種類しかいなかったという。生き物の身体に精霊要素は毒であり、精霊種を口にしたり取り込もうとした通常生物は死んでしまうのが当たり前だったと。
『しかしある時代に、精霊要素を取り込み進化する生物が現れ始めました。これが魔物、魔獣、そして人間族以外のすべての人族の正体です。これらは環境にあわせて進化した結果であり、これから未来に向かう新しい種族、新しい系統樹の形といえます』
ぬお。ファンタジーかと思ってたら凄いSFな話が!?
「そうか。じゃあ、混血していれば人間族でも通れるっていうのは……精霊要素を受け入れて生きている時点で、それはもう自然的には人間族ではないって事なのか」
『はい。事実、人間族も混血を同族とみなしていませんから、その者たちは正体を隠す、もしくは人間族社会を抜けだして別の人族社会に逃げ込むのが常です』
それって……。
「もしかしてだが……人間族って種族としては衰退中だったりするか?」
『確実に人口は減り続けています。このままいけば純血の人間族は絶えるでしょう。その日は遠くありません』
「それほどなのか。回避不能なレベルで?」
『すべての人間族国家が和解し、手をとりあって世代管理を始めれば、まだ間に合います。しかし人間族の性質を考えればその選択はありえませんから』
「……滅亡だな」
『推測ですが同意します』
重たい話を聞いちまった……。
『話が戻りますが、ムラク道で人間族を拒否しているのはもっと単純な理由が大きいようです。ムラク道の壁を守っている魔物を素材と称して剥ぎ取り売りさばこうとする人間族が絶えず、やむなく拒否に至ったとか』
「……バカだろ。何やってんだ人間族」
『同意します』
そら拒否するわ。弁護の余地もないな。
ふむ、しかしいろんな意味で勉強になるな。
アイリスも知識はたくさん持っているんだけど、ドラゴンの眷属であるがゆえの偏りはどうしてもある。いい例が結界だ。偽装草以外に結界術の類を全く知らないという事実に驚いたのは記憶にまだ新しい。
そりゃそうだ、最強生物といってもいい種族が、ちまちま結界に詳しくなっているわけがないもんな。
この点、植物であるルシアはまるで正反対。結界、縛索、さらには幻惑、空間湾曲による迷宮生成(いわゆる迷いの森ってやつだな)などなど。とにかく、何かを迷わせ、狂わせ、寄せ付けないといった分野は本気で半端ないらしい。すごいな植物。
まぁその半面、空を飛んだり火を飛ばしたりって魔法はほとんど持ってないらしいけどな。そりゃそうだ、植物はあまり動かないし、火使って火事になったらみんな焼け死ぬもんな。当たり前っちゃ当たり前。『そういうのはアイリスさんにどうぞ』っていわれちまった。
ところで余談だが、アイリスって竜の眷属だろ?
だから半分冗談で「アイリスって火、吐けるの?」って聞いてみたんだが、普通に吐けますよと言い、その場で口からドラゴンブレス吐きやがったんだこれが……うん。ドラゴンブレスって魔力で生成して吐いてるんだと。はじめて知ったよ。
てか、アイリスって強いイメージなかったからビックリしたよ。賢い子だけどホラ、はじめて会った時なんか幼女だったじゃないか。手なんか赤ちゃんみたいだったんだぜ?あのイメージが強くてな。
そりゃ今はもう大人だけどさ、あんなフワフワの柔らかい身体であんな強いとか……あ、やべ、元気になっちまった。
お下劣ですまん。仕切り直しだ。
さて。
なんでこんな豆知識コーナーみたいな会話をしているのかというと、理由がある。動けないんだよなーこれが。
理由?窓の外を見てくれよ。
「アイリス、動きはあったか?」
「ないね」
「そうか……」
トンネルの手前の上空に、でっかい飛空艇が止まってるんだよなこれが。
しかも、なんかものものしい感じの人間族の兵士がウロウロしている。明らかに狙いは……やっぱり俺たちだよな。賭けてもいい。
理由?簡単さ。
「魔力反応も変わらずか?」
「うん、全然ない。綺麗に隠れてるね」
「そうか……」
ああ。そういう事だった。
俺たちは魔力を隠し、連中の探知を逃れて南に逃げてきた。それは確かにうまくいった。
だけど連中もまた、俺たちがそうやって逃げている可能性に気づいていたんだろう。だからこそ自分らも魔力隠しのシステムを使い、できるかぎりの最大戦力を、俺たちの行きそうなポイントにマッハ(死語)で先回りさせたと。まぁ、そんなところなんだろう。
で、そんな事知らない俺たちが職安を出てスラムを抜けて、市街地の外に出て。
そこで見たのは……今まさに到着したばかりの巨大な飛空艇、それと、それに乗った兵団だったと。
あれよあれよって間に入り口をがっちり固められちまった。見つからずに通過するのはもう無理。
要するに……裏をかかれたって事だな。
くそ、この世界の人間族ナメてたぜ。ものの見事にやられちまった!
さて、どうする?
光学迷彩は、使えない。俺のアレはまだ未改良で、使いながら走れないからだ。
勢いにまかせてぶち抜けるか?人間族は通れないわけだから、何とかなるだろ。
でもそれは駄目だ。
なぜなら、やっちまったら南大陸側に飛んで先回りしてくるだろう。俺たちが無事でも、南側の町にどんな被害が出るか考えたら怖すぎる。
では……残るは、真っ当に正面突破するか、あるいはじっと根比べして撤退を待つかの2つしかない。
『見つからないようにじっと待つのが、合理的かつ正解ではあります』
さすが植物、ルシアは気長な選択肢を推奨してきた。
「ここを完全に諦めるか、開き直って全滅させるかのどちらかでいいと思う。どっちでもいいけど半端はやめた方がいいかも」
これはもちろんアイリス。
戦うなら全滅させるべきっていうのは俺も同意だ。
俺たちのデータを絶対とらせないっていうのは無理にしても、わざわざ情報を残してやったら最後だろう。それこそ対策をとられたり、地獄の果てまで追い回されかねない。戦うつもりなら限りなく短期決戦で、完膚なきまでに抹殺しなくちゃならないだろう。
「ああでも、裏を返せば、開き直って警告の上、きかないならぶっ飛ばすって手もあるよな」
はっきりいって、ここまでもう千キロ単位で逃げてきたわけで。
アイリスやランサたちのおかげで楽しくやってきたけど、本来なら怒り心頭で当然の状態なわけで。
それに、このまま南大陸や東大陸まで出張ってこられたら、被害者の俺たちが厄介事を持ってきたかのようにな思われかねないわけで。
いや、はっきりいおう。
俺自身も逃げるだけでなく、戦う選択肢をとらなくちゃいけないと思う。
相手はこっちを人間と思っていないらしい。つまり、圧倒的に数が多いうえに何でもアリって事。
だったらこっちも当然、それなりに対応しなくちゃならない。
ようするにだ。
人を殺すなんてありえないなんて眠たい事言っていたら、死ぬよりひどい目にあわされるだけって事。
ああ、正直に言おう。
俺は平和日本に心底染まって生きてきた人間だ。ケンカすらろくにした事がないくらい、争い事と無縁の人生を送ってきた。どう考えても負け組人生ではあるのだけど、その点だけは自慢できたろう。
だが、ここで同じ事をやろうとしたら……それは隷属させられ、人間のカタチをした消耗品として使い潰される時間が待っているだけだ。
しかも魔力があるがゆえに、俺はすぐには死なないという……。そんな過酷な環境で何十年生きられるのかは知らないけどな。
それに。
「……」
俺がそうなっちまったら、アイリスやランサはどうなる?キャリバン号は、ルシア姉妹はどうなる?
そうだ。
ぶっちゃけ、俺みたいな野郎ひとりなら、最悪どうなっても仕方ない。
だけど……この子らを巻き込むのか?
そんな暗い未来をこの子らに与えちまうのか?
だからこそ、白旗あげて隷属するコースだけは……絶対にありえない。
ああ。たとえ殺しに殺しまくり殺人鬼と呼ばれようとも。
なれば自ら、死体の山を乗り越えていこうじゃないか。
この子らには指一本触れさせんぞ。
「うん、決めた」
「……そう。どうするの?」
「まず確認なんだがアイリス、ルシア。あいつらが俺狙いなのは確定か?」
「んー、限りなく間違いないと思うけど確定かどうかは……」
そんなアイリスに対してルシアの方は、
『確定』
断定しやがった。
「理由は説明できる?」
『あの乗り物の内部通信を傍受した。異世界人捜索と、捕縛術式の確認、首輪のチェックに関する会話がなされていた』
傍受……そんな事できるもんなのか。
『あれが留まってるの、トンネル入り口の真上だから』
「あ、そういうことね」
コンビニの店頭で無線LANの電波傍受するようなもんか、なるほどな。
「ならば、後はいきなり攻撃するか、名乗りをあげてから攻撃するかの二択だなあ」
「名乗り?」
「撃ち落とすだけでもいいが、俺の意思表示だと思わせたいんだよ」
俺の考えを彼女らに伝えた。
何千キロもしつこくやってくる連中だ。意思表示をきちんとしないと、どこまでも追ってくるだろうと。
だけど。
アイリスがそれに反対した。
「単に意思表示したいだけなら、あとで噂を流したほうがいいと思う」
「噂?」
「あのね。商業ギルドとか、いくつかの団体は種族を超えてつながってるんだよ。
異世界人であるパパの意思なら、事情話してお金払って噂を流すよう依頼すれば、たぶん引き受けてくれると思うよ」
「商業ギルドか。俺たちと利害が咬み合わないって可能性はないか?つまり追手がかかる方が彼ら的には儲かるとか?」
「それはないよ」
「なぜ?」
「それを許容しちゃったら人間族以外の国で商売できないから」
「あー……なるほどね」
「まぁ最悪、商業ギルド以外にも伝手はあると思う。
それに、どの方法であっても、ここでパパが名乗りをあげて、やあやあ我こそはってやるよりは安全だし確実だと思うよ?プチッて潰される心配もないし」
何だそれ。
まさかと思うが、俺ってそこまで、へっぽこ認定されているのか?真正面から戦おうなんて真似は十年早いとか?
「え、違うの?」
「……おい」
ちょっと泣きたくなった。
くそう。
ま、まぁいい。始めるぞ、ちくしょうめ。
最近は干物干場になっていたルーフの上だが、ここ2日ばかりは材料の魚がないので利用していなかった。走る方が優先だったし、夜空を見上げる時はキャリバン号のルーフからでなく、外で煮炊きしている時だったしなぁ。
そのルーフを久しぶりに開け、上に乗り出した。
「ふう」
ふく風に潮の香り、それから草の香りが混じっている。冷たい海風は、その向こうが寒い土地である事も暗示させる。
目の前、ほんのちょっと向こうには、大きなトンネルの開口部がひとつ、そしてその右側にも小さな開口部がひとつ。両方とも綺麗に開いている。
「……」
その視界の中、大きなトンネルの斜め下に、もうちょっと気になるものがあるが、今はそれは関係ないので無視する。で、そのまま視点を上にずらすと。
飛空艇があった。
カタチは飛行船に似ているが、本体は何か地球の飛行船とは違う原理で浮いているんだと思う。かなり浮力があるようで、まわりに大きなプロペラなんかがついているにもかかわらず、その重量をものともせずに浮いている。明らかに、ヘリウムとかの浮力では賄いきれない重さだと思うし。
うむ。まさに、どこぞのFがつくゲームに出てきそうな、ちょっぴりスチームパンク臭い飛空艇そのものだな。
飛空艇の内外には、ここからでも多くの兵士の姿が見える。
何か、つまり俺を探してるんだと思う。まぁ、今こっちは丘の上でキャリバン号には例の光学迷彩の布かぶせてるし、魔力も隠してあるけどな。今なら俺の姿を望遠鏡で視認できるだろうけど。
「……」
腰のホルスターについている、60年代SF風の光線銃を引きぬいた。
この銃のオリジナルはヘンな音と光を出して攻撃する。でもそれはドラマ上の演出であって、そもそもレーザー光線銃や熱線銃の類で射線が見えるとは限らない。発射音だってしない。
そして俺は、当時の小説で、そういう無音かつ射線なしで動作する、リアル感たっぷりのレーザー光線銃の話を読んだ事がある。それは音も光もなく人も、家も、何もかも射線のカタチに綺麗さっぱり切断してのけるという、凄いというより異質な、奇怪な破壊シーンを見せつけていたのだけど。
思い出にあるものなら、今の俺なら再現できるはず。
左手を出して、その上にあてがうように銃をそえた。
射線を固定する。ただし、飛空艇より向かって左を。
発射。
「……」
何もない空中に向かっているので、当然何も起こらない。
で……発射状態のままゆっくりと、射線を右にずらしていく。
そして、射線が飛空艇のボディにさしかかった。
「……」
音も何もなく、飛空艇が切断されていく。
ふと、射線上に飛竜に乗った騎兵が通りかかった。しかしその場で飛竜の首半分と騎兵の頭の上半分がポロッと外れた。もちろん血を吹きながら落ちていく。
その光景を見た兵士たちが大騒ぎになる。
でも、もう遅い。
俺はそいつらを一切無視して、ただ飛空艇を切断していく。
半ばまで切れたところで、何か重要部分を破壊したらしい。ばん、どかんと本体側で爆発音がして、飛空艇がぐらりとゆらぐ。
おかげさまで切断面はまっすぐにならなかった。飛空艇が斜めになって落ち始めたので、射線はそれにそって甲板上に移動していった。
で、パニック起こして右往左往している兵士の首やら胴体やら、大根みたいにスパスパと音もなくブッた切っていく。
「……」
とんでもなく凄惨な……だが爆炎も何もない、まさに奇怪な地獄絵図。
これは……確かに奇怪としか言いようがない。
この光線銃を書いた作者さんは狼男もののシリーズを書いてて一部、映画化もされている、押しも押されぬ大御所で巨匠。まぁ彼が描写していたのはもっと大きくて、大きな対物レンズが前についていたはずなのだけど。
まあ光線銃ってまさに50から70年代くらいのSFの華だもんな。俺が読んだ話でも対物側の触媒にルビーを用いたルビー・レーザーとか、いんなタイプが紹介されていた。武器じゃないけどCDプレイヤーにだって半導体レーザーってのがついててデータの読み取りに使われているって聞いた事がある。
だけど、現代人でも知ってるようで全然知らず、そして知っていても時代と共に変化していくっていうのが、この光線ってやつだ。で、知らないからこそ空想を働かせ、様々な光線銃が物語に登場するわけなんだな。
よし、切り終わった。
なんというか、感銘もショックも湧いてこない。心のどこかが錆びているみたいに、何も感じない。
あまりにも反動も、光条も、音もないせいかもしれないな。
「む」
墜落した飛空艇の一部が、トンネル入り口までの道を塞いでる。生き残った兵士がわらわらと群がって何かしている。
邪魔だ。
光線銃を一度おろし、カマキリを攻撃した時みたいに構え直した。
そして数回発射。
今度はカマキリの時みたいに、ピーッという電子音と共に光条が走りまくり、轟音が轟いた。
爆音に一瞬、地面が揺れた気がした。
「よし」
トンネル入り口まで行けそうだ。
下におりてルーフを閉じた。
「エンジン始動。アイリス席ついて、ランサはそこから出るな」
「はい」
「わんっ!」
キャリバン号が胴震いをはじめた。
「ルシア、このまま突っ切る。悪いけど外にかけてある光学迷彩の布を取り込んで、代わりに防御結界を」
『攻撃の強さによっては貫通する恐れがあります』
「最悪の場合は仕方ない。とにかく突っ切る!」
『了解』
席についてベルトをしめる。皆の準備も確認する。
『迷彩布、収容しました。敵側からこちらを視認できます』
「結界は?」
『張りました』
「よし、発進する!」
そう言うと俺は、アクセルを踏み込んだ。
キャリバン号は丘を駆け下り、トンネルに向かって走り始めた。
「攻撃してきそうな敵はいるか?」
「みんなパニックしてる。こっちに気づいてる人もいるみたいだけど、戦いどころじゃないみたい」
だろうな。この状況で、それでもこっちを攻撃してくるヤツがいたら、そいつは頭がおかしいか、とんでもない大物かのどっちかだろう。
よし、このまま駆け込むぞ!
走っていると、ポーンと電子音がした。出元はタブレットだ。
アイリスが文面を読み上げた。
『海底トンネルに侵入します。通行料金として若干の魔力が徴収されます。危険はありませんが、気分が悪くなる等の事態が起きる可能性もありますのでご注意ください』
うん、予定通りだ。
だが。
「……あ?」
近づいてくるトンネルの入り口を前に、俺の視界がグラッと揺れた。
え……?
「パパ?」
アイリスの声が、どこか遠い。
「え、ぱぱ、パパ?」
『危険です。あいりすさん、ここは』
「わかった」
え、何だ?
だけどそのまま、俺は意識を失ってしまった。




