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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
31/180

まちぶせ

「!?」

 突然、視界が激しくブレた。

 何が起こったかと思った次の瞬間、俺は空中にいた。状況を把握できず慌てて左手を見ると、びっくりするようなものがそこにあった。

 左手から伸びたツルが、太い枝を掴んでいた。俺の身体はツルをロープのように使い、アクション漫画の主人公のように空中に逃げたらしい。

 まぁ、ここまでくればわかった。ツルの主、つまりルシア妹のしわざだ。名前つけてないけどな。

 しかし何故突然?

「!」

 下を見ると、そこには馬鹿でかい黄緑色のカマキリがいた。

 頭の高さでも俺の身長と変わらないかそれ以上。体長は間違いなく2m超え。それが「獲物サどごだぁ」と言わんばかりにキョロキョロしている。そのキョロキョロする動きや両手のカマを見ていると、なぜか昔テレビで見た『なまはげ』の映像を思い出してしまうが、東北の方すまんと謝ってる場合じゃない。あいにく下のヤツは『なまはげ』と違って単なる捕食者なのだから。

 やられた。この家、こいつの狩場だったのか!

 サーッと、血の気が引く音を聞いた気がした。

 とりあえず近くの枝に降りた。音をたてないよう慎重に。

 うむ、気づかれてないな。風の音にまぎれたかな?

 カマキリという動物は待ち伏せに特化している反面、飛んだり跳ねたりはしないという性質がある。実際、彼らの身体はお世辞にも機動性が高いとはいえない。手が届きさえすれば人間の子供でも捕獲できるほどに。

 つまり、待ち伏せと奇襲に全てを賭けるタイプの猟師なのだ。

「……」

 周囲を見ると、少し離れたところにもぽつん、ぽつんと木があった。二本ほど。

 ふむ、どうやらこの木も含めた三本は等間隔に並んでいるみたいだな。

「!」

 む、一本には下にいるのと同じくらいのカマキリがいやがった。

 ああ。

 もしかして、アタックレンジに入ってないから攻撃に出てないって事か?

 ふむ。

 そういう事なら、とりあえずの作戦は決まった。まずは距離をとろう。

 カマキリのいない木に向けて手を伸ばした。その木なら下にあるヤツとも、樹上にいるヤツとも距離をとれるはずだった。

 そして心の中で、ツル伸ばせー、あっちに移動しろとつぶやいてみる。

「!」

 次の瞬間、ヒュッと景色がブレた。

 そして気がつくと、俺はその木の枝の下にいた。

 おおすげえ、ちゃんと動いてくれたか!

 音をたてないよう、そっと手頃な枝に降りた。

「む」

 しかしカマキリの方も気づいたっぽい。樹上のヤツは動かないが、下にいるヤツはこっちに向かっている。

 しまった、バッチリ見られたか!

 だけど。

「?」

 直下まで来たところで、カマキリはまた右往左往をはじめた。どこだ、どこにいる?って感じに。

 ……ああそうか。動かないものは見えないってか。

 動かないものは見えない、という視覚の構造はカエルなんかにもあるからな、別に驚くことじゃないが。

 うーむ。しかし、どうしたものかな?

 このままでは逃げ切れない。何とかキャリバン号に連絡をとるなりどうなりしないと、いつか食われちまうぞ。

 周囲を見渡すと、用水路が見えた。あれに飛び込めば一見、逃げられるように見える。

 でも無理だ。

 まず用水路まで飛べないし、飛べたとしても水の中に何がいるかもわからない。あまりにも考えなしというか、危険すぎる。

 では、どっちにどう逃げる?

 うまい逃げ場を見つけようと、目をこらして周囲を見ていたのだけど。

(……おい)

 俺はその瞬間、気づいちゃいけないものに気づいてしまった。

 

 まずい。ランサがこっちに向かってる。

 

 クンクンとあぜ道の臭いを嗅いでいるのは、もしかして俺の後を追っているのか?

 まてランサ、こっちくんな、いくらお前でも危ねえから!

 能力的には勝てるかもしれん。

 だけどランサの乱入がもう一匹のカマキリを動かす可能性が高すぎる。

 危険過ぎる!

 だが俺の心の声が届くわけもなく、ランサはこっちに向かっている。

 畜生、なんか手はないか?

 左手を使うか?

 無理だ。この手に攻撃力はないだろうし、下手に巻きつけたらこっちが引き出されて餌食になっちまう!

 なんでもいい、武器はないか。

 刃物?だめだ、こんなところで、しかも慣れてない刃物で戦えるわけがない。

 銃?扱ったこともないのに反動ありすぎてダメだろ。かといって小さなデリンジャーとかじゃ、外骨格もちの巨大昆虫相手じゃ文字通りの豆鉄砲だ。

 ん、まてよ?

 

 銃は反動がある。

 だったら、反動のない銃があれば?

 

 気がつくと、俺の右手にはなにか、おもちゃめいた銀色の銃が握られていた。

(おいおい。よりによって科特隊もどきバージョンかよ)

 特撮に出てきた光線銃だ。すごく60年代SFっぽいデザインだった。

 うん。威力は知らんが、これなら反動はないだろ。

 静かに右手を伸ばして狙いをつけた。銃口はカマキリの頭に。

 そして引き金をしぼった。

「!」

 ピーっというブザーみたいな音と共に頭部を直撃。

 光線はカマキリの頭をぶちぬいたのみならず、首から上を激しく()いた。

「……」

 そしてカマキリはゆっくりと傾き、そして倒れた。

 よし。

 念のために樹上にいるもう一匹にも狙いをつけ、そして打ち倒した。

「ふう……まだいるかな?」

 とりあえず同サイズのヤツは近くにはいないと思うが。

 周囲を見てから下に降りると、ちょうどランサが来たところだった。

 こっちの状況に気づいたのか、途中でワンワンと高らかに鳴き、そして一目散にすっ飛んできた。

「わんっ!わんっ!」

 ああ、なんか言わんでもわかる。

 おまえ倒したのか、大丈夫かと言っているようだ。

「ありがとな。ま、俺ひとりで何とかなったぜ」

「わんっ!」

 ははは、こらこら、ペロペロなめんでもいいって。

 しかし、とんでもなく冷や汗もんだったなぁ。

 ふと見ると、右手が光線銃を握ったままになっている。外そうとしたら、うまく手が開かない。

 ……あー、それだけビビってたって事だよなぁ。

 ゆっくりと手をほぐして光線銃を外し、いつのまにかベルトに湧いていたホルスターに収めた。拳銃とかと違ってプラ製なのか異様に軽いし、先端がノズルじゃないので開口してないとか、光線銃特有の形状も伺える。

 それにしても、やれやれだ。

 

 

 

「こりゃあ、コカマキリだねえ」

「コカマキリ!?」

 これで『小』!?人間よりでかいのにか!?

「うん。だって3m超えないし」

「いやいやいやいや、それもう虫のサイズじゃねえから!」

「これでもれっきとした魔物だからねぇ」

「魔物かぁ」

「うん」

 まぁ、それはわかる。ランサが旨そうにもりもり食べてるしな。

 バタバタしていると、アイリスたちがキャリバン号で駆けつけてくれた。変な音がした事と魔力の昂ぶりがあった事で、俺が何か異界のものを呼び出して使用したのだろうと考え、非常事態と判断したとの事だけど。

 しかし、いつのまに運転覚えたんだ?

「おぼえてないよ。パパのとこにゴーって言ったら自分で走りだしたよ」

「……マジすか」

「マジ」

 まさかの自動運転かよ。よし、後で試してみるかな。

「あー、たぶんパパが命令してもムダだと思うよ」

「なんでやねん」

「元のキャリバン号に自動運転機能あったの?」

 はあ?そんなもんあるわけないだろうが。

「うん。だから自動運転は無理だよ?」

「……だったら何でおまえが言うと動くんだ?」

 理不尽だろうが。俺のキャリバン号だぞ。

「まぁ、そこはパパが時間をかけて解決するところだと思うよ?」

「例のボトルネックってやつか。なるほどな」

 色々と問題多いなホント。

「そんなことよりパパ」

 おや、なんかアイリスがお怒りモードに。

「わたし、気をつけてって言ったよね?」

「ああ」

「もしかして、左手のソレがなかったら死んでたんじゃない?わかってる?」

「うん、まったく面目ない」

 カマキリの奇襲に俺は全く気づかなかった。左手のルシア妹が動かなかったら、俺は今頃頭から食われていただろう。

 そう思うと、改めて冷や汗が出た。

「さすがにキモが冷えた。冗談でなく今後気をつけるよ。

 ところで話の途中ですまないが、こいつにも名前が必要だよな。どうしようか?」

 そう言って左手に巻き付くルシア妹(植物)を指差す。

 なんたって恩人だからな。妹呼ばわりとか名無しはあんまりだろう。

 ところが。

『名付けは不要』

 突如として脳裏に声が響いた。ルシアか。

「不要って、どうしてだ?」

『将来的に固有の意識を保てるとは思えないから』

「なに?」

 どういう事だ?

『宿主の大きすぎる魔力に圧倒され、飲まれつつあるから』

 魔力に飲まれるだって?

 首をかしげた俺。

 だけど、そんな俺とは裏腹にアイリスはその意味に気づいたらしい。

「つまり、パパの一部として定着しつつあるって事?」

『正解』

「パパはあくまで人間だよ?植物系精霊体を取り込んでも使いこなせるわけが……!」

 そこまで言ったところで、アイリスは眉をしかめた。

「まさか……共生状態のままパパの一部として安定化するって事?」

『正解』

「た、大変じゃないの!すぐ引き離さないと」

『かまわない』

「かまわないって、そんな……」

 ふたりの会話がよくわからないが、とりあえず俺も参戦した。

「いまいちよくわからないが……もしかしてこれ、俺と融合しつつあるって事か?いつか消える意識だから名前もいらないと?」

『消えるわけではない。宿主に取り込まれ、その一部となるだけ。自由意志は希薄になり宿主の一部として稼働するようになる。

 完全に消えるわけでないとはいえ、ひとつの独立した心とはもう言えないだろう』

「いや、だけって……妹がいなくなるんだぞ、それでもいいのか?」

『それもまた生命のいち形態。成長すれば種も撒ける。何か不都合が?』

「……種がちゃんと撒ければ問題ないって事か?」

『正解』

 ……そうか。

 ふむ。

 納得できないけど、彼女ら的にはそれでもアリなのか。むむむ。

「そうか。あいわかった」

「それで納得するの!?」

 アイリスが驚いているが、俺は頷いた。

「まぁまてアイリス。いくら会話できたって彼女らは植物だ。動物の俺たちとは根本的に意識が違うだろ。そう思わないか?」

「……まぁ、それは」

「考えてみたら、自我の保全に執拗にこだわる俺たちの考えも奇妙なのかもしれないぞ。俺にもよくわからないが」

「……」

「って、まぁいいか。まぁ本人たちが名前いらんというのなら仕方ない。それでいいじゃないか?」

「……まぁ、確かにそうね」

 納得いかないなぁ、という感じで首をかしげるアイリスに、俺は笑顔で押し切った。

「?」

 そんな俺たちの足元では、俺の仕留めたカマキリをウマそうにもりもり喰うランサの姿があった。

 

 

 

 夕刻。

 昼間の畑からだいぶ離れて、見晴らしのいい場所に今夜の寝場所を求めた。

「昼間いい忘れたけど、察知されるかもしれない以上トリリランドは当分使えないわ。ルシアのおかげで魔力の気配は漏れてないし遮音結界はつけてあるけど、安全ではない事を忘れないで」

「ああ」

 食事がおわり、今はテーブルだけ出して意見交換中。

「それで、今回作ったのはこれ?」

「ああ」

「これはまた変わった武器ね。銃かと思ったけどそれとは違うし」

「銃は知ってるのか」

「もちろん。ドワーフたちも使ってたし、異世界人の話にもよく出てくるし」

 そうか。銃自体はこちらの世界にもあるのか。

「それにしても、これは変わってるわね。いいえ異質というべきか」

「異質?」

「光の当たった対象を爆発させるんでしょう?しかも発射の瞬間に音も鳴るんでしょう?なんでわざわざそんな目立つ事するの?」

「そりゃあごもっとも」

 特撮や漫画的な演出だからなぁ、そこは。

「対象に命中した瞬間、光が爆裂の術式に変換されるみたいね。こんな奇天烈な術式は初めて見るけど使われてる技術は凄いわ。この組み方だけでも変態技術だって大騒ぎになるわよ?」

「……それは褒め言葉なのか?俺にはちっともそう聞こえないが?」

「ハエ一匹殺すために空間魔法を駆使して時空の彼方に吹き飛ばすようなものっていえばわかる?」

「よくわかった。カケラも褒めてないっていうかお前バカかと言いたいんだな?」

「パパをバカにしたわけじゃないからね。この銃を考案した人が変態だって言ってるだけで」

 オリジナルはあくまで科学兵器(設定)なんだっつの。それを強引に魔術的再現したのは俺なんだから、要するに俺が変態って事じゃないかよう。

「まぁでも、原理はおバカでも技術の凄さは折り紙つきだし、それに攻撃された相手はたまったもんじゃないわね、これ」

「そうなのか?」

「うん。だってこれ、銃弾の代わりに光でできた熱弾頭を発射するようなものだよ。光速だから逃げるも何もないし、相手にしてみたら、ゼロ距離で爆裂と灼熱呪文を同時に放たれているようなものだし」

「うわ、えげつな……」

 避ける暇もなく手元で爆裂と超光熱かよ。それは確かにイヤ過ぎる。

「いわば魔道銃ね。まぁ、稼働に大量の魔力が必要みたいだから、使えるのはパパだけだろうけど」

「俺だけ?」

「創造用に使うレベルの魔力を飲み込んでるよ、これ。そういえば燃費の悪さはわかるでしょ?」

「……そりゃ確かに無理っぽいな」

「うん、わたしもそう思う」

 なるほどねえ。

「ま、とにかく武器ができたわけだ」

「非常用にはできるけどね。でもこれ普段は使えないよ?」

「え、なんでだ?」

 あたりまえじゃん、とアイリスはためいきをついた。

「見た目があまり凶悪そうじゃないから、脅しには使えないでしょ?

 でも、だからといってわざわざ脅すために撃つわけ?これ岩でも穴あくし、大木も一撃で破壊できるよ?」

「……見た目がしょぼいのに、インパクトがでかすぎるのか」

「そういうこと」

 確かにそれは使えないな。むう。

 軍隊でもそうなんだけど、威圧的な外見っていうのは武器には必要なんだよ。つまり、いちいち発砲しなくとも抜くだけで相手を萎縮させる事により、結果的にどちらの血も流さずにすむ。抑止力ってやつだね。

 だけど、いかにも戦闘に不向きっぽい俺が、この60年代SF臭い光線銃もってインパクトあるかというと……子供に笑われる可能性の方が高そうだよな。情けない話だが。

「なるほど、確かにこれは使えないな」

「うん。だから人間むけは最後の手段で、普段は猟銃代わりにでも使えばいいと思う」

「わかった、そうしよう」

 人間向けか……。

 聞いたところでも、この世界はひとの命が軽いみたいだしな。イザとなったら引き金をためらうわけにはいかない。

 それに、あの女みたいにアイリスたちを対等に見ないのが人間族の「普通」だというし……。

 といっても、俺にひとが殺せるかどうかはまだわからないけどな。

 それに、こんな武器が作れたところで、気づかれる前にやられたら俺にはなすすべもない。実際、今日は左手のルシア妹がいなかったら死んでたわけだし。

 そう思うと、ピクッと左手が動いた気がした。

 うん。こんな銃があろうがなかろうが、結局俺は俺ってことか。

「それじゃあ、銃の件はそこまでね。

 次はわたしの方。南大陸に渡る方法なんだけど、樹精関係で面白い話をひとつ聞いたわ」

「面白い話?」

 うん、とアイリスとうなずいた。


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