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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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それも一種の才能

 キャリバン号の一行が新しい住人を得て新たな出発をした頃。

 人間族側の捜索隊は大パニックに陥っていた。

「見失ったですむか!諦めるな!なんとしてでも探しだせ!」

 砂漠の中で異世界人らしき反応を見失って、一夜が明けた。

 最後まで反応が見られた南行きについても、現在は懐疑論も出始めている。たまたま魔力の強い魔物か何かがヒットしていたのではないか。そんな声も聞かれだした。

(愚かなことだ)

 そんな中、彼らとは違う雰囲気をまとった青年がいた。

 青年は法衣をまとい、いかにも宗教者らしい姿をしていた。そして周囲の人間国の者たちが右往左往する中、ひとりだけ退屈そうにのんびりとしていた。

 無理もない。

 既に彼の所属である聖国は、今回の異世界人捕獲作戦からは手を引いているのだ。青年が置かれているのは単に、わが聖国は人類側ですよと他の国々にアピールするためにすぎないわけで、けが人などが出ない限り彼も、彼の配下として派遣されている数名の司祭たちも、全く出番がない。いやむしろ、そういう人道的措置以外では動いてはならない、と指示されている。

 ゆえに、彼だけ退屈そうにしているわけだ。

(さて。今ごろお嬢はどこに行ってんだか。彼らともう一度会いたいって言ってたから南大陸か?)

 彼が考えているのは、彼らの聖女様である、とある女性の事。

(俺もお嬢くらい、異世界の血が濃ければなぁ。こんなとこで阿呆どもの相手してないで、親善大使になって南か東に行けたろうに)

 

 

 人間国はどこでもだが、武装集団を人間以外の人族の住む地域に送り出す。目的は侵略でなく、奴隷または魔石の原石に亜人を「採掘」にいくのである。

 要するに人間族にとり、自分たち以外の人族なぞ単なる資源・資材でしかないのだ。

 ところが聖国に関してはここ二百年ほど、おかしな噂が流れていた。

 

 いわく、彼らは亜人を攻撃していない。

 いわく、ゲットした奴隷も奴隷として使わず、聖国で市民として扱っている。

 

 彼らはその論拠として、二百年前に聖国が所有していたシオリ・タカツカサなる異世界人を挙げる。

 シオリは聖国の当時の聖王に首輪をかけられ、異界からきた聖女として祭り上げられた。強大な癒やしの力をもっており、戦いよりも象徴に向くとされたからだ。もちろん実態は聖王の奴隷であり、昼間は聖なる教えのために尽くし、夜は聖王の性処理をさせられていた。また後に聖王から第一王子に下げ渡され、第一王子の所有物となって生涯を過ごしたという。

 ところが、聖国はその時代から、次第に政策を変質させているという。

 まずシオリが聖国に捕らえられた翌年、聖国は能力主義を導入する。簡単にいえば、司祭などを採用するにおいて家柄や血脈を考慮せず、聖典に忠実で人格的に問題なく、必要とされる能力が高ければ誰でも聖職に就けるようにしたのだ。そう、たとえ最高司祭であっても。

 これは、異世界人であるシオリを聖女とするために作った抜け穴みたいなものと当時は思われたし、各国もそう理解していた。わざわざ法整備をする聖国の生真面目さに苦笑する権力者もいたが、そもそも聖国が聖国たりえるのは宗教的な正しさや生真面目さである。ゆえに彼らはそれを聖国のスタンスであると理解し、深く追求しなかった。

 だが実際にはどうだろう?

 二百年過ぎた現在、聖国の地方の小さな修道院などには亜人や混血の司祭が少なからずいるようになった。しかもその数は増えており、また孤児院などに普通に亜人の子も混じっているという。

 聖国は公式発表として「司祭は信仰第一で選ぶ。ゆえに、特に人材の足りない地方の場合、敬虔な信者であれば亜人でもかまわない」と宣言しており、そのためだと説明されているが。

 しかし現実問題として、聖国では他の人間国に比べて亜人の数が格段に多い。しかも奴隷でない者も多数おり、さらには混血も増加しているという。

 

 ──まさか聖国が?

 

 現在の人間族国家の気持ちを一言でいえば、この一言に尽きるだろう。

 各国は最近の聖国に対し『裏切り』の疑惑を持ち始めている。ただ地球のようにマスメディアが発達しているわけでもないので、その「まさか」が強い疑惑、そして確信に変わっていくには、まだまだ数十年はかかるだろうとも予想されているが。

 

(まぁそりゃ、いくらあいつらが馬鹿でもわかるよなぁ)

 

 青年は高位の司祭であるから当然、シオリ・タカツカサのやらかした『改革』を知っている。

 シオリは確かに、聖国を作り替えた。だがそれは聖国に対する裏切りではない。

 確かに彼女は、自分を奴隷とした聖国に対して復讐したのかもしれない。

 しかし結果として、シオリは聖国を国難から救済した人物でもある。それもまた事実なのだ。

 他国に派遣されるような高級司祭なら、もちろんその事は知っている。

(でもまぁ、今はバレるわけにいかないんだよなぁ)

 もちろん、いつかはバレるだろう。そしてその日は遠くない。しかし今はまだ、隠しておくべきとなっている。

(ま、本当に気づいたら驚くだろうな……ハハハ)

 周囲の混乱ぶりを内心で笑いつつ、静かにお茶を飲む。

 どうやら彼らの『聖国』は、人類偏重的な昔のそれとはずいぶんと変わっているようだ……。

 

 

 

 キャリバン号は順調に走り続けている。

 晴れ渡った空の下、南に向かって進み続けている。何しろ砂漠のどまんなかだし障害物があるわけでもなく、進行を妨げるものも特に無い。

 途中、調査部隊と(おぼ)しきものの近くを通過した。

 かなりハラハラしたんだが、全く問題なかった。

 どうやら本当に彼らのアンテナにはひっかからないようで、視覚的に、つまり肉眼でキャリバン号を見られでもしない限りは問題なさげだな。すばらしい!

「そんなわけで、そろそろランサと遊び……もとい、散歩の約束を果たそうと思うんだが」

「本音隠さなくていいよパパ。んー、進行方向上だと……11時の方向ってあっち?」

「ああ、そっちだな」

 アイリスの指さした方向を見て肯定した。

「あっちに12kmくらいかな。森と小川があるよ。大型モンスターもいないみたいだから、木陰にキャリバン号を止めてご休憩にする?」

「お、いいね。何か食べ物も採れるかな?」

「んー、どうだろうね?」

「その反応からすると、望み薄そう?」

「うん。大型動物もいないからね」

「なるほど」

 小さい動物だと捕まえるのに装備がいるし、そもそも数捕らえなくちゃならなくなってしまう。

 川にしても、小川だと魚介類も泥くささがなかなか取れないとか独自の問題あるしなぁ。

「仕方ないか。まぁ食料は後回しにして、まずはランサに遊ばせようぜ」

「ん、わかった」

 ランサを優先すると、アイリスもなぜか優しい目をして上機嫌になるんだよな。

 ま、そりゃそうか。ランサは可愛いもんな!

 とりあえず、俺はアイリスの示す方向にキャリバン号を走らせた。

 

 

 

「ほほう」

 その地形を見た時、俺は思わず唸ってしまった。

「これ……畑じゃないか?」

「畑?」

「うん。日本の畑みたいだ。すごく似てる」

 なんでこんな所に畑があるんだ?だいぶボロボロになってるけど、区画がしっかりと見えるぞ。

 とりあえずキャリバン号を、あぜ道っぽいところに沿って走らせた。

「これ……もしかして五反畑(ごたんばたけ)じゃないか?」

 正確な単位とか知らないから実際はもっと大きいかもだけど。

 体感的に、高校生の時に手伝いにいった農家の畑とほとんど変わらない気がする。

 実際の広さはよくしらないけど、そこの農家の人たちは畑一枚を五反、二枚で一町(いっちょう)と計算してたんだ。そして畑は基本的に全部そのサイズで区画整理されていたっけ。

 そして、近くを流れる小川は。

「やっぱり……灌漑用の用水路だ」

 キャリバン号が余裕で落っこちる事ができるほどのサイズだけど、断面が見事なU字になっていて、壁面はどう見ても砂利混じりのコンクリートだ。

 これはもしかして。

「アイリス、これって日本人の……つまり異世界人の作ったものじゃないかな。俺にはそう見える」

「……ありうるね」

 センサーと景色を見比べていたアイリスが、ゆっくりと同意した。

「そこの林の向こうに壊れた建物があるみたい。老朽化しすぎてて、いつ壊れてもおかしくないけど」

 ほほう。家かな、納屋かな?

「周囲に危険はあるか?」

「敵意のあるモンスターはいない。

 でもわかってると思うけど、待ち伏せタイプのモンスター、特に虫はわかりにくい事があるから気をつけて。クロモリゴケグモの時みたいにランサが退治できるとは限らないからね」

「うん、わかった」

 まるで作業場のような広場があったので、そこにキャリバン号を停止させた。

 既にランサはドアの前に待機し、しっぽをふりまくっている。

「気をつけるんだぞ?」

「わんっ!」

 扉を開けてやると、ランサは弾かれるように外に飛び出した。

「あんまり遠くいくなよー!」

「わんっ!」

 なんか、すごい速さでぶっとんでいく。やっぱりエネルギー有り余ってたな?

 そんなランサを「おー、すげえ」と見物していると、

「パパ。お散歩って、パパは歩かずに高みの見物する事なの?」

「あー……いやだってさ、あいつの足に追いつけるわけないし。俺は独自にまったり歩けばいいかなーっと」

「……はぁ」

「いや、わかってるって。その小屋とやらも気になるしな。どれ」

 そう言うと、俺も外に出た。

 おっと、ちょっと布袋もっていくか。何か採れるかもだからな。

「アイリスはどうすんだ?」

「新しい子……ルシアと色々調整してるよ。調べたい事もあるから」

「わかった。しかし、あまり無理すんなよ」

「ありがとパパ。パパも気をつけてね」

「おう」

 そんな会話をして、改めて歩き出した。

 

 

 実際にテクテク歩いてみると、そこはやっぱり日本風の畑とあぜ道だった。

「あーでも、こりゃ一年や二年じゃないな……」

 畑はその地形だけが残り、野生に還ろうとしていた。

 ここの住人は最後、きちんと収穫せずに出て行ったのかもしれないな。サツマイモそっくりの芋が野生化して繁茂しているところがあって、俺はそう思った。

「ん?」

 なんか今、左手がピクッてなったぞ。

 手を出してみると、ブレスレットになってる例のアレがフニフニとツルを伸ばしている。何かを伝えようとしている気がする。

「何か伝えたいならしゃべればどうだ?しゃべれるんだろ?」

『無理』

「いや、今しゃべったじゃん。俺の頭に直接っぽいけど」

『単語、無理』

 いや、さっぱりわからんから。

 ……いや、まてよ、もしかして?

「あー……もしかして、ちゃんと文になるような会話ができない?」

『ィエス』

 ははぁ、そういうことか。

「問題はわかった。で、要望は何?」

 わざわざ動き出したんだ。何か伝えたいんじゃないか?

 そしたら、

『我、解析』

「よくわからんが……ん、まてよ解析?」

 目の前には、野生化したっぽいサツマイモ。

 もしかして……?

「おまえ、この野生化したイモっぽいの解析できるってか?」

『可能』

「おお。ちょっと、やってみてくれるか?」

『おけ』

 そう言うと、ブレスレットからツルがひょいっと伸ばして、イモっぽいのを突っついて調べ始めた。

 すると、

「お」

 いきなり脳裏に、何か情報が出てきた。

 

 

『サツマイモ』

 日本産のサツマイモである。日本人が持ち込んだものと思われる。

 品種がよくわからないが、半野生化すらしている事すらすると、いわゆるF1種ではないだろう。この世界にないイモなので取り扱い注意だが、普通に食べられる。

 

 

 おおすげえ!

 ああ、F1っていうのは一代雑種だと思えばいい。農産物には最近増えてるんだけど、F1種にはひとつだけ問題がある。

 すなわち、一代雑種なので、種をとってもその種から育つのは別モノだったり、下手すると育たないって事だ。このイモは半野生化しているようなので、こっちの心配はないとの事。

「よし、ちょっともらうか」

 また来る事もありうるし、全部もらっていってダメにしちまったら悲しすぎる。とりあえず一つだけもらっていって、よさげなら後でキャリバン号でとりにこよう。

 ひとつだけ引き抜くと蜘蛛脚ナイフでツルを切り落とし、布袋にイモを詰めた。

「あ、そうか」

 子供の頃の記憶がそのとき、蘇った。

「確かサツマイモって、ツルだけ植えてもそこから伸びるくらい強かったっけ」

 もしかしたら役立つかもしれないと、ツルも少しもらってみた。といっても畑どころか鉢植えすらない流浪の身だから、無意味に枯らしてしまうかもだけどな。

「さて」

 小屋に向かって歩いてみよう。

 

 

 休耕していたらしい畑は、すさまじい勢いで野生化が進んでいるっぽい。

 セイタカアワダチソウっぽい背の高い草が遠くに並んでいるのが見えて、俺はちょっといやな気分になった。こっちにもあるんだな、セイタカアワダチソウ。

 この草に罪はないけど……なんていうか、この巨大さがどうにもキモいんだよな。デカい野生種に対する本質的な不安感をそそるというか。

「広いな」

 走ってきた時は思わなかったが、ここかなり広いぞ。

 まぁ、一枚が五反として……おそらく四町かそこいらはあるよな。用水路も一本じゃないみたいだし。

 どんなヤツが耕してたんだろうなぁ。

 日本人だとしたら、たぶん農家の人だと思うが。

 あまりにも区画がキレイすぎるし、用水路も本格的すぎる。魔法か何かで加速したとしても、ここまで本格的にやるのは素人じゃないと思う。

 そんなこんなを散策していたら、

「お」

 小屋発見。

 納屋かと思ったが、これは民家じゃないか?えらいボロボロだけど、ちゃんと家に見えるぞ。

 近づいてみると……。

「あ」

 木に彫り込んだ表札が見える。日本語だ。

 どれ、これは何て書いてあるんだ?

『村上』

 完璧間違いない、日本人だ。

 何年前かしらないが、おそらくほんの数年前まで、ここに日本人がいたんだな……。

「中は……入れないよな」

 今にも崩れそうだし、こんな廃屋にのうのうと入れるほど怖いもの知らずじゃない。

「うん。とりあえず帰るかな」

 そう思い、足を踏みだそうとした時、

 

 それは起こった。


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