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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
3/180

釣り

2014/09/17: コンロまわりをわかりやすく書き換え。

2014/09/17: シガテラ毒の記述を削除、毒魚の項目を簡素化。

2015/08/08: コンロ名が間違っていたので書き換え(アルコールコンロではありませんでした)

 さて。川べりに無事着いた事だし、次にやるべきは食料調達である。

 まわりには店どころか人工物自体が皆無。タブレットの地図表示を見ると、一番近い町まででも320kmというデータが出ていた。そこまでは街道が一本あるだけで、川も何もないようだ。

 となると、そこまで乾パンとお茶で乗り切るわけにはいかない。さっそく始めよう。

 まずはタブレット。索敵みたいなモードがあるのなら警戒モードもあるかと思えば案の定、警戒モードがあった。

「やばそうなのが来たら警報出してよっと。なになに?警告対象?」

 とりあえず、自分以外の全ての生き物で警報を出すようにセット。それからキャンプ用の装備に着替えた。

 アーミールックなのがちょっと恥ずかしいが、濡れても乾きやすく、そして怪我しにくいものだ。そしてキャンプ用ナイフ、それにナタを装備した。

 え?どうしてナタかって?

 そりゃあ、ファンタジーめいた武器とか持ってないし。うちの一番大きな刃物がナタだからね、仕方ない。

 さて、『どこでもコーヒーセット』を持ってキャリバン号を出て、川面(かわも)に近づく。

 何か変な生き物、いない。水は……綺麗そうだな。

 セットをあける。

 この『どこでもコーヒーセット』というのは俺のオリジナルで、某社の登山用金属カップとジッポオイルで動く携帯コンロを俺が組み合わせただけのお手軽セットだ。要はちっちゃくまとめた火とカップのセットで、車だろうとバイクだろうと持ち歩けるものだ。火力が弱いけどコーヒー一杯くらいなら何とかなるし、ジッポオイルなら大抵どこでも手に入る。最悪、臭うからイヤだけどベンジンでも動くしな。

 いやま、それはいい。

 カップに水を少しすくいあげ、コンロに火をいれる。そのまま周囲を気にしつつ、お湯を沸かしてみる。

 で、川の中を見物する。

「なんかいるな」

 微細な生き物がいるようだ。という事は、まぁ鉱物系のやばい毒とかはないと思うんだが。

 大きな生き物はキャリバン号のセンサーにもかかっていた。

 だけどああいうのは水質が悪くても空気呼吸で生きている場合があるので、水質評価の参考にはならない。実際、日本などでもいくつかの魚は肺呼吸を行ったり、とても飲めないような汚れた水にも住むからな。

「む、湧いたかな」

 火をとめた。

 カップを手にとり、ニオイを嗅いでみた。んー、特にニオイ等はなしか。

 ちょろっと飲んでみた。

「……とりあえず汲んでおくか」

 最悪でも、あとでポリタン洗浄すりゃいいだろ。

 よし、決めた。

 ポリタンをもってきて、ごみ等をいれないようにしながら水を満たした。安全そうなとこで一度煮沸(しゃふつ)したいなぁ。

 さて。じゃあ、ボトルにもいれとくか。

 コーヒーセットを収納する。

 代わりにポリタン、金属ボトル、それから鍋とガスコンロを出してきた。このボトルは魔法瓶みたいな構造になっていて、熱湯でも入れられる。ガスコンロはご家庭用のボンベを使うが、もうちょっと作りのしっかりしたヤツだ。

 鍋に水をはり、ガスに火をいれた。

 と、そんな時だった。

「!」

 運転席の方でピッという音がした。タブレットだろう。

 あわてて駆け寄ってチェックしてみる。

「生き物注意?ああなるほど」

 警報セットの距離にはまだ遠いが、警戒範囲に大型動物がいるって事か。

 キャリバン号のドアをしめて、ルーフから顔を出してみた。

「あっちかな?んー」

 こういう時、オペラグラスとかないのが間抜けだよな。あればいいんだが。

 んー、キャリバン号みたいに「双眼鏡こいこい」って願ったらポンッと現れたりして。さすがにそれはないか。

 見えないのでは仕方ない。

 一度引っ込むとルーフをしめ、タブレット画面でチェックしてみる事にした。

「種別……ああ何かあるな。ルルーン?」

 何か辞書みたいなのがあるようなので、チェックしてみた。

『ルルーンとは現地名で直訳するとツノシカ。ケラーナ大陸でよく見かけるタイプの鹿である』

 ああ鹿ね。ふむ、なるほど。

『ルルーンは人間を襲わないが好奇心旺盛でよく人間に近寄ってくる。基本的に無害なので、ルルーンを狩って食料にしたいのでない限り、放置しておいても問題ない。

 ただし、あくまで相手は野生動物という事を念頭に置いてほしい。

 また、たまに人間狙いの魔物がルルーンをあえて放置している事がある。ルルーンに警戒心を解いた人間に不意打ちを仕掛けるのが目的であり、特にあなたが一人でいる場合は注意するに越した事はない』

 なるほど。

 まぁ、鹿せんべい持ってるわけじゃなし。食い物がないとわかれば寄ってこないだろう。

 だけどキャリバン号を漁られたらちょっと困るな。開けっ放しだけは絶対しないようにしよう。

 

 

 しばらくの時間がたった。

 水を確保した俺はだんだん気が大きくなり、結局はポリタンの水も全部、鍋で煮沸してしまった。さらに保存用味噌汁パックが見つかったので、これと乾パンで軽い朝食までとった。

 で、いよいよタンパク質確保って事で、折りたたみ椅子を出して本格的に釣りと洒落込む事にした。

 もちろん警報はすぐに聞こえるようにしてあるし、本気でやばいならすぐ逃げるつもりだ。しかし、ビクビクしながら水確保ー、エサ確保って、ちょっとねえ。そもそも作業がすすまないし。

 そんなわけで、釣りである。

「ふむ、とりあえずあの辺に投げ込んでみるか」

 ひゅんひゅん、ぽとん。

 いつも思うが、エサつけて投釣りって迫力ないよな。まぁ、おもちゃみたいな竿にエサつけて落とすだけだし、当たり前だけどな。

 はっきりいって、こんな装備じゃよほどの田舎じゃないとまともに釣れない。だからこのセットは基本的に、チャンスがあったら使ってみよう的なオモチャとして積んであったものだったりする。

 そのはずなんだけど。

「お」

 なんだ、いきなり根がかり(※:何かに針がひっかかって取れなくなる事)か?

「いや、これ、まさか」

 違うぞこれ、何か食いついてる!

 何かに針がひっかかったなら、じっと動かない、もしくは川にそってゆっくり流れたりするはずだ。

 でもこれは違う。ビチビチと暴れまわってる感じがする。

「ぬ、ぬぬぬぬ……」

 魚に逆らわぬよう、じりじりと巻き上げていく。ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり……。

「いかんな」

 リールが力負けしそうだ。デカいぞこいつ。

「来た、あれか!」

 水面近くに見えてきた魚は……おお、やはり結構デカい!それにまともな魚じゃないか!

 でも、これじゃあまともに戦ったら竿かリールがもたんな。

 あ、でも。

「……ふむ」

 少し考えた俺は、竿を押さえたまま周囲を見渡した。

「チッ、作業手袋は車ン中か。仕方ない、走るぞ」

 巻き上げつつも岸に向かって走った。

 そして魚が陸にあげられ、跳ねまわっている事を確認すると、すぐさまキャリバン号に戻り、大型ナイフと危険作業用の作業手袋、それからラジオペンチをとりだした。

「本当は胴付きも着るべきだろうけど……まぁいっか」

 そして、その足で魚の方にとって返した。

 魚は、川魚なのにカサゴとか、あの手の海の魚にちょっと似ていた。どこかトゲトゲくさいっていうか。

「ようし、針を外してシメるぞと……うわっ!」

 ち、やっぱりか。ヒレまわりがトゲだらけじゃないか!

 こんなん刺さるだけでも痛いけど、毒もってると厄介だからな。

 いやぁ、魚体見た瞬間に嫌な予感したんだけどさ。安全装備必須だな、慎重にいかねえと。

 ここだろうってとこにヤマカンでナイフを差し込み、魚を殺す。あとでチェックするつもりでスマホの写真をとると、なぜかキャリバン号の方からポーンと電子音がした。

「なんだ?」

 あ、もしかしてLAN生きてるのか?

 一時期パソコンも持ち込んでいたので、キャリバン号は無線LANルーターが組み込まれている。接続先のキャリアが存在しないので無線LANも当然、止まってるかと思ってたんだけど、ローカルだけで生きてたって事か?

 すると、タブレットの方に写真が取り込まれたはずだけど……どれどれ。

「お」

 ちゃんと転送されてる。ついでに画像から検索まで終わってら。

 画像検索で、ここぞと思われる魚が何匹かヒットしていた。写真が全くないのが残念だけど、なんか昔の医学本みたいなイラストつきで紹介されている。この世界の誰かが書いたものって事か?

『クロコ・クマロ。海の魚だが淡水への耐性が強く、かなり内陸の湖までさかのぼっている事がある。雑食性だが特に甲殻類を好んで食べるため蟹食い(クロコ・クマロ)の名で知られる。雑食性にしては美味であり、好まれる』

 あ、やっぱり淡水オーケーな海の魚なんだ。

『注意点としては、彼らの系統種族は全てヒレに毒を持っている事。クロコ・クマロの毒性は時代と共に衰えているという指摘もあるが、今でも充分に有毒である。捕獲時と食べる時は、ヒレのトゲに注意すべし』

 ほう。手袋をとりにいったのは正解だったな。

 さて。

 もう少しと竿をたれて、結局全部で二尾のクロコ・クマロが採れた。小さめの鯉ほどもあるので、結構いい量だ。

 もっと採ってもいいんだけど冷蔵庫がないんで、食べる用に少しとり、残りは開いて干物にしよう。

 まず、干物作戦を開始。

 干物用のカゴがあれば話が早いんだけど、そんな便利なものはない。代わりに屋根の上の荷台にハンモックを広げ、間に広げたクロコ・クマロを並べる。

 二尾全部は無理か。

 それでも何とか一尾と半身を並べると固定。

 うん、これで走行中にちゃんと干物になってくれると思うがな。

 普通のドライブだったらこんな無茶はしない。というか、こんな方法じゃ食える干物なんて無理だろう。

 だけど、今のキャリバン号はたぶん、排気ガスが出てない。

 おまけに全然揺れないわけだけど、昨夜の感じだと荷台が風を切る音はちゃんとしてたわけで。

 だったら、風対策さえすれば干せると思うんだよな。ま、一時間くらいゆっくり走って様子を見るが。

「さて」

 食べる部分の魚をさらに半分にし、片方はビニールにいれて仕舞っておく。夕食までくらいなら保つだろ。

 んで、余計な荷物を全部仕舞ってからいよいよ、焼き魚の始まりだ。

 俺は魚好きなんで、魚を両面から焼けるように挟める焼き網を持っているのだ、ふふん。

 うーむ、しかし異世界の魚か。不謹慎だが、どんな味がするのか気になるもんがあるな。

「……ふむ」

 おお、いいニオイがしてきたぜ、くぅぅぅ!

 だけど。

「!」

 ま、当然といえば当然か。

 うまそうなニオイが出てきた途端、キャリバン号から警報が鳴り響いたわけで。

 とりあえず魚は放置し、キャリバン号に飛び込む。

 ドアを閉めてタブレットを見ると、そこには……。

「げ、マジかよ」

 狼かなこれは?おびただしい群れが近くにいるらしい。

 センサー上の距離を確認すると、車を出て魚に戻る。

 すぐに火を消すと焼き網を左手、コンロをタンクごと右手で確保。ちくしょう、鍋でなくてよかったぜマジで。

 車に戻ったところで、すぐ近くで気配が動いた。やべえ!

 まだ熱いコンロと網を助手席に投げ込み、そのまま自分も飛び込んだ。ワンワン、ガウガウという声が周囲で響き渡り、ドアを閉じた次の瞬間、何かがキャリバン号にドン、ドンとぶつかる。

 ああああ、危ねえっっっっ!!!

 助手席には、ダッシュボード用の断熱マットをかけてあった。

 作業手袋をしてまだ熱いガスコンロをボンベとコンロに分離、そのまま助手席のフロアに転がした。いいニオイのしている焼き魚も同様だけど、こっちは下にビニールを敷しておく。商用車だから掃除はいらんが、サビ対策は後でしとかないとな。

「お」

 そうこうしているうちに、周囲は狼だらけになってきた。

 うわぁ、で、でけえ!

 つーか怖ぇ!

 いや、考えてほしい。狼なんだけどさ、これもう狼のサイズじゃねえよ!虎くらいあるだろオイ!

 それがいっぱい、このちっぽけなキャリバン号のまわりを取り巻いてるんだぜ?マジで怖ぇよ!

 と、とりあえず、

「エンジン始動、ここから離れるぞ!」

 その瞬間、キャリバン号が激しく胴震いした。まるで俺の意思に答えるかのように。

「お?」

 未知の挙動に驚いたんだろうか?狼たちが一気にキャリバン号から離れた。

 よ、よし、このままぶっちぎるぞ。

 椅子に座り直し、シートベルトをつけた。いつもの習慣で、足やら手やらをちゃんと確認する。

「おけ。いくぞぉっ!」

 アクセルを踏み込み、発進した。

『ギャウっ!』

 なんか一頭ばかりハネてしまったようだが、確認していられない。今は走る!

 たまたま目の前に見えていた土手の切れ目にそのまま突っ込む。向こうが普通に平原である事に一瞬ホッとし、そしてアクセルをおもいっきり踏み込む。

「うぉっ!?」

 その瞬間、俺はこのキャリバン号が「ポンコツなのは見た目だけ」なのをハッキリと自覚したのだけど、

「って、うわ、ちょっ、怖っ!」

 うわ、なんかボディがすんげえ胴鳴りしてますよ?ビリビリ言いまくってますよ?

 な、なんか分解しそうな感じで!

 スピードメーターは……げ、120km/h超えてるし!?

 あぶねえ、減速だ減速!

 少したつと、たぶん昨夜の巡航速度に毛が生えたくらいにようやく落ち着いた。

「あぶねえ……やっぱりポンコツはポンコツかぁ」

 はぁ。だがまぁ、それでいいとも俺は思った。

 かりに、この姿のままでオーバー200km/h出るようになったとしても、逆にたぶん俺が困る。そんなもん扱いきれなくて、どっかで大失敗やらかす気がするからな。

「ふむ。まずは、あいつらをきっちり巻いてから、今度こそメシにするか」

 背後には狼どもの姿は見えない。

 だけどタブレットのセンサーの方にはしっかりと、黙々とこっちを追いかけている狼どもが写っているわけで。

 そう、こういうのが一番怖いんだよな。最高速でいくら勝てても、向こうがこっちを捕捉し続けている限りは逃げ切れないんだ。やれやれ。

「ふむ」

 運転しつつ、ちょっと傍らに起きっぱなしの焼き網に指を突っこんだ。

 魚の一部をつまみ、口に運んでみる。

「……おお、いいじゃん。早く食いてぇ」

 もうちょっと行ったら、見晴らしのいいとこにでもシケ込むかな?できれば川の対岸とか湖の中州でな。

 うん。

 

 

 

 だがこの日は結局、あと二回ほど逃げ出すハメになったのだった……。

 ちくしょう。静かに食わせてくれよもう。


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