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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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最終話『未来へ』[2]

 一緒に活動するようになって、俺とオルガの距離はいろんな意味で近くなった。

 当初、俺たちは定期的に会合するものの別行動にする事を考えていた。何しろオルガは本職の研究者だし、俺は探索好きとはいえ結局はアマチュアだからな。邪魔するのは悪いと思っていたからな。

 無理に一緒に動こうとしたら、現実問題としてまずいだろうと。

 ところが蓋を開けてみると、予想とはずいぶんと事情が違ったんだよな。

 ま、その事で首をかしげていたら……まぁ、こんな会話があったんだよな。

『研究そのものはともかく、サイカ嬢からの依頼があるからねえ。それも、新しくきた仕事が君がいる事を前提にしたものばかりね。

 どうしても君ひとり、私ひとりでやりたい事があるなら別だけど、そうでないなら共にいるほうがいいだろう』

 なんだかなぁ。

『でもオルガ、それで大丈夫なのか?』

 本来の研究に支障が出たりはしないのか?

『現状それを言いたいのは私の方なんだけどねえ。

 君とキャリバン号、アイリス嬢たちのチームは本当に魅力的なんだ。輸送にしろ移動にしろ、これ以上のものはこの世界には存在しないといっていい。

 君がいいというのなら、私は私が研究者である限り、半永久的にでも手伝ってほしいんだけどねえ?』

 ずいぶんと高く買ってくれてるんだな。

『いや、手伝えっていうのなら手伝うぞ?何しろ定職についてるわけじゃないしな』

 まぁ、時々休みは欲しいけどな。探索(あそびにいく)的な意味で。

 はっきりいえば、住所不定無職が単なる無職になっただけだからな。まぁ不定期に小さな仕事をしているわけなんで、自由業という見方もあるわけだけど。

 これで出歩かなかったらニートとどこが違うんだ?

 しかも、その住むところというのもオルガの家に居候状態なわけだし?

 これでご両親が健在だったら、婿養子状態だぜ俺。

 いや、仕事してないんだから娘を食っちゃった居候バカ?

 それどころか……昭和な言い方をしたらヒモ?

 うわぁ、やばい。

 俺がそんな事考えていると、なぜかオルガはためいきをついた。

『ハチ。君はもう少し自分の価値を知るべきだろうねえ』

『俺の価値?』

『どうも君は「力」を中心にモノを考える傾向があるようだねえ。だけど、そもそも人間の価値とは「力」で測るものではないだろう?』

『えっと、まぁ、それは確かに』

 何を言いたい?

『ハチ、きみらは間違いなく超一流チート集団だよ。

 そしてそれは物理的な戦闘力でもないし、圧倒的な経済力でもない。もちろん異世界人としてのユニークさはあるけれど、それもきみらの真価ではない。

 だって、君らの真の価値は移動とか探求とか、そちらの分野に限りなく特化しているんだからね』

 オルガはそういうと、クッククと楽しげに笑った。

『断言しよう、君は探求者、それも超のつく一流のスペシャリストだよ。きみらに行けない場所ならば、おそらくこの世界の人族にたどり着ける者はいないだろう。誰もね』

『そうか?』

 キャリバン号は確かに素晴らしいが、クルマには違いない。空も飛べないし海も船にはかなわないぞ。

 でも、そういうとオルガは苦笑した。

「ハチ。君はあのナウハリスチューブシステムを使って魔族の領域に移動してきたよねえ?」

「ああ」

「東大陸側の駅を覚えているだろう?こちらがわと違って入り口が地上に開口していない。あれがどういう意味か知っているかねえ?」

「いや」

 そういえばそうだな。通路すらもなくて、本当に地下に唐突にあの設備はあった。

 なぜだ?

「あのシステムはね、輸送システムとしては大昔に閉鎖されているのさ。現在も生きているのはただひとつ……正式名称がよくわからないのだけど、いわば惑星核動力システムというべきものがあるんだが……それのためなんだねえ?」

 惑星核動力?

「よくわからないけど……この星の中心部からエネルギーをとっているという事か?」

 おいおい、あぶねえ事やってんな。ダイソン球とどこが違うってんだよそれ。

「危険性が気になるかねえ?」

「ちょっとな」

 さすがに俺の表情を読んだのだろう。オルガは苦笑いした。

「まぁ、当時の人々もそう思ったようだねえ。だからこそ、政治的な理由でナウハリスチューブに手をつけられそうになった時、封印を施したようなんだねえ。

 それも、単に封鎖するようなレベルの話ではなくてね。

 彼らの技術でも絶対に突破できないよう、原子崩壊……君らの世界の言葉でいう核攻撃でも破壊できない外壁で包み込んでしまったのさ」

「なるほど……ってちょっとまて。中を稼働させたままか?」

「もちろんだねえ」

「いや、もちろんっておまえ……」

 一種のモスボールってのはわかるけど、中を動かしたまま封印したってのか?

 なんとまあ。何考えてんだか。

 ん、いやちょっと待て。

「しかし、魔族領側は出入りできるじゃないか?」

「あれは魔族の研究者の成果だねえ。

 しかし、魔族的にもあれは大物で危険すぎるんで、内側に特殊な措置を施してあるんだねえ」

「特殊な措置?」

「ひとことでいえば、まず魔力の少ない者は通過できない結界があるねえ。でもそれだけではなく、一種の悪意結界も何重にも施してあるのだねえ。それこそ執拗にねえ」

「へえ。なんでまた?」

「なに、簡単なんだねえ」

 にこにことオルガは笑う。なんか毒のある笑いだけどな。

「私たち研究者は、のんびりとアレの解析を続けたかったんだけどねえ。

 ナウハリスチューブに到達できた話が広がった途端に、いろんな勢力が無遠慮に入り込んできて、私たち研究者に好き放題の圧力をかけはじめたのだねえ」

「あー……そういう事か」

 のんびりと研究していたい人たちに、バカが国やら金やらしょって群がったわけだ。

「そりゃまぁ、研究者以外入れないようにするよな。鬱陶(うっとう)しいもんな。でも、じゃあ俺たちはなぜ無事だったんだ?」

「まず第一に、ハチ一行は単なる乗客と認定されただろうねえ。封鎖されて以来、あれを乗客として普通に利用する者などいるわけがないから、乗客は排除対象にしてないのだからね。

 しかし、もっと大きな理由はたぶん、東大陸側から入ったからだねえ。わざわざあっちから入ってくる存在がいるなんて、そんな頭のおかしい存在にまで対応していないのだねえ」

「ひでえなもう」

 俺たちは顔を見合わせて、笑った。

「話を戻すけどねえ。

 東大陸側からナウハリスチューブの中に到達するだけでも驚異的なのに、穴を開けるでもなく、中を破壊する事すらもなく、普通に乗客として中を利用しただけ。

 これが何を意味するかわかっているかねえ?

 かけてもいい。

 よだれをたらして君を欲しがる勢力が、この世界にどれだけ居ることか。

 君は、それほどの存在という事なのだねえ」

 そうなのか。

 むむっとうなっていると、オルガは「やれやれ」と言わんばかりにまた苦笑した。

「まぁいい。君がいいというのならありがたいことだ。私は君をプライベートだけでなく、仕事でも絶対に逃がさないぞ。いいね?」

「あ、ああ」

 

 

 ……とまぁ、そんな事があったりしたんだよな。

 まぁ、言わんとする事はわかる。

 凄いのは俺じゃなくてキャリバン号でありアイリスたちなんだけど、でもまぁ司令塔かつ中心が俺であるのは間違いないわけで。

 だからこそ、こんな俺でも必要としてくれるってわけだな、つまり。

 ただ、そう俺がいうと『まぁ、それでいいよ』なんて半分あきらめたように言われたけど……なんなんだろうな。

 さて。

 そんなわけでまぁ、夫唱婦随(ふしょうふずい)でなく逆の立場なんだけど、これは問題ないだろう。繰り返すけどオルガはプロの学者だし、俺はどちらかというとアマチュアだ。当然、役目がどうなるかは言うまでもないよな。

 そんなわけで、話は戻る。

 え?どこまで戻るのかって?

 それゃ決まってる、例のコンビニの調査さ。

 

 

 オルガの研究は各地の魔法や魔導機械の類を調査したり比較したりする事でもあった。だから魔法陣はともかく異世界の遺物そのものには関心がないんじゃないかと思ったのだけど。

 コンビニに並んでいる商品の山は、彼女にとって研究者以前の興味をそそりまくったらしい。

「すばらしい!」

 そういってオルガはひどくゴキゲンだった。

「まず、商品のユニークさや豊富さが素晴らしい。まさに驚異的だ。どれだけモノに溢れているのかっていのうのがよくわかるじゃないか!」

「モノに溢れている?」

「ふふふ、さすが元住人だねえ、さすがの君も自覚できないか」

 ウンウンとなぜか納得げにうなずくと、オルガは苦笑した。そして、お菓子のコーナーに移動した。

「見たまえ。ここにチョコレート菓子があるわけだが……君の話ではここも、これも、これもチョコレート菓子なのだろう?」

「あ、それもだぞ。チョコに見えないだうけどその棚も全部チョコだ」

 抹茶味やイチゴミルクがチョコレートに見えないらしい。無理もないけどさ。

「確かにチョコレートならこの世界でも生産している。チョコレート菓子も作られているし、バリエーションも結構できつつある。

 しかし、こんな小さな店に並んでいるこの菓子類だけで、おそらくこの世界に売られているチョコレート菓子の全種類を軽く凌駕(りょうが)するだろうね。

 これは単にモノが豊かなだけではない。その次の段階にある証拠だろう」

「その次の段階?」

「モノがある事を前提にして、それが当たり前の状態で発展しているって事だねえ。

 だからこそ根本的に発想が違う。

 異世界であるとか、そういう事だけではない。物流そのもののフェイズが異なっているというわけさ」

 そういうとオルガは、面白そうに箱のひとつを手にとった。

「たとえばこれだ。

 なんでチョコレートでわざわざキノコを作るんだ?しかも茎の部分はスナック菓子で、手触りなんかも考慮されているというのだろう?

 こんな菓子がしかも君が子供の頃から売られているロングセラーで、子供のお小遣いで当たり前に買えるなんて。

 それが当たり前の社会だなんて。

 いやはや、まさに異世界だな。想像を絶するものがある」

 いやいや。

 俺の方こそ『キノコ○山』を片手にそこまで熱弁する学者さんは初めて見たんだが?

 しかし『タケノコ○里』でなく『キノコ○山』を真っ先に手にとったのは何か理由があるのか?

「そういや、缶飲料や即席ラーメンの類は実用化されてんだって?」

「過去の異世界人が広めたというのもあるけど、そもそも、この手の食料品は昔からたくさん転移してきていたからねえ」

「なるほど」

 うん、実はそうらしい。

 保存食といえばこの世界でも乾燥もの、燻製ものが定番だったらしいんだけど、いろんな転移物に混じって昔から即席ラーメンとか缶詰も落ちてきていたらしい。

 特に即席ラーメン類は商人が、缶詰はむしろ鍛冶師が興味をもったとか。

 まぁカップラはパッケージが破れたりして実用化が難しかったらしいけど、そもそもこっちは生活魔法レベルのものは人間族にも普及しているから、出先での煮炊きは簡単だったらしい。よって、少量のお湯で戻したり温める事を前提にした保存食が、これらの地球製保存食を参考に急激な発達を遂げたらしいんだな。

 なるほどなぁ。

「まぁ、こうしたモノに対する感覚ひとつとっても実に面白い。この『みっく○ゅじゅーちゅ』ってのはいったい何だい?」

 あ、三ガリア。

「もちろんミックスジュースの事だが?」

 この手のおもしろジュースも好きなんだよな。ベルミーコーヒーとか○ッ○ールも昔から知ってたし。

 そういや、全然余談なんだけどね。

 実はコンビニの説明をする時、電子マネーについてどう説明しようかと思ってたんだよね。このコンビニにもあったからさ。

 でも、なんとオルガは電子マネーを知ってた。それどころか驚きもしなかった。

 それも単にオルガが天才だからという意味ではなくて。

「ん?何だい?」

「いや。オルガが電子マネーを知っていた件について、ちょっと思うところがあったからね」

 ああそれか、とオルガは微笑んだ。

「そんなに驚く事かねえ?要するに信用取引の一種だろう?」

「それはそうなんだが」

 いやぁ、ちょっとここは驚きだったんだよな。

 実は魔族の領域に限らずこの世界、既に一部の国ではクレジット社会に突入していたんだよ。

 

 でもまぁ、言われてみればそうなんだよな。

 たとえば江戸時代の日本でも、払いはその場でなく記録しておいて、盆と暮れにまとめて請求っていうのがよくあったそうだよ。いちいち大量の貨幣を持ち歩いておつりを払ったりというのが大変だった事もあり、へたにいきなり現金を出すと嫌がられる業種もあったらしい。後で治療費を合算する事の多い医者とか、生活必需品をこまごまと届けてくれる商店の支払いなんかがそれだったそうだ。

 つまりそれは信用取引なわけだけど。

 なるほど。

 江戸時代の日本も、そういう意味じゃクレジット社会といえたかもしれないな。

 

 いやはや、どこでも人間変わらないもんだわ、本当に。

 

「言っておくけど、技術については面白いと思うよ?特に携帯端末が素晴らしい。伝声石の機能にはじまり様々なものを小さな板に凝縮し、さらにそれがおもちゃのごとく広く普及しているなんてね。それを使って信用取引もできるっていうのが素晴らしいじゃないか。

 まぁ、それほどにも経済が発達しているからこそ、でもあるだろうけどね」

 そりゃそうだ。

 この世界でいきなりお財布ケータイやろうとしても、それほども需要があるわけないもんな。

 

 まぁこんな風にオルガ的にも大喜びだったみたいなんだが、問題は別にあった。

 特にひどかったのは。

「それにしても……これはちょっと」

「確かにそうだねえ」

 そう。

 コンビニ本体はよかったんだ。

 魔法陣の周囲に残されていた研究資料を調べ始めたんだけど、こっちはちょっと問題だった。データを見て嘆くアイリスに、さすがのオルガも否定しなかった。

 記録によると、コンビニは少なくとも二百年は前にこの場に『召喚』されており、ここにいた研究者はこの場で死亡するまで、好き放題に研究をしていたらしい事が資料から推測できた。

 そう。つまり俺はそのとばっちりを食ったという事らしいんだよな。

 でも問題はそれだけじゃない。

 ここにいたヤツ、悪い意味でも研究者だったらしくてな。

 当時、人間もコンビニの店員を含め八人ほどいたらしい。だけど研究者は人間には興味がなかったようで、隷属の首輪をはめてから時間凍結を解除すると、くまなく記録をとってから全員普通に売り払って研究費にあてたらしい。

 すげーな、異世界人は普通に品物扱いかよ。差別以前の問題だな。

 しかし、全部売っぱらったっていうのがまた。誰ひとりとして自分で使おうとかしなかったんだな。

「確か店員に、若いねーちゃんとは言わないけど近所の若奥さんみたいな人もいたと思うんだけどなぁ」

 アイリスによると研究者の遺体は男のものらしい。異世界の女に興味はなかったのかな?

 そういうとオルガが苦笑した。

「研究対象をつまみ食いしていたら、そいつは三流以下だろうねえ」

「そりゃそうだろうけど、人間は専門外だったんだろこいつ?」

「いや、おそらくはマーケット経由で異世界人を求める研究者に売ったんだろうねえ。大儲けにはならないけど、それが一番面倒がないはずだからねえ」

 あーなるほど、そういうもんか。

 非人道的じゃねえかと思うけど、売り払われた者はおそらく自由がないだけで、別に危害を加えられたりはしてないだろうって話だった。

「人間族国家の手に渡った場合は別だけどねえ。でも魔族のマーケットは基本的に、そっちとは交流がないからねえ」

「そうなのか?」

 なんか、人を売るなんてと思ったけど色々と考えてはいるんだな。

 でも、そんな事を思っているとアイリスのツッコミがきた。

「パパ、オルガさんが指名手配される原因になったひとつには、そういう慣習や禁令を平気で破りまくる人だからっていうのもあったんだよね」

「ダメじゃん」

 俺とアイリスがちらっと目を向けると、いやいやとオルガが弁解しはじめた。

「まてまてアイリス嬢、ハチもきいてくれ。私は研究こそ第一ではあるが、もちろん人道的な問題も……」

「それ考慮するようになったの最近だよね?パパに接近するようになってきてから?」

「……」

「図星?」

 ここぞとばかりにオルガを責め始めたアイリスに、ちょっと俺はためいきをついた。

「まぁまてアイリス、オルガをそんな責めるな。オルガの言う事も一理あるし、それに過去は過去、今は今だ」

 実際、今はちゃんと配慮するようになったんだからいいだろう?

 俺がそういうと、嬉しそうにオルガはうなずいた。

「うんうん、まったくその通りだよねえ」

「それでオルガ、いいけど本当に自重してる?」

 俺が切り返したので、むむっと少し眉を寄せるオルガ。

「オルガがちゃんと考えてくれてるのは知ってるけど、アイリスの指摘ももっともではあるんだ。判断に困る時はどんどん俺を巻き込んでもいいから、ちゃんと考えてやってくれよ?」

「うむ、もちろんわかっているとも」

 アイリスだけでなくオルガにも釘をさすのを忘れない。

 思うんだけど、どうやら女性というのはなるべく公平に扱うべきらしい。たとえそれが理不尽でもな。

 そしてウチの場合、こうやって両方ともやんわりと攻めておくと、うまくいくみたいだ。

 

 

 そんな会話をしているうちに時間は過ぎていく。

「パパ、オルガさんも。そろそろいい時間だよ。戻るの?野営するの?」

「明日の予定は確か……近いのか」

「このあたりはトンネル密集地帯だからねえ。これのデータももう少しとっておきたいし。ハチ、できれば野営しないかねえ?」

「わかった。だけどこの中じゃ寝ないぞ?」

「そりゃもちろんだねえ」

 このトンネルは全体が貴重な資料だ。俺たち自身でもう少し調べるにしろ、他の研究者がくるにせよ。荒らすべきじゃないだろう。

 というわけで、煮炊きは外。

「よーし引き上げるぞ、みんな乗り込めー」

「はーい」

「わんっ!」

「オン」

「あい」

「ササヒメ、ちょっとよけておくれねえ」

 みんな次々にキャリバン号に乗り込んでいく。

 しかし、キャリバン号も乗員が増えてずいぶんと賑やかになったもんだなぁ。あの頃の、ひとりぼっちの寂しさが嘘みたいだよ。

「よーし乗ったか?」

「うん、いいよー」

「よし、キャリバン号始動!」

 その瞬間、いつものようにブルルと動き始める我らがキャリバン号。

 そんなこんななのだけど。

「ん?」

 なぜか運転席を見て不思議そうな顔をするオルガ。

「どうした?」

「いや……今朝はバタバタしていて気づかなかったけど、運転席まわりが広くなってないかねえ?」

 ああ、その事か。

「ササヒメとオルガが乗員に加わっただろ?それに対応してキャリバン号も少し広くなったのさ」

「ほう。そんな事可能なのかい?」

「普通は無理だな。でもこいつは普通じゃないからな」

 何しろ以前、幼稚園バスをまるごと中に取り込んでるからな。

 あまり大きくなる事を俺が望まなかったから昔の軽規格サイズのままだったけど、マイが来てから後ろのスペースが実は広くなっているように、内部的には少しずつ大きくなってきてるんだよな。

 まぁ、幼稚園バスサイズになっちまったら俺が困るから、これ以上は広がらないと思うけども。

「ま、いこうぜ」

「ああ」

 そんじゃ、予定通りに外に出す事にしよう。

 今までのキャリバン号よりも大きくなったコラムシフトに手をやり、広くなったフロアに足を延ばしてクラッチを踏み込む。

 66サイズ。いや、コンパクトカーくらいのサイズかなぁ。これはこれで懐かしいけど。

「よし、発進」

 ゆっくりと、キャリバン号は外に向かいはじめた。


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