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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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1分間だけの味方[1]

 オルガがポケットから取り出したもの、それは何か缶バッジっぽいやつだった。

 でも、俺にもわかる。何か魔力をまとっている。

 それに、この魔力の感じは?

「それは?」

「ハチは伝声石を知っているかねえ?」

「伝声石?……あー、サイカさんとこで使ってるやつか?」

 どこかで感じた魔力の雰囲気と思ったら。

 うん、確かに伝声石のそれだな。

「実は、あれは商会の依頼で私が開発したものなのだねえ」

「え、あれオルガだったの?」

 そうだねえとオルガは笑った。

「あれの元になった魔術回路は、東大陸の遺跡にあった通信装置なのだねえ。同じものを魔法陣でエミュレートしてから商会の注文にある機能を組み込み、それを再度ドワーフ式の魔術回路に変換して、さらに独自の小型化をしたものだねえ」

「へぇ……」

 やっぱりすごい技術の塊なんだな。

「話を戻すけど、これはあの伝声石をさらに改良し、アクセサリーに組み込んだものさ。友人との連絡に使っているんだが……」

 オルガはそれに魔力を流した。起動したんだと思う。

 そして、それを耳にあてたんだけど。

「……」

 その眉が、ぎゅっとしかめられた。

「出ないのか?」

「反応がないねえ」

「反応?相手の端末が止まってるって事か?魔力切れとか?」

『ちょっと見せていただけますか、オルガ様』

「ん?あ、ああ」

 ルシアが唐突に蔓草をのばしてきた。それにオルガはとまどいつつも通信アクセサリを渡した。

『……』

 そのバッジをあれこれ解析していたルシアだったが、

『オルガ様、この魔道具は2つのペアになっていて、不特定多数と通信するものではない。それで間違いありませんか?』

「ああ、そうだ」

『そうですか……。ではご報告いたします。

 これと対になる方の端末と思われるものは現在も作動中です。ただし魔力の供給を受けていないようです』

「ふむ。誰も出ないという事は、どこかに置かれているのかねえ?」

『いえ、現在移動中です。距離からして、おそらく東のトンネルの向こう、別の島にいると思われますが、こちらに向かって移動中です。速度からすると徒歩でしょう』

「徒歩?持ち主が歩いてるって……いやちょっと待て、それはおかしい」

 オルガは首をかしげた。

「このアクセサリーは魔族むけに作ってある。すなわち身につけた人物から漏れる魔力を拾ってエネルギー源にするものだ。よって、身につけている限り魔力の供給が途絶える事はないはずだ。

 徒歩で移動中という事は、誰かが身に着けているという事だろう?なのになぜ?」

「魔族以外が身に着けている可能性はないか?」

「それこそ洒落にならないね。彼女の家には魔族とケルベロスしかいないんだ。状況からして誰かが奪った、死んだ後に持ち去られた可能性もありうる」

「……ルシア」

『はい』

「そいつの歩いてるまわりって……敵性個体はいるか?」

 ルシアは植物だからな。

 動物である俺たちはこんな時、気を遣っちゃってハッキリ言えない事があるんだけど。

 でも、ルシアは良くも悪くもそういう部分がわからないから。

 だから、ほら。

『います。周囲は敵性個体で埋め尽くされており、それらの個体は調査対象に対し、敵対行動をとっていないようです』

「……そうか、わかったありがとう」

『いえ』

 これは……最悪の可能性があるよな、やっぱり。

 

 俺は友達がほとんどゼロに等しい人間だ。

 だけど。

 でも、だからこそ、わかる。

 

 その数少ない友達が、失われたかもしれないとしたら?

 それは。

 それは……とても言葉に尽くせないような事なんだ。

 

「オルガ」

「!」

 オルガは俺の声にビクッと反応した。

 やはりダメだ。彼女はしばらく使えない。

 それに。

 今は正直、彼女に負担をかけたくない。

 

 よし。

 後で憎まれるかもしれないけど、今は俺がやる。

 

 何も言わず、ぽんぽんとオルガの肩だけ叩いて一歩前に出た。

「……ハチ?」

 何か言いかけたオルガを無視して話を進める。

「ルシア」

『はい』

「とりあえず、敵性集団がこれ以上こっちに来られないようにする。トンネルを塞げば止められると思うか?」

『可能と思われます。ただし2つの問題があります』

「2つの問題?」

『ひとつは、相手に塞いだ穴をあけるだけの力がある場合。ただの時間稼ぎになります』

「塞ぐにしても強固に塞いどけってか、わかった。もうひとつは?」

『トンネル自体の強度が不明です。塞ごうと思って崩落を招き、結局は出口を広げてしまう可能性があります』

 なるほど、そりゃそうか。

「トンネル本体の詳しいデータは出せるか?これはアイリスの方かな?」

「あ、はい、パパ」

「トンネルの構造図か周囲の地形図か、ないか?あれば、なるべく詳しいのを頼む」

「わかった。ちょっと待って」

 アイリスはオルガに注目していたらしい。心配そうな顔を隠してもいない。

 すまんアイリス。俺も同意だけど、ちょっとだけこっちにも手を貸してくれ。

 タブレットをあれこれ操作していたアイリスが「あっ」と少し目を開く。

 よし、何か見つけたらしいな。

「どうだ?」

「これどうかな?」

 ふむ?

 タブレットを受け取った俺は、そこに表示されているものを見た。

 これは、文献?誰かの日記か?

 しかも日本語じゃないか?手書きのものがスキャンよろしく取り込まれてら。

 うわ、旧仮名遣いのうえに文語体ときた。しかも結構、達筆だよ。

 これ、断言してもいい。今どきの子は読めないぞ。

 俺は昭和の人間だし、大正十五年生まれの大伯母さんの字がこんな感じだったから、何とか読めるけどな。

 ふむむ?

 内容は、こんな感じだった。あ、悪いけど「あらう」みたいな文語調のとこや昔の省略形は全部今風に直したぞ。

 

 

『昭和六十四年九月十五日。晴れ時々曇り』

 石造りの隧道(ずいどう)を西から東に抜ける。

 古いが立派な隧道だ。若い頃に通った伊豆の天城にある大隧道を彷彿(ほうふつ)とさせる。おそらくは天然石であろう。さらにこの地の人の言うところの魔術による強化もなされているのではないだろうか。千年、万年と、苔むして立ち続けそうな大層立派な(たたず)まいである。

 惜しむらくは灯火類がない事。頑丈すぎるせいだろうか、かの天城もそうであった。懐かしくはあるが、灯りの魔法が使えぬ身としては苦労させられた。かえすがえすも残念である。

 

 

 昭和64年9月だって?

 昭和は63年までで昭和64年は平成元年……って、そういう事か。

 つまり、昭和63年以前にこの世界に来ちまった人、それも若くない人かな?

 最近では珍しい部類かもだけど、昔は誰もが西暦でなく年号で書いたんだよ。例外は、未来設定と壮大さの演出のためにわざわざ西暦を使っていた、あの宇宙戦艦のアニメくらいなもので。個人の日記でわざわざ西暦を使ってたヤツなんて、昔は今でいう中二病のヤツくらいだった。

 しかし、昭和時代に天城の隧道に行ったって事は、たぶん例の旧天城隧道だよな。

 俺より20年以上前の通過か。当時はどうだったんだろうな。

 おっと、こんな事している場合じゃないか。

 

 この人の記述が正しいなら、隧道は総天然石のうえに強化もなされているって事になる。

 つまり、かなり頑丈だと思う。

 

「よし、作戦は決まった。聞いてくれ」

「はい」

『はい』

 アイリスとルシアが返事してきた。

「あいつらの攻撃が届かないようなものを今から出す。で、それに乗ってトンネル入り口まで行って塞いでこようと思う。おまえらはその間、ここを守っていてくれ」

「ちょっと待ってパパ!」

 アイリスが異論を出してきた。

「そんな大きなもの出せるの?出したとして、パパ魔力使い切っちゃうんじゃないの?」

「問題ない、呼び出した時点じゃ小さいんだ。ほら、いつぞやに砂漠で使った船のダミーと同じだよ」

 はは、ちょっと前の事なのに懐かしいな。

「……あれを使うの?でもあれ、攻撃されたら脆いんじゃないの?飛び道具や魔法攻撃はどうするの?」

「違う違う、あんなフワフワしたもんじゃないよ」

 とりあえず誤解は否定しておいた。

「心配いらないよ。時間制限はあるけど、逆にかなり丈夫なんだ。それに高さ五十メートル近いから、そうそう狙いもつけられないと思う」

 ホーミング制御できる矢や魔法があったら危ないかもだけど、それは別途何とかするしかないだろう。

「本当に?ほんとに大丈夫なの?」

「まさかの時は最後の手段があるさ」

 そういうと左手をあげてみせる。

 最近はかなりよく動くようになった左手のルシア妹が、しゅるしゅると蔓草を動かした。

「つーわけで後は頼むぞ」

 言外に、オルガを守ってやってくれと願いをこめる。

 すぐ横に本人がいる状態でそれを言うと、いろいろまずいからな。

「……わかったよ、でも気を付けて」

『了解しました。確かにお守りしましょう』

「ああ、頼む」

 

 それだけ告げると、俺は前に出た。

 

 そして脳裏に、懐かしいものを思い出す。

 ああ。

 そういや俺、あれをリアルタイムで見てなかったんだよな。ちょっと世代が違っててさ。

 むしろ俺がリアルタイムで見たのは、2006年に作中で復刻された方で。

 刹那、魔力が流れた。

「……よし」

 ちょっとイメージ的に不安だったが。

 でも見れば、ズボンのベルトに銀色の箱みたいなのが装着されていた。

 箱をあけると、五つの謎のカプセルが並んでいる。

 そのひとつを取り出すと、投擲(とうてき)しつつ往年の掛け声を叫ぶ。

 うわ、ちょっと恥ずかしいかも。

「ウイン○ム、頼むぞ!」

 そして続くのはもちろん、あの懐かしい出現音なんだけど。

 そのはずなのに。

 でも、響き渡ったのは効果音でなく、無機質な男の機械音声だった。

 

 

     『リアライズ』

 

 

「……え?」

 次の瞬間、俺の目の前には、昔懐かしい特撮作品の巨大怪獣がそびえ立っていた。

 で、でけえ!

 うわぁ、マジでウイン○ムだよ。くぅぅ、カプ○ル怪獣再現しちゃったじゃん!

 うははは、これ、シマさんやヨッちゃんが見たら狂喜乱舞するだろなぁ。

 あ、でもこれって著作権料どうなるんだ?異世界からなんて払いようがねえじゃねえか。すんません円谷さん。

 なーんてアホな事を考えていると、頭の中に『59』という数字が浮かんだ。

「ちょ、おま、待て!」

 さっきの男の声といい、これってもしかして?

 まさかのGUYS(ガイズ)仕様!?

 

 あ、GUYS仕様っていうのは平成になってからの新シリーズで再現されたカプ○ル怪獣なんだけどな。人類側がウルトラ○ンの技術を不完全ながら再現したって設定なんで、昭和のオリジナルより制約がでかいんだが。

 くそ、俺はセブン世代じゃないからな、そっちのイメージが強かったってか!

 つー事は、きっかり1分でマジ問答無用で消えるってか?

「バッカ野郎、それを早く言えってんだ!」

 ルシア妹を伸ばし、ウイン○ムの首の突起にひっかける。そして肩まであがる。

 うわぁぁぁっ!、こ、怖ぇっ!

 え、ええい、ままよ!

 ルシア妹の蔓草を縦横に伸ばし、無理やり掴まるところを作りつつ叫んだ。

「ウイン○ム!俺を東のトンネル入り口まで連れて行ってくれ!」

 ウイン○ムは小さく唸ると、のっし、のっしと東に向かって進み始めた。

 

 さて、ちょっとこのウイン○ムについて説明しておこう。

 昭和の特撮ファンならご存知のこの有名な怪獣は、しばしばロボットと勘違いされるがロボットとは違うらしい。まぁ彼の正体についてはそちらむけの話で議論していただきたいものだけど、ここで重要なのはそこではない。

 こいつ、なかなか素早くてよく動くくせに、ボディは鋼鉄より硬いんだぜ。

 おまけに直立型で背が高い。弱点といえる場所は頭の上にあるため、下からの攻撃では狙いにくいとまぁ、なかなかいい感じなんだこれが。

 まぁその……じょ、乗用じゃないから乗っててこわいけど、なっ!

 ひ、ひぇぇぇ、ちょっ!

 振り回され、あやうく落ちそうになった。

 だが。

「……」

「うお、すまん、ありがとう」

 巨大な金属の腕で受け止められていた。

 見上げると、無機質の巨大な顔が「しょうがねえなぁ」と言っているように見えた。

「面倒で悪いが飛ばしてくれ、もう時間がない!」

 頭の中で『32』という文字が動いた。

 

 

 


 GUYS仕様: 2006年に放送された昭和シリーズの続編『ウルトラマンメビウス』で再現された『マケット怪獣』の事です。セブンのカプセル怪獣を不完全ながら人類側のシステムで再現したもの。セブンひとりで運用していたオリジナルよりも性能面では制約が大きいものの、皆で力と知恵を寄せ合った結果、なかなかの活躍を見せています。

 

 ウイン○ム: もちろん、カプセル怪獣のひとつ『ウインダム』のこと。

  昭和ファンには「あまり強くない」印象がありますが、これは運用面や怪獣との相性問題も大きかったようで。

  実際、平成の『メビウス』で運用されたウインダムは、ミクラス同様、なかなかの大活躍ぶりでした……肝心のウルトラマンが弱かったのもあるけどな、うん。


 

 シマさんやヨッちゃん: 昔の知り合い。特撮マニアで、シマさんは昭和ウルトラ好き。ヨッちゃんは怪獣マニアである。

  ただし、キャリバン号に乗りはじめた頃にはもう行き来がなくなっており、所在も不明になっていた。

  


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