魔大陸[2]
Google日本語入力って「ミートせんべい」が一発変換できるんですねえ……。誰が使ってるんだろう?
「緊急指令だって?」
俺が反応する前に、オルガが反応した。
「アイリス嬢、まさかそれは」
「……うん」
「そ、そう……すると司令内容は、やはり情報収集かねえ?」
「うん。可能な限りの情報を集めて報告するようにって」
「そうか。我の許に集まれとか、そういう話ではないんだね?」
「一部は緊急帰還命令も出ているみたい。でも、わたしみたいに固定対象に付いてる眷属はそっちが再優先だから」
「そうかい。ならば不幸中の幸いだねえ」
「え?」
アイリスが、不思議そうな顔でオルガを見た。
「どういう、ことですか?」
「おや、アイリス嬢。そんなにハチと離れたいのかねえ?」
「!?」
アイリスはギョッとした後、ぶるぶると首を横に振った。
「うん、正直でいい子だ」
オルガは優しげに微笑むと、アイリスの頭をぽんぽんと叩いた。
だけど。
「えっと、その、オルガ?」
ふたりは何やら納得しあっているらしいが、俺にはさっぱり意味がわからない。
「すまんが教えてくれ。何があった?」
それにアイリスが答えようとして、そして小さく震えて口をつぐんでしまった。
な、なんだ?
こんな怯えたようなアイリスなんて、はじめて見るぞ。
「アイリス嬢」
そんなアイリスに、オルガがささやくように言った。
「アイリス嬢、キミが言わなくちゃいけないと思うのだねえ」
「で、でも」
「私に配慮してくれるのは嬉しい。
だけどねアイリス嬢、ハチの旅のパートナーは私ではなく君なのだね。それは今後、私がハチの妻となり、子を産み育てるようになっても変わらないのだねえ。
もとより、私たちはそれぞれ研究者であり探求者なのだからね」
「……なるほど」
アイリスはオルガの言葉に、何か奥深いところで納得したようにうなずいて。
そして俺に向き直り、こう告げた。
「パパ……報告、します」
「あ、うん。何があったんだ?」
俺の顔をアイリスは見て、そして、思い切るように告げた。
「この世界と、地球の……パパの世界との接点がなくなったって。ついさっき」
……なんですと?
「えっと、すまん、もう少し説明もらえるか?
そもそも、世界との接点てなんだ?その時点からさっぱりなんだが?」
「アイリス嬢」
促すようなオルガの言葉に、うん、大丈夫とアイリスはうなずいた。
「そもそも、パパみたいにこっちの世界に落ちてくる人がいるっていう事は、ふたつの世界に接点があるって事なの。離れちゃったらそもそも、世界間の物質の移動なんてありえないもの」
「ほう?そうなのか?」
「うん」
アイリスは大きくうなずいた。
「しかし、常に接点があれば、そこから色々なものが流れ込んでしまうんじゃないか?それもたぶん特定の場所から」
「接点っていっても常に同じ場所がつながっているわけじゃないから。そもそも時空連続体……要するにふたつの異なる世界同士を固定する方法なんてないし。
イメージとしては……んー、パパにわかりやすく言うと、茹でた麺類かな?」
「なに?……あー、もしかして」
要するに。
パスタを茹でる時、うっかりお鍋の中でまとわりついたり、くっつく事がある。人によっては、ミートスパゲティにしようとして、スパじゃなくて「ミートせんべい」にしてしまう事だってあるだろう。
だけど、それでも麺のひとつひとつは別もの。単にくっついてるだけの話って事だな。
うん。
世界そのものがどういうものかってのはともかく、世界間接触のイメージとしてはわかりやすいかも。
「つまり、俺の世界とこの世界が離れてしまったっていうわけだな?だけどアイリス、どのみち世界間移動は限りなく不可能だったわけで……いやまてよ」
言ってる最中で俺は、その可能性に気づいた。
「なぁ、アイリス」
「な、なに?」
「その現象の結果、俺に起きる不利益って何かな?元の世界に帰るのが果てしなく難しく……少なくとも当面は完全に不可能になったというのはまあ、理解できるんだが」
だけど、それはなんというか、今さらだ。ドラゴン氏にしても他の偉い存在にしても、おまえは帰れないとそのものずばりは言わないものの、遠回しに帰れないんだよって言ってくれてたわけだし。
実際、目の前のアイリス自体がその証明だろう。
ドラゴン氏がアイリスを託してくれたのは、決して好奇心だけではないと思う。帰れない、または仮に帰れるとしても果てしなく難しいと知っていたからこそ、一人旅の賑わいにと、そして、せめてもの護りにこの子を託してくれたって部分があるのは、おそらく間違いない。
ああ。
確かに、本当に帰れないとしたら俺は悲しい。
でもそれは、正直今さらだ。帰れない事はもう、今までの旅の中で感じていたし。
それに、それにだ。
帰ったところで家族はもうない。
友がたったひとりいるけど……彼は、僕がすごい旅好きだって知ってる人間だから、普通の人のように、いきなり行方不明かーみたいな迷惑はかけずにすむと思う。できればスマンって連絡くらいはしたいけどな。
そして。
こっちの世界に、大切な存在がたくさんできた。
だから俺は、改めて言う。
「俺自身が帰れない確率なんてのは、今さらどうでもいいんだ。できれば伝言したい友達がひとりいるのは事実だけど、家族がいるわけではないし、そして、もし帰ったっきりこっちに戻れないのだとしたら逆にかんべんしてくれって状態だしな。
だから、その上で聞きたい。
なぁ、アイリス。
その世界間の接点がなくなった事で全世界レベルの変化とかないのか?特に、まずい方向性で」
むしろ、そっちの方が絶対気になるぞ。派手な天変地異が起こる、なんて事なら備えが必要だしな。
「この世界的にまずい事は、今、たぶんそういうお仕事をする存在が調整中だと思う。
ただ、このあたりはわたしも知らないの。もしかしたらグランド・マスターもはっきりとは知らないと思う」
「ドラゴン氏も知らないのか?」
「うん。とりあえず、そういうものだと思っててほしい。わたしたちにはあまり重要な事じゃないから」
「お、おう」
よくわからんが、とりあえず気にするなって事だな。
「大きな変化としてはまず、地球からいろんなものが落ちてきていた現象は止まるよ。つまり、パパの後輩さんは今後……また接触がないかぎりは現れない」
「また接触?」
「世界っていうのは、ちょっとした理由でついたり離れたりしてるからねえ。それこそ鍋の中の麺類の如くね」
オルガがボソッと、まるでどこぞの物理教師みたいな笑顔でのたまった。
「そうなのか?」
「ああ。まぁ、それは千年とか万年のスケールのお話なんだけどね。だから人間のスケールじゃあ、しょっちゅう起きる話ではないんだけどねえ」
なるほどな。
「へぇ……ちょっと質問いいかアイリス?」
「はいパパ、なぁに?」
「思ったんだが、そんな長大スケールの現象なら予想はできなかったのか?」
「あ、それは」
アイリスの顔が曇った。
あー……これは何か、やばい理由がありそうだな。
「アイリス。言いにくいなら別にいいぞ?」
「ううん、言う。ありがとパパ」
苦笑しつつアイリスは続けた。
「本来の予定だと、パパの世界のとの接点が外れるのは2300年くらい未来の話だったの。パパが何歳まで生きるのか知らないけど、少なくとも今すぐどうこう気にする話ではなかったんだけど」
「ほう。つまり、何か想定外の事態が起きて、その2300年が前倒しされちまった?」
「うん、そうなの。今、グランド・マスターをはじめとする色んな存在の眷属が原因の調査を進めているんだけど」
ふたつの世界そのものに影響を与えるほどの異変ってか?
うわぁ……なるほど、そりゃあ確かに異常事態だわ。
そんな事を考えていたら、今度はオルガが動いた。
「アイリス嬢、もしかしてなんだが」
「はい、何ですか?オルガさん?」
「アゾック系の次元転送術式が時空連続体に与える悪影響について、君のマスター氏に確認できないかねえ?私の亡き母様の仮説で、私も母様と同じ見解なんだが……アゾック系の次元干渉で、空間ベクトルが37を超える強制介入を行った場合、連続体のゆらぎに回復困難な刺激を与えてしまう件について……」
「あー、ちょっとまって。今、グランド・マスターに確認を……」
うわ、なんか途中から宇宙人の会話みたいになってきたぞ。
どうやらアイリスの方も途中からドラゴン氏に切り替わったみたいだ。特異点がどうの、時空歪曲場がどうのとSFなのかトンデモなのかわからないレベルの会話を延々と繰り広げている。
うーむ。
わけがわからんので、とりあえず適当な五徳に魔陣コンロをいれ、点火して水を満たしたやかんをかけた。
あ、このやかん、たぶんステンレス製だ。
なんか四角くて平べったい面白いやかんで、家の中にあったのを借りたんだが。
これ、日本でも同じのを見た記憶があるんだよね。四角くて平べったいから積んだりしやすいし、確かメーカーはお茶いれたまま冷蔵庫に突っ込むような用途も書いていた気がする。
しばらくして。
しゅんしゅん、とやかんが言い出す頃、ふたりの会話が終わった。
「何かわかったか?」
「あー、ちょっと笑えない話だけどねえ……アイリス嬢?」
「あ、うん」
アイリスは俺とオルガの両方にうなずくと、口を開いた。
「グランド・マスターの情報とオルガさんの話をつきあわせた結果なんだけど」
「ああ」
「最も可能性の高い原因は、次元干渉系の術式だと思う。つまりね」
「……もしかして、時空を越えて地球の世界に干渉しようとしたバカがいたってか?それが原因で2300年が早まっちまったと?」
「残念だけど、どうやらそのとおりの可能性が高そうだねえ」
ふうっとオルガがためいきをついた。
「ハチにはどこまで理解できたかねえ?」
「ほとんど理解できてないな。アゾック系、とかいうのが何かの鍵なのは想像がつかんでもないんだが」
「ああなるほど。では、ざっくり簡単にまとめてみるかねえ」
ふむふむとオルガは頷いた。
「時空に干渉する手段というと難しい印象があるけども、実はそうでもないのだねえ。もっとも簡単な術式は『召喚』で、これは魔法がはじめてこの世界で生まれた時代から存在し、今も使われ続けている基本中の基本なのだねえ」
「へぇ、そうなのか?」
そういうと、オルガは面白そうにクスクス笑った。
「ハチ。君だって使っているのだねえ」
「へ?俺?」
「ハチは、自分の思い出から何かを生み出す事ができる。それが固有の能力だねえ?」
「おう」
別に隠しているわけじゃないから、堂々と肯定した。
「思い出から取り出すというけど、生成されたものは魔力の塊ではないのだねえ。
でもねえハチ、いくら君でも、無から有を作り出すわけではないのだねえ」
「……あ、そうか材料か!」
なんとなく話がつながったぞ。
「つまり『思い出から取り出す』っていうのを論理的にいえば、ここじゃないところから素材を召喚したうえで俺の意思にしたがって組み立てているって事なのか?」
「理解が早くて結構だねえ。
まぁ順序でいうと、生み出すというココロの需要があって、それに準じた素材がハチの夢の中に召喚され、そこで希望のカタチに組み上げられてこの世界に引き出されるのだけどね」
「なるほどねえ」
魔道の専門家らしい説明だな。すんげえわかりやすいわ。
「話をもどすけどねえ。
召喚という技術はこの世界における魔法技術の基本のひとつであり、それと知らずに広く使われている。ここまではわかったねえ?
だけど、ハチのように素材を引き寄せる手法ならともかく、異世界より物体、特にエネルギーを秘めたものを取り寄せるとなるとそうはいかないのだねえ」
「しつもーん」
「何かねえ?」
「違いがよくわからない。たとえばさ、俺がチタン製のマグを思い出から取り出したとするだろ?ほれ」
ひょいと手をふると、俺の手の中には、日本にいた頃におなじみだったメーカーのキャンプ用マグカップがあった。
「俺はどこかからチタンと塗料か何か、素材をとりよせて、それを俺の思い出の中で組み立てているって事だよな?」
「そうなるねえ」
「オルガ。今おまえ、俺が素材を引き寄せるのと、異世界より物体を取り寄せるのは違うという趣旨の事を言ったよな?
けどさ、たとえばの話。
チタニウムの塊と金のインゴットがあったとして……その価値はともかく、どっちも金属というくくりでは同じじゃないか?
なのに、召喚で呼び寄せるものに違いができるというのか?」
俺の話をフムフムと聞いていたオルガは、いやいやと首をふって苦笑した。
「それは『違い』の意味を勘違いしているねえ」
「意味だって?」
「ハチが素材を喚んでいる元っていうのは異世界じゃないのだねえ。いや、もしかしたら異世界の可能性もあるのだけれど、どこともわからない場所なのだねえ。たまたま、この世界から呼びやすかった世界の、どことも知れぬ場所からなのだねえ。
まぁ多くの場合、どこかの世界のどこかの星の、どこかの……たいていは誰も知らないような鉱山から取得されているのだろうけどねえ」
「……よくわからないが、呼びやすいとこから無作為に取り寄せているって事?
逆にいうと、たとえば、地球から金塊を取り寄せたいとか、場所と素材がピンポイントになると大変だって事?」
「ああ、まさにそのとおりだねえ」
ほほう。
「そもそもだねえ。
たとえば異世界から金塊を取り寄せたいとして、具体的にどの異世界の、どこに金塊があると知るのかねえ?あらかじめ、どこにあるとも知らないものをどうやって指定する?」
「……あー、そりゃそうか」
たとえばなんだけど。
東京のど真ん中にいけば皇居があるって知っているのは、行った事もあるし知ってるからだ。さすがに中の御所なんかは知らないけどさ。
あるいはローカルネタ。
新宿の市街からどう行けば自転車用品の店があって、どこに行けば登山用品店があるのか。デパートの何階にいれば何の売り場があって、新宿区役所が歌舞伎町の中にあって、なんて事も住民以外が知るのは簡単じゃないだろう。
まして、何か意味のあるユニークなものを異世界から取り寄せようと思えば?
そう。
それがどういうものなのか、そして、どこにあるものなのか。
そもそも見知らぬ異世界からモノを取り寄せるのに、それを指定しなくちゃならないって事か。
「なるほど、つまり座標指定じゃ何がくるかわからない。で、かといって特定のものを取り寄せようにも、どうすんだって事?」
「うむ、そんなところだねえ」
よくできました、と言わんばかりにオルガはうなずいた。
「こっちは向こうからすると異世界人なんだから、特定の座標から何かもってこい、なんてやっても、たいていは何も取り寄せられないのだねえ。何しろ、そこに何があるか知らないんだから無理もない。
ちなみにこの方法で取り寄せに成功する場合、一番確率が高いのは現地の水や空気なんだけどねえ」
「ほう……って、それまずくないか?」
空気中や水中の雑菌とか、へたに異世界に放ったら問題起きそうなんだが?
俺が眉を寄せると、したりとオルガが頷いた。
「ああ、うっかり微生物が交じる程度の事なら問題ないねえ。
そもそも、世界間に接点がある状態では、その程度の流入は自然現象としてよく起きているからねえ。今さら、その程度でこの世界の環境はゆらぎはしないのさ」
「なるほど」
「ただ、もちろんだけど危険物を取り寄せてしまう危険もあるわけだからねえ。ゆえにそういう場合は座標でなく、特定の属性をもつものを指定して呼び出すのさ」
「特定の属性?」
「たとえば、真鍮でできて炎を灯すもの、という概念を鍵にして取り寄せると……ほれ」
オルガが手をくるくると動かすと、その手中に見覚えのあるものがポンと現れた。
「おやなんだ、灯油コンロじゃないか」
野営が好きで俺と同等以上の年代なら知ってるだろう。真鍮でできた灯油用のコンロだ。
「しかもオプティマス・ゼロとは懐かしいなぁ。この世界にもあったんだ」
旅をはじめた頃の愛用品だったんだよね。何度目かの引っ越しでなくしてしまったが。
「父様のコレクションでね。先日も友人が同じものを持ち込んできたのだけど」
「へえ……じゃあ俺はこれを」
対抗して、思い出の中から取り出してやる。……よし。
俺の手の中にはオルガの持っているものとよく似た、しかし角張って小さい真鍮製のコンロが現れた。
「おや、それは?」
「マナスル96ってんだ。昔、植村直己って冒険者がいてね。彼が愛用していたそうだよ」
マナスルっていうのは何十年も前からある古い国産コンロのブランド。昔はともかく今はこんな懐かしいスタイルのコンロしか作ってないから、知らない人も多いかもしれないな。れっきとした日本製で、俺が最後にゲットした時は、葛飾柴又の町工場で作っているって聞いたっけ。
まぁ、俺がこのタイプのコンロをもっとも愛用していたのは、バイク乗りだった頃だけどな。キャリバン号の中でカセットコンロ使うようになってから、次第にご無沙汰になってしまったが。
キャリバン号時代になっても一つは家においてあったけど、それはどちらかというと防災目的だったんだよなぁ。石油ファンヒーターは電気がないと使えないけど、石油ストーブやコンロは停電でも動くからな。
さて。
「話を戻すけど。真鍮で炎を灯すものっていう概念だけじゃ、関係ないものも随分と取り寄せちまうんじゃないのか?」
「残念ながらその通りだねえ。
そもそも『炎』っていう概念を通そうとすると、マグマの炎熱も、核反応のエネルギーも、みんな炎って認識してしまうのだねえ。しかもさっき問題にしたアゾック系の方法の場合、指定座標近郊で最もエネルギーの大きなものを問答無用で引っ張ろうとするし」
「全然ダメじゃん」
そんなもん危なくって使えないだろ。
「だから私も、再三警告していたんだが……わかってないバカがどこかにいたんじゃないかねえ」
はぁ、とオルガはためいきをついた。
「今はアイリス嬢のマスターたちが調べているようだけど……おそらく賭けてもいいねえ。
たぶん、人間族国家のどれか、あるいは最悪、キ民連あたりで大規模実験をやって、しかも大失敗しちまったんじゃないかねえ?おそらくだけど、時空連続体を揺るがすような大きなエネルギーをひきあて、しかも」
「取り寄せ中に暴走か爆発させたってところかな?」
「たぶんそうだねえ」
「最悪じゃねえか」
俺は思わず頭をかいた。
「要するに、人災で2300年が早まっちまったわけだ」
「まぁ、この程度なら世界レベルの問題は何とかなるだろうけどねえ。だけど、こちらとしては迷惑千万な話だよねえ」
なんだって?
「……世界レベルの問題は何とかなる?」
どういうことだ?
それはどういう意味だとオルガに質問しようとした、まさにその瞬間だった。
『すみません主様、緊急事態です』
む?
「どうしたルシア?」
ちなみにルシアは今、ここにいない。キャリバン号は車庫にあるが、その車庫はここから離れた場所にあるからだ。
ではどうやってルシアの声が届いているのかというと、アイリスの左手首にルシアのツルが巻き付いているからだ。
以前は遠く離れるとそんな真似できなかったんだけど……つまりルシアたちも日々進歩しているって事だな。
で、それはそれとして。
『この場に敵性と思われる集団が接近しています』
「なんだって?」
ルシアの言葉に眉をひそめたのは、俺でなくオルガの方だった。




