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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
153/180

食糧確保

 アイリスのところに戻って食糧調達の相談をした。

「それで所要時間は結局どれくらいになったの?」

「35時間に設定したよ。長すぎる?」

「いや、そんなもんでいいだろ」

 4200kmを35時間。ノンストップでも平均時速120kmってとこか。

 え?もっと速くできるだろって?

 そりゃできるよ、できるけどさ。

 いくら超文明の産物だからって、おそらく何千年もまともに使われてないんだぞ。それにキャリバン号と俺たち全員乗せて移動しちゃうんだぞ。

 注意しすぎても損はないだろう。

 

 

 おっと、念のためになんの話か解説しておくよ。

 魔族の領域に直行で行ける道を探していた俺たちは、ひょんな事から大深度地下に封印状態で生きていた、旧アマルティア時代の大トンネルを発見したんだ。

 ま、さすがに道路トンネルじゃないけどな。よくわからないがどうやら、日本人的感覚で一番近いやつっていうと、リニアモーターカーとか、あのへんに近い乗り物じゃないかと思う。キャリバン号くらいの大きさのものなら積載できる車両があるらしいんで、カートレインよろしく移動を考えたわけなんだけど。

 で、問題は長さなんだ。

 現在位置から終点の魔族領域の駅まで、全線ちゃんと行けるみたいなんだけど……その長さなんと4200km。で、所要時間とかそのあたりの計算やら設定やら、それをアイリスに頼んでたってわけさ。

 さて、そんなわけなんだけど。

 しかし35時間ねえ。退屈しのぎは必要だよな。

 あとは、やっぱりアレだな。

「じゃあ日程は決まったわけだが、ひとつ問題がある」

「食糧?」

「ああ、そうだ。もたないわけじゃないが、行き先ですぐ確保できる保証はないだろ?何か確保したいな」

「そうだね」

 ふむふむとアイリスがうなずいた。

「一番近い町によれば買い物できるんだろうけど……」

「やっぱ無理だろうな」

「うん」

「あいつら、まだ動かないもんな」

 そもそも、俺たちを捕まえに来たヤツらがウロウロし始めたのが今回の移動のきっかけなわけで。

 ここで彼らの前に出て行ったら意味がない。

 そんなこんなでアイリスとふたりで唸っていると、珍しいやつが動いた。

「あっち」

「え?」

「あっち、何か、アル」

 マイが壁の方向を指差している。

「あっちって、そこは壁……ああ、そういうこと?」

 俺は思わずポンと手を打った。

「アイリス、ルシア」

「ん?」

『なんでしょう?』

「マイが何かみつけたようだが。あっちの方向に地底湖か何かないか?」

「あっち?ええっと……あ」

『大量の水。しかしこれは湖というより水流ではありませんか?』

「だねえ」

 む?何が見つかったんだ?

「地底に水流があるんだよ。何本か集まって、最終的にたぶん谷底に出てる」

「谷底に?あの谷底って、川あるのか?」

「あるよ」

 ウンと大きくうなずいた。

「南岸の方に近づかなかったでしょ?」

「あー、そういや南側には近づくなって言ってたよなおまえ」

「うん。ヤバい感じだったからね」

「ヤバい感じ?」

 俺の疑問を、ルシアが引き取ってくれた。

『生き物の密度が高すぎるのです。何かが大発生しているのではないかと思います』

「川で?……それは確かにちょっとやばそうだな」

 ちょっと考え込んで、そして俺はうなずいた。

 

 

 

 二十分後。俺たちは、谷底の川べりにキャリバン号をとめ、釣り糸を垂れていた。

「ははは……まさか結界を張ってキャリバン号から釣り糸を垂れるとはね」

「まったくだよねえ」

「アイリス、大丈夫か?危なくないか?」

「だいじょうぶー。パパこそ、窓から竿たらすの大変じゃない?」

「そう思うなら代わってくれ」

「だめ、あぶないから」

「……」

 少し解説が必要だろう。

 俺は運転席の窓から、アイリスはルーフの上に立って釣り糸を垂らしている。ちなみに後部の窓も開いていて、そこからは何か名状しがたい竿じみたものやら、どう見ても蔓草ですよねってものまで伸びていて、それぞれに何かよくわからないものを釣っているらしい。

 ていうかルシア、マイ、なんでおまえらまで釣りやってんだ?

『面白そうですから』

「オナジク」

「そっか……まぁがんばれ」

 がんばりすぎてヘンなもの釣るなよ。頼むから。

 どうしてキャリバン号から竿を出しているかというと、結界の都合なんだよね。今回のは事情があって、あまり大きくできないんだと。

「そういや、偽装草(トリリランド)じゃダメなのか?」

偽装草(トリリランド)使ったら、お魚も釣れないよ?」

「……さよか」

「うん」

 なるほど、そういう事っすか。

 というのも、川のまわりにとんでもない魔物が大量繁殖していたので、結界なしじゃダメって皆に止められたんだよ。

 大量発生していた魔物は、これだった。

 

 

『イリナルタ・モスキート』

 蚊の魔物で、オニヤンマサイズ。一匹なら単に大きくてしぶとい蚊にすぎないが、大量に群がられると失血で洒落にならない事になる。さらにいうと、針が大きいので刺されると痛い。東大陸の個体は危険な病気を伝染すと言われており、要注意である。

 

 

 これが川の上いっぱいに飛び回っていたわけだ。ものすごい数。

 

『イリナルタ・モスキートの幼虫は大型の川の魔物の栄養になりますから。このあたりが豊かな証拠ではあるのですが』

 まぁ、うん。確かに川辺の虫は川の生き物のエサだよな、うん。間違いない。

 

 だけどよう。

 でかすぎなんだっつの!

 

 昔の日本人はさ、戸口や川辺に飛ぶ蚊柱を見て歌を詠んだのかもだけどさ。

 ヤンマサイズの蚊が群れてたらおまえ、風情も何もねえだろが!

 

「いくらなんでも多すぎるよねえ。こんないっぺんに羽化しなくてもいいのに」

「まったくだ」

 ちなみにランサなんだが。

「……」

「よく寝てるな」

「うん」

 せっかくだから元のサイズで散歩してこいって言ったんだよな。そしたら元のサイズに戻りはしたんだけど、ちょっと走ったらキャリバン号の横に戻ってきて、今はお昼寝中。

 しかし、だいぶ大きくなったなぁ。俺とあまり変わらないくらいになったかな?

「もしかしたら、何か来るの待ってるのかもね」

「待ってる?」

『ケルベロスは気配を隠しながら眠り、不用心な獲物が近づくのを待つ習性があると聞いております』

「ほう。でも俺の気配に反応しちまうんじゃないか?」

 俺も大量の魔力をばらまいてて、なかなか目立つと聞いた事があるんだが。

「……もしかしたら、ランサも釣りしてるのかも?」

「おい。まさかそれって」

「うん。パパの魔力がエサ」

 なんじゃそりゃ。

 ルシアたちとそんな会話をしていたら、唐突にマイがぽつりと言った。

「ランサ、釣り、得意」

「ほう。ふたりで狩りに行った時のことか?」

「イカニモ」

 ウンウンとマイはうなずいた。

「ランサ、おびき寄せる、上手い。我が(オトリ)

「そりゃすごい。よく組むのか?」

 ウン、とマイはうなずいた。

「山ノムカデモ、ランサが引き寄せた。食い放題」

「どこからツッコんだらいいかわからんから、あえて流しとくぞ。……って、来たか?」

 頭上でアイリスの竿が動いている。何か来たらしい。

 

 

『アユヤマベ』

 大型の川魚では最もポピュラー。しかも結構大きい。おいしいが内臓は臭いので取り除こう。

 

 

「あー、コケとか水草食べるやつか」

 少し悩んだが、先に内臓だけとっとくかね。

「アイリス、悪いが釣り続けてくれ。こいつ内臓だけとっちまうわ」

「わかった」

 外でやれればいいが今日はダメなので、後ろの区画の一部を作業場にしてある。新聞紙を敷き、まな板用の大きな板をドンっとおいてあるのだけど。

 そこに、頭の後ろに刃をたてて死なせたアユヤマベを置いた。

 最近はルシア妹が器用になってきたせいで、解体速度が前よりあがった。

 蔓を走らせ、アユヤマベとやらを固定する。それから蔓草の一部がいつぞやの蜘蛛脚ナイフを掴み、ヒュンヒュンと目にも止まらぬ速さで刃を入れていく。

「……よし」

 内臓をごっそり取り外せた。

 つーか速ぇよ、すげえなオイ。

 育ちきった天然もののブリもそこのけってサイズなのによ。

 えっと、それでこの内臓はどこに?

「アルジ、ココヘ」

「……こんなん喰って腹壊さないか?」

「味見スル」

「……不味かったら、もういいって言えよ?」

「アイ」

 なんか、見ちゃいけないような冒涜的な口が開いたので、そこに内臓を落とした。

「どうだ?」

「……悪クナイ」

「まじか」

「マジ」

 とりあえず、処理完了としておこう。

 あとで水洗いする事にして、作業用に空けておいたボックスに処置済みのアユヤマベを突っ込む。

 そうしていると、

「あ、また来たよパパ」

「おけ、どんどんこい。全部処理してやるぜ」

 

 結局この後、俺は解体作業に集中する事になった。

 まぁ、色々面白いもんに触れたので、これはこれで面白かったけどな。

 ちなみに釣果は、安定のクロコ・クマロが二尾のほかは、こんな感じだった。

 

 

『カノカノ』

 別名ワニウオ。陸にあがる能力や高圧放水のスキルをもち、水辺にやってきた動物を襲う魚の魔物。食べた味もワニに近いとされる。

 

 

『メルルアン』

 知性を発達させるという異端の進化を遂げた魚の魔物。破格に知能が高く、犬のように徒党を組み、群れをなして狩りをする。大型のものになると人も普通に襲うため、非常に危険である。

 名前の由来は東大陸の民話。

 

 

 で、ここで四つ足登場。捕えたのはランサなんだけど。

 ここでちょっと面白いことが起きたんだ。

 

 

『ヨロイイノシシ』

 名前の通り、非常に頑強な頭部を持つイノシシの魔物。美味しい魔物だが人間が成獣を確保するのは難しい。ケルベロスの戦闘力に期待?

 

 

 なんか面白いデータだと思わないか?

 いや、イノシシ自体の事じゃなくて、ルシア妹の返したデータだよ。主観が妙に人間的なうえに、俺たちのメンバーなら倒せるかもって推測まで入っている事だよ。

 ルシア姉の話によると、ルシア妹が長い時間をかけて俺の一部になる、最初の兆候なんだとさ。

 

 うーむ、みんなチートになっていくなぁ。

 俺だけ置いて行かれてるみたいで、ちょっと理不尽な気分だな。

 

 ちなみにイノシシの解体なんだけど。

 ヨロイイノシシは魔物だからランサ専用って事にして、おおざっぱにぶった切って収納だけしておく事になった。

 うむ、正直助かった。

 え?なんでかって?

 いや。

 実は、哺乳類はまだ解体した事がないんで。お恥ずかしい話なんだけどさ。

 

 

 さらに二時間くらいかけて、大量の食材をゲットした。

 ちなみに、ルシア姉とマイも獲物を釣り上げたが……あっちはノーコメントとしておきたい、うん。人間にはちょっとアレなもんばっかだったしな。

 で、アイリスたちにも手伝ってもらって解体したりして、全部収納。

「出発前に一度メシにしとくかな。周囲はどうだ?」

『大丈夫、と言いたいところですが若干不穏な気配があります』

 む、どうした?

「さすがに気づいたみたいだねえ。上の道から崖を降り始めてる人たちがいるよ」

 げげっ!

「でもなんで気づいたんだ?偽装も結界もちやんとしてたよな?」

「単純に魔力探知だけをしたのかも。あるいは、川の魔力反応から何かピンときた可能性もあるし」

「……どっちにしろ、ここにいるのはまずいな」

「うん、わたしもそう思う」

 ためいきをついた。

「やれやれ、メシも地下か。わかった、降りようぜ!」

「はーい」

「わんっ!」

『わかりました』

「アイ」


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