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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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チョコレート・ラプトル

 次元潜航なんていう反則で追撃の手から逃れた俺たちは、ついでに渓谷の下に降りた。

 場所によってはグランド・キャニオンもかくやという景色になるらしい大渓谷だ。高低差も大変なもので、しかもその下は鬱蒼(うっそう)とした森になっている。しかも無数に住む生き物たちのほとんどは魔力を持っているため、外から中は探知しづらい。

 そう。

 ぶっちゃけた話、上にいる限り見つけようがないのだ。

 しかも、下は地元では奈落等と呼ばれていて、人間族どころか、獣人も含めた広義の人族もほとんど寄り付かない。

「まさか、こんな立派な道があるとはね。よく上からわからないもんだな」

 大変広いとは言えないが、キャリバン号くらいなら走れる道があったのだ。

 馬車道よりも少し狭いのだが、小さなキャリバン号なら車幅的にも問題なかった。

「ここ、人間向けの道じゃないんじゃないかな?」

「ん?どういうことだ?」

 アイリスの言葉に首をかしげた。

『主様、この道には忌避結界がないのです』

「……なんですと?」

 思わず窓の外を見てしまった。

「ここ森の道だぞ?まわりだってモンスターだらけだよな?」

「うん。いっぱいいるねえ」

 こうして走っていても、得体のしれない虫やら何やらの姿がちらほら見えている。

「こんなとこの道なんて、誰が使ってるんだ?ま、確かに整備はされているが」

 道はピカピカとは言わないし舗装もされてない。だけど確かに、きちんと整備されている道だった。

「え、そうなの?整備されてるってどうしてわかるの?」

「ほら路盤見てみ、砂利が見えるだろ?」

「あ、うん」

「これ、意図的に運んできて敷かれた砂利だと思うぞ。(わだち)がないからあくまで推測だけどな」

 これくらいの規模なら普通は轍があるものだ。そして、それで車種が判別できる。

 なんだけど……踏み固められた痕跡はあるのに轍、つまり車輪の痕跡は全くないんだよな。

 なんでだろ?

「へぇ……そうなの?」

「断言はしないよ。でも、俺はそうじゃないかと思う」

 興味深そうに窓の外を見たアイリスは、一瞬ピクッと反応して。そして感心したようにうなずいた。

「あ、グランドマスターもそうじゃないかって言ってる。さすがパパだねえ」

「やっぱりか。他の追加情報は何かあるか?」

「んー、ないねえ」

「ルシアはどうだ?」

『用途はわかりませんが、ここをよく行き来している種族の情報がありました。主にラシュトル族だそうです』

「へ?ラシュトル族?」

「はい」

 お忘れだろうと思うから一応解説しておこう。

 ラシュトル族というのは、地球におけるラプトル種、つまり小型で尾の長い肉食恐竜群に似た連中のことだ。アイリスと出会ったあの森で、俺は好奇心むき出しのラシュトルたちに追い回されてビビりまくったっけ。

 ちょっと黒歴史だが、懐かしいね。

 ん、まてよ?

「じゃあ、ここはラシュトル族の道なのか?でもあいつらこんな道路整備なんて必要なのかな?」

「整備をしたのは別の種族じゃないかな。パパ、グランドマスターの森の道を覚えてる?」

「ん?ああ覚えてる」

 あの、結構広いけど曲がりくねってた道だよな。

「あれ作ったのもラシュトル族じゃないけど、一番使ってたのも彼らなんだって」

「そうなの?」

「障害物がないから全速力で飛ばしやすいらしいからって」

「あー、そういうこと?」

「うん」

 あいつら足速いもんなぁ。障害物気にせず本気で飛ばせるとなったら、確かに利用するか。

 そんなことを考えながら走っていたら、

「おっと、噂をすれば何とやら」

「え?」

『ラシュトル族ですね。こちらに気づいたようです』

 道の向こうに見えたかと思うと、どえらい速さでタターッと接近してきた。

 そして、

「おっと!」

「きゃっ!」

「ワンッ!」

 ドンッと走ってるキャリバン号の上に乗りやがった。

 薄っぺらい軽四の屋根が一瞬、ボンと凹んだ。まぁ異世界仕様なんですぐ治ったが。

 おいおい、好奇心はいいが乱暴すぎるぞ。

 俺は屋根の下からドンドンと叩き、窓の上をちょっと開けた。

「コラ、いきなり屋根に乗るな!危ねえ!」

 言葉が通じるとは思わなかったが、とりあえず文句を言った。

 そしたら、

『あーややや、ごめん。それは知らなかったよ』

 思いのほか殊勝なイメージが、俺の脳裏に響き渡った。

 へ?どういうこと?

「アイリス。おまえ、翻訳してくれてるのか?」

「ううん、何もしてないけど。なに?」

「そうなのか?俺は今、上のヤツの謝る声が聞こえたが?」

 そんな事を言っていると、突然にルシア姉が言った。

『妹が進化したのでしょう』

「へ?そうなの?」

 思わず、左手に巻きついている蔓草……ルシア妹を見た。

「樹精の幼生体がラシュトル族の通訳なんて、はじめて聞いたよ?」

『自分も初耳です。しかし樹精王様によれば、魔族に付いた変異体で過去に実例があるそうです』

 へえ。

「どういう理屈なのかしら?」

「わからん。わからんが、今はとりあえずやる事があるだろ」

 そういうと、俺は屋根の上の客人、客竜?どっちでもいいが、とにかく声をかけた。

「よう。ものは相談なんだが」

『なあに?』

「そろそろ昼にしたいんだが、静かで安全なとこ知らねえ?いい場所教えてくれたら、俺らのメシでいいならご馳走するぞ」

 まぁ、異種族とはいえ地元民だ。何か知らないかと思ったんだよね。

 そしたら、全く予想外の反応がきて俺は驚いた。

『え、ほんと?ねえねえ、チョコもある?』

「は?チョコ?」

 チョコって、あのチョコか?

 なんでラシュトルがそんなもん知ってる?

 いやいやマテ、ちょっと待て。

 ち、違うよなまさか。チョコっていってもたぶん、チョコレートじゃなくて何か別のものだよな。

 だけど。

「チョコって、あの異世界から来たっていう茶色で甘いお菓子のこと?」

 アイリスがなぜかそんな質問をして。

『そう、それそれ!異世界人なんだろ?それも、異世界の食べ物とかいっぱい持ってるんだろ?ね、ね、チョコはあるの?』

 マジかよ。本当にチョコなのかよ。

「……一応断っておくが、チョコレートにも色々あるんだ。チョコってだけでおまえの好きな味に出会えるかは保証できないぞ」

『それでもいい!チョコおねがい!』

「わかったわかった。じゃあさっきも言ったけど、静かで安全で食事に向いた場所を教えてくれ。頼む」

『わかったー』

 ……うそだろ?

 内心、なんともいえない気持ちを抱えたまま、俺はキャリバン号を走らせた。

 

 

 

『おいしい!』

 結論からいうと、俺の取り出したハーシーズのブロックが実に大ウケだった。

『そうそう、この味、かなり、ううん、すごく近い!ありがとうっ!!』

 板チョコを何枚もうまそうに食うラシュトル……シュールだ。

 そもそも種族的に大丈夫なのかな。この手の嗜好品は身体にいいとは限らないし、ましてや異種族だし。

「ま、気に入ってくれたならよかった。だけどチョコレートなんてどこで食べたんだ?」

 この味で正解って事は思いっきり地球産のだろ。それとも何処かで作られてるのか?

 質問してみたのだけど。

 それに対するラシュトル君の返答がまた。

『えーとね、人間族のバランっていう国の北の方かな、チョコ作りが伝えられてて、職人さんたちが代々チョコを作ってたんだよ。異世界の人のレシピを参考に再現してね』

「え、そうなのか?東大陸でチョコ作りしてたってか!?」

 へえ。こりゃまた意外。

 ……ん?まてよ?

「作ってた?過去形なのか?」

『よくわかんないけど、チョコが食べられなくなったって』

 しょんぼりするラプトル、もといラシュトルという珍妙な存在の話を昼食作りながら聞くに、どうやらこういう事らしい。

 

 バラン国の一角で異世界人由来のチョコレートが作られていたらしい。なんでもその地域には異世界由来の本物のカカオが根付いているそうで、その価値に気づいた異世界人の進言で調査が行われ、チョコレートの試作がなされたとか。

 ところが。

 独立戦争のどさくさにチョコレートの里が何者かの襲撃を受け、職人は全員連れ去られ、里は一夜にして焼き捨てられたのだという。

「まさか……それって人間族っていうんじゃないだろうな?」

『聞いた話だと、キミンレンってとこの人間らしいよ。さらった職人たちは人間族の国に連れて行かれたんだって。……だから、チョコが食べられなくて……僕ら悲しくて悲しくて』

「そういうことか。なんてこった」

 まさかと思うけど。

 これもやっぱり、例のアレか?

「なぁアイリス、これってやっぱり、サイカさんの言ってたアレと同じかな?」

「アレ?」

『異世界の自動車を研究していて人間族に破壊された件ですね。

 推測ですが、少なくとも目的は同じと思われます。すなわち、自分たちにないものを獣人族が持っている事自体をよしとせず、盗み出す、もしくは破壊しろという事ですね』

「……だよなぁ、やっぱり」

 やれやれ、なんてこった。

「アイリス、記録しといてくれ。町についたら、これも一番でサイカ商会に確認する。あっちに情報がないなら出せるようにしてくれ」

「うん、わかった」

 ちなみに今日は魚でなくチキンだ。まぁチキンといってもニワトリじゃないんだけどな。視覚的にはキジに近い。

 このところ魚ばかりだなといってたら、アイリスが鳥を撃ち落としてくれたんだよ。

 え?どうやってだって?

 このところご無沙汰してたんだけどさ、アイリスたちと出会った最初の頃、俺が思い出から引き出したパチンコで鳥を撃ち落とした事があるんだよね。いや、パチンコ自体は本格的なスリングショットといっても殺傷力はないんだけど、アイリスがパチンコ玉に電撃魔法載せたんだわ。

 今回はそれが生きた。

 しかも、ラシュトル君が面白がって撃ち落とした鳥をもってきてくれたり、珍しくマイが解体を手伝ってくれたりもしたもんで、あっというまに鳥料理の材料が揃っちまったってわけで。

 で、そんな食卓を見たラシュトル君が、

『おいしそうだね』

「食うか?」

『いや、いいよ。お菓子はともかく主食は生がいいからね。なんか捕ってくる』

「そっか」

 チョコレート好きのラシュトル君も、やはり野生種。主食は生がいいらしい。

 そんなもんかと俺は思った。


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