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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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迂回路

 この世界に来る前、若者が浪費よりも預貯金に走ってるって話をきいた。

 若さがないと、その人は嘆いていた。

 俺はむしろ、立派じゃないかと唸ったけどな。

 だってさ。

 俺が彼らの年代に何やってた?バイクで峠攻めてコケてた頃じゃねえか?

 お金を貯めるのは使うためって生活だった。未来の事なんて考えちゃいなかった。

 だったら。

 そんな事に目もくれず、未来のために貯蓄する。

 それはそれで、凄い事じゃないのかい?

 

 人間、生きていたら、いつか全力を尽くさなくちゃならない時もくるだろ。

 それは、成し遂げたい事かもしれないし、共に暮らしたい誰かかもしれない。

 あるいは大切な誰かが倒れて、介護が必要になるのかもしれない。

 こんな世の中だ。その時にそなえて準備をしておくっていうのは、大切な事だと思うんだよ。

 自分が本当にやりたい事、やるべき事をみつけた時。そうした時にこそ、冒険心はとっておけばいいんじゃないか?

 

 人生は長い。

 だけど、何かが起きてしまってから慌てて準備できるほど長くはない。

 だから、貯蓄に走る若い人たちに、俺は心から賛辞を送りたかった。

 

 願わくば。

 その人が本当に「ここに力を使いたい」というものに出会えた時、その時だけは躊躇(ちゅうちょ)なく踏み出せますように。

 

 

 

「これは、かなり厄介ですね」

「あなたのお車でもそうですか?飛竜なみの機動性をもつと伺っていますが」

「いやいや、そこまで凄くないですから」

 確かにキャリバン号の性能は大したものだし、うちは立派な仲間に恵まれている。

 だけど、やっぱりキャリバン号はクルマなんだよな。

 地面から浮いて走るのはすごいけど、空を飛べるわけではない。おそらく、ろくに舗装もない異世界の道で壊したくないという、俺のなかば無意識の恐れからそういう機能を得たんだろうけど、基本はやっぱりクルマだろう。

 で、何を言いたいかというと。

「まさか、ここまで迂回路がないとは」

「ええ、すみませんけど」

「みなさんが悪いわけじゃないでしょ。こんな時期に東に行きたい俺がバカですよ、むしろ」

「……さすがですな」

「え?」

「いや。異世界の方はこういう時に意地を張らないと聞いていますけど、本当なんですね?」

 へ?

「いや、だって知らない土地だしさ。変に意地はるより地元の意見を聞いた方がいいでしょ」

「確かに合理的にはそうなんですけどね。中には『こんな時期に戦争なんて』ってお怒りの方もおられるのですよ」

 なんじゃそりゃ……。

「ゴネたら普通に通れるっていうのなら、そりゃ俺だってゴネるかもですよ。

 けど、そうじゃないでしょ。国の情勢なんて、個人のわがままでどうなるもんでもないでしょうに」

「ええ、まったくです。何でそれが理解できないんでしょうね」

 なんだか知らないけど、担当の青年はやたらと好意的だった。ありがたいこった。

 さて、ひょんな事から、俺たちはアイーダ軍駐屯部隊の人たちと交流を持つ事になった。

 村の集会場では、駐屯部隊から来た人たちと村の人たちが話をしている。利害の調整とか、食糧の売買とかやる事があるそうで、俺たちはその証人みたいな名目でその場にとどまりつつ、彼らの持っている二国の情報をいろいろ聞いていたのだけど。

 あ、俺も当然だけど、彼らに食糧とか提供してるよ。手持ちが少ないので魔力も使っちまったけど、そこはそれ、ギブアンドテイクだろ?ここでケチるのはよくないと思う。

 そんなわけで、彼らの中でも特に、この地域の魔獣車キャラバン移動に詳しい人が話を聞いてくれているわけだ。

「今はですね、アイーダ、バランどちらも荒れています。やはり国をひとつ作ったり、大きく勢力図が変化するわけですから、混乱は避けられないようです」

「そんなもんすか」

「ええ。特にハイウェイをそのまま通られるのはおススメできませんね」

「そうなの?」

「そりゃそうですよ。ハイウェイを使うのは隊商なり長距離旅行者なり、つまり、お金のある層なんですから。当然狙われると思いませんか?」

「……そりゃまぁ」

「はい。そういう事です」

 情報担当さんの指摘は、なかなか的確だった。

 聞けば、もともと旅行者むけのそういう仕事をしていたらしく、その情報網を買われているのだという。なるほど。

「参ったな。魔大陸に行きたいから、どうしてもその対岸にはいかなくちゃならないんだが」

 魔大陸は、地球でいうと日本に近い位置にある。ハイウェイは本来、その対岸まで続いているらしい。

 あ、ちなみにそこにも海底トンネルがあったらしいんだけど、あいにくそこは崩落しちまっているらしい。海を潜れない限りは通れないんだと。

 で、だ。

 ハイウェイが使えないといっても街道は他にもある。魔獣車仕様の道をつなげばいいじゃんと思ったのだけど。

 問題は、バラン国が大きすぎる事なんだそうだ。

「平和なときは、とても安定していて頼りがいのある国なんですけどね。今ばかりはそれが裏目に出ているんですよ」

「むむむ」

 ちょっと簡単に位置関係を解説しよう。

 よかったら、地球儀でもネットの地図でもいいから世界地図を見てほしい。インド・パキスタンあたりだ。

 現在のキャリバン号の位置を、かりにパキスタンの西端にたとえよう。すると、ハイウェイはこのままインド国内に向けてドーンと突っ込んでいく形になっていて、南の回避するのは無理。海がある。

 回避するなら北って事になるわけだけど。

 インドの北って何がある?ヒマラヤ山脈を背景に、小さい国がズンズンズンって並ぶ感じだよな?

 バランの北も同様に、テーチス山脈ってのがドーンと広がっていて、その手前には小さい国がいくつかあるんだ。

「山脈の南の国々は、政情としては不安ではないですね。ただしハイウェイよりは時間がかかると思います」

「安全にいければ、まぁ多少はかまわないですよ」

 俺は正直に答えた。

 チート主人公じゃあるまいし、そこんところはね。

「山脈の向こうはどうなんです?」

「まず山脈地帯は強大な魔物が多く厄介です。抜けられる街道もありますが、その向こうにあるのは……キ民連ですからね」

「キミンレン?」

「キータ人民国家連合だね」

「あー……よくわからないけど、何だか怪しげな名前の国だね」

 そういや、そんな国の話をチラッと聞いたっけ?

「連合と名乗っていますが、実際は中央組織が支配する強権国家ですね。支配した地域の少数民族を侵略の尖兵として他国に送り込んだり、かなり困った存在でして。東大陸最大の要注意国家といえます」

「それは、また」

 下手な人間族国家よりヤバくないか?

 はっきりそういうと、部隊側の人に苦笑いが広がった。

「その評価は否定できませんね。とある技術で非常に力をもつ国ですし歴史も長いのですが、それゆえになかなか安定しないのも事実です。特に山越えを狙わない限りはおススメしません」

「なるほど、わかりました」

 将来的にはわからないけど、今はわざわざ行く事もないだろ。

「で、どうなさいます?まぁこの場で決める必要はありませんが」

「とりあえず、山越えとバランコースは無しですね。時間がかかるかもっていう間の国々を抜ける事にします」

 ま、それしかないだろうしな。

 それを告げると、担当さんは大きくうなずいた。

「ならば、タンの国を目指すのがいいでしょう」

「タンの国?」

「はい」

 首をかしげた俺に、担当さんはこう言った。

「少し遠回りになりますけど、タンの国は魔大陸と友好関係にあるんですよ。情報も得られるかと」

「なるほど」

 それは確かに考慮する価値がありそうだな。

「わかりました、情報本当にありがとうございます。ちょっと仲間内で検討してみます」

 そういって、俺は頭をさげた。

 

 

 

 担当さんとの話が終わってから、俺たちはキャリバン号の中で会議をする事にした。

 なお、外部には音を漏れないようにしている。ルシアの存在を村人には教えてないし、何が起きるかもわからないからだ。

 村の人たちが信用できないわけではない。

 ただ、どこに誰がいないとも知れないからな。

「そうだねえ、用心するのは大切だね。ところでポワロ君、これおいしいよ?ほら」

「うわ、なんだこれ旨え!」

「……おい」

 仲間うちだけの話のはずなのに、なぜポワロ君がいるのか?

 しかも、前に思い出から取り出してしまってあった、お茶請けの芋ケンピをおいしそうに食べているのか?

 いや、芋ケンピは後でまた取り出すからいいんだけどさ。わんこだろ君は。こんな甘ったるいお菓子でいいのか?

「問題ないよ?ね、ポワロ君?」

「おう、うまいぞ。それから、オレはわんこじゃないぞ」

「……はいはい」

 てか、いつのまに仲良くなったんだ?おまえら。

「兄ちゃんが釣りに没頭してた時、オレは姉ちゃんに兄ちゃんの話聞いてたからな!」

「うん、そうだよ?」

 そ、そうだったのか?いやそんなバカな。

「パパ、熱中癖あるからねえ」

「やっぱりあぶねーよな。まわりがしっかりしてないとな!」

「だよねえ」

 ……コメントする気力が失せてきた。

「そんな事より兄ちゃん、この乗り物の中で話す事にしたのって、皆に紹介してない仲間がいるからなんだろ?この乗り物に憑いてるとかっていう」

「……まぁな」

「そっちの心配なら問題ねえよ。この乗り物になんか精霊じみたモンがついてるのは皆知ってるからさ」

「そうなのか?」

「ああ。だから姉ちゃんもオレを追い出さなかったんだろ、違うか姉ちゃん?」

「うん、そだよ」

「……」

 なるほど、そういう事だったのね。

「ま、そういう事ならわかった……だがそういうのは早く言えアイリス」

「あははは、ごめんねー」

「こら兄ちゃん、女の子いじめんな!」

 なんだこのカオスは……。

 まぁいい、仕切り直そう。

 ポワロ君というゲストが加わりはしたけど、彼はあくまでお客さんだ。まぁ、そもそも意味わかんねえだろうけどな。

 そんな感じで、彼以外の皆の意見を聞いてみた。

 だが。

『自分は主様の決定に従います』

 と、まずルシアは自分の意見を言わない。

「右ニオナジ」

 マイも同意見らしい。

「わんっ!」

 ランサは……まぁ、ただ便乗してしっぽ振ってるだけだな。

 そんなわけで、アイリスなんだけど。

「うん、そのルートでいいんじゃないかな?」

「おまえの意見はないのか?」

「もちろんあるよ。その上で、これがベストだと思うからだよ」

 アイリスは言い切った。

「そうか。じゃあ、迂回コース経由でタンの国を目指そう。いいか?」

「いいよー」

「わんっ!」

『了解です』

「アイ」

 皆の意見がまとまり。

「……姉ちゃん、お茶」

「はは、砂糖とりすぎたな。アイリス、お茶入れてやってくれ」

「わかったー」


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