遺跡探検隊[3]
なんだかよくわからない出会いの後。
「案内してもらわなくてよかったの?」
「いや、それはなぁ」
さっきの『草』は、フラフラと向こうを歩いている。
旅を再開したんだろう。その足取りは遅いが、ゆっくりと、それでも確実に遺跡都市を出て行く。
実は彼、いや彼女かな?彼女が都市を案内しましょうかと申し出てくれたのだけど、断ったんだよね。
「だって、30年も仕事放り出してたんだろ?その相手に仕事頼むってのもなぁ」
「当人がやるって言ってたのに?」
「この世界的にはそうなのかもだけどな……俺的には気になるかな?」
俺は別にワーカホリックでも何でもない。むしろ、どちらかというとモノグサな方だ。
だけど同時に、俺は小心者なんだよね。
予定を過ぎているというのなら、少なくとも確認は必要だろうとか。
期限を求められてないとしても、寝過ごしちゃったら少しは急いだほうがいいとか。
やはり、そういうところはちゃんとするべきだとかね。
「パパの世界って、慌ただしいんだねえ」
「そうか?」
「うん」
アイリスは俺の言葉を聞いて、そんな事を言った。
いやまぁ、俺にもわかっている。
俺はキャリバン号であちこちフラフラしていたから、田舎のテンポのゆったりさも知っている。生活のリズムだのテンポだのっていうのは、その地域に住む者たちでバラバラなんだ。その差異はどのくらいかというと、都会で最もせせこましい連中が分でやる事を、ゆったりした田舎では日、場合によっては週単位でやる事もある。
同じ人間ですら、ここまでテンポが違うんだ。
ましてや異生物なら。
とはいえ。
いくら自分がこの世界の人よりせっかちだと頭でわかっていても、それが身につくかどうかは別問題。十年後ならわからないけど、今の俺には無理だよな。
少なくとも、30年を「ちょっと」といえる感覚は無理。せいぜい日本の田舎レベルまでだろう。
「ま、いいじゃないか。次いこ次、な?」
「うん」
「わんっ!」
というわけで、キャサリン嬢の家の探検を終えた俺たちは、目立つところにある大きめの建物のところにやってきた。
建物は、外からみると緑に埋もれているようだった。だけどよく見ると建物自体にはなんの影響もなさげで、明らかに他とくらべてもピカピカだった。
「これ、なんの建物だろうな?」
「なんだろうね?」
アイリスにも見当がつかないらしい。
建物は金属質の光沢を放っていて、そして道路だった場所に面しているように見えた。入り口前には少し広めの空間があった。おそらく玄関か駐車場があったんじゃないだろうか。
近づいてみると、その空間が何だったかもわかった。
「駐車場。いや違うな、人をおろすだけの場所か」
「そうなの?」
「ああ」
ホテルや病院の前とかで、タクシーが人をおろす空間あるだろ?あれを想像してくれればいい。
「もしかしたら、脇か隣かに本当の駐車場があったのかもな。これじゃわからないが」
「だね」
現代日本なら白線のひとつもあろうってもんだが、遺跡にそんなものあるわけもない。
ただ幸いなことに、この世界の昔の建材は地球よりだいぶ質がよかったみたいだ。
え、なんでわかるかって?
「アイリス、最初にいったトンネルの登り口覚えてるよな?大昔なのに道がそのまま残ってたやつ」
「うん」
「ここの舗装はアレに近いと思うぞ。舗装の感じが似てる」
「そうなの?」
「ああ」
しゃがんで、素手でぽんぽんと地面を叩いてみる。
「コンクリみたいなもんかと思ったけど、粉っぽさが微塵もないな。なるほど、崩れもしないで千年もつわけだ」
「そんなにいいものなの?凄い材質?」
「凄い材質だな。セラミックか何かの発展形じゃないかと想像はするんだが……正直俺の知識にはないぞ、これ」
「そうなの?」
「ああ」
悔しいが、これは俺の知る日本技術より、いや現代地球の技術をはるかに越えているだろう。
同じように滑らない舗装はできるけど、千年もたせるのは無理だ。
逆に千年もたせる道はできても、それはツルツルだろう。
こんないい道を作るには、どんな素材が、どんな舗装技術が必要なものか。
思わず、ため息が出た。
「このぶんだと、この建物も凄そうだな」
ルシア妹を壁に伸ばして調べてみる……が。
『不明(壁)』
ドワーフ時代の建築物の壁と思われる。だが頑丈すぎて情報が集められない。
「うわ、解析できねえ!」
「本格的だねえ」
「なんか楽しそうだな」
「うん。だってそれって、未知の存在って事でしょう?」
「……まぁな」
そうだった。
アイリスは、あのドラゴン氏の眷属だもんな。好奇心の塊なのはむしろ当たり前だった。
「よし、そんじゃ調べてみっか!」
「うん」
入り口らしきところに近寄り、開けられるか見てみた。
「ふーむ、開け方がわからないな」
「さっきのヤツは似たようなやつじゃないの?」
「基本はな」
入り口はピタリと閉じられていた。
大都市なんかの公共性のある建物だと、地球なら正面入口はもう少し開放的だったりするのだけど、そんな常識はここでは通用しないらしい。ピタリと閉じられた入り口には気密性すら感じており、今度こそ生半可では入れそうもなかった。
「開ける方法があればいいんだがなぁ……ん?」
と、その時だった。
ルシア妹がピクッと反応したかと思うと、脳裏に情報が見えたんだ。
『開放するには入り口から「開放するは御使いなり」とドワーフ語で流し込む事』
な、なんだ?
思わず振り返ると、もうだいぶ遠くなった都市入り口に、あの『草』氏が見えた。
ゆらゆらと揺れているが……なんか手を振っているようにも見える。
そういう事か。
(助かったよ、ありがとう)
合図を返すと、『草』氏はそれを確認するかのように大きく揺れると、そして今度こそ去っていった。
「なぁに?」
「いや。入り方を教えてもらった」
「??」
まったく、この世界は善人が多いよな。困ったちゃんもいるけど。
どれ、やってみるか。
壁に左手を置いて、そしてルシア妹に周囲に渦を巻かせた。
よし、いくぞ。
「『開放するは御使いなり』!」
お、中でロックが外れたっぽいぞ。
「外れたの?」
「ああ。どうもこの都市では、思念で合言葉を使うのが鍵代わりらしいな。平和なもんだ」
合言葉方式は便利かもだけど、不用心ではもある。だって、人間の心理として、どうしても合言葉を簡単にしがちだからだ。
え、そんな馬鹿なって?
そんじゃあ聞くけどさ、毎年のようにネットで「世界でもっともひどいパスワード」が発表されてるけど、第一位はいつだって「0000」とか「password」なのは知ってるかい?
そう。人間ってそういう生き物なんだよ。
だから、合言葉方式が普通に使われていた都市って事は、よほど不用心だったか……それとも、鍵なんぞいらないくらいに民度の高い人達ばかりだったかのどちらかだと思う。
実際、これは明治維新前の日本がそうだった。
かつての日本で一般家庭に鍵なんぞなく、鍵自体が進歩しなかったのは、社会に需要がなかったから。つまり普通泥棒なんぞいなかったから必要なかったって事なのである。
まぁ、蔵にはさすがに鍵をかけたが、それも「鍵をかけてますよー」と盛大に自己主張するタイプのものでしかなかったらしい。
ん、話がずれたか。
つまりだ。
この都市の連中も、江戸人レベルとは言わないが……それなりに民度の高い連中だったんじゃないかな?
「よし、中に入るぞ」
「うん」
「わんっ!」
キャサリン嬢のとことはうってかわって、中はピカピカだった。
空気が冷たい。
小さな明かりがついているけど、あれは熱源にはならないっぽいな。
まさかとは思うが、これは本当に何百年、いや千年かな、ほとんど誰も入ってないってことか?
まぁ、あの『草』氏は当然、入ったんだろうけど……。
「ここは?」
「入り口ロビーってとこかな」
ロビーにしてはちょっと狭いけどな。
だけど、正面になんとなく案内所みたいな感じのブースがある。本当に案内所なのかは知らないけどな。
近寄ってみると、やっぱりそれは案内所っぽかったが。
「ドワーフサイズだな」
「うん」
カウンターのようになっていた。裏側には椅子とか書類、あと、魔道具っぽいものもある。
「これ何だろ、魔道具だね?」
「インターホンの類じゃないかな?」
「なにそれ?」
「たとえば、ここに『責任者にあわせろ』ってヤツがきたとするだろ?誰か呼ばないとダメだよな?」
「あー、連絡をとるためのもの?」
「あくまで推測だけどな」
ドワーフがどこまで地球のオフィスみたいな事をやってたのかはわからない。だから、あくまで俺の推測にすぎないし、まったくの勘違いの可能性もある。
だけど、入り口から入って正面にあるといえば、外来者むけの何かがあると思うのは不思議じゃないと思うんだよな。
そんなことを考えていたら。
「あれ」
「どうした?」
「この魔道具、生きてる」
「ほう?」
それはまた。
「そうか、まぁ明かりも生きてるみたいだしな……って、ちょっとまて」
「え?」
とりあえず何か操作しようとしているアイリスを見て、俺はとめようとした。
「よせ、なんの装置かわからないんだぞ押すなって!」
「ごめん、押しちゃった」
おぉぉぉぉぉぉいっ!!




