遺跡探検隊[2]
ドアをあけると、中は暗かった。
いや、暗いと思ったのは単に外との対比にすぎなかった。何やら壁の何箇所かが光っていて、その光が建物の内部を照らしていて、ちゃんと内部を見る事ができた。
つまり、電力だか何か知らないが、動力がちゃんと生きているわけだ。
ただし素直に喜べるかというと……それは無理そうだった。
「こりゃ酷いな」
確かに、外との間は閉鎖されていた。いや密閉されていたというべきか。
だが。
「キャサリンさんの部屋の方からは出入りできたって事か」
中は、謎の蔓草枯れ草の海。光がよく当たらないところは奇怪な白色になったりしつつも、所狭しと繁茂しまくっている。
で、そこいら中から虫の気配が。
「これは入れないな……って、おい」
頭を掻いていたら、またしてもずいっとランサが前に出て、
そのまま、ゴーゴーとそれらを燃やしはじめた。
「……」
「……わんっ!」
真ん中の首だけがなぜかこっちを見て吠えた。
いやまぁ、何を言いたいかはわかった。ちょっと待ってろって事だろ。
「わかった。無理するなよ」
「わんっ!」
そのまま器用に、建物などは焦がさず、それら植物や虫たちだけを焼いていくランサ。
「へえ」
それを見て、アイリスが感心したように唸った。
「どうした?」
「あの子、ただ焼いてるだけじゃないよ。焼いた魔物の精霊要素を吸い上げてる」
「……なんだそりゃ」
「器用だねえ。ただ焼き分けるだけでも凄いのに、精霊要素の回収も同時にするって」
「もしかして、頭が3つあるからじゃないか?」
へ?という顔でアイリスが首をかしげた。
「パパ。ケルベロスは頭がたしかに3つあるけど、意識まで3つあるわけじゃないよ?」
「そうなのか?」
「うん。うまくいえないけど、3つの頭が協業する事で、ひとつの統合された意識みたいなものを成立させてるんだって。だから、見た目よりもはるかにケルベロスは賢いって聞いた事あるよ」
「へぇ。でも別々動いてる事よくあるぞ?」
「統合率は常時変化してるんだって。小さい時は統合も緩いからバラバラなんじゃないの?」
「ふむ……?」
そうかな?どうも俺には違うように思えるが。
いや、統合された意識というのを否定するわけではない。
かりにケルベロスの意識構造がそうなっているとしても、物理上はやっぱり3つの頭だからね。
もしかして、一度統合された上で、改めてマルチタスク的に仕事をふるとか、できるんじゃないかなぁ。
うん。
それこそ、ひとりが炎の制御をしつつ、ひとりが吸収を使ったりとかさ。
「……パパ、すごい解釈するね」
「そうか?」
「うん」
マルチタスクって概念がないと、わかりにくいって事かな?
そんな話をしている間にも、ランサはゴーゴーと火を吹きまくり虫などを退治していく。たちまちのうちに最初の部屋を確保すると、さらに進んでいく。
確保できた部屋には、あちこちに灰があるだけで部屋自体はなんともない。
こんな狭いところで炎を吐きまくったというのに、酸欠もなければ余熱も全くない。
ルシア妹で調べてみても、単に『灰』としか出てこないし。
なんとも凄いものだ。
「あれ?」
そんな時だった。
「どうした?」
「何か見つけたっぽいよ」
「何か?」
「うん」
なんだろう。
とりあえずランサの後を追ってみた。
ランサの通った後は、まるで綺麗に掃除をしたようになっていた。違うのは何かが燃え尽きた灰があるくらいであるが。
だがしかし。
「……ランサ。もしかして、さっき気にしていたのは……ソレか?」
「ォン!」
どうやら間違いなさそうだ。
で、問題の『ソレ』なのだけど。
ランサの足元に、なんか『草』が押さえつけられていた。
え、イメージが沸かない?じゃあまず、黄色いアブラナの花を想像してくれ。
で、その黄色いアブラナの花がだな。緑色のボディをジタバタと動かし、ランサの足の下から逃げようとしている図を想像してくれ。
なんだこりゃ。
思わず、ルシア妹を伸ばして確認しようとしたのだけど。
「!」
ルシア妹の蔓草を出した途端、その『草』はビクッと反応した。
そして向こうの方から、おずおずと蔓草を伸ばしてきた。
その瞬間、
『ナント、使徒サマデスカ』
「し、使徒!?」
なんじゃそりゃ。
いや、今、ルシア姉みたいな声が頭の中に響いたんだが。
ふむ。
今気づいた事を聞いてみる事にした。
「君はもしかして、植物系高等生命体なのかい?」
『ハイ、使徒サマ。我々ハ小サキとれんとデス』
「小さきトレント?」
首をかしげそうになった俺の脳裏に、ポンと情報が流れた。ルシア妹のもののようだ。
『小さきトレント』
樹精族の眷属の中でもトレント種、すなわち歩行型の最小種族。森林などを歩きまわる
「あー……樹精王様の眷属なのか」
「イ、イカニモデゴザイマス」
とりあえず、ここにいる理由を簡潔に聞いてみたんだが。
「寝ていた?」
「ハイ」
なんでも、お使いの旅の途中、ここの都市遺跡の居心地がよく、つい長居してしまい。
で、昼寝してしまっていたのだという。
「なるほどね。どれくらい?」
「サテ。ヨクワカリマセンガ」
その小さい『草』はしばらく悩むように動いていたが、
「オソラクデスガ、オヨソ30年ホド」
「……は?」
聞き間違えたか?
「あの……俺の聞き間違いかな?えっと、どのくらい寝てたって?」
「30年デスガ?」
「……さいですか」
聞き間違いじゃなかったのかよ。
あー……うん。なんていうかコメントが浮かばない。
「シカシ、起キタトシテモ外ニデラレナカッタデショウ。アリガトウゴザイマス」
「閉じ込められちゃってたって事?」
「ハイ」
タハハハ……。
「そういや、お使いの途中なんだよね?そっち大変なんじゃないか?」
まぁ、30年も遅れたらそもそも……なぁ。
でも。
「ハイ、トアル樹精王サマノ元ニ届ケモノヲスルノデス。サテ、デハ再出発セネバ」
「……はい?」
え、そのまま再開する気なの?
「えっと、大丈夫なの?30年寝てたんでしょう?」
「ハイ。チョット寝スゴシテシマイマシタ。ソロソロ急ガナイト」
「……」
30年が「ちょっと寝過ごした」って……。
さすが植物って事なのか?それとも、この『草』がアホなだけなのか?
なんていうか、ちょっと判断に苦しむなぁ。
俺が悩んでいると『草』は大きくおじぎをした。
「使徒サマ、ドウモアリガトウゴザイマシタ。コレデ任務ニ戻レマス。助カリマシタ」
「そうか。ま、何かお役にたてたなら良かった。ところでひとつ質問していい?」
「ハイ、ナンナリト」
「使徒ってなに?」
『草』は少し悩んだみたいだけど、ちゃんと答えてくれた。
「アナタサマノヨウニ、眷属ヲ身体ニ住マワセタ『歩ク種族』ノコトヲ使徒ト言イマス。異種族デアリマスガ、擬似的ニ同胞ト考エマス」
「へぇ。つまり俺はこいつ……妹と呼んでるけど、こいつと居る限り同胞とみなすって事?」
「ハイ」
さっきから、俺の左手のルシア妹はウニウニと動きが止まらない。まあ、姉以外の同系種族がいるのだから無理もないが。
つながっている俺も何だかその、ドキドキが伝わってくるのだった。




