遺跡探検隊[1]
キャサリン嬢へのインタビューをルシアに頼み、俺・アイリス・ランサの三匹チームは探検に出発した。
え、人間がいるのに三匹はおかしい?
でもさ、だったら「ふたりと一匹」だと、アイリスが「わたしは人間じゃないから」ってまた主張しだすんだよ。
だけど「ひとりと二匹」だと、なんとなく俺が疎外感あって納得しない。
うん。
だから、うちはこういう場合「三匹」でいいのさ。
あ、ちなみにマイだが……彼女はまたしても別行動。
「オイシソウナ臭イガスル」
「なにそれ?」
「……知ラヌガ、ホットケ?」
「そりゃ仏だ。まぁ、わかった」
こういう時はツッコまないのが華だ。好きにさせておこう。
さて。
いきなり探検といっても、無目的にあちこちウロウロするのが探検ではない。まずは見るべきところがある。
キャサリン嬢の家なんだけど、ここって本来は格納庫だと思うんだよな。で、身体の大きな彼女が使わない人間サイズの区画ってのがあるわけで。
だがしかし。
「……こっちからは入れないな」
「入れないねえ」
「わう」
たぶんこっちだろうって出口のあたりには、キレイに整理されたスクラップが山積みになっている。もちろん住人であるキャサリン嬢のしごとだろう。
許可を得ているとはいえ、ひとの家をぐちゃぐちゃにするわけにはいかない。
ちなみにスクラップを解析してみると……もはや何がなんなのかわからないが、素材については判明した。
「セラミックが多いみたいだな」
「セラミック?」
「簡単にいえば焼き物の一種かな?色々言い方があるんだけど、金属でないものを焼結したりして作った素材の一種だよ」
「へぇ」
「俺は専門外だから詳しくないけどな。非金属ゆえに錆びないし、壊れやすいって問題点さえ克服すれば金属よりも利点が多かったらしくて、俺の世界でもかなり使われはじめてたな」
「ふうん」
ルシア妹で調べても『セラミックのかけら、詳細不明』みたいなのばっかりだ。
「とりあえず、ここはダメだ。別の入口を探そう」
「うん」
「くぅ……」
ん?ランサはなにかを感じてるみたいだな。なんだろ?
「いこうぜ、ランサ」
「オン」
ふむ。
あんまり気にするようなら、あとで改めて調べてみないとだな。
一度外に出て、建物の後ろにぐるりと回ってみる。
建物の前半分は通りに面しているのでキレイだけど、後ろ半分は侵食する森に食われている感じだ。なんかヘンな虫とかがいっぱいいたりして、さすがの俺もちょっとキモい。
「これは……有害な虫とかいないだろうな。アイリス?」
「うう、わたしも無理。竜の威圧とか虫には効かないんだよ」
「あー……そりゃそうか、虫だもんな」
俺たちがそんな事を話していると、なぜかランサが前に出た。
「ランサ?……お」
「あ」
その瞬間、ランサがいつもの仔犬サイズから、散歩の時の中型犬サイズになった。
ふむ。そういえば、このサイズの時って紹介してなかったかな?
大きさは、犬としてはかなりデカい。今、大きさ的には土佐犬くらいかな?
通常種のケルベロスでも身体が虎くらいになるというから、おそらく進化するだろうと言われているランサが成獣になったらどうなるか、ちょっと楽しみではある。
「ウルル……」
「む、どうする気だ?」
ランサは威嚇の声なんて滅多に出さない。珍しいことだ。
そしたら、
「……精霊要素を集めてるよ」
「なに?」
「このあたりの精霊要素を集めて、何かするみたい……ほら」
「!」
アイリスが指さして、俺がそれを見た瞬間だった。
ランサの3つの口が、カッと開いたかと思うと、
「!?」
そこから、森の全てをも焼きつくさんと物凄い火が出たのだ。
ちょ……マジかこれ!?
「いや待て、これって森林火災を起こすんじゃ……」
いや、仮定じゃなくて確定だろ。森に向かって火炎放射器ぶっ放すようなもんだし。
だけど。
「大丈夫みたい」
なに?
「そんな馬鹿な」
「バカじゃないよ。見てほら」
「……なに?」
アイリスの指差す炎の中を見た俺は、自分の顎がカクンと落ちる音を聞いた気がした。
炎の中に、カマキリがいた。たぶん、いつぞやのヤバいアレの同種だと思う。だいぶ小さいけどな。
そいつが焼かれて、燃えているんだけど。
「……まて。なんで周囲の葉っぱが燃えてないんだ?」
いや、葉っぱだけじゃない。まわりの緑もそうだ。
見ると、炎が灼いているのは魔物ばかりで、木々や草花にはなんのダメージもなかった。さすがに肉の焼けるっぽい臭いは洒落にならないが。
「……選択の炎」
アイリスがぽつりと、つぶやいた。
「なんだそりゃ?」
「高位魔法の技術のひとつなんだけど、狙った相手以外にはなんの影響も与えないってやつだよ。手のひらの上の魔物を焼きつくして、乗っている手の方はなんともなかったりするの」
「……そんなことできるのかよ」
「うん」
なんていうか……どんだけテクニカルなんだよそれ。ほとんど大道芸の域じゃないか。
「炎の魔法は破壊力があるけど延焼問題が常につきまとうからね。炎を得意とする魔物にはマスターしている者がしばしばいるっていうけど……ランサはまだ子供なんだけどね」
「天才あらわるってか」
「そんな感じだね」
ふむ。
やがて炎は消えて、そこいら一体の虫はたぶん殲滅された。
「くぅん」
「おお、すげえなランサ、助かったぜ」
「オン!」
思わず本気で頭をなでてやると、すんげー喜んで尻尾をぱたぱた振った。
ははは。そんだけ強いのに、こんな俺に懐くんだもんなぁ。いや、可愛いけどさ。
ランサのおかげで、建物の後ろまで回りこむ事ができた。
草なんかはあったけど、そこはルシア妹が大活躍した。つまり、生い茂った草なんかを切り拓き、通路を作ってから通るって真似ができたからだ。
途中、ルシア妹を食んでくる小さな魔物がいたようだが、何か後ろでボリボリ音がするので目を向けていない。まぁその、ランサが食べているんだろう。魔物だしな。
さて。
「ここが入り口みたいだな」
「封鎖されてるねえ」
うん。
扉はしっかりした作りのもので、ほとんど隙間なく閉じている。もちろん破壊などもってのほか。
うーん。これは開けられないかなぁ。
「ん?見たいのか?ほれ」
ルシア妹がちょろちょろと蔓を伸ばしてきたので、探らせてみた。
そしたら。
「お、何か出てきたぞ」
『魔力鍵』
特定の言葉を魔力に乗せて送り込むと開く。
「言葉を魔力に乗せて送り込め、だと」
「合言葉みたいなもの?……じゃあ、ダメじゃん」
「まあな」
覚えてるヤツがいるわけもないしな。
ふむ。だけど。
「何見てるの?パパ?」
「いや。どこかにメモでもないかと思ってな。無理かな」
「?」
ルシア妹を使い、あちこちの隅を探させてみる。が、何も出ない。
「ふむ、無理かな……って、おや?」
半分あきらめつつ、下を見た時だった。
「なんだこれ」
「え?」
ルシア妹で草刈りをしたので半分現れた地面。
その、扉に近いあたりに何かがあった。
「何かをフタしてる?」
「まさかと思うけど、これってインフラのアレじゃないかな?」
「?」
「いや。水道とか電気とかさ。そういうのの元栓っていうか」
「??」
アイリスにはいまいちピンとこないらしい。
ま、いいか。
そのフタっぽい丸いのは、ちょうど日本の下水のフタくらいの大きさだった。何かの意匠、それから数字が刻まれている。おそらく管理用の番号だろうな。ドワーフ時代の数字で、俺にも読める。
……管理用の番号?
ふむ。ためしてみるかな?
ルシア妹をドアに触れさせ、読んでみた。
『468329238444』
む、反応あり。何か外れた音がしたぞ。
「え、番号わかったの?どうやって?」
「なんていうか……不用心だなぁ」
「そうなの?」
「ああ。死んだ婆ちゃんみたいな真似しやがる」
いや、婆ちゃんよりひどいか。彼女は郵便受けの底に鍵を入れてあったんだが。
「人間のセキュリティなんて、どこも似たようなもんなんだなぁ」
「そうなの?」
「ああ」
思わず苦笑すると、俺はドアをそって開けた。




