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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
137/180

彼女のお部屋

 そんなわけで、ミノタウロスのキャサリン嬢の家にやってきた俺たち一行。

「と、その時、我々の目の前に恐るべきものが、ババーン!」

「……」

『えっと、何かしら?』

「なんてこった。アイリスがボケをかました」

「えー、何それ?」

 何が不満なのか、アイリスはムムッと眉をしかめた。

「これってパパの世界の娯楽だよね?夢でみたよ?」

「どういう経緯で俺の世界の夢を見たんだとか細かいツッコミはしないけどさ。そのノリ古いっつの」

「そうなの?」

「そう」

 どこぞの探検隊とか、いつの時代だよ……。

 と、俺たちとアイリスが妙なノリをやらかしていると、キャサリン嬢がクスッと笑った。

 いやその。

 メンタル的には普通に女の人だからなキャサリン嬢。それどころか結構チャーミングな感じでもある。

 見た目がでっかい牛のモンスターってところはアレだけど、まぁそりゃ仕方ないだろ。異種族だもの。

 で、だ。

 遺跡の入り口が近づいてくると、俺たちはためいきをもらした。

「これは……すごいな」

「すっごいねえ」

 そこにあったのは、森に埋もれた古い都市だった。

 入り口にキャリバン号を止めた。

「これは……キャサリンさん、ちょっと降りて見ていいか?」

『ええ、いいわよ。ていうか、ここまで来ればアタシは降りても大丈夫』

 そりゃそうか。

 俺たちは外に出た。

 アイリスがキャサリン嬢が出るのを手伝っている間に、俺は都市の見た目をチェックしてみる事にした。

「……ほう」

 森に埋もれているように見えるが、建物自体には侵食されてないみたいだな。

 いや、そうでもないのか?

 建物自体は白地が多いが、これは塗装や舗装が長年の侵食で削り取られているのかもしれない。で、そういうところは明らかに原型を失っている感じのところもある。

 だけど。

 見たところ、頑丈そうな大型建築物はまるっきりそのまんまっぽいぞ。蔓が巻き付いているものもあるが、侵食されている気配がない。

 なんでわかるのかって?

 その建物だけ、妙に色鮮やかで光沢があるからだよ。まるで新品みたいに。

『どう、何かわかるかしら?』

「いや、見ただけじゃ全貌はわからないが……しかし凄いなこれは」

『そう?どのへんが?』

「全く侵食されてない建物もある。かなり古いだろうにな」

 思わず唸ってしまった。

『古いっていうのはどうしてわかるのかしら?』

 ふと気づくと、キャサリン嬢が俺の隣に立っていた。興味深そうにこちらを見おろしている。

「俺はこの世界の植物相をよく知らない。だけどイメージとして、下に生えている草花に比べて、ほら、ああいう木々は伸びるのに年数がかかるもんだと認識しているんだよ」

 そういって、俺は建物のひとつの横に生えている木を指さした。

 その木は相当な大木だった。どう見ても千年単位の時間を過ぎてそうだった。

「あれなんか、俺の世界なら樹齢何千年って言われても驚かないぞ」

『そうなの?どうしてわかるの?』

「ほら、これだ」

 俺は少し歩いて前に出た。

 俺たちがいるのは、おそらく大昔の都市の入り口だ。魔物のいる世界にふさわしく、そこは狭くなっていて、高い塀があったらしい痕跡も伺える。まぁ、塀本体は植物との戦いに負けたのか、ここにはないが。

 しゃがみこんで都市の中に目を向けて、そのラインを確認する。

 やっぱりだ。あの木はどう見ても、通りの一部を食い破るように生えている。

「この向こうはおそらく、大通りだ。ここの住人がどういう町を作っていたのか知らないけど、町の入り口に近い大通りっていうのは当然、交通量も多かったろう。邪魔なもんを置いていたとは考えにくいんだよな。つまり」

『あの木は、ここを管理する人がいなくなってから生えたものだろう……そう言いたいのね』

「んー、その可能性もあるけど、街路樹の生き残りって可能性もあるな」

『ガイロジュ?』

 キャサリン嬢は街路樹がわからないようだった。田舎のせいか?

 少し前に出て、そして、まだ残っている舗装の一部を指さした。

「ほら、こうやって土が見えてるところが定期的にあるだろ?俺の推測通りなら、ここは木を植えていた跡じゃないかと思う」

『これ、一定間隔に並んでるけど……これが全部?』

「そういうこと」

 俺はうなずいた。

「俺の世界の話だけどな、大都市の大通りの横に、並べるようにして大きな木を植える習慣があるんだよ。これを街路樹といって、合理的ではないんだけど、無味乾燥な道路に木がある事を喜ぶ人が多くてね。ま、結構大きな木になって、しばしば問題になる事もあるんだが、それでも怒る人は少ないな」

『へぇ』

 興味深そうにキャサリン嬢はつぶやいた。

『あの女の子……オルガちゃんって言ったかしら。彼女ともちょっと違う答えね?』

「オルガは何て?」

『都市の中にこんな木を植えるなんて合理的ではないが、そういう習慣も存在する。だからどっちとも言えないって』

「なるほど」

 それもまた、ありだな。

 東京はお江戸の時代から緑が多いと言われたが、それは住人が緑を好むって事でもあるからな。

 あんなコンクリの塊の東京なのに、ふと見るとあちこちにやたらと巨大な木が生えていたりする。もちろん保守されているわけだが、めんどくさくても切ろうという声はあまり聞かない。せいぜい、落ち葉が舞う季節に鬱陶しがる人がいるくらいだ。

 俺は田舎者だけど、人生の半分を東京で過ごしてる人間なんで、それはわかる。

 いや、俺は都会がどうの田舎がどうのというつもりはない。ただ、コンクリの多い町なんだから、今残ってる緑くらい残しておこうよと、ただそれだけの話だ。

 だって、壊すのは簡単だけど、戻すのは何百年かかるんだぜ?もったいないじゃないか。

 話を戻そう。

「そういえば、キャサリンさんの家ってどこにあるんだ?」

『あら、興味あるのかしら?』

「色っぽい意味じゃなくて悪いんだけどな。理由はアレだ」

 建物の一部に見えている、窓っぽいやつを指さした。

「平均的な人族と同等か、あるいは少し小さいと見た。もしかしたらドワーフサイズって可能性もあると思う。

 だとするとキャサリンさん、あんたにはちょっと住みにくいんじゃないかって思ったんだが、どうだろ?」

『……よく見てるわねえ』

 面白そうにキャサリン嬢は笑った。

『いいわ、うち見せてあげる。汚くて悪いけどね。こっちよ』

 そう言ってキャサリン嬢は歩き出した。

 

 

 

 そこは、まわりの町からは少し開けた場所だった。

 だだっ広い駐車場のような空間があり。そして横を方を見ると、ずいぶんと大きな倉庫っぽい建物があった。

 ただ、そこもただの倉庫ではないのか、えらく頑丈そうな建築だったが。

「ここがキャサリンさんの家?」

『ええ、そうよ』

「入ってみていいか?」

『ええどうぞ。古い異物がたくさんあるけどね』

 ほほう。どれ。

「おじゃましますー」

 入ってみると、最初、埃っぽさが目についた。

 しかし、そのボロさと古臭さのわりには埃が少ない。おそらくはマメに掃除されているんだろうと思われた。

 ふむ。キャサリン嬢はきれい好きなんだな。女子力高いってことか?……いや、ミノタウロスだから牛力?むう。

 いや。

 それはそれとして。

「これは、また」

 そこにあったのは……確かに遺物だろう。

 しかしこれは。

「なんだこりゃ、ゴーレムか何かか?キャサリンさん、調べてみていいかい?」

『調べる?』

「これでさ」

 左手のルシア妹を少し出してみると、ちょっとびっくりした顔の後で『いいわよ』と許可してくれた。

 で、その遺物を調べてみた。

 

 

『エム・レドラ・ラーマ』※状態:大破

 人型の魔導兵器である。アマルティア時代にドワーフが引き継いだ技術により作られたものだが、完全体で現存するものはない。遺物が数体あるだけであり、この遺跡都市の個体は一般の研究者には知られていない。

 完全に壊れており修復は絶望的。

 なお、オルガ・マシャナリ・マフワンの魔力の残り香が確認存在する。推定で一ヶ月以内にこの機体の調査をしたと思われる。

 

 

「ふうん。オルガの調査対象ってところかな?」

『あら、わかるの?』

「魔力の残り香があった」

『あら。そんなのわかるんだ、へえ……』

「?」

 なんだろう?キャサリン嬢の目線が急に、アイリスたちがヘンな事考えてる時のそれに似てきたような。

『ま、いいわ。そこは追求しないのがお約束ってやつよね。

 ところで、彼女がどこを調べていたとか話した方がいいかしら?』

「あー、それはありがたいけど、俺よりもルシアに頼みたい。ルシアどうだ?」

『わかりました』

「そんなわけでキャサリンさん、悪いけどルシアに話してやってくれないか?」

『ええ、それはいいけど。アナタはどうするつもりなの?』

「俺?」

 俺はニッと笑うと胸をはった。

「そりゃあ、未知のこの都市を探検しまくるさ。俺は遺跡よりトンネルの専門家なんだが、ここには色々と興味をそそられるからな!」

『……ようするに探検してまわりたくてたまらないわけね?』

「え?いや、それは」

『ええいいわ、どうぞ行ってらっしゃい。小型の魔物はいるから気をつけてね?』

 キャサリン嬢がクスクス笑い出したのに言い返そうとした。

 でもその時、クイクイッと袖を引っ張られた。

「?」

 振り返ると、そこには苦笑全開のアイリスがいて。

「さ、いこ?見たいんでしょう?」

「……ああ」

 だめだ。完全にガキの探検ツアーと同列に思われてるよ。

「いや、だからだな、俺は」

「わんっ!」

「……へいへい」

 おまえもかランサ。

 

 

 皆の視線はどういうわけか、遊びに行くガキを微笑ましく送り出す顔に見えてならなかった。

 むむむ。


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