閑話・テンプレな出来事
短いです。
しかし、どこにも入れられないような話なので。
城が燃えていた。
何も知らなかった俺を騙して縛り付け、無理やりに戦争の駒にさせていたゴミどもの城が。
「……」
俺はその業火の城を、ただ離れた所からじっと見ていた。
憎しみがあったか、といえばあった。
彼らは俺を対等の存在どころか、人間とすら見ちゃいなかった。当初はそれに怒りを覚え、いつかぶっ潰してやるという気持ちでいっぱいだったわけだけど、おそらく途中から、その気持ちは変わっていたと思う。
つまり。
俺はあいつら……この世界の人間族を人間と認識できなくなったんだと思う。
彼らは、ひとのカタチをした異生物にすぎない。同じ言語を話すし情があるようにも見えるが、それは俺みたいな無知なバカや、見た目に騙される愚か者を都合よく利用するための武器にすぎないのだ。
そして……この世界じゃ、彼ら人間族とは似ても似つかない異人種たちこそが正しきこの世界の人間であり、友となりうる者であると。
え?みんながそうではないって?
ああ、もちろんわかってる。獣人やら魔族やらだって悪いやつはいるさ。
だけど、この世界の人間族はそうじゃない……彼らは『違う』んだ。
いや、わかってるさ。
俺だって最初から疑ってたわけじゃない。首輪をはめられ奴隷にされても同情してくれた王女様はいたし、無理やり戦わせられる日々の中でも、拳で語り合うような気のいい騎士や傭兵もいたさ。
だけど、そいつらも結局は……なぁ。
心優しい王女様はつまり、俺が逃げ出さないように充てがわれた存在だった。
これは誤解ではない。ある時、ちょっとした事から彼女の本音を知ってしまったんだ。異世界の亜人なんて気持ち悪い、卑屈な笑みがキモイ。だけど逃げないように籠絡せよって命令だし、いいお給料もらえるから頑張らなくちゃってな。
彼女ですらそうだったわけで……騎士だの傭兵だのだって大差なかったさ。
唯一、傭兵だけは「こいつは強くなるかもしれん」と本気で気に入ってくれてる部分があったんだけど、それでも彼の仕事は、俺が亜人を憎むように仕向ける事で、俺と仲良くなりかけた奴隷の女の子を輪姦して殺させたり、そういうのの陣頭指揮をとっていたのもヤツだった。
そんなのが、何度も、何度も、何度も続いて……。
なぁ。
それでも人間族を、それだけじゃないと思えって?
かんべんしてくれ。
本物の勇者様だか聖者なにら知らないけどさ。
俺にそんなもん無理に決まってるだろ?
「……」
燃えている城の中から、誰かが逃げ出してきた。
やはり生存者がいたか。よれよれのようだが。
俺はそいつに向けて、カマイタチの魔法を飛ばした。
「……よし」
そいつの首が吹き飛び、そして首をなくしたボディは血を吐きながら崩れ落ちた。
俺はさらに念入りに生命反応を確認していって……。
うん、さすがにこれで全滅だろう。
最後に俺は魔力を集め、準備しておいた多段階の魔法のうち、最後に残してあった一段を発動した。
「……『大隕石』」
言葉こそカッコいいが、実は前もって確保してあった大岩を引き上げ、城の上空に転移させる、ただそれだけの魔法だ。
はっきりいって、エアーズ・ロックもかくやという巨大岩を確保する方がはるかに大変だった。
でも、やるだけの価値はある。
なぜなら。
いびつなカタチではあるけど、かりに球体と仮定するなら直径1kmはある大岩だ。こんなものが高度一万二千メートル上空から墜落してきたら、その王宮を中心に抱く、この王都はどうなるか?
「!」
世界が揺れたかと思った。
まずい、これは威力がでかすぎたか!
迫ってくる衝撃波を避け、障壁を張りつつも上空に逃げた。
「……こりゃ凄い。予想をはるかに上回ってるな」
俺は、そのとてつもない破壊エネルギーをまのあたりにしつつ、心の中で冷や汗をかいていた。
王城だけぶっ飛ばすつもりだったが……こりゃ王都やその周辺ひっくるめて、中心地は何も残りそうにないな。
これは、威力がデカすぎる。
こんなもん連発していたら、それこそ、この世界の護り手に俺が殺されちまわぁ。
「……これはさすがに封印だな。二度と使うわけにはいかん」
思わず、そうつぶやいていたのだけど、
『ああ。そうしてくれるとありがたいね』
「!?」
いきなり、頭の中に不思議な声が響いた。
「誰だ……いや、この声はまさか」
『覚えていてくれたかね?それは光栄だ』
それは。
いつぞやに俺のことを助けてくれた、巨大なドラゴンの声だった。
「いつかお礼を言わなきゃと思ってたんだ。あの時はありがとう。
ところで、もしかして、あんた……世界の護り手ってやつだったのか?」
『私だけではないがね。我々真竜族は、この世界の護り手の一柱ではある』
「そうか。……どうやらご足労させちまったみたいだな。申し訳ない」
『いやいや、かまわんよ。私も、あの時の青年が支配を抜けだしたと聞き、状況が知りたかったのだ。
それにしても……なかなか派手にやったな』
「まぁな。明らかに威力が大きすぎたんで、今反省中なんだが」
『ほう?』
ドラゴンの声は、面白そうに言葉を続けてきた。
『人間族が憎いのだろう?これだけの力があれば、いいチャンスではないのか?』
「いや、さすがにこれはやりすぎだろ。
俺としちゃ、にくい相手に復讐できればそれで充分だ。人間族自体をどうこうしたいわけじゃないし、だいいち、それは俺のやる事でもないだろ?」
『憎いのではないか?』
「ああ、にくいね」
俺は否定しなかった。
『だけどさ、俺は結局のところ個人だし、だいいち、よそものだよ。
このさき、俺がどこでどんな生活するのか、俺にもわからないけどさ。
そこでもし、友達やなんかに人間族が絡んできたら皆殺しにする可能性はあるだろう。
でも、別に隣に人間族の国があったとしても、敵対してこないなら、そこに喧嘩を売る気はないよ。
さすがに、それはただの頭のおかしいヤツだろ」
『ふむ』
ドラゴンの声は興味深そうだった。
『これほどの巨大な力を振り回しても、それでも力に酔ってはおらんのか』
「力に酔うって……この程度でか?」
『個人の魔法で、たった一撃で一国の王都を滅ぼし尽くしたのだぞ?我ら真竜とて、一撃のブレスでここまではやれぬぞ?』
「いや、だってそれはさ。単に大岩の質量を利用しただけだからね。でかい魔物を倒すのに上から石を落とした、それだけだよ。
ね、いかにも人間の考えそうな姑息な手段でしょ?」
『それはまぁ、のう……ふふふ』
何が楽しいのか、ドラゴンの声はクスクス笑い出していた。
「なんだい?」
『いや、なんでもない。それで青年、君はこの後どうするのだ?』
「この後か」
俺は、ふと考えた。
「俺を拘束していた存在はもういないし、隷属魔法も消したわけだろ?いちおう、これで自由なわけなんだけど……」
『ふむ?』
「何しろ、ずっと兵器として使われていたわけだからね。世の中がちゃんと見えてないだろうな、きっと。
だから、とりあえずは旅だな」
『ふむふむ、なるほどそうか』
そういうとドラゴンは、ひとつの提案をしてきた。
『君がよければ、ガイド兼コンパニオン的な存在を君に預けよう』
「ガイド兼コンパニオン?」
なんだそりゃ。
『いや実はね、君に注目しているのは人間族だけではない。それどころか人間種族だけでもないのだよ。
特に、私の森の連中があの後うるさくてね。あの人間はどうなった、あいつが開放されたって本当かってね』
「……この世界には暇人しかいないのかよ」
いや、人間じゃないんだからヒマ蜥蜴か?
ドラゴンの森にいた蜥蜴共っていうと、あのラシュトル族だよな?
食い物くれたり、いいヤツばかりだったが、あの物凄い好奇心……昭和時代の北海道旅行みたいに、目キラキラさせたガキどもにまとわりつかれて大変だったんだよな。ま、人間でなくラシュトルの子供たちだが。
いやあ、あれは本当に参った。
『君が開放されたのが確定となると、おそらく人間族以外の種族が動き出すだろう。
いくつかの種族は人間族同様にろくでもないヤツもいるだろうが、そちらは君なら問題あるまい。
それよりも厄介なのは、好奇心だけで関わってくる連中だ。
たぶんだが、彼らをさばくアシスタントなり相棒がいないと大変な事になるだろう』
「……」
おいおい。
『そんなわけで、だ。どうだろう?ガイド兼コンパニオン役はいらぬか?』
「そりゃまぁ……いれば助かるけど」
『そうか、よかった。
では少し待つがいい。そちらに向かうとしようぞ』
「え、あんた飛べるの?」
『ほう、見せた事がなかったか?……ふむ、ではな』
…………っていう夢を見たんだけどさ。
うん、目覚めたら朝だった。
ちなみに、夢の話をすると何故かアイリスが眉をしかめ、ルシアは沈黙した。しかもランサまで、すりすりと俺に甘えるように擦り寄ってきた。
えっと……もしかして同情されてる?
「パパ」
「いや。そこで何か理解者みたいな顔して肩にポンと手を置かれても困るんだが?」
「心配しなくても、わたしたちはパパの味方だからね?ほんとだよ?」
「いや、だから何でそう深刻になるんだ?」
たかが夢じゃないか。だろ?
『ずいぶんと魘されていましたからね、心配していたのです。
しかし、そのような夢を見たという事は、どこかに不安があるのかもしれませんね』
「事件の前兆かもしれないよ。気をつけないと」
『そうですね』
「ワンッ!」
おーい……みなさん?
なんだか俺、おいてけぼりなんですが。やっほー?
結局、その妙な雰囲気は食事が終わるまで続くのだった。




