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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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ハイウェイ

 釣り場から安全なところに移動し、のんびりと魚を食べた翌日。

 夜明け前に目覚めたのでランサと散歩。その後、また釣り場に戻り少し釣り。新たにゲットした魚を含め、保存にまわして収納した。

 朝日を見ながらゆっくりと食事を楽しみ、お茶をしてから出発となった。

「今日も晴れてるなぁ」

 空は雲ひとつない。

 暑いというほどではないが、今日はなんとなく暑くなりそうに思う。

「準備いいか?」

「いいよー」

「ワンっ!」

『どうぞ』

「アイ」

 アクセルを踏み込み、キャリバン号を発進させた。

 結界を張る関係上、現地の生き物たちの邪魔をしたくないという事もあり、川辺ではなく丘の上をキャンプ地としていた。食事も同様に川辺から離れて行っていたので、食後の出発は当然ながら丘の上だった。

 うむ、見晴らしがいいなあ。

 なだらかな丘が連続するだけの広大な世界。はるか遠くの方に森らしきもの、そして、さらに遠方には山脈らしきものも見える。しかしそれ以外は、ただの地平線までなんの障害物もない。

 うん、大陸だなぁ。

 大陸といえば。

 ここから魔大陸というと、当然だけどまだまだ距離があるよな。ちゃんと調べてないけど、何千キロあるんだろうか?

 そんなことを考えていると、ふとルシアがざわめいたような気がした。

「どうした、何かあったのか?」

『ギルド関係ですが、気になる情報が流れています』

 気になる情報?

『聖国が「人間族至上主義」を正式に撤回しました』

「……は?」

 思わず聞き返してしまった。

『今代の大司教が正式に発表しました。これまでも混血の聖女をたてる等、事実上は人間族至上主義を撤回していたのですが、正式にはそれを認めておりませんでした。

 しかし今回、人間族至上主義の貫徹を求めてきた中大陸の人間族国家連合の代表を破門にし、正式に方針転換を発表しました』

「……何それ?」

 いや、ちょっとまて。なんだその展開?

「まぁ、聖女サマが異世界人との混血だったりしたわけだから、いつかはこうなったんじゃないの?」

「そりゃあ、そうなんだが……いいのかそれで?」

 ファンタジーの王道とかだと、人間側のそういう宗教国家って、人間至上主義の急先鋒みたいなもんだよな?

 それなのに方針転換て……本気なのか?

『元々、非公式には二百年前に方針転換ずみなのだと思われます。ただ、なし崩しに多種族化を進めていたのを、いよいよ公式に宣言したわけですね』

「むしろ、よく二百年も保たせたよねえ」

「……そういう問題なのか?」

「うん、そうだと思うよ?」

 うーむ。

「でも、その混血の聖女サマってのがアレだぜ?おまえを人間と見做してないような女なんだぞ?」

 俺がそう言うと、アイリスはちょっと苦笑ぎみに笑った。

「パパはあの時のこと気にしすぎだよ。それに、実際にわたしは人間じゃないよ?」

「違う、あの態度は問題だし、おまえは人間……」

「パパ」

 アイリスがちょっと眉をつりあげた。

「あのねパパ、悪いけど、それはないと思う」

「……なんだと?」

「わたしは、パパのためになるために作られたの。だから人間じゃないし、それはとても大切な事なの」

「いや、それは」

「パパがわたしを対等に見てくれるのは嬉しいと思う。女として扱ってくれているのも嬉しい。

 でも、そこでわたしを人間と錯覚されては困るし、むしろそれは不愉快なの」

「……」

 俺は言葉を返せなかった。

「パパは異世界から来た人で、本来この世界に縁もゆかりもない、定住もままならない風来坊でしょう?

 そんなパパを無条件で助けてくれる人はいないわ。異世界人としての異能が目当てでパパを奴隷にしたい人がまず第一で、他の人も、なんらかの旨味を求めてやってくるのだと思う」

「……」

 それはまぁ、そうだわな。

 よくある異世界道中だと「偶然助けた女の子が旅の道連れになる」なんてのがあるけど、そんなものは都合のいい物語の上の話だろう。王道ではあるけど、それを期待するのはそもそも間違っている。

 あるいは、異世界に行く事になった神様が与えてくれるケースがあるだろうけど、俺にそれが当てはまるわけがない。今まできいた話でも、どうやら俺がやってきたのは単なる自然現象のようだから。

 だったら。

 そんな俺に、旅の道連れができる最も高い可能性といったら……。

 俺のそんな内心がわかるかのうよに、アイリスは頷いた。

「前にも言ったと思うけど、グランド・マスターがわたしを作ったのは、そんなパパの状況を憂慮したためでもあるんだよ。好奇心を満たすためっていうのももちろんあるけど、どこかの勢力に隷属させられて、いいように使われる異世界人を見るのはもういやだっていう気持ちとかね」

「……そうか」

 なるほどな。

 そしてアイリスは、そうしたドラゴン氏によって生み出された、いわば俺専用の存在だったわけで。

 うん、確かにそりゃ人間じゃないわな。

「わかってくれた?」

「ああ、わかったよ。

 そうだな、前にもこんな会話してたのにな。蒸し返して悪かったな」

「ううん、わかってくれたらそれでいいよ」

 アイリスはそういって、にっこりと笑った。

 そう、そうだよな。

 以前にも俺はアイリスを必要以上に人間扱いして、逆に文句を言われた。

 当たり前だ。

 俺は人間だから、対等の存在を人間のようなもの、それに類するものとして認識するのはむしろ当たり前だ。その事については誰に咎められるいわれもない。

 だけど、相手にだってプライドがあり、アイデンティティがあるわけで。

 自分が人間ではない事に対して誇りをもつ者に対して、君は人間と同じだよと言ったり、人間として扱おうというのは。

 言った本人に悪意がなくとも、それは悪意の行動と変わらない……いや、悪意がないだけにもっと始末におえないだろう。

 まったく、俺ってやつは本当にバカなんだな。

 そう思った。

 

 

 そんなこんなで再開した旅。

 空のいい天気、そして窓をあけると風も心地よいのだけど、先ほどの政変についてはもう少し確認するべき事があった。

 車内に暖かい風を流すのにしばらく窓をあけていたが、騒々しいので窓を閉じた。

 運転は止めない。走行ペースは変えずにいこう。

「アイリス、ルシア、改めて聞きたい。今回の聖国の政変が原因で、ルート変更の必要性や危険が生じる可能性はあるか?」

 ここは中央大陸じゃない。

 だけど、大陸ひとつが揺れるほどの大きな政治的変動がこちらに影響ゼロとは思えない。何かがあるかもしれない。

 そんなわけで意見を投げてみたのだけど。

「そうだねえ」

 アイリスは俺の言葉に、ゆっくりと首をかしげた。

「影響はあると思うよ。だけど現時点では何とも言えないかな」

「ふむ。確認しながら行くしかないってことか?」

「それがいいと思う。なるべく情報入手を頻繁にするのが対応といえば対応かな?」

 ふむふむ。

「なるほどな。ルシアはどう思う?」

『だいたい同じ考えなのですが、特に危険と思われる国がいくつかありますので、そこは特に注意する必要があるかと』

「ほう。続けてくれ」

『まず西からいきますと、アイーダ国とバラン国』

「アイーダ?そんな国あった?」

 アイリスが首をかしげた。

『先日、バランから独立したばかりのようです。まだ情勢が安定しておらず、一部では独立を認めないバラン側勢力と戦争状態の区域も残っております。

 これらはハイウェイの商隊などにも手を出す事がありますので、安心はできません』

「なるほど」

 確かにそれは危険だな。

『あとは、キ民連です。キータ人民国家連合といって小さな都市国家の集合体を自称しているのですが、実態はカリスマ指導者の一族を盟主に仰ぐ一種の王権国家となっております』

「その国なら、ハイウェイは通らないよね?しかも、もう魔大陸も目の前だし」

 ルシアの発言にアイリスが突っ込んだが、

『通常ならばその通りです。

 しかし、これほどの政変があったのならば、彼らが便乗してハイウェイに繰り出すおそれがあります。通行税と称して金品を強奪するのは彼の国の官僚の得意技ですから』

「……どっかで聞いたような話だな」

 この世界にもそういうのがあるんだなあ。

『これらが全てではありませんが、注意が必要でしょう』

 ふむふむ。

「まぁ、魔大陸に近いその国の事はあとで考えるとして。

 アイーダとバランだっけ?その国がやばい時の回避はどうすればいい?」

『ハイウェイをはずれますが、タン王国に避難するのが次善の策かと』

「タン王国……」

 ルシアの言葉に、今度はアイリスが眉をしかめた。

「ん、どうした?」

「あー、それはその……」

「?」

 なんだ?アイリスがこんな風に口を濁らすとは珍しい。

 そう思ったら、ルシアがコメントしてきた。

『タン王国は竜好きが多いのです。真竜族の一柱である白竜様がいらっしゃるせいもあるのでしょうが』

「ほう?」

 竜好きの国なのか。

「でも、それにしてはアイリスの反応が妙なんだが?」

「あー、それはねパパ」

『タン王国では竜とその眷属は王族と同じ扱いを受けるそうです。おそらくはそのあたりが問題になったのかと』

「あー……そういうことか」

 ドラゴン氏が眷属をあちこちに送り込むのは、好奇心ゆえの情報収集らしい。そんな眷属が目立ってしまうのは本意ではないだろう。

 なのに、入国した途端に上げ膳据え膳やられちまったら……困るよなぁ、やっぱり。

『ええ、そんな感じだったと聞いてます』

「それは……なんていうか、ご愁傷様だな」

 思わずためいきをついた。

 

 

 まぁそんなこんなで、注意の必要な国の確認などしつつ。

 魔大陸の対岸にある町まで、ハイウェイの道のりは、あと約6700km。

 道のりは、長い。

「ん、音楽ききてえな。やっぱりアレかな?」

「アレ?」

「どこかにある理想の国に行きたい、でもはるかに遠くてたどり着けないって歌さ」

 いつもは絶賛放置してある、ダッシュボードのプレイヤーに手をやる。

 ああ、あったあった。

 再生を押すと、アコースティックギターのセンチメンタルなイントロが流れだす。

 そうそう、これだ。

 確かこれエンディングに使われたんだよなぁ。映像はシルクロード沿いの寺院とか旧跡だっけか?もう覚えてないが。なつかしいなぁ。

 と、そこまで聞いてから、

「あ、これ東西逆だったわ」

「?」

 そうだよな。

 東にいくのに西にいく歌きいてどうすんだ、もう。


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