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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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ポリット平原(1)

変わったペットを飼うのが好きっていうの人や話をたまに聞きます。

でも、彼らが本来、野生動物であるって事は忘れないでほしい。

そう思います。


 ポリット平原。

 地図上で見ると、ポリット平原とされている土地は狭く書かれている事が多い。

 しかし実際に平原の入り口に立つと、その広さに驚く事になる。明らかに地図上の表記よりも広いのだ。

 これはその地図が、徒歩の旅を前提にしているためである。

 一見、ここはなだらかな平原に見えるが、実はただの草原ではない。随所にデコボコがあるので移動しづらいし、ながらかな道のつもりで進むと沼地に誘導されたり、よくみると土地はとても変化に富んでいる。丘ひとつ越えたら巨大な湿地帯になっている所すらある。

 それゆえに、このあたりを地図で見ると、チョコマカと細かい地名がついている。ポリット湿原、死の花畑、爆走草原など。

 つまり、見た目に騙されてはいけないのだ。

 しかし。

「こちとら浮いて走っているからなぁ。問題ないよな」

「うん」

 キャリバン号は地上を走っていない。

 ちゃんとホイールは回っているらしいんだけど、タイヤが踏んでいるのは地面ではない。うまい表現がみつからないんだけど……そうだな、。地上が透明な何かでラミネート加工されていて、その上を走っているイメージを想像するとわかるだろうか?

 だから、地形の影響を全く受けないわけではない。小さなデコボコなどは全く問題ないけど、大きな障害物は乗り越えるか迂回するしかないし、急勾配の山やV字の谷を乗り越えるのも問題がありそうだ。試してみたくもないが。

 でもまぁ、尖った石や釘の心配が全くないだけでも気楽なもんだろ?

 深い山中の林道やオフロードコースを車やバイクで走った事のある人ならわかってくれると思うんだけど、不整地走行ってやつは乗り物に大きな負担をかけるんだよ。かりにオートバイで林道走行日本一周なんてやらかしたら、後ろはサブフレームまでひん曲がり、前後のサスペンションは寿命になっちまう事も珍しい事じゃない。

 だから、そうした路面の悪影響を受けないというのは、本当にものすごい事なんだよ。

「あ」

「なに?」

「いや。キャリバン号がこんな凄い乗り物になった理由がわかった気がする」

「?」

 俺はアイリスに、今考えたことを話してみた。地球の自動車にとって不整地走行は過酷である事も。

 ふんふんと聞いていたアイリスは、あっさりとうなずいた。

「パパがどういう気持ちで思い出の中からキャリバン号を引っ張りだしたのかは知らないけど……でも、現実化する際に、そういう不安要素を無意識に最適化しちゃったっていうのは充分ありうるよ。実例もあるし」

「実例?」

「うん。ちょっとまって」

 アイリスは、タブレットを手にとってあれこれいじっていたが「ああ、これこれ」と納得げに解説してくれた。

「過去の異世界人で、ゾンビ軍団を率いていた人がいるの。でもね、その人が乗ってたドラゴンゾンビ、太陽の下でも平気だし腐臭もしなかったのよね」

「それは……」

 乗れるほどの巨大なドラゴンのゾンビか。普通に考えたらすごい臭うはずだよな。

 それの腐臭がしなかったとは……なるほど。

「キャリバン号みたいに、問題のありそうな不具合が補正されていたって事か。無意識か意図的かはともかく」

「うん、たぶんね」

 なるほどなぁ。

 そんなこんなを考えているうちに、キャリバン号は平原の中にある丘に近づいていた。

 丘を目指した事に深い意味はない。ただ、そこが高くなっているから周囲を見渡すのによかろうと思っただけの事なんだが。

「……」

 そういえば、さっきからランサが外をかぶりつきで見ている。何か面白いものがあるのかな?

「ランサ、何かあるのか?」

「わん!」

 おお元気だな。狭い車内であんまり元気だと、ちょっとうるさいが。

「もしかして、魔物の臭いがするのかしら?」

 魔物の臭い?

「あーそうか、魔物ってケルベロスの主食だっけ」

 エサの気配を感じているってわけだな。

「でも大丈夫か、まだこんな子犬なのに?」

 そしたらアイリスは苦笑いした。

「パパはこの子を過小評価しすぎだと思う」

「そうか?」

 うん、とアイリスは大きくうなずいた。

「いくら赤ちゃん同然でもケルベロスだよ?知ってるでしょ?」

「いや、すまんけどわからん。俺にとっちゃファンタジーの伝説生物だしな」

 こっちの住人なら常識なのかもしれないが、俺はその常識を知らないしな。

「そっか。なら言うけど、この子の状態でも既に、そこいらの小さいモンスターなら負けないと思う」

「……そうなのか?」

「たぶんね」

 そんなもんなのか?

 この、俺のヒザの上をヨダレだらけにして居眠りぶっこいて、たまに「ハッ!」とか唐突に目を覚ましてるヤツがか?

 しかもそれを首3つでやるから、居眠りはじめると笑っちまうほど賑やかなこいつが?

 むう……どうにも信じられないんだが。

「論より証拠、何か手近な魔物と戦わせてみたらいいでしょ」

「なるほど。理屈こねてないで、まずはお城のまわりでスライム叩いてみろって事か。なるほどなぁ」

 それもいいかもなと納得していると、今度はアイリスが顔色を変えた。

「あー、いやいや待ってパパ、いくらなんでも城喰い(スライム)は無理じゃない?いくら炎に弱いからってこの子の炎じゃ」

「そうなのか?つまり属性によっては最弱(スライム)でもやばいって事か?おい、ホントに大丈夫なのか?」

 ふたりとも「え?」「え?」みたいな感じで向き合う。

 むむ?なんか変だな。

「ねえパパ、もしかしてだけど、スライムってどういう魔物だと思ってる?」

 俺は日本の某ドラゴン遠征の名を冠した、今やドラゴンどうでもいいRPGに出てくるスライムについて話をしたんだけど、

「それスライムじゃないよ。ゼリーポットか何かじゃないの?」

 即座に一刀両断されちまった。

「スライムっていうのは不定型のドロドロした巨大なモンスターで、武器も防具も溶かしちゃうから物理で戦っちゃダメなんだよ。

 お城ひとつ、中の人ごとまるごと食べちゃったって昔話もあるの。スライムって名前には、城を喰うものって意味も入ってるんだよ?」

「うわ」

 そうなのか。そりゃ確かに洒落にならないな。

「ま、まぁいい、そのあたりの常識のすり合わせは後でやるとしよう。

 とりあえずだな、あの丘に着いたら周囲を確認、問題なさげなら休憩しようか」

「わかった」

「ところでアイリス、ゼリーポットってなんだ。おいしそうな名だが」

「あんまりおいしくないと思うよ……大型モンスターの死体からたまに湧く、ブヨブヨした気持ち悪い不定型の生き物なの。むかし、料理のできる異世界人が作ったっていわれるゼリーってお菓子みたいに透き通ってるんだけど、死体から湧いた代物だから当然、毒の塊だし……」

「あーわかった、もういい」

 ちょっと想像しちまった。うぷ。

 

 

 

 丘の上に到着した。

「周囲の安全はどうだ?」

「んー、虫系の弱めのモンスターが少しいるね。騎馬は近くにはいない。敵性モンスターもなし。

 あ、ひとつ注意事項あるよ」

「なんだ?」

「待ち伏せ系のモンスターは敵性の結界に反応しにくいの。近づくとわずかに反応するけど、それじゃ排除はできないし。

 だから、迂闊に走らないで。気づいた時には手遅れになりかねないから」

「わかった」

 アイリスの張る結界は、敵意を持つヤツを自ら退去させるタイプの代物らしい。もちろん強い敵意には強制排除が働くそうだけど、そもそも待ちぶせ種類の生き物には効きにくいのだという。

 なるほど、そりゃ確かに要注意だな。

 結界が張られたのを確認すると、ドアを開けた。待ちかねたようにランサは外に飛び出した。

「あまり遠くに行くな、呼んだら戻るんだぞ!」

「わんっ!」

 ランサは子犬然としているが、この程度の言葉はちゃんと通じるのだ。なかなか賢いよな。頭が3つもあるせいか?

 俺はとりあえず、サンルーフをあけて上に顔を出してみた。

「おお。こりゃいい景色だ」

 人工物の一切ない、緑の景色が360度にわたって広がっていた。

 決して平坦な緑ではない。この丘ほどではないが、ゆるやかな凹凸が続いている。そして凹んでいるところのいくつかはおそらく湿地帯や沼地になっていて、そのあたりには植物群も豊富。そして、そこには動物の姿も遠目にすら見えた。

 そんな静かなコロニーが、見渡すかぎりに広がっている。

「おー……空気もうめえ」

 穏やかな自然。

 人工の物音が一切ない世界。

 どこか懐かしいようで、馴染みのない世界。

「ふう……ああ、そうだな」

 一度下に戻り、生乾きの魚の干物をもう一度干そうかと思って、

「そうだ。アレ、なんだっけ。干物用のカゴ?」

 そう思った瞬間、俺の手には懐かしいものが握られていた。

「ああ、これだこれだ」

「パパ。それなに?」

 見ると、アイリスが首をかしげている。

「これ、干物マシン」

「干物マシン?……ああ、その中に入れて干すの?」

「ご名答」

「……パパの世界って、そういう変なものがやたらと多いんだね」

 変なものとはなんだ、これ便利なんだぞ、猫やカラスにもやられないように干せるしな。

 こらそこ、なんでそう生暖かい目で見る?

「異世界なんだなって実感してるんだよ、すごく。やたらと生活に密着したものばかりなのがまた興味深いけど」

「そりゃ一般人だからなぁ。武器とか詳しくないし」

「わかってないって、すごい事だね」

「……おい」

 なぜそう「医者がだまって首をふる」みたいなジェスチャーをする?

 そんなこんなをしながら、屋根に簡単にすえつけた干物マシンにニ尾ぶんの魚をいれる。よしよし。

「この日差しなら、半日干せれば完璧かな?」

「ねえパパ」

「ん?」

「今さらかもだけど、魔法で乾かそうか?」

 その申し出を俺は断った。

「魔法で干すのも後で試したいけど、ここは天日(てんぴ)でやりたいんだよ」

「なんで?」

「たぶんだけど、味が違うと思う」

「……そういうもんなの?」

「そういうもんだ」

「そっか。わかった」

 わかってくれたらしい。

 そんなこんな会話をしていると、ふと視界のはしっこで何かが動いた。

「ん?あれはランサだな」

 何か見つけたのか?

「なんか今、黒いのと足が見えたね。よくわからないけど、蜘蛛のモンスターかな?」

 蜘蛛!?

「まて、ここから足が見えるって、どんだけデカいんだよ?」

「大丈夫だよ。ほそかったし、あれなら足広げて1mちょっとくらいの蜘蛛じゃないかな?」

 蜘蛛のサイズじゃねえだろそれ!?

「あ、戻ってくるよ」

「なんか咥えてるな……」

 尻尾をブンブンふってこっちに戻ってくるのがわかる。獲物を咥えて。

 俺は犬を飼った事がないけど、ガキがドヤ顔してるのと変わらないように見える。

 だったら、あとはまぁ……予想はつくわな。

「どれ、出迎えて褒めてやるか」

「え、蜘蛛狩って良かったなって言うの?本気で?」

 後で大変だよと言いたげだった。

 いや、それはわかるけどさ。でも。

「本気も何も、ケルベロスは魔物を食うんだろ?だったらアレは狩りの練習でもあるんじゃないか?」

 おそらく、本来の親が狩って見せていたんじゃないかな?

「あー、それは確かにそうだと思うけど……」

「親がいないんだ。代わりに褒めてやらんでどうするよ?ま、さすがに食ってやる事はできないが」

「……そっか」

「なんだ?」

「なんでもない」

 なぜ、そこでニコニコ笑う?むう、女の子はわからんな。

 

 ランサが咥えてきたのは予想通り、大蜘蛛だった。

「クロモリゴケグモだねえ。しかも成体だよ」

「これが例の毒グモか。すげえな」

 足を広げたら余裕で1.5mもありそうだった。とんでもない化け物蜘蛛だ。

 でも、アイリスの意見は違ったようだ。

「魔物系の蜘蛛としては小型だと思うよ。力で勝てないから毒を使うタイプだね」

「そうなのか?」

「うん。たとえば寒冷地にいる雪蜘蛛なんて、胴体だけで普通に2m超えちゃうよ?」

 それはもう、まさにモンスターだろう。考えたくもない。

 ん。まてよ。

「そういや毒グモか。どういう種類の毒なんだ?」

「え、どういう事?」

「いや。毒矢とか、そういう仕込みに使えないかと思ってね」

「……ごめん、わかんない。調べればわかるかもだけど」

 ああ、わかる。こういう漠然としたのは探しにくいんだよな。

 とりあえず、時間のある時にでも見ておいてくれとアイリスには頼んだ。

 そうしている間にも、ランサは美味しそうに大蜘蛛を食べている。といっても食べるのは胴体だけみたいだが。

「へえ、脚は食べないのか」

「脚はものすごく硬いし、食べるとこがないのかもね」

「なるほど……どれ」

 なんの気なしにだが、作業手袋をしてからその脚を持ってみた。

 うわ。これは確かに固そうだな。

 第一関節と思われるところの先を持っただけなのに妙に重い。質感も重そうだ。

 人差し指で弾いてみるが、生き物の脚とは思えないコンコンという音に驚いた。

「そりゃあそうか……こんなデカイ身体を支える外骨格だもんなぁ」

 手頃な大きさに切ってみようと思ったが、工具じゃ手におえない。

「アイリス、これ切れるか?」

「切る?魔法でそんな事できないけど?」

「あー……水を発射できるよな?」

「水鉄砲の魔法?できるけど、切るなんて無理だけど?」

「あれの圧力を高められるか?水は増やさずに」

「ごめん、わからない」

 そうか。

 仕方がないので、金ノコでも出そうかと思ったら、

「わん」

「お、もう食べ終わったのか。なぁランサ、こいつをここで切れるか?」

 軽い冗談のつもりで、俺はそう言ったんだが。

 わんっとランサは一声吠えると、俺の指定した場所にパクっと噛み付いて、

 

 

「……はい?」

 ばりっと綺麗に噛みきってしまった……。

 

 あの。

 マジすか?

 この脚……鋼鉄みたいな質感と硬さなんですが?

 

 

「……」

「……すげえ」

 思わず切り口をまじまじと見つつ、

「お、おう、ありがとうなランサ」

 えらい?えらい?とドヤ顔で尻尾をふるランサ。

 俺は、さすがにちょっと頬がひきつるのを覚えながら、おう、ありがとなと褒めてやるのだった。


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