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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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精霊(2)

 図書館で色々と調べているうちに、精霊についての謎が出てきた。

 精霊が異世界のものである事。この世界の生き物にとっては毒であり、理由は不明だが後になんらかのカタチで適合が始まった事。

 うーむ。

 だけど。

「謎は深まるばかりってやつだな」

「なあに?」

 今は朝。停車場。キャリバン号の横だ。

 キャリバン号は小さい車なので、中で煮炊きするには向かない。だから車の横にポールを固定してタープを張り、そこに炊事道具を並べて食事を作ったり、テーブルを置いて飯にしたりしている。なんていうか、立派なキャンプ生活だな。

 ちなみに、キャリバン号に元々積んであったタープはずいぶん使用しておらずボロボロだった。

 いや、だってそうじゃん。ワゴン車でぼっち飯だぜ?わざわざタープ広げないだろ?

 実際、あの日だって俺、キャリバン号の運転席で喰うつもりでカレー買ったんだぜ?

 ま、昔の話はいい。タープの話に戻ろう。

 タープというとなぜか青い色のものはあまり見かけないよな。その理由知ってるか?

 たぶんだけど、工業用ブルーシート……いわゆるドカシーと同じ色を避けてるってのもあるんじゃないかなって思うんだよな。だってさ、ドカシーってよく、河原とか橋の下とかでお暮らしの皆さんが便利に使ってるじゃないの。だからさ。

 実を言うと、俺自身も昔、放浪生活してた頃にドカシーのお世話になったんだよ。だからこそキャリバン号には「あの頃とは違う」って意味で、絶対にドカシー色のものは積載してなかったんだけどさ。

 当たり前だけど、こっちの世界には工業用ブルーシートは存在しない。

 しかも、なんと驚いた事に、防水テント地として売られている布がねえ、これがおもいっきりドカシー色なんだよね。しかもツルツルのテカテカで。

 購入した某所のお店で聞いてみたら、こんな事言われたんだけどさ。

 

『この水色は、アクアスライムの細胞液を元にしているのです。アクアスライムは水中に適合したスライムなのですが、無秩序に水を取り込んで組織が破壊されないよう、水の侵食をコントロールして薄く銀色に輝いています。ゆえに銀スライムとも呼ばれていますね。

 ところが、水中では銀色のアクアスライムですが、引き上げると青くなるのです。

 そして、その細胞液で染め上げた布地は優れた撥水性を発揮するのです。

 このため、東のエマーン国の一角にアクアスライム養殖プラントが作られておりまして、そこで防水布が製造されている次第です』

 

 そう。この水色は、薬品処理して薄められたスライムの体液らしいんだよね。

 確かに効果は折り紙つき。なにせ、どこのキャラバンでもこれ使ってるからね。さすがに魔獣車の屋根にするには耐久性に足りないそうで、天幕の屋根にしたり、こうやってタープ的に使うのが主流だそうなんだけどさ。

 そういう時代背景はまぁ、わかったんだけど……。

 日本人の俺にしてみれば、どう見てもドカシーなんだよなぁ、これ。さすがにビニール製のドカシーと違って軽いけどさ。

 まあ、いいんだけどさ。

 ところで今、俺が作っているのはソーパという麺類。たぶん元は蕎麦なんだろうけど、なんか独自の進化を遂げまくっていて、今はなんだかよくわからない美味しい麺類と化している模様。まるでラーメンみたいな歴史だな。

 え?どういう事かって?

 中華そばって言葉があるように、ラーメンは元ネタが中国なんだよ。でも、あまりにも日本で魔改造されまくって別の料理となってしまったため、中国でも日式ラーメンといって別の食べ物として逆輸入されたりしているらしい。

 で、このソーパとやらも凄い歴史がありそうだ。

 ソーパは獣人族に人気の食べ物のひとつで、麺の作り方やスープ、具に何を入れるか等、同じ麺類とは思えないほどバラエティに富んでいるんだそうだ。あまりにも色々ありすぎて全貌を把握している者はほとんどいないらしい。

 うーむ、実に日本の麺類だな。

 これで、自称・文化人類学者みたいなヤツが地域ごとの分類をしたりマニアが博物館を建てるようになったら、もはやどこの国だかわからんぞ。

 さて。

 で、どうしてそんな手間のかかるものを作っているかというと、朝市で生麺とスープセットを見つけたからだ。

 すぐに作れるよ、と実際に目の前で作りながらデモしているのを見て、そして作り方も単にお湯を沸かして麺を茹でるだけ。まぁ、さすがにトッピングするものが欲しいとオススメの惣菜をちょっと購入して……それで今に至るわけだ。

 しかし、本当にラーメンみたいだな。ま、名前は蕎麦で見た目はうどんだが。

 よし、できた。

「ほい、出せ」

「うん」

 二つ並んでいるどんぶりは、もちろん俺とアイリスのぶん。

 うまく作れるかもわからず、味もわからないから俺ひとりでいいやと思ったんだけど、どうせなら二人分でとアイリスに言われてこうなった。ま、ダメならふたりで顔しかめるだけか。

 ちなみに、ランサには焼き豚っぽい謎の肉塊を。

 マイは、なんだか知らないが食事してきたとかでお休み中。何食ってきたんだろう……。

 ルシアはキャリバン号からエネルギーをもらっているって話で食事には参加せず。

 ま、そんなわけでだ。

「いただきまーす」

「いただきます」

 アイリスとふたりで並んで、いよいよ一口め。

「……ほう」

 ふむ。普通にラーメンっぽいうどんだな。

 絶品とはお世辞にも言えないが、素人が茹でただけとは到底思えないぞ。よくできてる。

「とりあえず問題なさげだな。アイリスはどうだ?」

「普通だねえ。これなら保存食にできるかな?」

「生麺だからな。乾燥して保存させられればいいんだが」

「そっか」

 食材の組み合わせとか、鍋のラストに入れる用にはいいかもしれんな。

 よし、これも一応、バリエーションにいれておこうか。

「これだけだとさすがに飽きそうだな。組み合わせが問題か」

「ねえパパ、牛肉はどう?」

「牛肉……アレか」

 この世界にも牛肉は存在する。

 そもそも地球の牛とは違うんだけど、なんていうか、確かに日本の牛肉っぽいんだよな。

「もっといい食材もあるかもだけど、思いつくのは確かにそれだな」

「だよねえ」

 アレ、旨いんだけど一つだけ問題がある。

 実は魔物の肉らしくて、仕入れが安定しないらしいんだ。だから肉屋もたくさん売らない。

「家畜化はできないのかなぁ」

「やってるよ。でも、まだまだだって」

「そうか」

 実は、家畜は今も圧倒的に普通の獣が多いらしい。理由は簡単で、魔物だと大きく、強くなりすぎるので扱いが難しく、今までの家畜の飼育方法と根本的に考えを変えないとダメらしい。

 まぁ、確かにわかる。

 ニワトリなら簡単にブロイラーが作られるけどさ。それはニワトリがあのサイズだからこそできる事。

 もし、ニワトリが3m近い体高をもち、石化の魔眼とか持ってたらどうする?いくらおいしくても、誰も家畜化なんてしないだろう。

 そりゃそうだ。

 そんなものを取り扱える人間は極めて限られてしまうから、人材が集まらない。とても商売としてペイしないだろう。

 たぶん、そこには何か根本的な工夫が必要なんだ。

「ところでパパ、今日も続きを調べるの?」

「もちろん」

 精霊関係の謎は、もう少しつきつめておきたいんだよ。

 なんとなくだけど。

 それはとても、俺にとって大切な気がするんだ。

 

 

 

 食事がすんで片付けたあとは、また留守番を頼んでから図書館へ。

 もはや定例となった入り口での挨拶。断って中に入り、そして目的の書籍のあるところへ。

 さて。

 そんじゃ、今日調べるところを整理するか。

 

 精霊が他の世界からきた事、そして、この世界の生き物に毒であった事はわかった。

 でも、それでも謎は多いんだよね。

 ほら、今まで来る途中で聞いた話を覚えてるかな?

 

 実のところ、精霊が生き物に毒だったいうのは今も変わらないんだよね。

 特に人間族にとっては、明らかな毒。

 いや、獣人族のように身体が変わってからでも、あまりにも濃厚すぎる精霊分はやっぱり毒らしい。体調を損ねたり、おなかをこわしたりするそうで。

 でも、こんな話も聞いたんだよね。

 

『人間族にとって精霊は毒である』

『そして、継続的に少量の精霊分を取り込み続けた結果、人間族から別の種族に変わってしまう』

 

 このふたつ、俺にはどうも一つの事実を指しているような気がしてならない。

 

「たとえばだけど」

「……」

 衝動的につぶやいた言葉にアイリスが反応したけど、俺はそれに気づいてなかった。

「精霊側に何かの細工をして……その結果、時間をかければこの世界の生き物と融合できるような、そんな仕組みを作った者が過去にいたとしたら?」

 ありえない話ではないだろう。

 おそらく、その変化はこの世界の生き物でなく、精霊側にあったはずだ。

 だってほら、この間のアレ。

 アマルティア人についての資料にあっただろ?こんな感じに。

 

『また、精霊分の正体を解析してこれをドワーフたちに説明、この星から除去したいなら手伝う旨を提案したがドワーフたちはこれを拒否。ならば愛すべきドワーフたちが死なないよう、また異界要素である精霊分とこの星の生き物が仲良く共存できるよう、融和の仕組みを作り上げたという』

 

 アマルティア人は精霊分の正体について、おそらくこの世界の人たちが知らない事まで理解していたんだろう。

 詳しいところはわからない。

 だけど、先日調べた範囲と、このアマルティア人の資料から推測できる事実はひとつ。

 

 そう。融和の仕組みを作ったのはアマルティア人で、そして、その細工は精霊側に対して行われたって事だ。

 

「うん、その推測は正しいと思う」

「そうなのか?」

「うん」

 アイリスは大きくうなずいた。

「グランド・マスターもアマルティア人たちの持っていた情報までは把握してないんだって。あくまで当時の眷属はお手伝いをしていただけだし、内容も難しすぎて理解できなかったそうだしね。

 ただ、眷属が人間じゃない事もアマルティア人は理解していて、あとでちゃんと教えてくれたらしいよ。

 これはこの世界の生き物に害を与えるものではないって。むしろ精霊たちをうまくこの世界と融合させるためのものだって」

「そうか……」

 当事者が記憶しているのなら、そのへんは正しそうだな。

 もっとも、あくまでそれは聞いた話だ。できれば複数ソースからの情報で確定させたい。

 となれば。

「よし、じゃあ、その話の裏付けをとってみよう。やるぞアイリス」

「うん!」

 そんなこんなで話をしていたら、

「もしもし」

「!」

「!」

「何か盛り上がっているようで恐縮なのですが、お静かに願いますね……」

「あー、すみません」

「どもっす」


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