ケモノな夜
そのものずばりの表現はないですけど、エロいシーンが登場します。苦手な方はご注意ください。
深夜。
キナコさんが帰った後、当然のようにアイリスとウフフでアレでソレな時間を過ごしたんだけど、ちょっと困った事になった。
眠れないのだ。
アイリスともう一度、という手もあったけど、なんとなく気分が違った。
だから思い切って、外を歩いてみるつもりになったんだな。
『念のために申し上げますが、危険ですので』
そんな事を頭の中に響かせてくれるのは、もちろんルシア。
うんうん、わかってるって。
実はちょっと今回、試したいものもひとつあったのだ。
それは。
「……」
見下ろすと、俺の足が何か半透明のもので包まれている。
これ実はマイの一部。
何でも「歩いている状態の足から老廃物やエネルギーを食べるのが効率的」なんだそうで、こうやって履いている今も、俺の足の角質やら臭気の元やら、少しずつ食べているそうなんだけど。
要はアレか。フットケアをしてもらいながら歩いているようなものか?
いやそこ、呆れる前に聞いてくれ。
マイから提案があった時には俺も何だそりゃと思ったんだけど、やってみると気持ちいいんだこれが。しかも終わると足が軽くなるしな、すごく。
『運動中ノ足カラハ色々ナモノガ出テイル。汗トカ老廃物トカ水虫トカ』
ちょっとまて、水虫は出てねえっつの。
『出テタ。白癬菌イタ。マダ軽度ダッタダケ。全部食ベタ』
なんですと!?
とまぁ、こんな感じで、靴のかわりに私を履いてねと身体の一部を強引に貸し出されたわけなんだが。
……なんというか、なぁ。
とても快適なのは確かなんだけど、足がスライムに包まれている的視覚的問題があるよな、これ。
ぶっちゃけ、昼間は使えないぞ。
「……あ、でも」
視覚的問題を除くとこれ、凄いかも。
なんでかって?
いや、それがな。
聞こえないんだよ……足音が。一切。
(どういう仕組みになってるんだ?)
人間の、とりわけ一般人としても俺は鋭い方じゃないし、絶妙のバランス感覚も持ってない。音をたてずに歩くなんて、そんな猫みたいなスキルも持たない。
にもかかわらず、歩いても音がしない。一切。
ふむ。
面白いので、そのまましばらく歩いてみる事にした。
全く同じ町であっても、昼間と同じところを深夜に歩けば、その様相が全く異なる事に誰でも気づくだろう。
クリネルは賑やかな町だ。まぁ東京の喧騒なんかともちろん比べちゃいけないとは思うけど、21世紀のそこいらの田舎とは比較にならないと言っていい。むしろ20世紀後半の田舎の賑やかな町といったほうがいいか。
違い?
そりゃ子供の数だよ。
2010年代の日本の田舎じゃ、すっかり子供を見なくなった。群れて遊んでる子供もいないし、子供がいたとしても見知らぬ旅人に好奇心で目を輝かせ、わらわら集まってくる子なんかいなくなった。90年代初頭くらいまでなら、特に田舎の方じゃ、まだそういう世界が見られたのに。
この世界では、まだそれが普通に通用する。
たくさんの子供がいて、そして皆、群れたりぼっちだったり、思い思いのカタチで過ごしているのがわかる。
もちろん現実には、子沢山で貧乏だとか、親がいない子だのもいるに違いない。あるいは自由のない血族社会だとか。どんな社会もキレイ事ばかりではすまないのだから、きっとそういう暗黒面もある。
だけど。
自由?
男女同権?
ごもっとも。俺もそれには賛同する。
でも。
どんなご高尚な理由があったって、そもそも子供の声が聞こえない社会に未来はない。
これもまた、誰がどう言い逃れしようと揺るぎない事実なんだ。
人は猿から進化した、ただの生き物だ。神様に選ばれた特別な生き物ではないし、未来永劫に生きるものでもない。
子孫繁栄しない『生き物』はどうなる?
決まってる。
そう、ただ滅びるだけだ。
まぁ、日本で子供どころか彼女もいなかった俺が言うべき言葉じゃないだろうけどさ。
でも、これもまたれっきとした事実だって事を、そろそろ俺たちは自覚しなくちゃならないはずなんだ。
俺たちの世代はいい。どっちにしろもう手遅れなんだから。
でも。
せめて、これから大人になる新世代の子たちには。
……まったく、どうして、あんなになっちまったんだろうな、日本は。
恋愛至上主義、あるいは男女平等の美名の元に、子どもたちに田舎を、家族を捨てさせ続けた結果なのか?
それとも……。
いやまぁ、きりがないな。話を戻そう。
深夜のクリネルの町は静まり返っちゃいるんだけど、どこかに昼間の熱気を残している気がする。どこかに喧騒のニオイが残っていて、それがこの町を完全に眠らせないんだ。
たとえば。
「お」
酒場かな?もう深夜もいいとこまで回っているはずなのに、微かな灯りと笑い声が。
『獣人族の多くは人間と大差ない行動サイクルを持っていますが、中には夜行性に近い者たちもいます。彼らのための娯楽施設でしょう』
脳内にルシアの声が響いてきた。
へえ。やっぱりそういうのもいるんだ。ちょっと好奇心。
『いわゆる暗部に属する職種の方々も多いですので、オススメいたしません』
「あらら」
ルシアにそこまで断言されちゃ、近づきたくないな。さわらぬ神にたたりなしだ。
とりあえず無視する事にして、今度は近くにある公園を目指してみる事にした。
公園といっても、単に町の一角に森が取り残されているようなところにすぎない。昼間は子供の遊び場にもってこいだし、お昼には昼食を食べるグループなんかもいるところだそうなんだけど……。
「お」
なんか、複数の気配が。
「これは、もしかして……」
いや、やっぱりこれは、うん。アレか……アレだろうな。
え、アレって何かって?
そりゃおまえ、深夜の公園とくりゃ、アレだ。アベックだよ。
まぁ、クリネルってこの地域最大の町らしいからな。大胆なカップルもそれだけ多いって事なんだろ。
『人間種族の場合、覗き見は好まれないのではありませんか?』
ああ、下手すると犯罪だよな。
ま、ンな事は言われなくてもわかってる。覗き見なんかしないよ。
それより俺が興味をもつのは、もっと別の見地からのものというか。
(ルシア。種族の組み合わせを調べられるか?)
『組み合わせ、ですか?』
そう。
獣人族にはいろんな種族がいるけど、それよりも驚いたのは異種族の組み合わせも多く見かけた事だ。
いや、確かに理屈はわかる。
そもそも彼らは、大きなくくりで行くと全てが人間種族だ。見た目は大きく違っていても、おそらく交配可能なんだろう。
でも。
本当に、どんな組み合わせでもあるものなのか?禁忌とかないんだろうか?
そして、両親の種族が子供に与える影響はどうなる?種族変化は心理面が大きいみたいだけど、子供への影響も心理面だけなのか?
うん、このあたりは地球ではありえない事だったんで、まさに謎だらけなんだよな。
『なるほどわかりました。少し妹の手も借ります。突然に身体が痙攣する可能性がありますから注意してください』
了解。
そうして、しばらく待っていると、ルシアからデータが送られてきた。
『現時点で公園内にいる、カップルと思われる組み合わせは以下の通りです。まず狼人族のカップルが2』
ほう、狼人族、つまり狼もいるのか。
『羊人族と狼人族のカップルが1』
……おい待て、それは食われてるんじゃないのか?
『ある意味食べられていますね。ちなみに羊の方が男性です』
「!?」
おい。
ルシアがその手の冗談を言うとは思わなかったもんで、一瞬絶句してしまった。
ま、まぁいい。
しかし女の子が狼なのか。それはいろんな意味でコメントに困る組み合わせだな。
次々とルシアは組み合わせを読み上げていく。
ところで。
(なんだそれ。同種族の組み合わせって最初の狼人族だけかよ)
他は全部異種族の組み合わせときた。どうなってるんだ?
『そういえば、人間種族の若者というのは、ある時期に反社会的なものに興味をもつ事が多いと聞いていますが?』
「……ああ」
なるほど、そういうことか。
同種族より異種族の方がカッコイイ、あるいはクール。そういう風潮があるって事か?
『自分にはよくわかりませんが、そういう風潮があるという話を聞いています』
ふむふむ。
その意味では、最初の狼人族はノーマルなんだな。やっぱり誇り高い種族だからなのか、それとも単にサンプルの問題なのか?
『最初の狼人族ですか?二組のうち一つは、どちらも少女でしたが』
「……そっちか」
現時点の俺の興味のテーマは、ぶっちゃけると『繁殖』だからな。同性愛も愛のカタチではあるが、繁殖には結びつかないだろうから範疇外だよな、やはり。
とはいえ。
いわゆるセクシャルマイノリティが異世界にもいるというのは、ちょっと興味深くはあるのだけど。うむ。
そんな事を考えていたら、
「獣人族の愛憎に興味がおありかしら、客人さん?」
そんな、風のような声が背後から響いた。




