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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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クリューゲル道ふたたび

 なんだかよくわからないうちに同行する事になった、自称宇宙人のメル嬢。

 彼女は色々な意味で奇妙な存在だった。

 まず、キャリバン号の装備を見ても奇妙に思わず、迷いもせずに使っている事。畳んだ後部座席の出し方も迷う事ないし、それどころか、シートベルトを探すような動作すら見せた事。

 間違いない。彼女はおそらく地球に行った事がある。あるいは、地球製のこの手の乗り物をある程度知っているんだろう。

 これについては、本人に聞いてみたら、あっさり判明した。

『知ってるも何も。私、元日本人です。昭和42年生まれの(ひつじ)ですよ?』

「おっと、なんだそういう事か」

 なるほど、確かに昭和生まれの日本人らしい。

 え、なんでわかるのかって?

 躊躇(ためら)わずに西暦でなく年号で答えているだろ?しかもその年の十二支を自己紹介に普通に入れている。

 俺の勝手な印象なんだけど、平成のヤツってこういう自己紹介しないよな。昭和以前の、お江戸の時代から続く日本人スタイルってやつだ。まぁ、もっと昔の世代は『昭和の四十二年、丁未(ひのとひつじ)の生まれにございます』なんて言うのかもしれないが、さすがにそれは俺にもわからん。おふくろなら知ってるかもだけど。

 え、俺の歳?きくなよ。

 さて、それはいい。

「しかし、なんで日本人が宇宙に住んでるんだ?」

 それにその異星の巫女さんみたいな姿は?

 昭和42年って、西暦だと1967年だぞ。

 ちなみに俺が青いコンビニ前からこの世界に来ちまったのは、2014年の10月。

 50歳近いおばちゃんには全然見えないぞ。

 確かに黒髪黒目の女の子だけど、どう見てもせいぜい中学生くらいじゃないか?

『そこは個人事情ってやつですね。容姿は全身サイボーグだからで、もう30年以上このままなんですよ。言葉もずっと外国語なもんだから、最近じゃ日本語も怪しいかも』

「……そういう事か」

 本当に色々なんだな。

『ただ、違いはそれだけではない気がします。私の知っている日本とハチさんの知っている日本は、おそらく別の世界線に属すると思いますよ』

「というと?」

 たとえばですね、と、メルさんは言った。

『私の世界では、昭和57年……西暦で1982年の夏に、四国の南半分が物理的に壊滅しているんですよ。高知県はほぼ消滅、徳島県と愛媛県の一部にも被害が出るほどで。ハチさんの世界で、そんな歴史あります?』

「ない」

 80年代に四国の南半分が壊滅?

 どこの三文SFだよ。

 ねえよ、聞いた事ないよそんな歴史。

『やっぱり。私のいた地球とハチさんのいた地球は、別の世界線……んー、ごめんなさい、私最近の日本語的語彙がないからピッタリする表現がないかな。んん、平行世界って表現の方がわかりやすいかな?』

「どっちでも。ところで、思考を相手に送りつけるのに日本語的語彙って関係あるの?」

 今だって、メル嬢の口は動いてない。ルシアと同様に彼女『声のようなもの』は頭の中に直接響いている。

 俺はそれを日本語のように理解しているけど、実際は彼女の思考が直接ぶつけられているわけだ。

 だったら、別に日本語の語彙は関係ないと思うのだけど?

 でも彼女は、それは駄目と首を横に振った。

『関係あるよ。だって人間は言語を媒介に論理思考する生き物なんだからね』

 ほう?

『熱い、冷たいって想像してくれる?

 当然だけど、生まれた国や種族が違えば、熱い、冷たいに対する反応はズレる。そりゃそうよね、常夏の国で生きてきた人間が、真夏ですら氷点下の世界の人間と比べて、熱い、冷たいの基準が同じだったら困るでしょ?

 で、そのまま熱い、冷たいって認識だけを共有したらどうなると思う?

 熱いはずのものに触ったら氷のように冷たかったり、その逆が起きるって事だよ』

「あ」

 な、なるほど。それは想像しなかったな。

『これは、言語以前の情報のやりとりでよく起きる落とし穴だよ。ハチさんは異種族との交流が多そうだから、こういうのちゃんと覚えておいた方がいいよ?』

「……えっと、なんでわかるのかな?」

『何が?』

「いや。異種族交流が多そうだって」

『だってこの車の中、色々いる(・・・・)のに人間はハチさんだけじゃないの?』

「……まぁ、確かに」

 なるほど。

 ランサは首3つもあるから普通じゃないのは当然わかるだろうけど、アイリスも人外と認識してるって事か。

 いやそればかりか、キャリバン号と同化していて認識できないはずのルシアや、後ろでベッドになりきっているマイにも気づいているのかな?もしかして。

 うん。

 さすがに只者じゃないな。

 

 

 

 話をしているうちに、クリネルらしき町に到着した。

 入り口にいる警備の人に俺たちの素性を話したが、とりあえずメル嬢は身内だって事で通した。本当はよくないかと思ったのだけど、とても説明しきれる自信がなかったからだ。

 一応、それについて言っておくと、

「ありがとう」

 と、短い日本語でお礼を言われた。

 うむ。いきなりヒッチハイクなんて登場したから驚いたけど、やはり基本はきちんとした人なんだな。

「アイリス、クリューゲル道のクリネル側出口ってどこにある?」

「ちょっとまって」

「おう、あわてず正確に頼む」

 アイリスに調査を頼んでおいて、メル嬢にもひとこと告げる。

「そっちの事情がよくわからないから、いちおう最優先って事で今から突撃するよ。問題あるかな?」

『ないわ。ごめんなさいね、なんか巻き込んじゃって』

「いや、いいですよ。ここまで乗り気なのはこっちにも思惑があるって事だから」

 精霊分の問題がなきゃプリンさんともまた会えそうだしな。ま、無事ならばの話だけど。

 どちらにせよ、ヘンな面倒事や不安要素はないに限るさ。

 そんな事を考えていたら、

『彼、いい人なんですねえ』

「ええ。……あげませんよ?」

 なんかよくわからないけど、アイリスがメルさんを牽制していたり。

 アイリスさんや。メルさんは別の世界の人で、用が済んだらいなくなるんだよ?そんな警戒せんでも。

『あははは、いりませんよ。だいたい私、きまった人いますし』

「そうなんですか?」

『はい。今も向こう側で帰りを待ってくれてると思います』

 ほう、旦那持ちか。

 ま、それもそうか。三十年も見た目が変わらないっていっても中の人は当然アラフォーだもんな。

 さて。

「入り口見つけたよ。あっちに向かって」

「お、了解」

 言われた方にハンドルをきった。

 

 

 クリネルの町は意外にも広い。タシューナン側の『トンネル市』も賑わっていたが、こちらは桁が違うな。

 また、コルテア顔負けの民族のるつぼなのも面白い。

 ただし内容はずいぶんとコルテアとは違う。

 まず人間族の姿がほとんどない。ゼロに等しい。

 で、獣人各種がほとんどで、内容はさまざまだ。犬系が多いように見えるけど、豹やライオンといった猫系の種族も多いみたいだな。で、ウサギだのカピバラだの、雑多な種族がそれに続く。

 じっと見ていると、ある事に気づいた。

「あー、ほんとだ。猫人族って全然いないや。猫系は色々いるみたいなのに」

 豹タイプが最も多くて、次にライオンかな。どっちにしろ猛獣顔の種族が多い。

 一番近いのは……あ、ヤマネコっぽいのがいた。あれかな?

 と、そんな顔をしていたら、メルさんまで興味深そうに外を見ていた。

『アマルーっぽいけど違うんだねえ。豹とかなんだ』

「アマルー?」

『こっちの言い方をするとどうなるのかな、猫の人だよ。うちの銀河ではアルカイン、つまり人間族に次ぐ大種族なんだよ』

「へえ。この世界じゃ猫人族は少数派らしいですよ。知り合いいますけど」

『あら奇遇。私にもいるよ。あいにく義理なんだけど、ママって呼んでくれるくらい仲良しなんだよ?』

「ほう」

 よほど可愛がってるんだろうなぁ。すごく優しい目をしてら。

『ま、ヤなヤツもいるけどねー』

 困ったような苦笑い。ま、そりゃ色々あるわな。

 それはそれとして。

「お、あった。あれが入り口か」

 クリューゲル道の入り口は、トンネル市側を知っている俺たちにはわかりやすかった。大きいというのもそうだけど、入り口付近が全く同じデザインだったからだ。

 トンネル市側と違って、町のどまんなかに開いているのが特徴だけどな。

 なんていうか、メインストリートがあるだろ。で、そのどん詰まりにクリューゲル道入り口がある感じだ。

「開通していた頃は、賑やかだったんだろうなぁ」

『今は開通してないの?』

「ちょっと前に俺が封印開けたんだけどさ。例の件で色々あってさ、開放進んでないはずだよ」

 封印が解けたといっても中には魔物がウロウロしているのもわかっている。わざわざ突入するバカもいないだろう。

『あら。でも』

 メルさんがその話を聞いて首をかしげた。

『スムーズに入れてくれるかな?入るなって言われるんじゃないの?』

「それは……ありうるな」

 しまった。そこまでは考えてなかったな。

 言われてみれば、入り口には警備員、というよりもろに兵士っぽいのがガードしていたりする。これはちょっと大変だな。

 俺は異世界人という肩書を持ってはいるけど、別に権力があるわけではない。単に立場上目立つだけだ。

 ましてやタシューナン側の異変に関係する人物なわけだから、ここで入れてくれといったら話が厄介になるかもしれない。

 むむむ、どうしたものか。

 そんな事を考えていたら、

『彼らの認識をくぐり抜けて入っちゃって大丈夫かな?』

「へ?……あー」

 そんな提案に、俺は少し考え込んだ。

「認識撹乱して入るって事なら……そりゃ可能ならそれでも問題ないけど」

『そう。じゃ、そうするね』

 ……へ?どういう事だ?

 首をかしげていると、メルさんは突然、

「『誰もこの乗り物を認識できない』」

 それは日本語だった。で、たったひとこと、それを告げただけだった。

 だけど。

「!?」

 なんだこれ。

 この世界にきてから、魔力というものに日常的に触れてきた。それの専門家とはいえないけど、単に噴き出しているだけの魔力と、何かの魔法を発動した時の魔力の違いとか、多少は区別がつきはじめていたつもりだった。

 だけどメルさんが生み出した魔力の流れは、俺の全く知らないものだった。

 な、なんだこれ!?

『異界の魔法です。しかし、これは本当に人間の使うものなのでしょうか?』

「へ?」

『危険ですので直視しない事をオススメします。最悪、発狂する可能性があります』

 なんだそれ。だって魔力だぞ?

 でも。

「あ、ああ」

 確かにルシアのいう通り、なんていうか、触れていると狂っちまいそうな異様な魔力だった。

 うん、いいや。なるべく見ないようにしよう。

「そ、それでもう行けるのかな?」

『行けるよ。でも車から降りないで。外に出たら効かないから』

「窓をあけて話すのはいいか?入り口を開けてもらわないと入れないよ」

『あー、わかった。そっちは私が誘導する……「『入り口を開けてください』」』

 メルさんの声に反応するように、男たちが扉に向かっていき。

 そして大扉が開いた。

「これは……」

『さぁ、入ってください。扉が閉じて二分後に彼らのコントロールが切れます』

「わかった」

 すごいなこれは。

 ちょっとおそろしいものを感じつつ、俺は中にキャリバン号を突入させた。


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