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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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プロローグ

コンビニから出てきたら、そこは異世界だった!

勇者でもなんでもない、どこにでもありそうな、ごく普通の異世界放浪生活が始まる。


2015/08/08 キャリバン号についての説明部分を微修正。

2016/08/01 説明の長すぎるところの改造を試みた。

 目の前の光景に、俺は呆然としていた。

「……なんだ、ここ?」

 コンビニ袋を手に持ったままの間抜けな俺の口から、そんな言葉が漏れた。

 俺がいたのは、自宅のすぐ近くにある青いコンビニだ。軽く食事をしたらドライブに出るつもりで、愛車であるポンコツの軽自動車を前に止めて、そして中で買い物をして、そして出てきた。購入したのはチキンカツカレー弁当で、もちろん温めてもらった。安っぽいプラスチックのスプーンもつけてもらっている。支払いはケータイで払った。お茶は冷たいのを500mlでゲット。

 なのに、ここはどこだ?

 目の前に広がるのは、ひたすらの荒野。ところどころにブッシュがあるのが見えるが、川すら見えない。要するに砂漠だな。ひたすらどこまでも広がっている。

 後ろを振り返ると……あったはずのコンビニが、ない。数秒前にドアを出たはずなのに、そこにあったのもやはり荒野。

 足元を見ると、さっきまでアスファルトとコンクリだったのに、今は乾いた土の地面だ。いつもどおりのサンダルばきの足が、どうにも頼りない。

「……と、とにかく喰うか」

 よくわからんが、とにかく食おう。話はそれからだ。

 今は食べずに周囲を探索するという選択肢もあった。だけどチキンカツカレー弁当は保存なんてできないし、だったら温かいうちに食べるべきだと思った。お茶は節約すべきだろうが。

「いただきまーす」

 土の上にあぐらをかいて、普通に食べ始める。行儀が悪いが、まぁ、仕方ない。

 いつもどおりのチキンカツカレー弁当をもぐもぐと食べつつ、改めて周囲を見る。

 ……改めて見ても、やっぱり荒野だな。当たり前か。

 やがて食べ終わると、ちびちびとお茶を飲んだ。こっちは節約すべきだろう。最低限飲むとフタをして、そして袋にいれた。便利なリュックの類も何もないから、そのまま持つしかない。

 くそ、どうすりゃいいんだ。

 いや、やるべき事はわかってる。ここがどこかの調査と、そして飲める水の確保だろう。それがまず第一だ。

 でも、見渡すかぎりの荒野のどまんなかで、どこに行く?

 おそらくだが、夜まで歩き通したところで何も見つからないのではないだろうか?

 そして、そのうちに疲労と飢えと乾きに襲われるのではないか?

「……車」

 思わずキョロキョロと周囲を見回しているうちに、俺の口から出たのは、その事だった。

 そうだ、俺の軽四。ぽんこつで貧乏まるだしで、しょっちゅう調子が悪くなる困ったちゃんだが、ずっと俺のゲタ代わりになってくれていた、俺の相棒。昭和の生き証人とか友達には笑われたが、安給料で一人暮らしの俺にはぴったりの愛車。

 あいつはどこだ。

 あいつがあれば、何とかなる。そんな気がした。

 考えてみればバカな話だ。周囲は荒野ばかりで道路すらないっていうのに、日本の道路事情にあわせて作られた壊れかけの軽自動車がなんの役に立つっていうんだ。ろくに走りもできずに凸凹にはまり、動けなくなるのはおそらく間違いない。ハマーみたいな大型の四輪駆動車ならともかく、ただの軽四なのだから。

 なのに俺はなぜかバカみたいに、愛車が見つかる事を願った。

 その時だった。

「……あ?」

 俺は、自分の目で見ているものの意味がわからず、ポカーンとしてしまった。

 

 何もない空間から突然、俺の軽四が湧いて出たからだ。

 

「……はい?」

 マヌケと言えばあまりにもマヌケなんだが、俺は目を見開き、そして固まった。

 でも次の瞬間、愛車に駆け寄り、そして運転席側に回りこんでドアをあけ乗り込んだ。

 バタンと、いつものように安っぽい音をたててドアは閉じた。

「……」

 いつもの運転席だった。メーターパネルもいつも通りに薄汚れていておんぼろで。デジタルメーターなんて洒落たもののない、昭和時代そのまんまの丸いメーターパネル。ま、そりゃそうだ。確かこのクルマ、昭和の終わり頃の車種はずだし。

「……ん?」

 だが、妙な違和感がある。よく見てみると、

「……Magic?」

 おいおい、燃料計がFuel MeterじゃなくてMagic Meterになってるぞ。なんだこりゃ?今、半分ほどらしい。

 

 意味がわからない。

 わからないが……。

 

 周囲を見回した。

 車内の雰囲気は、コンビニに入る前そのままだった。ありがたい事に積みっぱなしのキャンプ道具もあるし、モバイルバッテリーも太陽電池もある。ダッシュボードにカーナビ代わりに置いてある小型タブレットまでもそのままだった。

 おかしな感じは一切ない。

「……」

 だけど「Magic Meter」といい、周囲の風景といい、何か根本的におかしいのも事実だ。

 わけがわからない。

 わからないけど、何かが根本的に狂ってるんだ。

 

「……ラジオ」

 そうだ。

 旧式の軽四であるキャリバン号には、これまた古めかしいプッシュ式のカーラジオがついている。

 これの電源を入れてみた。

「……おい」

 聞こえるのは、ざーっという空電ノイズだけ。

 FMに切り替えた。でも同じ。

「……ネット、そうだネットは?」

 ポケットをまさぐるとスマホがあった。待ち受け状態のはずだ。

 だけど。

「……圏外?」

 そんなバカな。

 俺がいたのは、一応だが東京都内だ。圏外になるようなポイントじゃない。

 でも。

「……」

 周囲を見渡した。

 ……確かに、この一面の荒野のどこかに基地局があるとも思えない。

 いったい、どうなってるんだ?

「そうだGPSは?」

 地図ソフトはネットが死んでたら使えないだろう。

 だけど俺は、GPSだけで使えるオフライン地図ソフトを使ってる。本来は登山用のものだけど。

 これでどうだ?

「……電波受信不能?」

 GPSすら受信できないってのか?

 だめだ。現在地が全くわからない。

 いや待て、ちょっと待て。

 じゃあ……ダッシュボードに置いてあったタブレットは?

 スイッチを入れると、タブレットは当たり前のように動作した。スマホと一見変わらないように見えて一瞬安堵したが、何かビックリマークみたいなのが出ている。注意事項か?

 引き出してみると「オフライン地図は使用不能。オンライン地図ソフトは使用可能」とあった。

 オンライン用のソフトが使えるって事は、ネット自体は生きてるって事か?ふむ?

 いいや。

 とにかく勧められるままに地図ソフトを起動してみた……みたが?

「……なにこれ?」

 起動した最初、世界地図が出るのだけど……大陸の形らしきものに全く見覚えがない。

 で、それが拡大して現在地が出るのだけど……。

「……ケラーナ平原?どこだこれ?南米のどっかか?」

 俺はタブレットを操作し、現在地を必死で探しまわった。

 タブレットによると、ここは中央大陸と呼ばれるところにあるらしい。昔は豊かな土地で国家もあったらしいが、今は文明の中心がよその大陸になってしまい、このあたりは一端砂漠化。今はゆっくりと時間をかけて、緑を取り戻していく最中なのだという。

「いや、だから……ここはどこなんだよ?」

 見慣れた地名、地形を探し、ひたすらに操作する。湧き上がる確信に近い不安を無理やり押し殺し、ひたすらに探しつづける。

 わからない。ヘルプを参照する。

「……地球じゃないって、そんな馬鹿な」

 なぁ……そんな、そんな馬鹿な事、あるわけないよな?

 俺は必死にタブレットを操作し、探しまわった。ネットが動くならとSNSを起動しようとしたが、見慣れたSNSはどれもサービスに接続できないというばかり。

「そんな……そんな、そんな馬鹿な!!」

 いつしか、俺は半泣きでタブレットに向かっていた。タブレットには無機質な文字で、こう記されていた。

 

『中央大陸ケラーナ平原中央部・旧帝都マンカス周辺部』と。


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