幼なじみと私のある冬の日
授業終了のチャイムが鳴った。
今日最後の授業が終わり、クラスは気を抜いた生徒達の雑談で賑わう。
先生が出張するから、と昼休みにホームルームをしたのでもう帰っても構わない。私は部活に入っていない所謂帰宅部というもので、さっさと帰る支度をして教室から出る。
これといって仲のいいクラスメイトはいないのでスムーズに靴箱まで辿り着き、靴をはきかえて外にでる。最近この時間帯は寒くなってきた。
部屋の暖かさに慣れた体が寒さで微かに震え、ほぅと吐き出した息は白く湯気のようになる。
強張った足を歩かせて、校門から出る。
そこから数歩歩いた頃、私の横に誰かが並んだ。
確認するまでもなく見知ったその人へ手をそっと伸ばせば自然と手を繋いでくれる。
「最近寒いな。」
そう言って繋いだ手を自分のコートのポケットに突っ込む幼なじみに、私はそうだねと返した。
そろそろ冬用のコートを出す時期かもしれない。
今朝の新聞の気象欄を思い出しながら思った。
「……禿が今日えげつない量の宿題を出しやがった。」
げんなりとした顔で幼なじみはぼやいた。
禿と呼ばれた物理の田辺先生の授業は今日うちのクラスでもあったがそんなえげつない程の宿題は出されなかったと思う。
進捗はクラスによって違うから比較は出来ないけど。
「手伝ってくんねぇか?」
断る理由はないので、当たり前と答える。
そうか、と返す幼なじみはほっとしているようだ。
余程ヤバい量の宿題なのだろう。
少し風が冷たいので幼なじみの方へ寄る。
そのまま寄り添うようにして近くのファーストフード店へ向かった。
店に入ると既に学校帰りの学生が多くいた。
店内はあまり暖房が効いていないのか少し寒く、コートを着たままの人もいる。
幼なじみが何か頼んでいる間に私は席を取る。
丁度いい四人掛けの席があったので、鞄を席に置いて座る。
ふと目の前の席に座っている仲の良さそうな女子生徒二人の姿が目に入った。
座っていても10㎝ほど差のある二人は一つのマフラーを共有してくっついていた。微笑ましい。
「きしょ!何やってんだよ!」
ふと他方から聞こえた声の方を見ると、男同士で一つのマフラーを共有しようとしている姿が目に入った。
寒いわー、マフラー短かっ、近寄ればよくね、と言い合う二人の隣で二人の友達らしい男が爆笑している。
お前も道連れじゃー、やめろ、寒い寒い、と爆笑している男もマフラーに入れようとするコントのようなやり取りを見ていたら、幼なじみがトレーを持って現れた。
私の視線の先のやり取りに気付いてしばらくそちらを見た後
「俺はマフラー好きじゃねぇけど。…やってもいいぞ。」
と言った。
微笑ましくて見ていただけだから気にしなくていいのに。
そうして宿題に取りかかろうとしたとき、偶然クラスメイトと出会った。
幼なじみと付き合っているのか?と聞かれたがよくわからなかったので適当にはぐらかした。
好きとか愛してるとか。
今一ぴんとこない。
答えがでないことを考えても仕方ないので目の前の宿題に集中して片付けることにした。
暗くなり、夜になると一段と冷える。
幼なじみにくっついてコートに入れて貰うことにした。
「月が綺麗だな。」
幼なじみがそう言ったが、残念ながら私の位置からでは全然月の様子は見えない。仕方ないのでどれぐらい綺麗?と聞く。
「…死にたくなるぐらい。」
何かの比喩なのだろうか。ブラックジョークとか?
幼なじみの顔を仰ぎ見るがよくわからない。
なんとか面白い返しがないかと頭を捻るが、思い浮かばない。なら、あなたを埋めようと苦し紛れに返せば、頭を撫でられた。どういうことだろう。
「…百年はもう来ているぞ。」
意味はわからない。昔からずっと一緒にいるけど時々幼なじみの言っていることがわからなくなる。
それでもこれからもこんな感じでずっと一緒にいるんだろうな、と思うと胸が暖かくなる。
そんな、幼なじみと私のある冬の日。
恋愛物の練習に書いたものです。
私
マイペース天然ぼっち系女子。
友達はいない。けど本人はそのことを気にしてはいない。
ぽやぽやマイペースなので話題が行方不明になることがしばしばある。
お洒落ではないけど可愛い磨けば光るタイプ。
幼なじみ
ポエマー三白眼系男子。
友達はいない。本人は結構気にしているが、「私」がいるからまぁいいかと思っている節がある。
凶悪な顔付きの男前だが、ロマンチックで夢見がちな所がある。
姉が元ヤンの為元の顔つきがそっち系なのにさらに凶悪化している。本人はその事実にあまり気付いていない。