休憩論
特筆することはありません。
「それじゃあ、ここらへんで少しお話をしようか。」
「いやいや、話と言ってもそこまで厳粛な話ではないんだけどねぇ。というよりも、ボクに厳かな雰囲気を求めないでくれよ。そんなことしたら、一生口が開かないように今この場でまるで他人事のように動く自分の下を思いっきり噛み千切らなくてならなくなってしまう。」
「うん、嘘だけどね。」
「よし、早速本題に入ろうか。ハハハ、解ってる解ってる。裁判長及び陪審員の皆様。それにさっきからずっとこっちに熱くて厳しい視線を送っている検察官の方々、並びに態々こんな僕のために弁護にならない弁護を演じてくれている弁護士の――なんだっけ?かき氷先生だっけ?――ああ、ごめん。間違えたよ、檜垣先生だ。東大次席のエリート弁護士でしたね。完全に度忘れしていました。人の名前をすれるなんてボクも人間の風上に於けないなぁ――。ねぇ、お集まりいただいた観衆の皆さん。警察やマスメディアの人たちは本当に酷いと思いません?身元不明、住所・職業不明、年齢不明、名前『戸倉 鉄也』って。……くくっ、あははははっは!手抜きにもほどがありますよね。被告人の情報が謎すぐる。誰がどう見ても偽名にしか見えない。実際ボクはそんな名前で呼ばれことなんて一度もないですよ。幾つか偽名を使った時はありますけど、これはない。ここまで有名になっているのに全く知られていないなんて、少々残念ですねぇ。」
「ボクの名前は『ヤタガラス』。本名は倉井 烏。年齢は今年で十九歳。生まれついた時には地下鉄付近の温かい場所で寝泊りをしていて、十歳になる直前にとある孤児養護実験施設に送られて、十二歳でその施設がつぶれて公立の常葉中に入学。一週間で中退した後、就職して今に至る。住所は、とりあえず戸籍は長野と栃木においているけど、基本的には野宿のためありません。職業は――詐欺師をやっています。」
「うん、いいね。流石は記者の方々だ。ペンを動かす音が軽快だねぇ。」
「おっと、話がそれてしまった。剣呑剣呑。」
「初めに言っておくけどさぁ、みんな既に騙されているからね。ボクは一つも嘘を言ってないけど。君たちが勝手に騙されているだけだからね。いや、騙されているというよりは目をそらしている、かな?」
「そう、今回のこの裁判は、半年前に起こった某大手企業の社長とその部下数十名が本社において虐殺されていた。というものだけどさあ。――これ、ボクやってないんだけどねぇ。」
「おいおい、嘘じゃないって。一度も取り調べに来なかった検察官の皆様方。それに、情報が滞っているマスコミ諸君。そして、今日が初めての面談となった檜垣先生。」
「あら、なんですか警察のお兄さん。え、ちょっと待った。まだ、話してないから。いやん、強制連行!?なら、いいや。しょうがない。結論を言おう。虐殺犯は捕まってないんだよねぇ。――今日も二人死んだろ?この裁判所の近くで。それ、そいつの犯行。」
「おっと、空気が固まった。うん、空気読んで話してよ。もとい、離せ。警察官のお兄さん。」
「よ、ほっと。」
「うん?顔色が悪いね、お兄さん。貧血かなぁ?じゃあ、そこらへんに横倒れていた方がいいよ。直ぐに楽になる。」
「――それじゃあ、続きを言うけど。ボクはその犯人と親友なんだよねぇ。」
「だ~か~ら~、嘘じゃないって。ほら、半年前事件が起こった日の一週間後ぐらいにその事件現場付近で十人ぐらい若者が殺されたでしょ?まあ、正しくは犯罪グループの連中なんだけどさ。それは、確か暴力団員同士での抗争という形で終わったみたいだけど、残念、不正解。正しくは、一人の殺し屋によって殺されたというのが正しい。」
「ボクが捕まったのは、その事件が起こる三日前。まあ、自首したからねぇ。」
「その殺し屋の親友はまだ捕まっていない。どころか、殺しまくっているんじゃないかな?」
「なんていったって、今日は犯行当日だもの。」
「詳しく?分かった。」
「実はボク囮なんだよね。正確には茶化し役だけど。」
「嘘偽りなく話すからさぁ。少し落ち着いてくれないかなぁ。」
「ええと。確かこの裁判は中継されているんだっけ?うん?ああ。カメラは外か。はあ。まあいいや。」
「でさあ。確か、今日の都市鉄道は二十件位人身事故が起きているんだよねぇ?」
「首都高速で玉突き事故及び火災にが発生して二十数台――約五十人近くが重軽傷または死亡したのは今朝の話だよねぇ?」
「建設ミスで看板が落下したり、不審火で火災発生したりで消防も救急も忙しそうだねぇ。」
「あれ、ウイルスによって携帯会社の一部サービスが機能停止して今日は完全に音信不通になっているんだっけ?」
「今日の天気は、晴れだった。でも、今外は雪が降っていたよねぇ?」
「そう言えば、一週間前にとある工場施設が火災によって焼け落ちたみたいだけど。あれ、爆発によって放火されたという説が一番濃いらしいよねぇ。」
「昨日、判決が下された元国会議員殺害事件。有罪になっちゃったけど、彼の言うことが本当なら犯人はまだ捕まっていないよねぇ。」
「それで、最後になるけど。なんかこの部屋火薬臭くない?」
「やあ、君はニュースキャスターとカメラマンかな?え?うん。逃げてきたんだよ。流石にあの爆発は怖かったけどねぇ。ああ、そうそう。何が起こっているのかって?それは多分、この国が乗っ取られているんじゃないのかなぁ?」
「ええ、ボクの仲間にね。」
『それじゃあ、明日は綺麗な夕焼けが見えると思うよ。』