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クリスマスは恋人と二人きりで。
誰しもが一度は夢見る事。
「クリスマスの次の日には出歩か無い方が良い」
と、三夜が言った。
相変わらず全身を暗い色の服で包み、周囲(今は僕の部屋の事だが)と溶け込むのを拒絶している。
僕は黙って三夜の隣に腰掛けた。
「三夜、一応今日はクリスマスだろ?」
「そうだね」
「僕達カップルだろ?」
「一応ね」
「そこ一応いらない。」
「ふぅん」
「……こんな時は今日は帰りたくないとか、家に来てとか、今夜家に誰も居ないのとか言ったりしないかなぁ。」
三夜は少し考えて、
「帰りたくないけど家に誰も居ないの」
と真顔で言った。
「クリスマスなのに……」
打ち拉がれる僕を見て、三夜は表情を緩めた。
「そんなに浮かれても居られない。クリスマスの次の日には、白いサンタが来てしまうから。」
「白いサンタ?」
三夜は決して電波な訳ではない。(ちょっと入ってるけど)
彼女は都市伝説の収集家だ。
ミミズバーガーや口裂け女みたいなメジャーな物から、誰も知らない様なマイナーな物まで、彼女の話は尽きる事が無い。「ある所に、若いカップルが居た。
彼らはとても仲が良かったのだけれど、クリスマス前に大喧嘩をしてしまう。
彼はクリスマスに仲直りをする計画を立てた。」
窓が激しく揺れる。
今日はとても風が強い。
「クリスマスの日、彼は友達からサンタクロースの衣裳を借りて彼女に合いに行った。
彼が彼女の家のドアを開けると、彼女は見知らぬ男と裸で抱き合っていた。
彼女と男は、彼を笑った。
彼はそのまま何も言わずに、その場にあった包丁で二人を刺した。」
一際風が強く吹き、ぶつんという音を立てて電気が消えた。電線が切れたのかな、と僕が言った。
そうだと思う、と三夜が言った。
僕は非常用の蝋燭に火を灯し、続きを促した。
「彼は二人を山の中に捨てた。返り血の付いた衣装は男に着せて、包丁も近くに捨てた。
彼が立ち去った後、男は意識を取り戻した。
男は隣で彼女が冷たくなっているのを確認して、彼の後を追った。
途中で雪が降り、車の跡を消してしまっても、男は正確に後を追った。
男が彼に追い付いたのは、日付が変わった頃の事だった。
男はにっこりと笑って、
「メリークリスマス」
と呟いた。
男は彼を刺して殺した。」「男もそのまま死んでしまった。サンタクロースの衣装には雪が降り積もって、真っ白になっていた。」
風は止み、
窓の外を見ると、静かに白が舞っていた。
次の日―すなわち、今。
僕は外を歩いている。
三夜が熱を出したので、様子を見に行くためだ。
昨日の話は確かに面白かったけど、生憎僕は迷信を信じない。
白いサンタに襲われる事は万一にもない。
ちんけな怪談じゃあるまいし。
三夜の家のドアを開けると、そこには。
裸で抱き合う、男と女。
頭の何処かで誰かが言った。
「メリークリスマス」