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無彩色のち有彩色

作者: 神綺

 僕は猫。性別は男。僕を見る人間は、僕のことを「捨て猫」、もしくは「アメリカンショートヘア」と呼ぶ。これが、僕の名前らしきもの。

 僕は今、「段ボール」と人間が呼ぶ箱に入っている。深さは二足で立てば外が見える程度。でも、今の痩せた僕じゃ出られない。たとえ前みたいに普通の体だったとしても、出る気は無かった。行く当てなんて無いんだし。

段ボールの外には、赤や黄色の葉っぱを少しつけた木が見える。毎日観察してるけど、その葉っぱもだいぶ落ちてきた。

 段ボールの中には、誰かが入れてくれた小さな毛布が入っている。これでなんとか、寒さをしのいでいる。でも、毎日少しずつ寒くなっているから、これから先もこれだけで寒さに耐えられるかは、分からない。

 見上げれば、見えるのは茶色い壁に四角く切り取られた空。ああ、こうして周りを見るのは、いったい何回目だろう?でも、僕は何回見ても世界に色が感じられない。色に少しの感動も覚えない。世界が色あせて見えて、まるで白黒に見えるのはなんでなんだろう。

白黒の世界を見てたってつまらないだけ。僕は、空を見るのをやめ、毛布の上に寝そべった。そのまま寝ようかと思ったけど、眠くならない。仕方ないから、殆ど骨と皮だけになった僕の手を見ながらぼーっとしていると、ふと、僕はなぜ今ここにいるんだろう、どうしてこんな目に遭っているのだろう、などと思い、僕の今までのことを思い返した。

 僕は、どこかの家で生まれた。みんなそっくりの毛並みの、三匹兄弟だった。順番的には、僕は真ん中の子。

 そして、目がようやく開いた頃、・・・つまりは何日か前、この箱に入れられて外に連れ出された。他の兄弟とは一匹ずつばらばらに引き離されてしまった。すごく嫌だったけど、僕の力じゃどうにもならなかった。

 その後、車というもので移動した。帰り道を覚えようと頑張ってはみたけれど、外はほとんど見えなかったし、見えても僕の記憶力じゃ無理だったろう。そして、そのままここに置いて行かれた。

置いて行かれる直前、僕を連れ出した人間と目が合ったのだけれど、その人間はすごく冷たい目をしていた。目つきが恐いというわけではなかったけれど、とにかく目が冷たかった。……お母さんの目はとても温かかったのに。生き物の種類が違うと、ここまで違う瞳になるものなのかな、と思った。

 それからだ、僕がこの場所で暮らすようになったのは。そして、僕は段ボールの前を通っていくいろんな人間を見るようになった。

 哀れむように僕を見るだけの人間、僕で遊ぶ人間、おもちゃを見る目で僕を見る人間、ちなみに、一番ありがたかったのは、食べ物をくれる人間。置いて行かれてからは、その時々貰える食べ物だけが僕のお腹を少しだけ満たしてくれたから。妙に甘かったりするのが多いけど(おやつ、っていうんだっけ)。

 でも、それだけ。その人間も、それ以外何かをしてくれる訳でもない。その人間以外は僕の為になるようなことさえしない。

同情なんて、哀れむなんてしないでほしい。惨めな気分になる。僕が欲しいのは、そんなものじゃない。

 ……あれ、僕は何を欲しがっているんだ?

 イライラとした感情が心に溜まり、それでいてどこかにポッカリと大きな穴が開いているような、何かを無性に求めている日々。そんな日々が過ぎていった。

 こんな日々がいつまで続くのだろう?明日も見えないような今を生きる不安とこのイライラに、欲しい物が手に入らない欲求不満に、このままずっと耐えないといけないのかな?

 そう考えたら、なぜか悲しくなった。・・・・・・お母さん、迎えに来てくれないかなあ。昔みたいな幸せな日々に戻りたい。あの、お母さんに甘えたり、兄弟とじゃれ合ったりしてた日々に。ああ、兄ちゃんや弟は今どうしてるんだろうな……。元気かなあ……。



 そんなある日、僕は初めて雨というものを体験した。冷たいしずくが空から降ってきて、僕を、世界を濡らしていく。世界が、サァーーッという心地いい音に包まれている。

 この雨のせいだろうか、今日は誰も僕の前を通らない。いつもは一人くらい見かけるのに。このままじゃ今日はご飯、なさそうだ。

 そんなことを考えている間も、雨は僕の体を濡らしていった。あっという間に僕の体は頭からしっぽの先までずぶ濡れになってしまった。正直、かなり寒い。

 しばらくそうしていると、寒いとかそんなものを通り越して、痺れて何も感じなくなってきた手足に力が入らなくなり、僕は倒れてしまった。

 立ち上がることもできないから、そうして倒れたままでいると、今度は眠くなってきた。

 起きている理由もないし、このまま寝ちゃおうかな。でもそうしたら、ずっと寝てしまう気がする。多分起きられない。それくらい眠かった。まあ、それもいいかもしれない。寝ている間は、夢も見られるし。

 僕がたまに見る夢の中では、僕は満たされていた。お母さんがいて、兄ちゃんと弟もいて、食べ物もいっぱいあって。温かい、幸せな夢。

そんな幸せがずっと続くかもしれないなら、このまま眠ってしまおう。それがたとえ夢の幸せでも、いいんだ。どうせ、起きていてもいいこと無さそうだし。

 考えている間も、眠気は増していく。目を開けていられない。どんどん勝手にまぶたが閉じていく。

 そのまま眠りに落ちる直前、急に雨が止んだ。僕の周りだけ、陰ったような気がする。

 いったい何だろう?最後に確かめておきたくなった。このまま寝たら分からないままになるだろうから。そう思って、落ちていくまぶたをこじ開けた。それでもちょっとしか開かなかったけど。

 そして、見る。

 段ボールの向こうに、人間が立っていた。

長い髪が頭の後ろの高いところでくくられている。どうやら女の人っぽい。手に、空色の傘(確か、人間はそう呼んでいたはず)を持っている。雨が止んだのはあれのせいかな。

 そして、その人間はいつも他の人間がするように、僕を見下ろしている。でも、いつもみたいにイライラしない。不思議だな……。なんとなく、お母さんのことを思い出した。

 ここまで思ったところで、眠気がもっと強くなってきた。ああ、もう限界かも……。なんとかこじ開けていた目も閉じてしまった。今度こそ、寝ちゃうな……。

 そのとき、ふわりと体が浮かんだ気がして、温かさに包まれた。なんだろう……。気になったけど、気持ちいいし、いいや。

 おやすみ、なさい……。

 ………。



 僕は夢を見た。でも、いつものような、お母さんがいて食べ物のある夢じゃなかった。

 それは、さっきの髪の長い女の人が毛布にくるまれた僕を手に抱き、優しく微笑みながら僕に話しかけている夢。

「あら、起きた?でも、まだ眠そうね。……今はゆっくり寝たらいいわ。また起きたら、いろいろしないといけないから。ご飯食べたりとか名前決めとか…あ、あの子達の紹介もしなきゃね」

 人間の言葉だからなんて言っていたかわかんなかったけど、声が心地よかったから、とりあえず悪いことじゃなさそうな感じだった。……ああ、心地良いから、また眠くなってきた。

 夢は、そこで途切れた。



「……い…おい、こら、おまえ、いい加減に起きろよ」

 ……、…ん?

「えー?まだ寝かせといてあげようよー」

 ……どうやら誰かが僕を起こすかどうかでいろいろしているようだ。でも、あいにくもう起きてしまった。

 もう眠くないし、起きることにした。というより、うるさくて寝られない。起きたということを伝える意味も込めて僕が目を開くと、目に入ってきたのは周りの様子と、僕をのぞき込む二匹の猫。

 白と黒を基調とした部屋で、大きな窓が壁にある。部屋に置いてある物は少なめ。その中で僕は夢の中の物と同じ毛布にくるまっていた。

そして僕をのぞき込んでいるのは黒猫と白猫だ。黒猫は琥珀色、白猫は青色の瞳をしている。見たところ、どっちも男で、ぼくよりも年上だ。先に口を開いたのは、黒猫の方だった。

「お、やっと起きやがったか」

「……」

 話しかけられたものの、口調が荒い。なんか、怖い。怒ってるのかな?どうしよう。なんて言えばいいのかな。すいません?とか?

「おはよう、とか笑顔で言ってあげなよー。この子ちょっと怖がってるじゃんかー。」

 白猫さんの方は、なんというか間延びした口調。話す人の毒気を抜く感じ?

「うるせえ。大体そんなことするやつじゃねえって分かってるだろうがてめえは!」

「ま、確かにヨルがそんなことしたら笑えるけどねー?」

「この野郎……!」

二匹は僕のことを忘れたかのようにけんか……というよりは黒い方も本気で怒っておるわけじゃない感じだし、じゃれ合い?を始めた。

その様子を見てたら、なんだか笑いがこみ上げてきて、失礼かと思って一応我慢はしてみたけど、僕はそれを抑えることができなかった。


「…ぷっ……ふふふっ…はははっ」


 笑いながら、自分が久しぶりに笑っていることに内心驚いていた。起きているときでこんな日がやってくるなんて。いいことなんかない、なんて思ってたのにな。

 ふと、二匹がじゃれ合うのをやめて僕を見ているのに気がついて、慌てて笑いを引っ込めた。…やっぱり失礼だったかな?

「す、すみません、つい……っ」

「いいんだよー、笑いたいときに笑うのは大事なんだからさー、ねー、ヨル?」

「…ふん。」

 どうやら怒ってはないらしい。そのことに安心すると、いくらか落ち着いてきたからか疑問がいくつか浮かんできた。

 ここはどこ?あなた達は誰?それと、僕はどうしてこんな状況になっているの?

 ちょっとしたパニックになっていると、黒猫さんと白猫さんが話を始めた。

「とりあえず、どうしよっかー。椎奈さん今出かけてるしー。自己紹介でもするー?」

「そうだな。こいつはまだ何もここについて知らないわけだし、混乱してるだろう」

「じゃあ、僕から始めるねー。僕はユキっていうんだ。よろしくー」

「ヨルだ。」

「ヨルは、もうちょっとなんか言ったらー?寂しいなあ。」

「これから話す機会くらいいくらでもあるだろ、今はこれくらいでいいだろうが」

「ま、それもそうかもねー。君の名前はある?」

 僕に話を振られてしまった。名前・・・?といえそうなものといえば…。

「アメリカンショートヘア・・・?」

「そういうのじゃねえ。それはおまえの毛並みのことだ」

 違うと言われてしまった。どうやら、これは名前じゃないらしい。どうしよう、じゃあ『捨て猫』も違うよね・・・。

「…じゃあ、多分ありません」

「まあ、そうかもねー。僕達もここに来るまでは無かったわけだし」

「ここに来るまでは?」

「そう、僕たち、捨て猫だったんだ。名前が無いってことは、多分君もそうでしょ?」

 捨て猫。その言葉には聞き覚えがある。…この二匹も同じだったんだ。あえてそこにはつっこまないでおいた。そこから連鎖的に過去の話につながりそうだったから。僕と同じように辛い思いをしてたんだったら、できればわざわざ思い出させたくない。

「はい」

「やっぱりねー」

「あの…、あなた達はどうして今は名前があるんですか?」

「俺達の名前は、椎奈から貰った物だ。」

「そうなんですか…、あの、その椎奈さんというのは?」

「俺たちの飼い主だ。おまえや俺たちを拾った人間でもある」

「髪の長い人だよー、分かる?」

 …あの人かな。じゃあ、あれは夢じゃなかった?

「はい、じゃあ、ここはその椎奈さんの・・・?」

「そう、家。あ、今は椎奈さん出かけてるけど、多分もうすぐ帰ってくると思うよー」

「はあ……。僕は、これからどうなるんですか?」

「君がいいなら、ここで暮らすことになるかな」

「どのみち、行く当ても帰る場所も無いだろう。ここにいた方がいいと思うが?」

 ここで暮らす?僕が?

「いいんですか?」

「あいつが拾ってきたんだ、いいってことだろ」

「歓迎するよー」

 …できることなら、ここにいたい。ここは、居心地が良さそうだから。今までの生活より遥かにましそうだし、この人達もいる。椎奈さんもいるらしい。

 そこまで考えて、僕は合って間もない二匹と、ここにいない人間のことを信頼し始めていることに気がつき、驚いた。

 気づけば、僕はこう言っていた。


「…ここにいたい。いても、いいですか……?」


 二匹とも、その言葉に笑った。ユキさんはにっこりと、そしてヨルさんは薄く、ふっ、と。

 歓迎すると言われていたとはいえ、その笑顔を見てようやく安心した。ここで駄目だと言われたらどうしようかと思った。

 心の底から、笑った。ああ、こんなに風に笑ったのは初めてかもしれない。この二匹と、今はここにいないけど椎奈さん。みんなで過ごせる日々。これからは、毎日そんな日が続くのかなと思うと、自然と顔はほころんだ。

 そして同時に、心に空いていた穴が少しづつ埋まっていくのを感じていた。



 それから三匹でたわいもない会話をしていると、不意にばたんっという音が聞こえた。

「帰ってきたか」

「え?椎奈さんですか?」

「そう。さて、楽しみだなー」

「何が楽しみなんですか?」

「君の名前、多分もうすぐ決まると思うから。僕がここに来たときは、初日で貰えたしねー」

 それは楽しみだ。さすがに、君やおまえで呼ばれ続けるのは味気ないし。

「どんな名前になるんでしょうか」

「ん~……、君の毛並みは何色かの色があるから何とも予想できないなあ」

「毛並みの色?」

「俺達の名前は毛並みの色に関連している。俺は黒だから、ヨル。拾われたときが夜だったのもあるが、夜空の色も黒いからな」

「僕は白くて、拾われたときに雪が降ってたからユキ」

「ゆき?」

「あ、君はまだ小さいみたいだし、まだ冬は体験して無さそうだよね。冬に降る白いもののことでね、綺麗だよ~」

「へ~……。見てみたいです」

「そのうちに嫌になるくらい見ることになる」

 ここまで話したところで、後ろの方から声と足音が聞こえてきた。

「ただいま、みんなここにいたのね」

 後ろを振り向くと、椎奈さんがいた。手にはガサガサと音がする何かが入った袋を持っている。

「お、起きてた。二匹と話してたのね。じゃあ紹介は必要ないか」

 相変わらず人間の言葉は分からない。いったい何と言っているのだろう?

「まだ話したいことはあるでしょうけど、とりあえずご飯にしようか。おチビちゃんの方は特にお腹が空いてるはずだからね」

 また何かを言って、椎奈さんはくるりと身を翻し、とことことどこかへ歩いていく。

 僕が未だに首をひねっていると、ヨルさんとユキさんが急に立ち上がった。

「行くぞ、メシだそうだ」

「え、分かるんですか?」

 言っている間にもずんずんと椎奈さんの後について歩いていくので、必死に後を追いかける。

「何で人間の言葉が分かるかってこと?」

「はい、僕はなんて言っていたか全く分からなかったのに…」

「まあ、僕達も厳密に言えば分かってる訳じゃないよ。今までの経験上からの予測。だから今言ったことの全部は僕にも分からないよ」

「そうなんですか…」

 良かった。てっきり、人間の言葉が分からない猫は僕だけかと思ってしまった。じゃあ、僕もいつかは椎奈さんの言葉が理解できるようになるのかな。

 不意に、一番前を歩いていた椎奈さんが足を止めた。自然に僕達の歩みも止まる。どうやらここが目的地らしい。椎奈さんの足下をよく見ると、白と黒の器がそれぞれ一つづつ置いてある。色違いだ。

「ここは?」

「ここは俺達の食事場だ。あの器を目印にして覚えるといい」

「あれは僕達の食器なんだー。黒いのがヨルので、白いのが僕の。君のももうすぐ貰えると思うよ、ほら」

 ユキさんが目線で示す方向を見ると、椎奈さんが袋から器を取り出すところだった。二つの器のこれまた色違い、灰色の器。僕の毛並みで一番多い色。

「今日は結構いい猫缶買ってきたのよー、新しく家族が増えるお祝いだからね」

 そして、何か言いながら今度は少し平たい缶を三つ取り出した。

「あれは何ですか?」

「あれは猫缶っていってねー、僕達のご飯。今日はいつものと違うタイプみたいだね」

「へー……」

 初めて見る種類のご飯。今まではお母さんのお乳と、人間がくれた甘いご飯しか食べたこと無いからなあ。どんなのなんだろう。美味しいかな?想像を巡らせていると、パカッっという音が聞こえた。音のした方を見やると、椎奈さんが猫缶を開けているところだった。ここまで美味しそうないい匂いがしてくる。

 つい椎奈さんをじいっと見てしまう。すると視線に気がついたのか、目があった。一瞬びっくりしたような表情をした後、軽く吹き出されてしまった。は、恥ずかしい。物欲しげな目をしてたのがばれちゃったのかな?

「待たせてごめんね、でももう少しであげるから、もうちょっと待ってて頂戴ね」

 手早く三つとも開けると、僕達のそれぞれの器へ猫缶の中身を入れていった。

「いただきます」

「いただきまーす」

 ヨルさんとユキさんは同じこと(おそらくはなんらかの挨拶のようなものなんだろう)を言うなり、早速食べ始めてしまった。僕も食べていいのかな?再び椎奈さんと目を合わせると、微笑まれた。多分いいのだろう。

「いただき、ます」

 二匹をまねして挨拶をし、初めてのご飯に一瞬戸惑ったものの、空腹と食欲に負けて食べ始めた。あ、すごく美味しい。思わず夢中になって食べる。

「お、いい食いっぷりじゃねえか」

「すごくお腹が空いてたんだねー」

 いつの間にやら食べ終わっていたらしい、ヨルさんとユキさんに僕の食べっぷりを観察されている。ちょっと恥ずかしいので急いで食べると、僕も食べ終わった。・・・ああ、久しぶりに満腹になったなあ。なんだか幸せな気分に包まれる。

「よほどお腹が空いてたのね、さっきのは成人、いや成猫?用の量だったのに」

 椎奈さんがこちらを見てクスクスと笑っている。何で笑っているかはなんとなく分かる。やっぱりもう少し落ち着いてたべたほうがよかったかな?

「さて、折角全員そろってるんだから今、名前を決めましょうか。実はもう考えてあるのよねー」

「おい、名前が決まるそうだ」

「え、ほんとですか!よく分かりますね」

「今のは『名前』って聞こえたからね、慣れだよ慣れ」

 一連の会話の後、みんなで椎奈さんを見つめる。絶対に聞き逃さないように。


「君の名前は――――『ニジ』」


『ニジ』。確かに覚えた。今日からの、僕の名前。

「『ニジ』、か・・・。毛並みの色じゃなかったか」

「意外とカラフルな名前だったねー、でも、いい名前だと思うよ」

「『ニジ』って、どんな意味があるんですか?」

「虹っつうのがあってな、雨上がりに空にできる七色のでかい曲線のことだ。それのことだろう」

「改めてこれからよろしくね、ニジ」

「……はい!」

 二匹と同じように、僕にも椎奈さんに名前をつけて貰えた。そのことに喜んでいると、不意に椎奈さんに抱き上げられた。そのまま椎奈さんは窓際へと歩いていく。ちらりと後ろを見れば、ヨルさんとユキさんが小走りでついてきている。

「最初はね、『灰』に関連した名前にしようと思ってたのよ。でもなかなかいいのが思いつかなくて悩んでたの。

それで買い物から帰ってくるときも悩んでたんだけど、急に雨が止んで、晴れてきたの。もしかしたらって思って空を見たら、やっぱりあったのよ。あれが。見たときは、名前はこれしかないと思ったわね。

ほら、あれが君の名前と同じ名前のもの。」

 椎奈さんが言いながら窓の向こう側を見るので、僕もつられて外を見た。

 そして、僕の名前の理由を理解した。たぶん、二匹も分かったと思う。


 空に、大きな虹が架かっていた。色とりどりのとても綺麗な虹。あれが、僕の名前。


 そのとき、僕は初めて世界が鮮やかに色づき、輝いているように見えた。



 どうも、この話を読んでくださったお方、初めまして。神綺といいます。以後、どうぞよろしくお願いします。

 初投稿でドッキドキです。この作品は学校の文芸部で一年ほど前に書いた作品なのですが、実は処女作です。今改めて読むと、なんだかこっぱずかしいものがありますね……。

 それはともかく。これからも、ちょくちょく文芸部で書いた作品を投稿していきたいと思っています。読んだ人の記憶の片隅にちんまりと、でも確かに残ってくれる作品を目指して精進したいと思いますので、どうか生暖かい目で見守っていただけたらとても嬉しく思います。

 ではでは。

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