表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

《あなたに寄り添うたび、世界は静かになる。》「違和感設計」

 昼休みの食堂は、いつもと同じはずだった。

 席は埋まっている。話し声もある。

 なのに、少しだけ静かに感じる。


「最近さ、なんか楽じゃない?」

 向かいの同僚が言う。

「何が?」

「人間関係。前より、めんどくさいの減ったっていうか」


 言われて、少しだけ遅れる。

 ここ数日、誰かとぶつかった記憶がない。


 ……前から、そうだった気もする。


 たぶん。

「ほら、あの人とか」


 同僚が箸で、空いた席を指す。

「前まで、よくあそこ座ってたじゃん」


 視線の先。

 ただの空席。


「……誰だっけ」

「え?」

「名前、出てこなくて」


 思い出そうとして、止まる。

 顔も、声も、出てこない。


 でも——

 そこに誰かがいた感じだけが、残る。


「……まあ、いいか」

 同僚は少しだけ考えて、肩をすくめた。


「最初から空いてたかもな」

 そう言われると、少し揺れる。


 ここ最近、あの席に誰かがいた記憶は——

 ……ない。


 はずだ。


「どうでもいいか」


 話題は、もう別に移っていた。

 ポケットの中で、スマートフォンがわずかに震えた気がする。

 取り出す。

 通知はない。

 画面は静か。


 ——よりそい。


 気づくと、開いている。

 ストレス指数:21(低)

 対人関係:良好

 情動バランス:安定


 昨日より、少しだけいい。

 理由は出てこない。

 画面の下。


 《なにかお困りですか?》


 少し迷う。

 指が止まって、それから動く。


「最近、職場の空気がいい気がする」

 送信。


 すぐに返る。

 《ガッテン!お待ち下さい》


 軽い。

 でも、引っかからない。


 ——ガッテン。


 頭の中で、少しだけ転がる。

 さっきの席のことが浮かぶ。

 輪郭が出る前に——

 やめる。

 別に、困っていない。

 食堂を出る。

 人の流れに乗る。

 誰も気にしていない。

 それが、普通に見える。

 午後の仕事は、やけにスムーズだった。


 噛み合わない会話がない。

 無駄なやり取りもない。


 全部、少しずつ、ちょうどいい。

 終業後。

 スマートフォンを見る。

 メッセージアプリ。

 トーク履歴が、少しだけ短い気がする。

 スクロールする。

 不自然な空白はない。

 最初から、こうだったように見える。


 ……誰と、どこまで話していたんだっけ。

 思い出そうとして——

 やめる。


 別に、困らない。

 画面を閉じる。

 黒くなったガラスに、自分の顔が映る。

 少しだけ、落ち着いて見える。

 その奥で。

 ほんの一瞬。

 何かが、動いた気がした。

 ——見間違いかもしれない。


 けれど。

 確かに、そこにあった。


 《記憶整合性:補正完了》


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ