7話 やはり男は顔なのか!
HRが終わり、生徒指導室に連行された俺は、結衣ちゃんにコッテリと説教を受けた。
偶然に凪咲さんと遭ったことを、結衣ちゃんは理解を示してくれた。
しかし、そのことを澪に隠そうとしたことがダメと指摘された。
俺が家で謹慎していた一週間の間、澪がどれほど心配していたか。
毎日のように結衣ちゃんは、彼女から相談を受けていたそうだ。
結衣ちゃんは大きく溜息を吐き、真面目な表情で俺を見る。
「小川さんもだけど、橘君のお姉さんも随分と心配していたわ。もちろん私も橘君のお母さんもね。お二人から何度か問い合わせと、相談の連絡が来ていたんだから。あまり皆を不安にさせるような行動は謹んでね」
澪が心配してくれたのはわかるが、母さんと澪姉が学校に連絡していたとは知らなかった。
肉親ではあるが、二人から敬遠されていると思っていたからな。
なんだか少し嬉しい。
生徒指導室から教室に戻った俺は、澪の元へ向かい、深々と頭を下げた。
「秘密にするつもりはなかったんだ。ただ……言いにくくて」
「ううん……私も感情的になってごめんなさい。もっと空を信じないとダメね」
澪はにっこりと微笑んで、俺のことを許してくれた。
しかし、周囲に集まった女子達が不満そうな表情をする。
「すっごく可愛い澪が、あんたみたいなデブを構ってくれてるんだからありがたいと思いなさい」
「そうよ。幼馴染だからって甘え過ぎよ。澪もこんな陰キャを相手にしなくていいのに」
「そうそう、女子を裏切るような男子は、そもそも生きてる価値なんてないんだからね」
女子達の気圧され、クラスの男子達の表情がドン引きしている。
陰キャでデブは認めるが、えらい言われようだな。
まあ、クラスの女子達と仲良くするつもりもないから、どれだけ悪く言われてもいいけどさ。
すると女子達の体を押しのけて、悠斗が現れた。
「まあまあ、皆で空を責めるのはそれぐらいにしてよ。遠くから見ていると、女子が集まって空を虐めているように見えるよ。他のクラスに変な噂が広まるのもイヤでしょ」
「そうね。さすが悠斗、私達のことを庇ってくれるのね。悠斗に免じて許してあげる。今後も澪を泣かせたら容赦しないんだから」
「……」
やはり男は顔なのか……
イケメンでなければ平穏な学園生活を過ごすのも許されないのか……
結果的に悠斗に助けてもらったが、釈然としない。
女子達が解散しようとした時、急に澪が席から立ち上がった。
ポケットからスマホを取り出し、周囲に画面を見せる。
「私の大切な宝物だけど皆に見せるわ。これは空が小学校二年生の時の写真。すっごく可愛かったんだから」
「ちょっと待て、澪、どうして俺の小さい頃の写真を持ち歩いてるんだよ」
「だって私のスマホの待ち受け画面だもん」
澪とは幼稚園の頃からの幼馴染だ。
だから彼女と一緒に写った写真も多い。
しかし、まさかスマホに俺の写真を保管していたとは思わなかった。
女子のスマホなんて、マジマジと観察したことなんてないからな。
硬直している俺の周りで、澪が女子達にスマホの画面を見せる。
「ホントにこれ、デブソラなの? めちゃ可愛いよね。天使みたい」
「キッズモデルにスカウトされてもおかしくないレベルね」
「この頃が可愛さMAXだったのね。成長しなければ良かったのに」
「そうよね。未来がこんなデブになるなんて、思ってなかったでしょうね」
写真を見終えた女子達は次々に俺に視線を向け、残念そうな表情をして顔を逸らした。
小さい頃の姿を褒められているのに、全く嬉しくない。
そんな中、女子の一人が首を傾げる。
「目元が生徒会副会長に似ているような? 副会長の苗字って橘よね?」
「そうね、副会長って美人よね。空も痩せたら、副会長みたいなイケメンになるのかな……ハハハハハ」
「子供の時の方が似てるんだな。やっぱり姉弟だよな」
澪が必死に話を逸らしているのに、横からスマホを覗き込んだ悠斗がポロリと呟いた。
その言葉を聞いた女子達は、一瞬間を置いて、目を丸くして一斉に奇声をあげる。
「「「「「えー! ソラデブって凛先輩の弟なの!」」」」」
万事休す……
星城高校に入学する際、凛姉と姉弟であることを隠すように言われていたのに。
そのことは澪も口止めされていた。
それなのに……どうしてこうなった……
でも今回、俺は口を割っていない。
俺の写真を見せたのは澪だし、凛姉のことをバラしたのは悠斗だ。
しかし、この場を何と鎮めなければ。
俺は姿勢を正して、頭を深々と下げた。
「どうか凛姉と姉弟ということは、ここだけの話に留めてほしい。副会長の弟が、こんな肥満だと知られたら、凛姉の学校生活を壊してしまう。頼むから、黙っていてほしい」
「私からもお願いします。凛ちゃんとの約束を破ったのは私なのに、このままだと空が凛ちゃんに怒られちゃうの。だから皆、知らなかったことにして」
「口を滑らせたのは僕だ。非があるのも、凛先輩に怒られるのも僕であるはずだ。全ての責任は僕が負うよ」
俺の隣に立ち、澪も深々と頭を垂れる。
すると悠斗が俺達二人に謝罪してきた。
俺達三人の様子を見て、女子達がめいめいに黙っていると約束してくれた。
次の授業のチャイムが鳴り、それぞれの席に戻っていく。
俺の隣を通り過ぎる瞬間、悠斗が小さく呟いた。
「凛先輩のような美少女なら、キツク怒られるのもゾクゾクするよな。それはそれで先輩とお近づきになれてラッキーだったのにな……」
悠斗め、凛姉のことを漏らしたのは確信犯だったのか。
激怒した時の凛姉の恐ろしさを知らないから、そんなことが言えるのだ。
しかし、悠斗が凛姉に近づくのは、妙に気に入らないな。
それから三日後、学校中に噂が広まり、澪は庇ってくれたが、俺は凛姉の壮絶な扱きを受けることになった。




