表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/15

6話 悠斗の余計な一言!

凪咲さんと遭った翌週の月曜日の朝、俺は自転車に乗り、学校へと向かった。

昨日も一人で、ストレッチやマラソンをしていたので、筋肉痛で体が痛い。

凪咲さんのレオタード姿を思い出して、ニヤついていたわけではないのだ。


教室に入り、いつものように机に突っ伏していると、声をかけられた。


「空、話を聞いてくれ。土曜も日曜も大変だったんだぜ」

「ん?」


顔を上げると、爽やかイケメンが、前の席の椅子に座って、俺を覗いていた。

彼の名前は、池上悠斗いけがみゆうと

この高校に入学した当初から俺に声をかけてきた変わり者だ。


「また自慢話か? 女子の話なら他の男子とやってくれ」

「他の男子に話したら妬まれるだろ。その点、空は女子に興味がないからな」

「それは違うぞ。女子達はデブをキモがるから、最初から期待もしていないし、諦めているだけだ」

「その分別、潔さは嫌いじゃないよ。でも、澪っちなら両想いになれそうじゃん。告白すれば上手くいくかもよ」

「何回も言うが、幼馴染だからって甘えるのは筋違いだ。澪に迷惑をかける気はない」

「あーあ、澪ちゃんは付き合ってもOKって雰囲気を出してるのにな。デブが直ったら、その鈍感も直るのかな」

「ほっとけ」


俺の投げやりな言葉に悠斗はケラケラと笑う。


イケメンで、頭もそこそこ良く、運動神経抜群。

誰とでもすぐに打ち解けるコミュ力、フットワークの軽さと、行動力は同年代の男子と比べて群を抜いている。

軽率な面がなければ、女子としては最良物件だろう。

どうしてそんなイケメンが、事あるごとに俺に声をかけてくるのかが不思議だ。


悠斗は以前に澪を遊びに誘い、冷たく断られたそうだ。

澪曰く、陽キャすぎてイヤらしい。


休日にどんな女子達と遊んでいたのか、女子達の機嫌を損ねないようにどれだけ頑張ったか、目の前でペラペラと悠斗は語っている。

適当に相槌をして聞き流していると、急に悠斗の表情が真面目になった。


「あのさ、土曜日の午前中。白いドレスを着た超絶美人と、自転車を押しながら歩いてなかったか?」

「そんなわけないだろ。俺に美人の知り合いなんていないぞ」

「でもその女性は、凛先輩でも澪っちでもなかったんだよな」

「どうして凛姉のことを悠斗が知ってるんだよ」

「だって橘って苗字が同じでしょ。それに目元が凛先輩と空って似てるから、すぐに姉弟とわかったさ」

「頼むから、教室では凛姉のことは秘密にしてくれ。噂が広まると怒られるんだよ」

「じゃあ、口止め料だ。あの美人は誰なんだ」

「それは……」


言い淀んでいると、後から肩をギュッと握られた。

慌てて後ろを振り向くと、暗い表情をした澪が立っている。


「いつから……」

「そんなことはいいから、土曜日に空と一緒に歩いていた女性の話を聞かせて」


悠斗との話の後半をほとんど聞かれているのか。

凪咲さんとは、痴漢された女性と、痴漢に間違われた男性という関係で、後ろ暗いことは一切ない。

しかし、俺の脳内には土曜日の出来事、特に彼女のレオタード姿が焼き付いているわけで。

実に話しづらい。


じっと黙っていると、俺の耳元に澪が顔を寄せてきた。


「早く話さないと、凛ちゃんに相談しようかな」

「いや、それだけは……」

「それなら早く吐け」


そんなドスの効いた呟き、JK美少女が発してはいけません。

圧が凄まじいから勘弁してください。


「素直に言うから、凛姉には内緒にしてくれ」

「うん、空のこと信じてる」


澪はニコリと笑うが、目の奥が笑ってない。

俺は諦めて大きく息を吐く。


「土曜日にマラソンをしていたら、偶然会ったんだよ」

「誰と?」

「俺を痴漢と間違えた女性……俺の家に謝罪に来る途中みたいで」

「それで空はどうしたの? 悠斗君、二人はどんな様子だった?」

「仲良さそうに歩いてたぞ。めちゃ美人だったからな」

「要らん情報を言うな」

「ふーん、美人だから許したんだ! 空の裏切り者!」

「そうじゃない! 落ち着け! どこへ行くんだ! 待て、待ってくれ!」


瞳を潤ませ走り出した澪の腕を掴もうとすると間に合わない。

俺の止める言葉も聞かず、教室の後ろのドアから去っていってしまった。


そんな俺達二人の様子を見て、悠斗はニヤニヤと笑みを歪める。


「ただの幼馴染があんなに怒るわけないだろ。もう付き合ってるのと同じじゃん」

「俺と澪はそんな関係じゃない。話を複雑にしないでくれ」

「それよりも澪、どこへ行ったんだろうな」


呑気に悠斗は言うが、俺としては気が気ではない。

凛姉は澪のことを実の妹のように可愛がっている。

そのことも俺が澪に頭の上がらない一因なのだ。

もし、澪を泣かせたと凛姉に知られたら、あの家では生きていけない。

いっそ、家出の計画でもしようかな。


半ば投げやりになっている俺に、悠斗は陽気に話しかける。


「女子の近くにいるってことは、常に女子との騒動が絶えないってことだよな。そのうち、空も女子との付き合いが楽しくなるって。こんなのは慣れだからさ」

「そんな揉め事なんて苦しいだけで慣れたくないわ」


悠斗との会話にウンザリしていると、HRのチャイムが鳴った。

教室のドアを開けて、結衣ちゃんが澪と一緒に、室内に入ってきた。


澪は黙ったまま自席に座り、演壇に立つ結衣ちゃんがジロリと俺を睨む。


「朝から女子を悲しませた、不届きな男子がいるようですね。橘君、HRが終わったら生徒指導室まで来るように」


結衣ちゃんの言葉に反応して、クラスの生徒達が一斉に俺に視線を向けてきた。

特に女子達の蔑むような視線が痛い。


凛姉に告げ口するのは止めてくれたみたいだけど、結衣ちゃんに相談するのも勘弁してください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ