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3話 偶然の再会!

謹慎開けのお祝い会が催された翌日、土曜というのに朝から凛姉に起こされた。


「冤罪だったからよかったけど、それで全てが許されるわけではないんだからね」

「はぁ、警察にも身の潔白を認めてもらったんだから、何の罪も犯してないぞ」

「あんたが疑われるような行動をしているから、私や母さんまで心配することになったんでしょ。その責任を取ってよ」


凛姉や母さんに迷惑をかけたことは申し訳ないが、冤罪なのだから、なかったことにしてほしい。

若干の理不尽を感じながら、俺はベッドから体を起こした。


「それで何をすればいいんだ?」

「マラソン、走りに行きなさいよ」

「なぜ朝から運動を?」

「だって、デブだから不気味がられて疑われたんでしょ。体重を落として、普通の体形になったら、少しは怪しまれないわよ」


また始まった。


凛姉は年中、事あるごとに痩せろと言ってくる。

夏になると汗臭い、一緒に街を行けば隣を歩くな。

とにかくデブに厳しい姉である。


小さい頃は、要領の悪かった俺を常に庇ってくれる優しいお姉ちゃんだったのにな。


橘凛たちばなりんこと、凛姉は一つ年上の高校二年生。

俺と同じ私立星城高校に通っている。


家では粗野な一面を見せる凛姉だが、生徒会副会長を務めるほどの優等生である。


我が姉ながら、驚くほどの努力家で、学年でもトップクラスの成績を誇っているらしい。

運動神経も良く、品行方正、正統派美少女として、学生達の憧れの的になっている。


家ではTシャツ、ホットパンツという、露出度の高いけしからん姿で、ウロウロしていることを学校で暴露してやろうか。


ベッドから立ち上がり、素早く着ていたTシャツを脱ぎ捨てる。

すると凛姉は慌ててドアを閉めて退室した。


「私の目の前で脱がないでよ! ぷよぷよした体を見せないで!」

「凛姉がマラソンに行けって言ったんだろ」

「うっさい!」


廊下からバタンとドアが閉まる音が聞こえる。

どうやら凛姉は自分の部屋へ戻ったようだ。


俺は下を向いて、両手で腹の贅肉を引っ張ってみる。


人はエネルギーでできているか。

それなら、この肉も余分に蓄えたエネルギーなんだよな。

つまり結衣ちゃんの説によると、俺の使いこなせていないエネルギーが肥満となって体に溜まっているそうだ。

そのエネルギーを前向きに解放してあげることで、俺の人生は好転するらしい。


家にいても、スマホで動画を見てゲームをして、適当に勉強して休むだけ。

休日といっても、普段のルーティンを繰り返し。

確かに不毛な毎日を暮らしていれば、エネルギーが体に淀んでいてもおかしくない。


凛姉もうるさいし、昨日、澪も頑張ってほしそうだから、少しはやってみるか。

決して結衣ちゃんのアレな発言に感化されているわけではない。


黒のジャージに着替えた俺は部屋から出て階段を降り、玄関から出発する。

家から五百メートルほどは順調だった。

一キロを過ぎたぐらいから体が重い。

二キロ手前になると、息苦しくて足が動かなくなってきた。


小学校の頃にもマラソンはあったが、こんなに真剣に走ったことはなかった。

体育の授業では、運動神経の良い生徒達が中心に行われ、デブは自然と除外扱いされていたからな。


「はぁー、はぁー、おぇー」


体中が燃えるように熱い。

心臓が早鐘のように激しく鼓動を打つ。

深く呼吸をしても、息苦しさは治まらない。


このままでは……ちょっとマズイかも……


歩道に両手をついて喘いでいると、すぐ近くに自転車が止まる音がした。

そして、俺の目の前にペットボトルが差し出される。


「大丈夫ですか? 水を飲んで少し休みましょう。急な激しい運動は心臓にも体にも負担が大きいですから」

「はぁ、はぁ……ありがとうございます」


ペットボトルを受け取り、蓋を開けることもできないまま喘いでいると、背中を誰かが摩ってくれる。

声の主を見ようと振りむくと、白いドレス姿の女性が、心配そうな表情を浮かべていた。


「はぁ、はぁ 、どうしてここに?」

「私が痴漢と間違ったことで、橘君に迷惑をかけてしまったので、警察からご住所を聞いて、お詫びに行ったんですけど、ちょうど家を出て橘君が走り始めたので……そのまま後を追いかけてきました。この度は私のことで、橘君を冤罪にしてしまい、申し訳ありません」

「わかった……謝罪は受け入れるから、息が落ち着くまで……ちょっと待って」

「すみません。ペットボトルの蓋を開けますね」


俺の手からペットボトルを取り上げ、彼女は素早く蓋を開けてくれた。

差し出されたペットボトルを両手で受け取り、通路に座り込んで一気に水を流し込む。

すると火照っていた喉が冷やされ、朦朧としていた意識がハッキリとしてくる。

鼓動も少し落ち着いてきた。


確か……彼女の名前は葉山凪咲はやまなぎささん、某大学に通う一年生。

俺と一緒の電車に乗っていたのだから、彼女の家が近くにあっても不思議ではないか。


水分を取ったことで、気持ちが冷静になってきた。


「水、ありがとうございます。今、財布を持っていないので、後でお支払いします」

「お金なんて要りません。私の方が迷惑をかけていますから」

「痴漢の件なら気にしないでください。警察からも、いきなり体を触られて気が動転して誤解をしてしまったと聞いています。被害届も取り下げてもらって冤罪になりましたから、俺は気にしていません」

「そう言っていただいて心が救われます。でも、お詫びをキチンとしたいんです。私の住んでいる家も近いですし、橘君の体の調子も悪いようですから休憩していきませんか」


凪咲さんは本心から謝罪しているのだろう。

そんな彼女の提案を無下に扱うわけにもいかない。

息は整ってきたが、まだ体は怠いし、少しだけ休ませてもらってもいいのかな。


「ではお言葉に甘えて」

「ありがとうございます」


凪咲さんは嬉しそうに微笑み、立ち上がると停めている自転車の元へ。

少し遅れて、俺も立ち上がり、両手で軽く叩いて服の汚れを落とす。


「自転車を貸してください。俺が押していきますから」

「優しいんですね」

「さっき、ペットボトルも貰って、助けてもらいましたから」


俺は凪咲さんの代わりに自転車を押していくと、彼女は嬉しそうに隣を歩く。

少し距離感が近いので、自分の汗の匂いが気になる。


こうして凪咲さんの案内に従い、俺は彼女の家にお邪魔することになった。

ブックマ、評価をいただければ、筆者は激しく喜びます。

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