15話 澪の追求②
HRのチャイムが鳴り、澪の追求は途中で終わった。
しかし、午前の授業が終わり、昼休憩になり、澪に捕まっている。
なぜか、その場に悠斗もいて、二人で厳しい眼差しを向けてくる。
「つまり葉山凪咲さんという女子大生は、空を冤罪者扱いしたことで、責任を感じているのね」
「でも、痴漢に間違われたのは、俺がデブだったことも原因があるだろ」
「それは関係ないと思うけど、それで空は葉山さんにダイエットに協力してほしいとお願いして、二人は連絡を取り合うようになったってことね」
「今日も朝から沙耶さんと一緒にマラソンをしてきたんて羨ましい」
おい悠斗、要らん発言をするな。
せっかく澪が落ち着きかけていたのに、話の流れが妙な方向になるだろ。
「沙耶さんって誰?」
「えっと……凪咲さんの付き人で、ダイエットに協力してくれてるんだ」
「ふーん、その沙耶さんって女性は美人なの?」
「めちゃ大人な美女だよ。スタイルも抜群でマジ女神!」
うぅ……悠斗の心の声が駄々洩れなんだが。
今すぐ口を塞いで、永久に黙らせたい。
両拳を握りしめ、澪は瞳を潤ませる。
「沙耶さんって誰?」
「凪咲さんと一緒に暮らしている彼女の付き人のことだよ」
「どうして付き人さんのことを悠斗が知ってるの?」
「凪咲さんの代理として、俺にお詫びの品を渡してくれたんだ」
「お肉?」
「そう……その場に悠斗もいたから、悠斗の分の肉も買ってくれたんだ」
「じゃあ……空と沙耶さんは何もないの?」
「凪咲さんも沙耶さんもダイエットに協力してくれているだけだ。疚しいことなんて何もないよ」
一瞬、二人のレオタード姿が浮かんだが、俺は必死にそのイメージを頭から追い出した。
あれはフィットネスで、ヨガで……健全な健康法のはずだ……
話を聞き終わった澪はうんうんと頷く。
「ということは、凪咲さんにも沙耶さんにも、空がお世話になっているってことね。それじゃあ、私もお礼を言わないと。空、二人の連絡先を知ってるよね。すぐに連絡して」
「沙耶さんと連絡が取れるのか。それなら僕も会いたい。お肉を貰ったお礼を言いたいし」
「悠斗は黙ってろ。どうして澪が二人にお礼を言うんだよ。協力してもらっているのは俺だろ」
「だって幼馴染がお世話になってるんだから当然でしょ」
「いやいや、おかしいから」
俺は慌てて腕を前にして両手を大きく振る。
澪は小さい頃から母さんや凛姉に可愛がられていた。
そのことが影響したのか、俺のことを家族のように扱うんだよな。
幼馴染だからある程度は仕方ないけど……ちょっと度が過ぎるというか。
澪をジッと俺を見つめて、目に涙を溜めだす。
「酷いよ。私を遠ざけようとするなんて……グスッグスッ」
「泣くなって。クラスの皆に誤解されるだろ」
「だって……空が私を邪魔もの扱いするんだもん……」
「そうだよね。今のは空が悪いよね。女の子の善意を無にするなんて悪でしかないよ」
悠斗、いったいお前はどっちの味方なんだ。
沙耶さんに連絡と取らせたいだけだろ。
しかし、このまま澪が泣き続けたら、クラスの皆に気づかれる。
ということは……虐めたと思われて……最悪は吊し上げ……これはマズイ。
凪咲さんの連絡番号とLINEIDは沙耶さんから教えてもらっている。
それについては、凪咲さんから、俺に伝えるように指示があったそうだ。
もちろん、沙耶さんの連絡先も知っている。
しかし、できれば二人と澪を会わせたくない。
嫌な予感しかしないんだよな。
でも、このまま澪の願いをスルーすれば、教室での俺の立場が積む。
悩んだ末に、俺は項垂れて、大きく息を吐いた。
「わかった。凪咲さん達に連絡してみるよ」
「私がお礼を言いたいって、ハッキリとコメントで書いて」
「……わかった。そうする」
「じゃあ、僕もお礼を言いたいって伝えてよ」
「わかったから、そろそろ弁当を食べさせてくれ」
休憩になってすぐに澪が来たから、机の上に弁当が置かれたままになっている。
久しぶりに家に帰ってきた母さんの手作り弁当を残すわけにはいかないからな。
澪も悠斗も、自分達の弁当を食べ始めた。
悠斗の弁当を覗くと、卵焼き、タコさんウィンナー、唐揚げなど、色々なおかずが入っている。
「美味しそうだな」
「そうか。褒められると嬉しいな」
「悠斗が作ったのか?」
「両親は共働きだから、家でもよく料理をしているし、毎朝、小春と自分の弁当を作るのは僕の担当だからね」
イケメンで、料理もできるなんて、神様はどれだけの才能を悠斗に与えるのか。
俺には平凡な才能しかないのに……しかも肥満……それは自分が原因だけど、ちょっと理不尽を感じる。
弁当を食べながら、俺はスマホの画面をタップし、LINEで沙耶さんにコメントを送る。
凪咲さんに連絡しようと思ったが、沙耶さんを経由しないと怒られそうだからな。
『今朝はありがとうございます。お肉を貰った件で、幼馴染がお礼をいいたいと言っています』
すると即時にチャットが返ってきた。
『小川澪様のことですね。では授業終了を見計らい、お迎えに参ります』
どうして沙耶さんが澪のことを知ってるんだ?
そういえば凪咲さんは葉山グループのお嬢さん……つまり俺の家族や友人関係まで、全ての情報は既に調べられているってこと?
国内有数の企業グループの優秀さを知り、俺は青ざめて身震いするのだった。
絶対に敵に回してはいけない……澪、凪咲さん達と仲良くしてくれよ。




