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14話 澪の追求!

月曜日、時間は朝の五時過ぎ。

目覚ましのアラームに起こされ、ノロノロと目覚めてジャージに着替える。

暗がりの階段を降りて、玄関から外に出ると、既にランニングウェアに身を包んだ沙耶さんが立っていた。


「おはようございます」

「遅れてすみません」

「五分の遅刻ですが及第点です。ではランニングに行きましょう」


どうして彼女と早朝から走っているのか。

それは俺のダイエットを完遂するためである。


昨日、凪咲さんの家から帰る道すがら、沙耶さんから提案されたのだ。

彼女曰く、凪咲さんの望みを叶えるため、俺には必ず減量してもらいたいという。


俺一人では、マラソンを日課にしたとしても、長続きするはずもなく、それならと沙耶さんの提案に乗ることにした。

運動は辛いが、美人の沙耶さんと一緒なら、俺も楽しいからな。

決して如何わしい気持ちではない。


それから二時間、マラソンと軽い柔軟体操を終え、沙耶さんは疲れも見せず、マンションに帰っていった。

朝から慣れない運動をした俺は、肉体がボロボロになったのは言うまでもない。


家に戻った俺は、軽く朝食を食べて、自転車に乗って学校へ向かう。

駐輪場に自転車を停車していると、声をかけられた。

顔を上げると悠斗である。


「あれ? 空って、澪ちゃんと同じで電車通学だったよな?」

「謹慎開けからは自転車にしたんだ」

「そういうことか」


通学電車で、また痴漢と間違えられ、駅員に拘束されるのはイヤだからな。

校舎に入り、二人並んで歩いていると、悠斗がチラリと俺を見る。


「沙耶さんのことを教えてくれないか?」

「凪咲さんと一緒に暮らしている、彼女の付き人。あまり詳しく知らないんだ」

「二人とはよく会うのか?」

「凪咲さんとは週に一度ぐらいかな……沙耶さんとは今日も会ったけど……」


ポツリと漏らした俺の言葉を聞いて、悠斗がジロリと表情を変える。


「朝から沙耶さんと会っていた……詳しく経緯を聞かせてもらいたいな」

「……たまたま偶然に……ハハハっ」

「目を逸らすな……全てを吐け」


階段の踊り場に立ち止まり、悠斗が俺を追い込んでくる。

その圧が怖くて、俺は正直に説明することにした。


「凪咲さん達には俺のダイエットを手伝ってもらってるんだ。それで沙耶さんが朝の運動に付き合ってくれてるだけだよ」

「それって毎朝なのか?」

「今日から始めたばかりだし……ハッキリと取り決めたわけじゃないけど……そうじゃないかな」

「わかった。とりあえず教室に行くぞ。後で詳しく話を聞かせてもらうからな」


悠斗が沙耶さんのことを気にしているのに、今日の朝のことを漏らしたのは不味かったな。

でも、マラソンや運動に付き合ってもらっているだけだから問題ないよな。


教室に入り、自分の席に座って、鞄の中から教材を取り出していると、澪が声をかけてきた。


「空、朝からマラソンに行ってたんだってね」

「あぁ、どうだけど……どうして澪が知ってるんだ?」

「凛ちゃんからLINEがあって、教えてくれたの」

「へぇー、そうなんだ」


俺と澪とは幼馴染で、凛姉は彼女のことを妹のように可愛がっている。

小さい頃、凛姉俺と澪が交代すればいいと、いつも言っていた。


二人がLINEでやり取りしているのは知っていたけど、凛姉、俺の行動を告げ口するの早すぎる。

俺の個人情報が筒抜けじゃないか。


ニコニコと笑って、澪がスマホの画面を見せてきた。

そこに映し出されているのは、LINEでの二人の会話。


『澪ちゃん、気を付けたほうがいいよ』


「凛ちゃんから、こんなコメント来てるんだけど? 空、私に隠し事してないよね?」

「別に後ろ暗いことは何もないよ」

「ふーん、凛ちゃんに教えてもらおうかなー」


澪は目を細め、俺に疑いの眼差しを向けてくる。


澪姉に連絡されれば、昨日の肉のことを澪にバラすかもしれない。

それを問い詰められたら、沙耶さんとスーパーへ行ったことを説明することになるわけで。

そうなると芋づる式に、凪咲さんのことも……。


なんだか気まずくなって顔を横に向けると、席に座っていた悠斗と目が合った。

悠斗は俺達二人の様子を見て、何かを感じたのか、椅子から立ち上がり、こちらへと歩いてきた。


「澪ちゃん、不機嫌そうな顔して、空が何かしたの?」

「私に隠し事しているみたいなの」


澪は口早に凛姉からLINEがあったことを悠斗に説明した。

話を聞き終わった悠斗は、穏やかに微笑む。


「ああーそのことか。それなら僕が知ってるよ。空、最近、冤罪騒ぎを起こした女性とバッタリ会ったって言ってたでしょ。その人からお詫びがあったそうなんだ。それで凛先輩に、女性と会ったことがバレてね。たぶんだけど、凛先輩はその女性のことを言ってるんじゃないかな」

「どうして悠斗が知ってるの?」

「その女性からの謝罪の品がお肉だったんだよ。それで空が僕に家にもおすそ分けしてくれてね」

「悠斗と空って、そんなに仲良かったかな?」

「最近、一緒に遊ぶようになった感じかな。空がお肉を貰っている時、僕も一緒にいたからね」

「へえー、そうなんだ」


悠斗の言葉に澪はなんとなく納得しているようだ。


微妙に経緯を誤魔化しているが、全体的に嘘はいってない。

悠斗が話すと、疚しいことは一切ないように聞える。

さすがはイケメン、これで一安心かな。


澪は両腕を体の後に回しニッコリと笑む。


「この間、マラソンをしていたら、その女性とバッタリ会ったって言ってたよね。次にその女性からお肉を、空が貰って家に持ち帰った。どうやって女性と空は待ち合わせできたんだろうね。時間を合わせないとお肉を貰えないよね」

「え……いや……それは」

「つまり、女性と空は連絡を取れる関係にあるってことよね」


真剣な表情で、澪が間近に顔を寄せてくる。

その圧に引きつっていると、悠斗が静かに離れていく。


「空、ごめんな。僕では力不足だ。後は自力で頑張ってくれ」


悠斗、庇うなら最後まで庇えよ!

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