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11話 悠斗の一目惚れ!

凪咲さんの家に来て四時間ほど経った頃、俺へヨロヨロと彼女のマンションを後にした。

フィットネス、ヨガでは、凪咲さんと沙耶さんに挟まれ、理性を喪失しそうになること数回。

運動を終えて、皆で軽い食事をしたが、その頃には俺の意識の半分以上は真っ白に飛んでいた。


思い出そうとすると頭痛がする。

なんだか黒歴史になりそうなことがあったような……このまま記憶を封印しておこう。


「あのように上機嫌なお嬢様を久しぶりに見ました。空には感謝しかありません」


俺の隣を歩く沙耶さんも嬉しそうにしている。

空……運動していた時は橘様と言っていたのに、何があったんだ?

頭が痛い……心が拒否反応を……


一人で帰りたかったのだが、お客様を送迎するのは私の務めと沙耶さんが主張して、二人で歩いて家まで帰ることになったんだけど……ハッキリと思い出せない。


「橘君、君の家に行く前に寄りたいところがあるのだが、付き合ってもらえないでしょうか?」

「いいですけど……何か買うんですか?」

「このまま君の家まで行けば、君のご家族と体面することになる。先の痴漢騒ぎのことも、お嬢様の代理として謝罪しなければなりません。それなのに持参品の一つもなければお詫びにならないでしょう」

「そんな大げさな。もう済んだことですし、冤罪だったんですから気にしないでください」

「いえ、葉山グループとして体面があります。橘君のご厚意に甘える訳には参りません」


義理堅いというか、沙耶さんも頑なな面があるんだな。


小一時間ほど歩いていくと、最寄りのショッピングモールに着いた。

俺達二人はエスカレーターに乗って、三階の家具コーナーへ向かった。


「ここで何を買うんですか?」

「そうですね……直接の謝罪としては、私から小切手を手渡すとして、お詫びの品としては、家具がよろしいでしょうか……高級家具、ソファ、ダイニングテーブルとチェアのセット、それとキャビネットを幾つか。趣向を変えてシステムキッチンのセットも良さそうです。マッサージチェアも追加しましょう」


小切手を手渡し?

高級家具一式……沙耶さんは俺の家を魔改造するつもりか。

築十五年、親子三人が慎ましく住んでいる一般家屋に、そんな不釣り合いな品を送られても困る。


俺は慌てて腕を伸ばし、両手の平を激しく振る。


「そんな高価な品を貰えないですよ。一体、幾ら使うつもりですか」

「お嬢様からは小切手を束を預かっております。お嬢様のお小遣いの範疇であれば使っていいそうです」

「その範囲って?」

「約、三億円ほどと、お嬢様は申されていました」


平然と言い放つ沙耶さんの顔を見て、俺は口を大きく開け、呆気に取られた。

お小遣いが億越え……一般庶民では想像もつかないレベルだぞ……


そこでふと疑問が頭に過る。


「質問ですが、凪咲さんはどうしてこの街に住んでるんですか?」

「それはお嬢様の通う大学が、この街の近郊にあるからです。小さい頃から、お嬢様が電車での通学に興味を持たれておりました。それでお父上である泰三様も一人暮らしを体験することは良いことと申され、私と二人で暮らしております」


通学電車に……朝なんて満員で疲れるだけなのに……

普通の学生のような通学に憧れていたのかもしれない。

それなのに痴漢に遭って……怖かっただろうな。


ハッと気づき、沙耶さんに声をかける。


「提案は嬉しいですが、小切手も高級家具も受け取れません。俺は痴漢に間違われただけで、既に冤罪になっています。学校でも今まで通りに過ごしています。だから、高額な厳禁も、高価な品々を貰うことはできません」

「……橘君は良識のある殿方なのですね。お嬢様が気にかけるのも理解できます。では庶民の家庭で喜ばれる品を持参いたしましょう」


沙耶さんはにっこりと微笑み、頷いてくれた。

あれ? もしかすると試されてた?

彼女は凪咲さんの侍女だから、俺のことを警戒していても当然だよな。


俺達二人は相談して、高級和牛を買うことにした。

肉ならすき焼き、ステーキで、母さんも凛姉も喜ぶぞ。


エスカレーターで一階に降りて、食料品コーナーを歩いていると、近くで声がする。


「あれ、空? スーパーで会うなんて初めてだな」

「悠斗、どうしてお前がここにいるんだよ」

「妹に一緒に夕食の食材を買いに行こうと誘われてな」


悠斗は隣を向き、優しい微笑みを浮かべる。

視線を下に向けると、彼の足に、可愛い女の子がしがみついている。


俺は膝を折り、少女と同じ目線に合わせた。


「こんにちわ。お母さんのお手伝いかな。とっても偉いね」

「……」


声をかけると、黙ったまた悠斗の後に隠れ、少女はジッと俺を見つめる。

すると悠斗が笑いながら、少女の頭をなでる。


「小春、このおデブは僕の同級生だ。体は大きいけど、優しいお兄ちゃんだよ」

「……イヤ……デブ、怖い!」


小春ちゃんはサッと悠斗の後に回り、顔を隠してしまった。

小さい女の子の一言って……真実なだけにツライ。


俺が落ち込んでいると、沙耶さんが微笑みながら、小春ちゃんに近づく。

そして体を屈め、声をかける。


「小春ちゃん、こんにちわ。小春ちゃん、お菓子は好きかな? お姉さんと一緒にお菓子を選びに行こうか? 好きなお菓子を選んでいいよ。全部、お姉さんが買ってあげるから」

「わーい! お姉ちゃんと一緒にお菓子を選びにいく」


小春ちゃんは両手を広げ、沙耶さんの胸に飛び込んだ。

そして二人で手を繋ぎ、俺と悠斗を見る。


「小春ちゃんのお菓子を買ってきますね。橘君と友人の方は、お肉を選んでおいてください」


沙耶さんはそう言い残して、小春ちゃんと去っていた。

二人の後ろ姿を見送り、振り向いた悠斗は、興奮した様子で俺の腕を掴む。


「空! あの美人は誰なんだ! 俺に紹介してくれ!」


名前を教えるのは簡単だが、何かややこしいことになってきたな。


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