表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/15

10話 レオタードが二人に増えた!

凪咲さんのマンションに到着した時には、俺も息も絶え絶えになっていた。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

「ここ休んでいる暇はありません。お嬢様がお待ちになっています」

「はぁ、はぁ、それはわかってるんですけど……息が……」

「明日は酸素ボンベを用意いたしましょう」

「明日?」

「はい。空さんには一刻も早く、ダイエットに成功してもらう必要があります。休日のみの運動では効率よく減量できません。明日からも毎日、私がお付き合いいたします」


毎日……

こんなに走ったのは小学校以来なのに……

でも、沙耶さんが付き合ってくれるなら、少しは頑張ってみようかな。


沙耶さんは少し目元はキツイが、ポニーテールの似合う美女である。

凪咲さんと遜色ない程にスタイルも抜群だ。

今も目の前に、タンクトップに包まれた実った果実が……


俺が一点を見つめていると、沙耶さんが胸を突き出す。


「私の経験人数は五人です。アブノーマルな趣向はしたことがありません」

「そんなことは聞いてません!」

「くれぐれも、お嬢様に欲情する前に私を」

「野獣みたいに言わないでください」


思わず大声をあげてしまった。

凪咲さんを守るためとはいえ、自分を売り込むのは止めていただきたい。

黙っていればクールな美人なのに、どこか残念なんだよな。


一階のエントランスのソファで休憩した俺は気を取り直して、沙耶さんと一緒に最上階へと向かった。

ドアを解錠し、沙耶さんが玄関の中へ入っていく。


「ただいま戻りました。丁度、空様とお会いしましたので、案内して参りました」

「え? 橘君が来てくれたんですか?」

「はい。お嬢様とフィットネスをすることを楽しみにしていたそうです」

「すごく嬉しいわ。お早く上がってもらって」


廊下に出てきた凪咲さんの明るい声が聞こえる。

あんなに嬉しそうにしてくれるなんて……一週間も待っていてくれたのかな。

沙耶さんは後を振り向き、小さく囁く。


「では入りましょう」

「お邪魔します」


沙耶さんの後に続いて玄関に入ると、凪咲さんが走り寄ってくる。

すろと沙耶さんが俺の前に体を滑らせた。


「お嬢様、素敵なレディが焦って、慎みを忘れてはいけません」

「そ、そうですね……少しはしたなかったですね」

「空様は逃げることがありません。時間はゆっくりございます」


沙耶さん、その言い方……ちょっと怖いんですけど。


チラリと凪咲さんを見ると既にレオタード姿に。

胸が強調され……やっぱり大きい。

いや、見ちゃダメだ、平常心、平常心。


大きく息を吐いて深呼吸していると、後に回った沙耶さんが、一瞬、俺の尻を抓った。

そして横を通り過ぎて「私は着替えて参ります」と言って廊下を去っていった。


トコトコと前に来た凪咲さんが満面の笑みを浮かべる。


「自分の家だと思って気楽にしてください。では行きましょう」


凪咲さんの後を歩いていくと、先日も来たフローリングの部屋に案内された。

くるりと身を翻し、凪咲さんが部屋の一角を指さす。

視線を向けると、そこにはコンポが置かれていた。


「先日、何か足りないと思っていたんですけど、音楽があった方が運動も捗ると思い購入しました」

「俺のために、わざわざすみません」

「いえいえ橘君を一生、サポートするのが私の務めですから。気になさらないでください」


一生という言葉が非常に気になるんですけど……妙に不安になってきたな。


凪咲さんは楽しそうにコンポに近づき、指で操作する。

するとスピーカーから程良い音量が流れてきた。

フィットネスに合うテンポのリズムの良い曲ではなく、気を抜くと眠ってしまいそうな曲だな。


「今回はヒーリング曲を選んでみました。心の癒しにはピッタリですよね」

「そ……そうですね」


少しチョイスが違うように思うけど、気にせずにいこう。


「私の後に続いて、先日と同じように体を動かしていきましょう」

「よろしくお願いします」


凪咲さんは対面に立ち、色々なポーズを決めて運動を披露してくれる。

レオタード姿と胸の刺激が強い。


俺はなるべく正視しないように顔を斜めに向け、彼女と同じ運動をするように務めた。

三十分ほど続けていると、凪咲さんは体の動きを止めて、不満そうに頬を膨らませる。


「橘君、視線を他に向けていては練習になりません。私の体の動きをしっかりと見てください」

「真っ直ぐ見るのは危険というか……」

「やっぱり私を避けておられるのですか? 私に至らぬところがあれば改善します」


凪咲さんは近寄ってきて、俺の胸に寄せ、上目遣いで瞳を潤ませた。

こういう場合、どうやって対処していいのかわからない。

彼女の体から、仄かに甘い香りが……


戸惑ったまま体を硬直させていると、廊下からタッタッタと足音が聞こえてくる。

そしてドアが勢いよく開き、レオタードを着た沙耶さんが姿を現した。


「遅れて申し訳ありません。私も参加いたします。橘君のことはお任せください」

「橘君のことは私がお手伝いします。沙耶は退室しなさい」

「いえ、お嬢様をサポートするのは私の務めです。泰三様にも強く申しつかっておりますので、ここで引くことはできません」

「もう、せっかく良い雰囲気になりかけていたのに……」


凪咲さんの最後の呟きは、声が小さく、きちんと聞き取れなかった。


沙耶さん、別室から監視カメラで覗いていたんだろうな。

挙動不審になっている俺を見かねて、助けに入ってくれたのだろうけど。

沙耶さんまでレオタードを着てどうするんですか。

右を向いても、左を向いても美しい女性の薄着姿……。

これで妙な気持にならない思春期の男子はいませんよ。


俺は両手を振って大声を上げる。


「フィットネスは後でいいでしょう。汗もかきましたし、瞑想でもしましょう。精神統一もダイエットには重要ですからね」


さっさと座禅を組んで目を瞑る俺。

頭の中には二人のレオタード姿が……

煩悩退散、煩悩退散。

俺は一体、何の修行をしているのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ