1話 やっと謹慎が解け、学校へ
五月中旬、一週間の謹慎が解け、久しぶりに俺は暗い気持ちで、自転車で通学路を走っていく。
道路を行き交う学生達は、誰もかれもが楽しそうに見えた。
私立星城高校――ここが俺の通っている高校である。
俺は大きくため息を吐き、校門を潜り、駐輪場の端に自転車を置く。
どうしてこんなに憂鬱なのか……それは教室に着いてからの展開が頭によぎるから。
停学処分になる前、俺は電車通学をしていた。
いつものように満員の車内。
「……私、お尻を触られました!」
車内で女子大生が痴漢されたようだな……
電車の揺れに合わせ、ボーっと車窓を眺めていると、突然に手首を捕まれた。
え?
振り返った時には、気づくのが遅く、スーツ姿の大人達に囲まれていた。
そのまま駅に降りて、身柄を駅員に引き渡され、駅員室へ連行。
程なく警察官が現れ、事情聴取を受けることになった。
その後に警察官から、家族と俺の通う私立星城高校へ連絡することに。
そして学校から謹慎を言い渡され、俺は家で引きこもることになったのだ。
もちろん家では、母親は悲しみ、姉は呆れたような蔑む視線を向けてきた。
誤解とはいえ、情けない状況だった。
そして昨日、学校から警察で俺の冤罪は認められたと連絡があった。
被害者女性から、俺が犯人ではないと申し出あり、被害届も取り下げられたという。
詳しい経緯については聞いていないのでわからない。
晴れて、謹慎が解けたわけだが、既に俺の噂は学校中に広まっているだろうな。
階段を上って廊下を歩いていく。
通路にいる生徒達の視線に軽蔑の色を感じるのは妄想だろうか。
うぅ……家に帰りたい……
教室のドアを開けると、クラスメイト達が一瞬だけ俺を見て視線を逸らせた。
高校に入学して約一か月、顔見知りの生徒はいるが、普段から気安く話しかけてくる者は、ほぼいない。
机に座った俺を、チラチラと伺ってくる周囲の視線が気になる。。
机に顔をうつ伏せに寝た振りをしていると、女子の声が間近で聞こえる。
「空、元気だして。痴漢と間違われて、今回は大変だったね」
「……ああ……うん」
気だるく顔を上げると、心配そうな表情を浮かべている澪が立っていた。
彼女の名は小川澪、幼稚園からの俺の幼馴染だ。
一言で言えば、澪はクラスでも人気の美少女である。
小さな顔に、大きな瞳。
白い肌が際立つ優れた容姿でスタイル抜群。
誰にでも気軽に接し、性格も良い。
幼馴染ということで、陰キャである俺に頻繁に声をかけてくる。
そのことで、クラスの一部の男子達に俺は疎まれていたりする。
「昨日、体育館で学生集会があったの。そこで校長先生が、空のことを話してくれたんだ。警察の調査の結果、痴漢は冤罪だったって。それに各クラスの担任からも生徒達に説明しているから、空も気を落とさないでね。空は何も悪いことをしてないんだから、堂々としていればいいのよ」
「そうか……噂が消えればいいけどな」
「大丈夫よ。それに生徒の誰かが悪口を言っても、私は空の味方だからね」
「はは……ありがと」
鼻先三十センチほどまで顔を近づけ、澪がにっこりと笑う。
周囲にいる男子からの嫉妬の視線が痛すぎるから、顔を寄せないでほしい。
教室のスピーカーからチャイムが鳴り、澪は小さく手を振って、席へと戻っていった。
美少女が俺のような陰キャと気軽に会話することが、色々な問題に繋がることを少しは考えてもらいたい。
教室のドアが開き、クラス担任である、結衣ちゃんが室内に入ってきた。
通称、結衣ちゃん――市川結衣、二十三歳。
今年に星城高校に赴任した新米教師だ。
少し垂れ目で、色香の漂う美貌。
豊満な胸に、すらりと伸びた肢体。
スーツ姿が良く似合う美女である。
その大人な雰囲気に、年上お姉さんへの憧れを持つ男子生徒も多い。
演壇の前に立ち、結衣ちゃんが周囲を見回し、俺に視線を止める。
「橘君、学校に来てくれて嬉しいです。これからも皆と一緒に学校生活を楽しんでいきましょう、いつも大人しい橘君が冤罪だと信じていました。何か困ったことがあれば、私に相談してね。いつでも職員室で待っていますから」
「……ありがとうございます」
大人しいか……陰キャを庇う言い回しだよな。
単にクラスカーストの底辺だから、陽キャ達が絡んでこないだけですけど。
すると窓際の席にいた男子が声をあげる。
「先生、痴漢に間違われたのも、肥満体刑が原因してるに決まってるじゃん!、デブ空よりも、俺の相談に乗ってよ!」」
「そうそう。空のことなんて放っておいても大丈夫だよ! メンタルに脂肪がついてるからさ!」「」
教室のあっちこっちから男子達が騒ぎ始めた。
それにつられ、女子達もクスクスと小さく笑い始める。
そんな雰囲気の中、机を両手でバンッと叩き、澪が立ち上がった。
「冤罪だったんだから、皆で空を弄るのは止めてよ!」
「小川は黙ってろよ! そもそも痴漢に間違われたのも、空が肥満だからだろ!」
「ちょっと人よりも体が大きくて、ポッチャリしているだけよ!」
庇ってくれるのはありがたいが、澪、それは無理がある。
身長百七十五、体重は九十キロに近い。
そんな俺は自他共に認める立派な肥満体形なのだ。
男子達が言ってるように、あの被害者女性もたぶん体形で怪しいと思ったんだろうな……
久しぶりの現実恋愛の長編作品となります。
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