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第7話:秘密の共有と「菓子パン」の貧困地区支援 -1

挿絵(By みてみん)



食料不足の危機は、花子の「カップ麺」によって一時的に凌がれた。

広場に集まった人々は、温かいカップ麺を口にし、飢えをしのぐことができた。


しかし、それはあくまで一時的な対処に過ぎない。

根本的な解決にはなっていない。


商人ギルドは相変わらず食料を囲い込み、貧しい地区の人々は日々の食事にも困っていた。

王宮の周りでは、まだ活気が戻りきっていない。

市場の棚は依然として空っぽで、人々の顔には疲労と不安の影が色濃く残っていた。


特に、王都の裏手に広がる貧民街では、子供たちの痩せ細った体が目についた。

彼らの瞳には、飢えと諦めの色が深く刻まれており、花子の胸は締め付けられるばかりだった。


(このままじゃダメだ。一時しのぎじゃなくて、もっと根本的な解決策を見つけないと……!)


花子の心は、募る焦燥感でいっぱいだった。


花子が小部屋で今後どうすべきか悩んでいると、扉がノックされた。


開けると、そこに立っていたのは、例の魔術師、エルウィンだった。

彼の顔には、昨日からの探るような視線が、そのまま宿っている。

その瞳は、花子の能力の核心を見透かそうとしているかのようだ。


エルウィンの表情は穏やかだが、その存在感は、まるで部屋の空気を変えるかのように、花子に緊張を強いた。


「聖女フローラ様、少々お話がよろしいでしょうか?」


彼の目は、昨日からの疑惑を隠そうともしていなかった。

花子の背筋が凍る。


(ついに来たか……。やっぱり、あの能力のことに気づいたんだ……。どうしよう、ここで秘密がバレたら、私は異端として処刑されちゃうかも……!)


部屋に入ると、エルウィンは単刀直入に切り出した。


彼の視線は、真っ直ぐに花子を捉えている。

その声には、興奮と、抑えきれないほどの知的好奇心が混じっていた。

まるで、長年追い求めていた謎の答えが、今、目の前にあるとでも言うかのようだ。


「聖女フローラ様。単刀直入に伺います。あなた様が具現化しているもの、あれは、この世界の魔法とは異なる。私の知る限り、この世界のどの魔術師も、あのような形で物質を生成することはできません。

それは、まるで……無から有を生み出しているかのようだ。

一体、あれは、どこから来ているのですか? その原理を、どうか私にお教え願いたい。これは、私の魔術師としての探求心、いや、生命の根源に関わる問いなのです!」


鋭い質問に、花子は言葉に詰まった。


(どうする? 嘘をつく? でも、この人は真実を見抜く目を持っている……。それに、彼の目は、私を裁こうとしているわけじゃない。ただ、真理を知りたいだけなんだ……)


花子の心は激しく揺れ動いた。


「……エルウィン様は、私のことを、信じてくださいますか?」


花子は震える声で尋ねた。


エルウィンは、真剣な眼差しで花子を見つめ返した。


「私は、真理を求めます。そして、あなたの力が、この世界に光をもたらしていることも、この目で見てきました。どうか、私に真実をお聞かせください。私は、決してあなたを害しません。」


(この人は……信じられるかもしれない)


花子は意を決し、故郷のこと、そして「通販サイト」を通じて現代の品物を召喚できる能力を、包み隠さず打ち明けた。


「ご存じのの通り、私は、元々この世界の人間ではありません。故郷は、あなた方の言う『異世界』。そこでは、魔法ではなく、『科学』という別の法則で世界が動いています。

 そして、私は、その『科学』の力で、故郷の品物を、この世界に呼び出すことができるんです。この『通販サイト』というものが、その能力のインターフェースなんです。」


王宮に転移した経緯、魔力ゼロと宣告され、どん底に突き落とされたこと。

そして、絶望の中で醤油と出会い、そこから始まった「食の革命」まで。

故郷の文化、科学技術、そして「B級グルメ」という概念。

全てを語り終えると、花子は緊張で固唾を飲んだ。


エルウィンは、花子の話を一言一句聞き漏らすまいと、真剣な表情で頷き続けていた。

彼の顔は、驚きと興奮で紅潮し、瞳は輝きを増していく。


「なるほど……! 『科学』……! それは、我々の『魔法』とは異なる、しかし非常に高度な法則に基づいているのですね! そして、この『通販サイト』というものが、その法則の結晶……次元を超えた物質転送……

 これは、まさに夢のような能力だ! 私が長年追い求めてきた、新たな世界の理を解き明かす鍵が、まさかこのような形で現れるとは……!」


時折、小さく「なるほど」「そうか!」「これは驚きだ!」と呟き、何かを書き留めるような仕草を見せる。

彼の頭の中では、花子の話す「現代」の概念と、この世界の魔法の法則が、急速に結びつき、新たな理論が構築されていくのが見て取れた。


エルウィンは興奮気味に、花子の手を両手で握りしめた。

彼の体からは、魔術師特有の、わずかな魔力の波動が感じられるほどだ。

その手は熱く、花子の手のひらに彼の情熱が伝わってくる。


「聖女フローラ様、私にぜひ協力させてください! あなたのその力は、この世界を根本から変えられます!

 食料不足、衛生問題、そして技術の発展……その全てに、あなたの力が貢献できるはずです!

 私の持つ魔術の知識と、あなたの持つ『現代の知識』を組み合わせれば、この世界の未来は大きく開かれるでしょう! 私は、この奇跡を、この世界の真理として解明したい!」



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