表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/21

第5話:街角の「たこ焼き」屋台とエルウィンの視線 -2

物珍しさに、人々が花子の屋台に集まってくる。


花子は、細かく刻んだタコとネギを生地に入れ、一つ一つ丁寧に焼いていく。

竹串を器用に操り、丸い穴に生地を流し込み、具材を配置する。


表面にプツプツと小さな泡が立ち、焦げ付かないよう、竹串で器用にクルン、クルンとひっくり返す。

そのたびに、生地が黄金色の丸い球体へと形を変えていく。


まるで生きているかのように、生地がくるりと裏返り、みるみるうちに綺麗な丸になっていく様子に、人々は息を呑んだ。


「おおっ!」


「丸くなったぞ!」


「まるで魔法のようだ!」


「すごい! 聖女様の手にかかれば、こんな不思議なものが生まれるのか!」




人々から感嘆の声が上がる。


カリッとした焼き色がつき、湯気が立ち上るたびに、香ばしさが一層強くなる。

熱々のたこ焼きが、次々と完成していく。


花子は、焼きたてのたこ焼きを簡易な皿に乗せ、召喚したたこ焼きソースとマヨネーズをたっぷりと、しかし美しくかけた。

ソースの濃い茶色とマヨネーズの白い線が、たこ焼きの上に複雑な模様を描く。


そして、その上に削り節と青のりを散らす。

削り節が熱気でヒラヒラと踊る様子に、人々は目を奪われた。


見た目にも、香りにも、音にも、人々の五感は刺激され、食欲が極限まで高まる。


「どうぞ、召し上がれ!」


恐る恐る一口食べた人々は、その場で驚きの声を上げた。

彼らの顔には、驚きと喜びが入り混じった表情が浮かんでいる。

中には、あまりの美味しさに、感動で涙ぐむ者までいた。


「う、うまい! 外はカリカリ、中はトロトロだ!」


「この丸いのが、こんなに美味しいなんて!」


「このソースと白い紐状のものが、たまらない!」


「熱い! でも、美味しい! 止まらない!」


「こんな食べ物、生まれて初めてだ!」




たこ焼きは瞬く間に大人気となり、屋台には長蛇の列ができた。

子供たちは目を輝かせ、大人たちは感動に打ち震えている。

「もう一つ!」という声が、あちこちから聞こえてくる。


花子の評判は、王宮だけでなく、街の人々の間にも急速に広まっていった。

彼女の周りには、いつも笑顔と「美味しい」という歓声があふれていた。


広場全体が、たこ焼きの香ばしい匂いと、人々の活気で満たされていく。

それは、まさに故郷の祭りのような賑わいだった。



その様子を、広場の片隅で、興味深げに見つめる一人の男がいた。

彼は、王宮魔術師団に所属する若手魔術師、エルウィンだった。


彼の視線は、花子が流れるような調理の動きよりも、彼女が使う「たこ焼き器」や、次々と現れる「見たことのない調味料」に釘付けになっていた。

彼の知的好奇心が、猛烈に刺激されているのが見て取れる。


エルウィンは、この世界の魔法の理を深く研究する者として、これまでにも数々の奇妙な現象を目の当たりにしてきた。

しかし、花子の行っていることは、彼の知るどの魔法とも異なっていた。


(あの道具は、この世界の技術ではありえない。そして、あの調味料も……まるで、無から生み出しているかのような……)


エルウィンは、花子が王宮でカレーを振る舞った時にも感じた疑惑が、確信に変わりつつあった。


彼は数人の兵士に、花子の元からたこ焼きを受け取るように指示した。

兵士たちは、エルウィンの指示に従い、たこ焼きを美味しそうに頬張っていた。


彼らの顔に浮かぶ、純粋な驚きと喜びの表情を、エルウィンは冷静に分析する。

兵士の一人が、あまりの美味しさに「エルウィン様、これは、一体……!」と震える声で尋ねる。

その顔は、たこ焼きの美味しさに打ちのめされたかのように、呆然としている。


エルウィンは、不敵な笑みを浮かべた。

彼の瞳には、真理を探求する魔術師特有の、熱い光が宿っている。

それは、まるで未知のパズルを解き明かす前の、興奮に満ちた輝きだった。


「……どうやら、面白いことになりそうだ。」


エルウィンは、静かに花子の元へと歩み寄っていった。

花子は、大繁盛する屋台の喜びを感じつつも、時折感じるエルウィンの熱く、しかしどこか探るような視線に、通販チートの秘密がバレるかもしれないという、微かな危機感を覚えていた。

その視線は、まるで自分の内側を覗き込もうとしているかのようだ。


(まさか、この能力のことに気づいている……?)


花子の心臓が、ドクンと音を立てた。

エルウィンの表情は穏やかだが、その瞳の奥には、底知れない探究心が宿っている。


果たして、この魔術師は、花子の秘密をどこまで見抜いているのだろうか。

そして、彼が花子に何を求めるのか、花子にはまだ知る由もなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その他の作品もぜひ!
ガイア物語(代表作)
 壮大な異世界ファンタジーサーガ 同時並行的に複数のストーリーが展開します
異世界グルメ革命! ~魔力ゼロの聖女が、通販チートでB級グルメを振る舞ったら、王宮も民もメロメロになりました~(週間ランクイン)
 魔力ゼロの落ちこぼれ聖女が、B級グルメへの愛だけで本当の聖女になっていく話
ニャンてこった!異世界転生した元猫の私が世界を救う最強魔法使いに?
 猫とリスの壮絶でくだらない、そして世界を巻き込んだ戦いの話
時間貸し『ダンジョン』経営奮闘記
 異世界でビジネススキルを使い倒す異色ファンタジー!
幻想文学シリーズ
 日常に潜むちょっとした不思議な話。ちょっと甘酸っぱい話。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ