第5話:街角の「たこ焼き」屋台とエルウィンの視線 -2
物珍しさに、人々が花子の屋台に集まってくる。
花子は、細かく刻んだタコとネギを生地に入れ、一つ一つ丁寧に焼いていく。
竹串を器用に操り、丸い穴に生地を流し込み、具材を配置する。
表面にプツプツと小さな泡が立ち、焦げ付かないよう、竹串で器用にクルン、クルンとひっくり返す。
そのたびに、生地が黄金色の丸い球体へと形を変えていく。
まるで生きているかのように、生地がくるりと裏返り、みるみるうちに綺麗な丸になっていく様子に、人々は息を呑んだ。
「おおっ!」
「丸くなったぞ!」
「まるで魔法のようだ!」
「すごい! 聖女様の手にかかれば、こんな不思議なものが生まれるのか!」
人々から感嘆の声が上がる。
カリッとした焼き色がつき、湯気が立ち上るたびに、香ばしさが一層強くなる。
熱々のたこ焼きが、次々と完成していく。
花子は、焼きたてのたこ焼きを簡易な皿に乗せ、召喚したたこ焼きソースとマヨネーズをたっぷりと、しかし美しくかけた。
ソースの濃い茶色とマヨネーズの白い線が、たこ焼きの上に複雑な模様を描く。
そして、その上に削り節と青のりを散らす。
削り節が熱気でヒラヒラと踊る様子に、人々は目を奪われた。
見た目にも、香りにも、音にも、人々の五感は刺激され、食欲が極限まで高まる。
「どうぞ、召し上がれ!」
恐る恐る一口食べた人々は、その場で驚きの声を上げた。
彼らの顔には、驚きと喜びが入り混じった表情が浮かんでいる。
中には、あまりの美味しさに、感動で涙ぐむ者までいた。
「う、うまい! 外はカリカリ、中はトロトロだ!」
「この丸いのが、こんなに美味しいなんて!」
「このソースと白い紐状のものが、たまらない!」
「熱い! でも、美味しい! 止まらない!」
「こんな食べ物、生まれて初めてだ!」
たこ焼きは瞬く間に大人気となり、屋台には長蛇の列ができた。
子供たちは目を輝かせ、大人たちは感動に打ち震えている。
「もう一つ!」という声が、あちこちから聞こえてくる。
花子の評判は、王宮だけでなく、街の人々の間にも急速に広まっていった。
彼女の周りには、いつも笑顔と「美味しい」という歓声があふれていた。
広場全体が、たこ焼きの香ばしい匂いと、人々の活気で満たされていく。
それは、まさに故郷の祭りのような賑わいだった。
その様子を、広場の片隅で、興味深げに見つめる一人の男がいた。
彼は、王宮魔術師団に所属する若手魔術師、エルウィンだった。
彼の視線は、花子が流れるような調理の動きよりも、彼女が使う「たこ焼き器」や、次々と現れる「見たことのない調味料」に釘付けになっていた。
彼の知的好奇心が、猛烈に刺激されているのが見て取れる。
エルウィンは、この世界の魔法の理を深く研究する者として、これまでにも数々の奇妙な現象を目の当たりにしてきた。
しかし、花子の行っていることは、彼の知るどの魔法とも異なっていた。
(あの道具は、この世界の技術ではありえない。そして、あの調味料も……まるで、無から生み出しているかのような……)
エルウィンは、花子が王宮でカレーを振る舞った時にも感じた疑惑が、確信に変わりつつあった。
彼は数人の兵士に、花子の元からたこ焼きを受け取るように指示した。
兵士たちは、エルウィンの指示に従い、たこ焼きを美味しそうに頬張っていた。
彼らの顔に浮かぶ、純粋な驚きと喜びの表情を、エルウィンは冷静に分析する。
兵士の一人が、あまりの美味しさに「エルウィン様、これは、一体……!」と震える声で尋ねる。
その顔は、たこ焼きの美味しさに打ちのめされたかのように、呆然としている。
エルウィンは、不敵な笑みを浮かべた。
彼の瞳には、真理を探求する魔術師特有の、熱い光が宿っている。
それは、まるで未知のパズルを解き明かす前の、興奮に満ちた輝きだった。
「……どうやら、面白いことになりそうだ。」
エルウィンは、静かに花子の元へと歩み寄っていった。
花子は、大繁盛する屋台の喜びを感じつつも、時折感じるエルウィンの熱く、しかしどこか探るような視線に、通販チートの秘密がバレるかもしれないという、微かな危機感を覚えていた。
その視線は、まるで自分の内側を覗き込もうとしているかのようだ。
(まさか、この能力のことに気づいている……?)
花子の心臓が、ドクンと音を立てた。
エルウィンの表情は穏やかだが、その瞳の奥には、底知れない探究心が宿っている。
果たして、この魔術師は、花子の秘密をどこまで見抜いているのだろうか。
そして、彼が花子に何を求めるのか、花子にはまだ知る由もなかった。