细绳
朝の陽射し
頭を撫でる優しい手の感触
僕が眼を覚ますと、君の手が僕の頭を撫でてくれていた
「ありがとう」
「好き…」
君の手の甲に口付ける
昨日より少し硬く、冷たい感触が唇に触れた
甘い気持ちに蕩けていると、君の親指が僕の口に入ってくる
思わず眼を閉じて「あっ…」と僕は声を上げたけど、それ以上は何も出来なかった
君の指が、僕の口の中を好き勝手に歩き回る
少し呼吸が苦しかったけど、それでも僕は「もっとこの時間が続いて欲しい」と強く思った
指は暫くの間、口内を蹂躙し終えると口の外に出た
僕は酸素を求めて荒い呼吸をしながら、貪欲な眼差しで君の手を視た
「ねえ、次は何をしてくれるの?」
僕の口を犯したのと同じ手で、君が僕をベッドに突き飛ばす
指が僕のシャツのボタンにかけられた
ボタンが一つ、また一つと外されていく…
───のだけど、残念な事にその手は途中で止まってしまった
「また、ここで絡まったか…」
僕は溜息をついた
「ある程度以上の複雑な挙動になると、やっぱり糸の絡まりが出るなぁ…」
頭を掻きむしりながら、君の手の剥製…から伸びる、無数のあやつり紐を視る
それらは総て僕の左手に向けて伸びていたが、途中で絡まりが生じてしまっていた
「これ、切ろうかな…」
溜息が出る、涙も溢れそうだった
「もっと練習しなくちゃ…」
死んだばかりの頃に比べて、すっかり硬くなってしまった君の手を視る
「………防腐とか手触りの蘇らせ方も、もっと勉強したいなぁ」
技術に終わりは無い
何故なら、進歩を求める欲望には終わりが無いからだ
朝陽を真似た色の照明のスイッチを切る
血の気が引いていくような静けさで、窓の外が本来の色である紺色に戻っていった
この世界に本来、朝なんて無い
僕の心のように
だから照明も、もっと朝陽みたいなものを作りたいと前から僕は思っていた
手元のメモに「防腐」「手触りの蘇らせ方」「照明」と記載すると、君の手をクッションの敷き詰められた豪奢な箱の中にしまった
「さあ、今日も調べものが忙しくなるぞ!」
両手を広げて大きく伸びをする
まずは朝食を摂るために、僕はベッドから飛び出した