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17. 泥炭死体の手がかり

・ ・ ・ ・ ・



 泥炭死体となった女性は、アーギィよりもはるかに多くの手がかりを持っていた。


 彼女は毛織のふくろ股引ももひきをはいていて、その隠し部分から折り重なった布切れが出てきたのだ。泥水よごれをそそいで取ってみると、納品書らしき文面が何とか読める。



「……モリーフルル? みつに、店……でしょうか? 蜜煮みつに屋?」


「いちご二十……に、すぐり十。……で良いのかな、これは」


「こっちには、こけもも二十とあります!」


「受け取り人の署名は、きったなくって読めません。泥じゃなくって、そもそもの字が読解不可能です」


「イリーお習字一級のローディア侯でも、だめなのか?」



 ヌーナー村へ遺体を搬送し、捜査本部にて乾かし広げた布切れを卓子に並べて、一同は解読をこころみる。


 モリーフルル、という店名に心当たりのある巡回騎士がいた。



「私の実家がある、テデペコ村の蜜煮みつに屋だと思います。そこの辺りでは一番大きいので、果物の持ち込みや業務用商品の買い付けに来る人も多いはずですよ」



 テデペコ村は同じくフォルターハ郡内、ここヌーナー村からは北に五愛里強のところにある、比較的大きな共同体だ。同じ店の納品書を何枚も持っているからには、女性はそこの従業員なのかもしれない。カヘルとマユミーヴは、さっそく行ってみることにした。


 ノスコは軍医とともに、遺体の検分にかかりきりなので残る。マユミーヴの配下数名、ローディアとプローメルがカヘルに付き従った。ファイタ・モーン沼に戻るのかと思っていたら、ファイーは同行すると言う。


 カヘルとしては、もちろんその方が良かった。自分たちの気づかぬ何かを、女性文官は拾い上げてくみ取る能力を持っている――デリアド副騎士団長は今やそう確信している。決して、心配だから目の届くところに居て欲しいだとか、そういう利己的な理由ではない。



「……偏見を持って捜査にのぞむのは悪手以外の何ものでもありませんが、今回の被害者は東部系女性です。我々が向かっているテデペコ村において、東部系住民の動向はどうなっているのですか? イリー住民からの印象は」


「今のところは良くも悪くもありませんが、私の感覚では煙たがれる寸前、と言ったところですね」



 馬の頭を並べて準街道を北上するカヘルの問いに、北域第十分団副長マユミーヴはひげを揺らしてうなづいた。



「この辺りにおける東部系の傾向としては、独り者の若い男女が、イリー人の中にぽつんと入って行くような感じなんです。東部大半島生まれの第一世代ではなくて、イリー地域の流入民集落で生まれ育ったのでしょうな。はっきりイリー語でしゃべりますし、まじめに規律を守って働いて、静かに村々にとけ込んでいる人が多いのですよ。そういう人たちはもちろん、ちゃんとデリアド市民籍を取得しています」


「そうですか。ではなぜ、煙たがれる寸前と?」


「ええ……。そういうまじめな人たちにまじって、不良流入民もまた寄りつくのです。百人いるかいないかの小さな共同体に、三人東部系がいて、四人目もまっとうだと思ったら実は空き巣の斥候だった……。そういう話が出回れば、もといた三人は居心地が悪くなるでしょう。そうやって周囲のイリー住民からの風当たりが強くなり、他の場所へ移動せざるを得なくなる。テデペコ村はまさに、そうなる手前です。少しだけ東部系が増えている、という状況なんですね」



 カヘル騎の少し後ろをゆく馬上で、ローディアは首をひねる。首邑デリアドで生まれ育った彼にとっては、東部ブリージ系の人々はさほど珍しい存在ではなかった。もちろん少数派ではあるが、街なかではちらほらと見かけるし、知り合いもいる。


 しかしここフォルターハ郡のように森深き過疎地ともなると、彼らの容貌は大いに目立つのかもしれない。概して明るいイリー人の頭髪とはかけ離れた、暗色の髪に生白い地の肌……。



「けれどテデペコ村がそのように、東部系住民のいまだ珍しい場所であるなら。亡くなった女性のことを見て知っている人もいるでしょうし、身元もすぐにわかるかもしれません」



 プローメルがななめ後方からかけてよこした言葉に、カヘルとマユミーヴは軽くうなづいた。


 やがて一行の前方、道の両脇にこんもりと厚かった樫の森が少しだけひらけて、石積み家の寄り添い建つ集落が姿を現す……。




〇 〇 〇 〇


料理人「おお~う、蜜煮ですって! 要するにこの世界のジャムのことなんですよー、皆さん。俺も時々作ってデザートにお出ししてますぅ」


副店長「お土産用に提携≪ヴィヒル蜜煮店≫の壺もレジ脇おいてますからねー、皆さんどうぞご賞味くださーい」


【宣伝】「金色のひまわり亭にいらっしゃい♪ジュテーム!腹ぺこちゃん」

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〇 〇 〇 〇

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