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ゴールデンウィーク間近

 四月が終わり、五月に入った。


 二日の夕食時。四人で食卓を囲むなか、俺は切り出す。


「明日からゴールデンウィークだけど、どうやって過ごす?」

「せっかくだから、盛り上がることがしたいよね。またゲーム大会でも開く?」

「それもいいと思いますが、長期休暇だからこそできることをしませんか?」

「「「長期休暇だからこそできること?」」」


 詩織の発言がなにを指しているのかわからず、俺、萌花、美風が首を傾げた。


 どことなくドヤっているように口端(くちはし)を上げて、詩織が提案する。


「蓮弥さんとデートしましょう」

「「「デート……」」」


 俺たち三人の反応は渋いものだ。


 本来、好きなひととデートできるのだから、ここは喜ぶ場面なのだろう。だが、俺たちには喜べない事情があった。


「そりゃあ、できたら最高だけど……」

「わたしたち、デートできないよね?」

「ええ。悲しいけれど、あたしたちの関係は普通じゃないものね」


 美風が切なげに苦笑する。


 美風の言うとおり、俺たちの関係は――ハーレムは普通じゃない。そんな俺たちがイチャイチャしていたら、周りのひとたちは奇異の視線を向けるだろう。ましてや同級生に見つかったら最悪だ。


 この問題の解決法は、三人のうちのひとりと俺が、一対一でデートすることだが、その場合、新たな問題が発生する。


 一対一のデートをするなら、一日目にひとり、二日目にひとり、三日目にひとり、と続けて行うのが望ましい。いや、そうでなくてはならない。俺たちは四人でひとつ。ひとりたりとものけ者にしてはいけないのだから。


 だが、休日は――土日は二日間なので、どうしてもひとりあぶれてしまう。


 誰かがあぶれるくらいなら、みんなで我慢するほうがマシ。そんな考えがあって、俺たちはデートしないことに決めたのだ。


 その事情を知ったうえで、それでもなお、詩織の笑みは崩れなかった。


「たしかに、わたしたちはデートできません――本来ならば」

「本来ならば?」

「美風さん? 今年のゴールデンウィークは四連休ですよ?」


 眉をひそめる美風に、詩織がヒントを出す。


 俺はハッとした。


「そうか! 俺たちがデートできないのは、土日だとどうしてもひとりあぶれてしまうからだけど……」

「ゴールデンウィークなら、わたしたち三人の全員が蓮弥くんとデートできる!」

「その通りです」


 俺と萌花の解答に、正解ですとばかりに、詩織がコクリと首肯する。


 萌花がキャラメル色の瞳をキラキラさせた。


「いいね! デートしよう! デートしたい!」

「よろしいですか、蓮弥さん?」

「もちろん。断る理由がないよ」

「やった!」

「やりましたね」


 快諾すると、萌花と詩織が笑顔でハイタッチする。俺とのデートを心の底から楽しみにしているという反応だ。


 ふたりの反応が嬉しくて、諦めていたデートができるのが嬉しくて、たまらない。心が浮き立つのを感じる。


 盛り上がる俺たち三人。


 そんななか、美風が苦笑とともに口を開いた。


「ゴメン。あたしはできそうにない」

「「「え?」」」


 思いも寄らない発言に、俺、萌花、詩織はポカンとしてしまった。


「なにか問題でもあるのか、美風?」

「問題っていうか、シンプルに部活があるのよ」

「ゴールデンウィーク全日でか!?」

「そ。IH予選の相手が強豪だから、コーチとキャプテンが気合入れてるのよ。それで」


 たしかに、美風たちが一回戦であたる条央は、まぎれもない強豪。勝利のために、ゴールデンウィークのすべてを部活に費やしてもおかしくはない。


「じゃあ、デートは()めたほうがいいね」

「ええ。美風さんがデートできないのは嫌ですから」

「いいのいいの。萌花と詩織はデートしてきなさい」


 シュンとする萌花と詩織に、美風が笑いかけた。その笑顔は明るく、嘘偽りなくふたりを思いやっていることがわかった。


「あたしのせいでふたりがデートできないのは、蓮弥とデートできないことよりも、よっぽど(つら)いから」

「けど、美風ちゃん……」

「そんな悲しそうな顔しないの、萌花」


 相変わらずうなだれている萌花を励まし、美風が俺に視線を向ける。


「蓮弥のことだし、きっと埋め合わせをしてくれるわよ」


 美風の眼差しには信頼しか籠もっていない。だからこそ、俺は迷わず頷いた。


「もちろんだ。後日、必ずデートする。そのときは、一〇〇点満点中一万点のデートにするからな」

「……張り切りすぎ」


 美風が頬を赤らめて、ふいっと目を逸らす。


 そんなこんなで、ゴールデンウィークに、萌花、詩織とデートすることが決まった。

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